2010年03月28日 10:28

いたずら、ほのぼのversion、春の巻。


彼女はそう、いつでもびっくり箱みたいな存在だ

彼女の箱が開くたび
俺はいつもドキリとさせられたり
涙が出るほど笑わせられたり
どうしたらいいかわからないほど狼狽えたり
思ってみなかった幸せに包まれる事がある

今日もほら
玄関を開けた瞬間から少し驚かされた

数時間前に電話した時は何も言っていなかったのに
どうやらこっそり俺の部屋に来ていたらしい彼女
玄関に置かれたままの彼女の靴は
なぜかきちんとは揃えられていない
寧ろわざとずらしておいてあるような気がする
部屋の中へと誘導するように置かれた彼女の靴の先には
床の上に散らばるピンク色の──花びら

桜の花びらだな……

ピンク色の桜の花びらが少しずつ
俺を招き入れるようにカーブを描きながらリビングへと続くように撒かれている
ところどころ渦を巻くように続く淡いピンクのライン
彼女の意図が見えてきた俺はくすくすと笑いながら
桜の精が待っているだろうリビングへと向かう

花びらの小道の最終地点はリビングのテーブルの上
桜の妖精さんは、テーブルに突っ伏して夢の世界だった

テーブルの上には葉に包まれた桜色の和菓子と
俺が帰ってきたら淹れるつもりだったのか
彼女が持ち込んだらしい急須と湯飲みのセットが置いてある
そしてその横には造花だけれど小さな桜の花があって…

そうか、もうそんな季節だね

お花見行きたかったのかな
慌しい毎日で、そんな願いも叶えてやれない自分が少し寂しくなる
それでも彼女はそんな俺に文句ひとつ言わず
こんな工夫をして俺を喜ばしてくれる

なんだか楽しそうな顔で眠る彼女に
とりあえず自分の着ていたコートをかける
そしてそっと音を立てないように
小さなお盆にのっている湯飲みセットを持ち上げると
キッチンへ向かい、彼女の代わりにお湯を沸かしてお茶を淹れる
それを持って再びリビングに舞い戻り
眠る彼女から少し離れた場所に彼女の分のお茶を置く

お茶から上がる湯気越しに
彼女の寝顔をお茶請けとしてお花見といきますか
そう思って彼女の向かい側にそっと座ろうとしたが
ふと思い立って床に散らばる桜の花びらを少し拾ってきた

どうやって集めたのかな

舞い散る花びら、桜吹雪の中を走り回る彼女
そんな姿を想像して思わず顔が緩む
どれも汚れひとつなく綺麗な花びらばかり
それを数枚彼女の髪の上にパラパラと散らす
これで完璧な桜の妖精さんの出来上がり

今度こそリビングの床の上に陣取り
可愛い花を楽しむことにする
時間は深夜1時過ぎ
夜桜、ともまた違う、時間に似合わない陽だまりの様な雰囲気に
どうしても緩んでしまう顔で熱い茶を一口
食べた事のない小さな和菓子を眺めながら
今度は彼女のお弁当を持って明るい時間に花見にでも行きたいねと思いつつ
来年のこの時期のスケジュールを押えておこうかなと気の早いことを考える

このまま何時までも花見を続けそうになったが
時間も時間だし、そろそろ彼女を起こすことにした

桜の花びらを身に纏い相変わらず楽しそうな顔で眠る彼女

「妖精さん……は君の方だよね」

無意識の内にそう呟きながら
眠る彼女の肩に手をかけた




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