Lucky Lovers ─11

2015年07月12日 00:02

これで最終話となります。
お付き合い下さった方々、どうもありがとうございました!

Lucky Lovers ─11




「思っていたよりも上手く行ったんです」

そう言った蓮は、最近見せた事のなかった、晴天の青い空によく似合う晴れ晴れとした表情をしていた。
屋外でのロケの休憩中、場所は都内のとある河川敷。
気持ちのいい風が穏やかに吹き、まるで演出のように蓮の髪をなびかせた。
普通に喋っているだけなのに、現場にちらほらいる女性スタッフの視線を集めているのがわかる。
社はコホンと軽く咳払いをしてから、心持ち声を小さくして会話を続けた。

「という事は……全部受け取って貰えたのか? 問題なく?」
「えぇ、そうです、問題なく。まぁ、それなりに工夫もしましたし、苦労もしましたけど……ツイてたんでしょうね」
「へぇぇ……」

蓮がどんな技を使ったのか、社は気になった。
しかし、うっかり詳しく聞いたりするととんでもない惚気話が出てくる可能性がある。
そう思い、ここはぐっと我慢する事にした。

「まぁ……よかったじゃないか。俺も苦労した甲斐があるよ」
「ありがとうございます。後で彼女に何か聞かれるかもしれませんが」
「わかってるよ。何とかするから」
「さすがですね……頼りになるマネージャーで俺は嬉しいです」
「はいはい……俺はお前が機嫌よく仕事してくれればそれでいいよ」
「いやですね、そんなのはいつだって当然じゃないですか」

そう言って、蓮は爽やかに笑う。
その当然が、ここしばらくはなかったじゃないかと社は思う。
色々と言いたい事があったが、丸く収まったのならそれでいいとも思った。

「準備出来ましたのでー! お願いしまーす!」

風に乗って、スタッフの声が二人の元に届く。
カメラの前に戻って行く蓮を見送りながら、社はキョーコの事を考えた。
何とかする、そう言ったものの、社は特別裏技的な方法を考えていたわけではない。
寧ろ、キョーコに問われたら贈られた品物の値段を正確に教えてもいいとまで思っていた。

(キョーコちゃんの目だって節穴じゃないと思うんだよなぁ)

実際に手にして使う本人なのだから、どんなにこちらが誤魔化しても高い物は高いとわかってしまうはず。
だからこそ、そこは正直に言った方がいいと社は考えた。
問題なく受け取ったと言うならば、その辺の覚悟はキョーコにも出来ているはず。
自分はそれを後押ししてあげるだけ。
でも──

(あの腕時計だけは0ひとつ削っておこうっと)

それでもまだ高いと思えるそれは、誰もが知っている有名なメーカーの物。
それだけに、他の人間から何か言われる可能性もあるし、キョーコ自身が調べてしまう可能性もある。
そう思った社はそうなる前に腕時計に関してだけは積極的に工作する必要があると考えた。
蓮が一番最初に迷いなく指定したキョーコへのプレゼント。
何やら思い入れもあるように見えたし、高価すぎて使えませんなどとキョーコが言い出したら蓮が可哀想だろう。

「うーん……」

やりたい放題気味な蓮の片棒を担いでいる気がしてきて、社は少し罪悪感を覚えた。
しかし、自分の失敗を気に病んで延々と悩んでいた蓮の事も知っている。
そして、時間のない蓮が出来る償いはこんな形にしかならないだろうと思った。
マネージャーとしては複雑な気分だ。
それでも、一般的に考えれば、お返しの品が桁違いに高価になったのだからラッキーだと言えない事もない。
キョーコの性格を考えるとそうは言えないのだが、社は無理矢理そう思って自分を納得させた。

(キョーコちゃんってすごく運がいいのか悪いのか、よくわからないよな)

結果から見れば、運はいい方になるはず。多分。
断言出来ないのが微妙だなと思いながら、社は担当俳優の仕事振りを伺った。
風が強くなってきたせいで撮影が滞っている様だったが、中心にいる蓮が何か言ったのか、妙に和やかで明るく笑顔一杯の現場になっている。
上機嫌過ぎなのもどうなんだと社が少し呆れていると、春の嵐の様に強くなった風が一向に収まらず、現場はしばらく待機となってしまった。
笑顔の蓮が自分の所へ戻ってくるのが見える。

「…………」

凹んでるのを表に出さないのと同様に、浮かれ過ぎてるのももう少し隠した方がいいのでは。
マネージャーとしてそう考えた社は、意地が悪いなと思いつつも少し水を差しておこうとした。
キョーコの運の良し悪しに誰かが影響を与えているのでは、なんて事を言おうとして──

(駄目だ! 今のあいつなら”俺にとって彼女は幸運の女神です”とかなんとか、微妙に方向がズレた惚気を、すっごい笑顔で言いそう!)

「どうしたんです? 変な顔してますけど……そんな顔していると目や口に砂とかゴミが入りますよ。風が強いんですから」
「あー……うん……」

想像しただけで甘ったるい砂が口一杯だよ。
胸の中でそう呟いた後、社は目と口を固く閉じる。
そして、真正面から吹いてきた強風を全身に浴びながら、一歩手前で危険を回避出来てる自分もまだまだ運はいい方になるはずだと思った。



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