エイプリルフール

2010年04月01日 23:00

朝から突貫工事で書いてみました。なんとか間に合ったー。
お遊び小ネタです。





「朝起きたら山火事だったんだよな~」
「はぁ?」

現場に向かう車内で急におかしな事をいいだした社に、蓮は朝から思わず素っ頓狂な声を上げた。

「いや、パソコンのゲームの話。こう、種植えて世話して作物育てるっていう」
「なんですか、それ。なんでそんなことしてるんですか。というか、パソコン持ってたんですね」
「そりゃ持ってるさ、情報多いし、お前の変な噂とか立っていたりしないかチェックしないといけないし」
「変な噂って……それよりパソコンよく壊れませんね」
「厳重に管理してるからね。専用のケースにいれて使わない時にうっかり触らないようにしてる。立ち上げる時がちょっと面倒だな」
「本当にやっかいな体質ですね。……で、山火事がどうしたんですか」
「え?あぁ、だからゲームのさ、エイプリルフールネタだったんだよ。それで気が付いたんだ、今日がエイプリルフールだって事に」
「あぁ今日は4月1日…エイプリルフールですね」
「現場行ってもいろいろ言って来る人がいるかもしれないから、ま、その辺の心構えしとけよって事」
「はい」
「まー、お前ならナチュラルにスルーしそうだけどな。ただ、キョーコちゃん絡みのネタが来ると動揺しそうだし」
「………」
「キョーコちゃんが自主的にお前に嘘つこうとするとも思えないけど、周りで煽る人とかいたりしたら……キョーコちゃんならつい真面目にそういうのに対応しちゃいそうで」
「あぁ…そうですね、なんだかその絵が思い浮かびますよ」
「だろ?だから取り乱さないように冷静に対応するようにな。……例えば、別れて下さい、とか、他に好きな人が出来ました、とか」
「……っ」
「ホラ、例え話で既に駄目じゃん。やっぱり言っておいて良かった」
「例えが悪すぎです」
「常に最悪のケースを考えておくのが最善だろ?電話でもメールでも、そういう事言われても慌てないように」
「……わかりましたよ……なんだか朝から気が重くなってきたんですが」
「なんだ、打たれ弱いな~。もっとしっかりしろよ」
「……誰のせいですか」



「あんたとは親友やめることにしたわ」
「ええ!」

奏江の言葉に石膏像のように真っ白に固まったキョーコを、奏江はその表面を割るような素振りでコンコンとおでこを叩いた。

「はい、嘘、嘘。やっぱりあんたは思いっきり真に受けるわね、今日はエイプリルフールよ」
「え!ええ?…え、エイプリルフール!……嘘、嘘なのね!」

奏江の言葉に思わず腕にしがみつき、半泣きのキョーコを奏江は呆れるように見て「そうよ」とクールに答えた。

「あんた、ただでさえ騙され易いんだから、気をつけなさいよって事。誰かに何か衝撃的な事を言われても取り乱さないでとりあえず落ち着いて考えるのよ」
「う、うん……わかったわ」

既に奏江の言葉で心臓の動機が激しいキョーコは、本当に気をつけないといけないわ、と肝に命じる。

「今日これから仕事?」
「うん、ちょっと短い番組のアシスタントみたいな仕事があって、それ行くの」
「そう、頑張ってね、じゃあ私も仕事だから行くわ」

そう言って、ラブミー部の部室から出て行こうとした奏江だったが、ふと足を止めてキョーコに振り返る。

「………」
「なに?どうかした?」
「ううん、なんでもないわ。じゃあね」

一瞬、蓮が何か言って来るかもしれないと思い忠告しようかと思った奏江だったが、蓮がキョーコを激しく取り乱させる様な事を言うとも思えず、特に何も言わないままキョーコと別れた。



収録現場に到着し、周りに挨拶している時に、どうやら同じ番組に出るらしい七倉美森にキョーコは出会った。
美森はキョーコの姿を見つけると、小走りで近づいてきて、声をかけてきた。

「あら~最上さん、お久しぶり」
「お久しぶり……」

久しぶりに来たわね…とキョーコは思わず身構えたが、美森は妙にニヤニヤとした顔でキョーコのすぐ側にまで寄って来る。
そして、意味ありげにちらりとキョーコを見て、声を潜ませて勝手に喋りだした。

