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Dry&Wet

2010年03月25日 11:46

蓮の過去の女性遍歴は全部米国時代のものじゃないかなぁと思っている派です。
でも日本にも一人位いてもおかしくないよね、という話です。


「久しぶり」
「………っ」

事務所の廊下でぼんやりと夕暮れの空を眺めながら社を待っていた蓮は、声を掛けてきたその女性の姿を見て心の底から驚いた。
黒い髪はかなり短くカッとされていて昔の面影はない。
しかし、女性としてはかなりの長身、そして強い光を持つその瞳は記憶に残っている。

「驚いたね。なぜここにいる?」
「開口一番、それ?3年…4年ぶりくらいなのに、もっと言い様があるでしょ?」
「あぁ…それは失礼したね。元気だった?」
「ふん…相変わらず冷たいわね。やってもいない女には無駄に優しいくせに」
「……君も相変わらずだね。明け透けにものを言うのは変わっていない」
「そこがよくて付き合ってたんでしょう?別にいいわ、フェミニストの貴方は嫌い」

付き合っていた、といえるのかな、と蓮は彼女との過去を思い出す。
確かに男女の関係はあったが、むしろ、それだけだったとも言える。
恋人らしい甘い事など何一つしなかったし、彼女もそれを望んでいなかった。
それに彼女は他にも同じような関係の男がいたようだし、自分はその中のひとり、という気でいた。

「…………」
彼女の事は嫌いではないし、そのライフスタイルを批判する気もなかったが、そんな関係をあっさりと結んでいた自分には嫌気が差した。

まだ不安定な部分が残っていた頃の自分。
そんな頃に出会った彼女は、意志が強く揺ぎ無い自分を持って生きていた。
誰にも指図など受けない、何一つ干渉する事も許さない。
少々強烈すぎるその個性、生き方に、あの頃の自分は人として少し惹かれていたのかもしれない。

「海外に行った…と思ったけど」
「行ってたわよ、ついこの間まで。帰って来たのよ」
「へぇ…で、なぜここに?」
「仕事探してるのよ、仕事。モデルやってた事くらいは覚えてるでしょう?」
「あぁ、そうだったね」
「いろいろ事務所巡ってる所。貴方がここの事務所だなんて知らなかったわ。昔からそうだったっけ?」
「ずっとここだよ」

自分の所属する事務所など、彼女の関心の向く事柄ではなかったのだな、と蓮はその彼女の言葉に少し苦笑いをする。

「まぁなかなか簡単にはいかないわねぇ。もう少し他もあたってみるわ」
そんな蓮を気にも留めない様子で少し愚痴り、疲れたように肩をすくめる彼女は、ふいに意地の悪い笑顔で
「ふふ…貴方随分人気者になってるじゃない。貴方のツテでここにしてもらおうかしら」
そう言って軽く蓮の腕を手の甲で叩いた。
「へぇ…ずいぶんと弱気だね」
少し動揺してしまった蓮はそれを隠すために大急ぎで役者の自分を担ぎ出し、瞬時にシニカルな笑みさえ浮かべて見せた。
そんな蓮を見て、彼女はすぐに面白くなさそうに表情をもどす。
「フン、つまんない反応ね。まぁいいわ、じゃあね。元気で頑張ってちょうだい」
あっさりとした別れの挨拶を残し、彼女は振り向きもせずに廊下の向こうへ消えていった。

「………」
その姿を見送ってから蓮は長い溜息をついた。
そうだ、彼女はああいうタイプだった。
プライドの高い彼女が昔の男に未練がましく付き纏ったり、そのツテで仕事、など有り得るはずもない。
自己保身のために余計で細かい心配をしていた自分がとことん嫌になる。

「……何?昔の…知り合い?」
いつの間にか来ていた社が、廊下のソファに座り込んでいる蓮に声を掛けた。
「あー…まぁちょっと」
「ふーん。俺も知らない人だね…。まぁいいけどね、別にお前に未練があるわけでもなさそうだし…ていうか見事にバッサリ切って行ったな。滅多に見られない光景だったよ」
「はは…」
その社の言葉で、最初から全部見られていた事を知った蓮は少し居た堪れない気分になったが、それもいつもの事かと諦める。
「仕事」の事だけでなく、プライベートな事も…社には殆ど知られている。
何かと遊んだりからかう癖には困る事も多いが、頼りにしてしまっている部分も多い。
もう既に"仕事上でのパートナー"以上の関係になっているのだ。

「まぁキョーコちゃんには内緒にしとくよ?お前も伝える必要はないと思う」
「はい…そうですね」

隠し事はしない、と約束はしているが、これは寧ろ隠したほうがいい事だ。
昔、関係があった女性の事など知らせるべきではない……いや、知られたくないといったほうが正解かもしれない。
それでも若干後ろめたい気持ちがあった蓮だが、社がはっきりと言ってくれた言葉が少し支えになった。

