彼女の背中

2010年03月11日 11:26

おバカな小話をひとつ。



無防備な彼女の背中を見ているとどうしてもうずうずとしてしまう。
真正面から抱きしめるのとはまた違った趣があるからだ。

俺の部屋にいる場合は料理している事が多いから
手が濡れていて、ちょっと抵抗し辛いところとか
そのせいでしばらくは好きなように触れるとか
いろいろ……良い点が多い。

料理中は怪我などさせないようにタイミングを見計らう。
もちろん気配は消して。
足音も立てずに。
息まで止めて。

「ひゃあ!」

その後は散々怒られるのだけれど、その反応も、驚いた顔も可愛くてどうしてもやめられない。
でも最近少しやりすぎたせいか警戒されるようになり、その機会が減りつつある。

このままじゃ困るな……

しばらく我慢して、忘れた頃にまた再開するか。
警戒されていても構わずやり続けて諦めてもらうか。

「敦賀さん、何か問題ありましたか?」
「え?」

新しく始まったドラマの撮影現場。
一人の女優の演技が監督のお気に召さないらしく、今彼女は監督と話し合い中。
他の共演者達は休憩ということでなんとなく一箇所に固まって座っていたわけだけど、時間も深夜になり、少しだけ緊張したムードが流れていた。
そんな中で、俺は相当難しい顔をしていたらしく、ひとりの共演者が不安げに声を掛けてきた。

「あ、いえ何でもないですよ?」

慌てた俺は出来る限りの笑顔でそう答えた。
そんな俺に違和感があったのか、周りの他の共演者達までが俺に注目する。
仕方ないのでより一層笑顔を振り撒いてみたけれど…なんとか誤魔化せただろうか。

撮影が再開し、現場に緊張感が戻る。
俺の出番はまだ後なので、脇からその様子を見ていたら社さんがなんだか呆れた顔で近づいてきた。

「お前さ…休憩中は何考えてても別にいいけど、無駄に愛想振り撒くなよ」
「え」
「どーせキョーコちゃんの事考えてたんだろ?それを誤魔化す時ってやたら笑顔が眩しくなるんだよな」
「………」
「それで無駄にお前の虜になる女の子増やしてどうするよ。あーぁ、いつか危機が訪れるな」
「なっ」

何て事を言うんですか、と抗議するために社さんの顔を見たら…いつもの遊び顔で…
コホンと軽く咳払いして平静を取り戻す。
「まぁその辺自覚して仕事に集中するように」
にやにや笑いながらそういう社さんにいろいろ反論したかったけど、仕事の事を持ち出されると弱い。
「わかりました」
とりあえずさっきの悩みを考えるのは一人の時だけにしようと思う。



事務所の廊下の角。
彼女を見つけた。
結構な距離もあり、あの目立つピンクのつなぎでもないのに、そのシルエットと気配だけで気が付いてしまう。
俺に背を向けて立っている彼女。

辺りには人気がない。
彼女も俺には気が付いていない。
チャンスとばかりそっと足を忍ばせて近づき、逃がさないように勢いよく抱きついた。

「つ!つるがさんっ!」
相当驚いたらしい彼女のその声と久しぶりのその反応に抵抗するのも構わず抱きついていたら…

「何やってんだ…蓮」
「さ、椹さん…」

タレント部主任の椹さんが…彼女の目の前にいた。

その後、真っ赤になった彼女にすごい剣幕で怒られ、椹さんには社さん並に遊ばれる様になった。
今後の対策は、しばらく我慢して忘れた頃にまた再開する、という方向に決めた。




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