「ふふ~、最上さんには教えちゃおうかなー?」
「は?」
「うふふ……私ね、今度尚ちゃんと結婚することにしたの!」
「へ?」
「まだ早いけど、好き同士だもん!いいわよね~」
「はぁ」

突然、結婚などという言葉を聞かされ、キョーコは思わずポカンとしてしまった。
勝手に一人で顔を赤らめ、ウキウキと喋り続ける美森をしらっとした態度で眺めていたキョーコに、やがて美森は急に声を荒げて怒り出した。

「なによっ!もっと驚きなさいよ!」
「いえいえ、驚いてますよ。おめでとうございます」
「全然驚いてないじゃない!もうっ、むかつくぅぅ!」
「そう言われましても」
「美森が尚ちゃんと結婚するのよ?もっとなにか言う事あるでしょ!」
「あー…いろいろと騒がれそうで大変ですよね」
「そういうことじゃなーい!」

地団太を踏んでなにやら悔しがる美森を見ながら、あいつが結婚?なんかピンとこないわねぇ…などと考えて、キョーコはぼんやりとその図を想像していた。
そして、ふと、今日がエイプリルフールだと思い出す。

(あぁ、なんだ、そういうことね……)

尚が誰と付き合おうが、結婚しようが、どうでもいいキョーコだったが、尚が早々に結婚するなどとは思えないキョーコはこれは美森の嘘だ、と思い至った。
番組収録前に、わざわざ寄って来て、そんなくだらない事で人を騙まして遊ぼうとする美森にキョーコは少し腹を立て、ちょっと仕返ししてやろうかと急遽、女優な自分を立ち上げる。
そして、相変わらず憤慨している様子の美森に、
「良かったら細かい事とかいろいろ教えてくださいね?……私も近々結婚するんです」
と、にっこりと笑って言い放った。
「え!」
美森の顔色が変わる。
「なっ、何!誰と!」
「それは内緒です」
キョーコはそう言って意味深に笑って見せると「もうすぐ収録始まりますよ?」と言い、美森の慌てた様子を確認すると満足して仕事に専念することにした。



「尚、さっきから何度も携帯鳴ってるわよ。いい加減出なさいよ」
「あー?」

祥子に言われ、渋々尚が自分の携帯を確かめてみると、数多い着信履歴と何通ものメールが届いていた。
「なんだ、これポチリか。なんでこんなにメールしてんだあいつ」
面倒くさそうにメールを確認していた尚の顔色が見る見るうちに変わっていく。
そして、そのまま手にしていた携帯で大慌てで電話をしだした。


「ん?」
仕事を終え、その帰り道、キョーコはバッグの中で震える自分の携帯に気が付いた。
「非通知」の文字に少し考えたが、軽く溜息をついてから通話ボタンを押す。
「はい、最上です」
『オイ!キョーコ!』
「げっ、やっぱり。もう、電話しないでっていってんでしょ!」
『お前、けっ、けっ』
「はぁ?」
『け!け!けけっ!』
「………あんたね、ふざけるのもいい加減にしなさいよ?変な電話してくるんじゃないわよ!」
キョーコはそう言うと、乱暴に通話を切り、後で事務所には確認をすればいいわ、とその後何度も鳴る「非通知」着信は完全無視を決め込んだ。



繋がらない携帯を手に、真っ青な顔で立ち尽くす尚の様子を只事ではないと感じた祥子は恐る恐る尚に声をかけた。
「ど、どうしたのよ…」
「祥子さん、敦賀蓮のマネージャーと連絡取れるよな!」
「えっ」
社と連絡が取れる事は隠してきたつもりの祥子は少し狼狽えてしまったが、尚はそんな事はお構いなしに捲くし立てる。
「ちょっと電話して聞いてみてくれよ!アイツのマネージャーなら知ってんだろ!キョーコが結婚するとか言ってるぞ!」
「ええっ!キョーコちゃんが?」
「早く聞いてみてくれよ!……くそっ、いつの間にそんな事に」
「ちょ、ちょっと待っててねっ」
祥子も驚き、慌てて自分の携帯を取り出し、社に電話をかけた。


