4.はじまりの朝

2010年02月04日 04:55

4.はじまりの朝


午前八時三十分。
社は予定通りの時間に出勤先に到着した。
特別に事務所による用がない限り、社の出勤場所は蓮のマンションだ。
そしてマンション前の歩道に見える制服姿の女子高生。かたわらには彼女の愛用の自転車。

「やーしーろーさぁんー!おはようございます!」

ブンブンと手を振った後、ペコリと礼儀正しくお辞儀をするキョーコ。

「おはよう!キョーコちゃん。本当に持ってきてくれたんだ~」

はい、とはにかむ彼女の笑顔が可愛らしい。

「自転車じゃ結構な距離じゃない?大丈夫だった?」
「これくらい全然平気です!もっと遠くまでガンガン自転車で行きますし!」

そして手にしていた白いビニール袋をカザカサと社に手渡した。

「見た目がちょっとアレなんですけど…。お荷物になったら申し訳ないなと思って使い捨ての容器にしたんです。あと小分けにしてあります、移動中でも簡単に食べられるように」

ちょっと細かく分けすぎたかも、と恐縮するキョーコに社は大丈夫、その方が便利だよね、と声を掛け、袋の中を覗いてみると、簡易包装に小分けにされた色とりどりのおかず、ラップにひとつずつくるまれた俵型のおにぎりが目に入った。

「うん、これならぱぱっと食べられるね。それにおいしそうだ~。…でも大変じゃなかった?こんなに作るのは」
「いえいえ、私、毎日自分のお弁当作ってるので量を増やすだけなんです、そんなに大変じゃないですよ?」

それでも作る時間はいつもよりかかるだろう。
彼女の負担を考えると申し訳ないな、と社は思いつつ、これを見たときの蓮の顔を想像して思わず笑みがこぼれる。

「あ、そうだ。はい、これ朝の出勤時間の予定表」

昨日のうちに社が用意した蓮の朝の出発時間だけを書き出した表をキョーコに渡す。

「朝の時間は結構一定なんですね」
「うん、仕事終わりの時間は結構不規則だからね。せめて朝は同じ時間帯にするように調整してるんだ。時間が変更になったらまた連絡してあげる。…でもね本当に無理しなくていいんだよ?」
「はい、わかりました。…でも可能な限り、持ってきますよっ!」

拳に力をこめて声高に主張するキョーコ。
なんだか積極的なキョーコに嬉しくなる社。

「えっと…でも毎日は無理かもしれませんし、時間に遅れることもあるかもですし…。なにしろこれ私が勝手に!無理やり!やっていることなので、朝、社さんがここにきて私がいないときは気にせず!時間通りに動いちゃってかまいませんから!どうかそのままお仕事行って下さい!」
「う、うん、わかったよ」

でもどうかな、きっと時間ぎりぎりまで待っちゃうかもね、と社は思ったがとりあえずは納得して見せた。

「あと、ちゃんとしたお弁当食べる時間があるときはこれ処分しちゃってかまいませんから!あくまで予備といいますか…ホントに気を使わないで下さい!」

処分なんてありえない、むしろどんな高級な弁当がでたとしても蓮はこっちを優先するだろうなぁと社が考えていると、キョーコはいつのまにか自転車に乗り、
「じゃあ、お願いします!学校行きますのでこれで失礼しますね!」
と、再びペコリと頭を下げ出発しようとしていた。

「えっ、ちょっと待ってキョーコちゃん!すぐ蓮も出てくるよ、せめて顔だけでもみせてあげて…」
「い、いいいいえええ!ごめんなさい、いいい急ぎますので!どうかよろしくお伝え下さいぃぃぃ!」

そう叫ぶと、キョーコは猛スピードでその場を去ってしまった。

(うーん、せめてチラッとでいいから顔見せてあげたかったな~)

まぁでもまたチャンスはあるからいいか…と思い直し、キョーコから受け取ったビニール袋を手に提げ、社は久々に明るい気分でエントランスに向かった。



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