「ほら、そんな情けない顔すんな。予定はやっぱりキャンセルになったよ、今日はもう終了」
「あ、そうですか」
「キョーコちゃん、部室にいるよ?待ってるから迎えに行こう。……はいはい、早く立て直してくれよな」
「大丈夫ですよ」
いつも通りの社のニヤニヤとした遊び顔が、この時の蓮にはなぜか嬉しく心強い。
こうしていろんな人に支えられて今自分がここにいるという事をを改めて認識する。
世界で自分ひとりで立っているような気になっていた昔の自分が愚かで滑稽に思えた。

素早くいつもの自分を取り戻し、蓮は社と二人、ラブミー部の部室へ向かった。


「ん……」
夕飯もそこそこに自分をベッドに引きずり込む蓮にキョーコは少し怒って軽く抵抗したが、それも長くは持たなかった。
自分の口や手の動きに素直に反応するキョーコの白い肌に酔いながら、ふとさっきの出来事を思い出す。

そうだ…彼女は少しキョーコに似てる…

見た目も性格も全然違う。
でも、そう、あの強い光を持つ瞳…時折キョーコが見せる力強い瞳の光が…
「あっ…」
ほんの少し、彼女と似ているというだけで急にどこからともなく焦燥感が沸いてくる。

彼女のように、キョーコがあっさりと自分を切り捨てて去って行ってしまったら───

キョーコは彼女とは違う。
状況も違えば時も違う。
あの頃の自分と今の自分も違う。
こうして一見同じような行為でも、自分の気持ちはまるで別の次元の事のように違う。
なにもかも違うのに、拭い去れない不安。

自分で勝手に膨らませた不安を彼女に向けるのは間違っている。
つい強くなる彼女に触れる手の力を必死で抑える。
必要以上に優しくなりすぎて、それが返って彼女の反応を呼び覚ます。
焦れったそうに動く彼女の身体の淫らな動きに再び囚われる。
温い泥土に足を捕られていくような感覚。
危ない、と、もがけばもがく程、反対に奥底へと深く沈みこんでいく。
堕ちていく、溺れていく、とはこういう事か、と冷静に分析する自分を見つけた。
助けを求めて手を伸ばすが、所詮、自分は自分。
同じように絡め取られて一緒に沈んでいく。
浮上する術を失い、思考する力も失って、昏い、でも暖かい闇の中に一気に堕ちていく。

気が付けばさっきの不安などいつの間にか消し飛んでいたが、同時に自分自身も彼女の中に全て溶け込んで消えたような気分になっていた。
この細い身体のどこにそんな魔力があるのか、知りたいと思ったが、知ったところで抵抗する事など既にできないのだ。


「敦賀さん…」
「うん…?」
「どうかしました…?なにかちょっと元気ないみたいです」
「え…」
ベッドで二人落ち着いて、そろそろ眠ろうかという時、ふいにキョーコが蓮に疑問の言葉を投げかけた。
何かあったという事は今日は絶対知られたくないと思っていた蓮は、それこそ全力で普通を装っていた…つもりなのに、キョーコはいとも簡単に見破る。
しかし蓮はそれが嬉しかった。
自分の中の小さな変化にも敏感に気づいてくれるキョーコが愛しかった。
嬉しさと愛しさで、つい何もかも話してしまいそうになったが、そこはぐっと堪えた。
そこまで甘えていいのか…?
話す事で自分は楽になれるかもしれないがキョーコはどうだろうか。
キョーコのことだから、きっと笑顔で気にしませんよ?と言ってくれて………

(……………)

自分の中にある小さな願望に気が付く。
知られたくなかったのは過去の愚かな自分で…本当は……

普段はよけいな心配はさせたくないと考えているくせに───

少しの間、思案に暮れていた蓮をじっと見つめるキョーコに、蓮はニヤリと少し意地の悪い笑みを向けた。

「なんにもないよ…?どっちかというとキョーコの方がちょっと…」
「へ?わ、私はいつも通りですよ?」
「そーかなぁ……いつもより反応がいいっていうか…感じやすかったような…」
「なっ!ま、またそういう事を!」
「元気がない…って思われたって事は俺の方に問題があったのかなぁ」
「敦賀さんっ!」
真っ赤になったキョーコは枕を持ち上げて、ぼすぼすと蓮を叩きはじめた。
「わっ、キョーコ…ははっ…痛いよ」
「そういう恥ずかしい事をいうからですっ!」
「ごめんごめん」
キョーコに枕で殴られ、笑いながら蓮は思う。

やっぱり…少し焼餅を焼いてくれるキョーコが見たかっただけなのかな…

「まぁ…またいつかね?」
「はい?」
突然の蓮の台詞にきょとんとして動きを止めたキョーコから隙ありとばかり枕を奪い去ると適当に放り投げ、蓮はもう一度キョーコをベッドに押し倒した。




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