「あれ…」
社は急に震えだした自分の携帯に祥子の名前を見て、今日は特に用事はないはず、と少し不審に思いながらも手袋をした手でそれを持ち、通話を受けた。
「はい、社ですが」
『あ、あの……突然すいません、社さん。ちょっとお聞きしたい事があるのですが、今よろしいですか…?』
「はぁ、大丈夫ですが……なんでしょうか」
少し人気のない場所に足を向けながら、社は祥子の様子がおかしいのを気にして携帯を強く耳に当てた。
そこへ躊躇いがちな祥子の声が聞こえて来た。
『あのー……キョーコちゃんが結婚するって本当でしょうか?』
「は?」
祥子の言葉に社は耳を疑う。
しばらく驚いたままの社だったが、キョーコちゃんが結婚するなら相手は蓮、自分が知らないわけはないよな、とすぐに冷静になった。
まぁいつ結婚してもおかしくない仲ではあるよな、と思いつつも、現実的にまだ無理なんだよなぁ…などといろんな問題に頭を巡らせている社の耳に『あのー社さん?』と祥子が自分を呼ぶ声が聞こえ、我に返った。

「あーすいません。今のところそういう話はないですよ。どこから出た話ですか?」
『いえ、あのよくわからないのですが…そうですか。すいませんでした、突然変な事をお聞きして。失礼します』

電話の向こうから微かに尚の声が聞こえた社は、いっそ、結婚するんです、と言いたくなったが、変に拗れて大事になったら困るなと思い、大人しく事実を伝えて通話を切った。
そして、朝から余計な心配をしている蓮をこの話でからかってやるか、とそれが自分の発言のせいという事は都合よく忘れ、仕事中の蓮が自分の所に戻ってくるのをてぐすね引いて待っていた。



「おかえりなさいっ」
「た、ただいま」

今日、蓮のマンションに来る事になっていたキョーコに満面の笑みで出迎えられ、蓮は思わずたじろいでいた。
仕事の合間に「お前とキョーコちゃんが結婚するなんて話が出ているぞ」と散々社にからかわれ、消耗して帰宅した蓮にキョーコの笑顔は強烈だった。

(一体……どこから出た話なんだ……)

尚サイドから聞こえてきた話らしいのを不思議に思った蓮は、キョーコが何か知っているかもしれないなと考えたが
「キョーコ…」
「はい?」
なにやらご機嫌でニコニコ笑っているキョーコに、どうしても聞く事ができない。

(結婚とか……そういう事はもっとちゃんとした時にしか口にしたくないよ……)

ましてや、今日など日にちが悪すぎる、と思った蓮は、ふーっと長い溜息をつき、自分の言葉を待っているキョーコに「いや、なんでもないよ」と優しく笑って見せた。

「……あやしいですね、なにか隠してませんか!」

にこやかな笑顔から一転、追及の色を滲ませて蓮に詰め寄るキョーコに一瞬狼狽えた蓮だったが、ここは負けるわけにいかないとばかり、キョーコが苦手とする帝王モードの自分を瞬時に呼び起こす。
そして、両手でキョーコの頬をそっと包むようにしてから、自分の顔を近づけると
「ねぇ…キョーコ。今日は何の日か…知ってる?」
と、二人きりの夜にしか出さない、腰に響くような甘い声で囁いた。
「えっ、あ、あの…きょ、今日はエ、エイプリルフールですっ……」
突然の蓮の妖しい雰囲気に呑まれ、たちまち真っ赤になったキョーコに、さらに追い討ちをかけるように、蓮の甘い囁きは続く。
「そう、エイプリルフール。……だからね、俺は何も隠してない」
「え!そ、それって結局隠してるってことじゃ」
「……隠してないよ?」
「つ、敦賀さ」

キョーコの最後の言葉は蓮の口の中に吸い込まれ、キョーコの追求の手はそれ以上伸びなかった。

後日、ネット上で"不破尚と七倉美森が結婚する"などいう噂が飛び交っているのを社は見つけ、あの話はもしかしたらこの辺から出て来たのかもなぁ、などと考えていた。
そしてアカトキの事務所はそのデマを消すために躍起となっており、エイプリルフールをいい事に好き勝手を言っていた美森はマネージャーに大目玉を食らっていた。




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