--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Lucky Lovers ─10

2015年07月11日 00:06

Lucky Lovers ─10




早朝、キョーコは妙にすっきりと目を覚ました。
昨日はいつもより早く寝たからかなと思い、むくりと起き上がった瞬間、自分を取り巻く異変に気が付いた。

「えっ?」

ベッドの上の自分の周りに何やら物が散乱している。
服を脱ぎ散らかしながら寝てしまったのだろうかと焦ったが、散っているのは服だけではないように見えた。
そして、自分自身の異変にも気付く。
お気に入りのワンピースを着たままでベッドの中にいた。

「あれっ、どうして……」

寝起きの頭の中で、必死に昨日の自分を思い出す。
部屋の大掃除をした後、鏡の前でおかしな演技の練習をしていた。
色々と諦めた所で疲労感と睡魔に襲われ、暫くの間、激しい戦いをしていた憶えがある。
そして、ボロボロになってしまった自分で蓮を出迎えるのが嫌で、せめて服装だけでも可愛くと少し斜めな方向に進んだ記憶がうっすらとあった。
最後、ソファに座っていると今にも眠りそうだったので玄関先まで向かったのまでは思い出せた。

(その後、どうしたっけ!? 玄関で寝てた!? 敦賀さんは!?)

隣に蓮はいない。
慌ててベッドから抜け出そうとした時、キョーコは自分が靴を履いているのに気が付き、驚いた。

「なんで靴!?」

目に入ったのは白いパンプス。
驚きすぎて足元を見ながらキョーコは固まった。
その横で、ベッドの上から何かがいくつもスルスルと滑り落ちていく。
混乱しながらも、慌てて拾ってみると、それは見覚えのないネックレスやブレスレットだった。

「…………」

キョーコはゆっくりと、今まで寝ていたベッドの上を振り返った。
洋服らしきものがいくつかと、多分バッグが数点、靴ももう一足転がっている。
一つ一つ引き寄せて確認するが、どれも見覚えのない、新品らしき物ばかりだった。
バッグの一つに何か入っている事に気づき、そっと覗いてみる。
化粧品がいくつも入っていたが、その内の一つは、先日キョーコが雑誌で見ていた、ボトルのデザインが可愛いと思ったリップグロスだった。
それを見た瞬間、キョーコはようやくこれは全て蓮の仕業だと確信する。
突然の早朝プレゼント攻撃。
どれもこれも自分の好みど真ん中である事を考えると、そうとしか思えない。
とんでもないと思ったキョーコは急いで蓮を探しに行こうとしたが、ベッドの上に無造作に置いてある品々が気になって足が進まない。
服はきちんと畳み、靴もバッグも行儀よく並べ、アクセサリー類はなくなったり絡まったりしないようにわかりやすい形でベッドの上に置く。
素早い動作でそれらをこなした後でキョーコはリビングへと走った。
リビングに蓮は居らず、次にキッチンへと駆け込む。
そこにはのんびりとした様子でコーヒーを入れている蓮の姿があった。

「やあ……おはよう」
「や、やあ、じゃありません! な、な、なんですか、これはっ」

かなり気が咎めたが、新品だと確認した上で、キョーコは敢えて白いパンプスを履きっ放しだった。
自分の足元を指差しながら、叫ぶようにそう言ったキョーコに蓮はにっこりといつもの穏やかな笑顔を向けた。

「あぁ、いいね……その服によく似合ってるよ」
「ふっ……く……」
「どうして昨日、それを着ていたのかはわからないけど」

蓮はそう言ってクスクスと笑う。
キョーコはここで自分がなぜこの服を着ているのかをもう一度思い出した。
改めて、蓮にお返しを”おねだり”しよう。
そう考えて、そんな事を言い出す自分を少しでもよく見せようとしていたからだ。

(これはっ……ある意味チャンスなのでは?)

寝起きでシャワーも浴びていないのがかなりのマイナスポイントだったが、お気に入りの服で、この服に似合う靴を貰う。
今ここで、これをお返しとし、可愛くにっこり笑って”ありがとうございます”と言えばいい。
一瞬そう思ったが、すぐに寝室に鎮座している数々の品々を思い出した。
ジャストサイズで履き心地のいいこの靴も、さっき確認したあの品々も、どう考えても高そうな物ばかりで総額はいくらになるのか、考えるのも恐ろしかった。
今は偶々、靴だけの形になっているが、この靴とあれらは全部一緒で同じ扱いではないのか。

「…………」

なぜ蓮が急にこんな事をしたのか、キョーコにはまだわからない。
この靴だけを、お返しにする事にならないだろうか。
でも、それを頑なに言い張ると、また可愛げがない女と思われるかもしれない。
だからといって、あれを全部貰うなんてとんでもない事だ。
三者がぐるぐるとキョーコの頭の中で高速回転ループし、渦を巻いた。
花柄のワンピースと白いパンプスに似付かわしくない険しい顔で、キョーコは石化する。
そんなキョーコに、蓮は心持ち首を傾げながら少し気落ちした表情で声を掛けた。

「ごめんね、キョーコ」
「えっ?」
「キョーコの欲しがっていた”特別”はやっぱりあげられそうにない」
「え……」
「昨日、お返しで……誰かからあのチョコを貰ったんだろう?」
「あ……」
「他の人はあげているのにと思ったら……もう、居ても立ってもいられなかったんだ」
「敦賀さん……」

やっぱりずっと気にしていたんだと思い、キョーコの胸がチクリと痛む。
じゃあ、この靴だけでも。
キョーコがそう言おうとした時、蓮の方が先に口を開いた。

「だから、違う”特別”を用意したよ」
「へっ?」
「ホワイトデーのお返しに、あれだけの数をお返しする人はキョーコの他にはいないよ」
「数?」

予想外の蓮の言葉にキョーコはポカンとする。
とにかく総額の事ばかりを気にしていたキョーコはプレゼントの数の多さはあまり問題視していなかった。
それならば別にいいのかもと一瞬思う。
やっぱりいいわけないとすぐ思い直す。
キョーコは激しく混乱していた。

「あ……あの……ええと?」
「俺が用意した、代わりになる”特別”……受け取って貰えるかな……」
「あ……」

よく見ると、なぜか今に限って蓮はいつものコンタクトをしていない。
一緒に暮らしていてもあまり目にする機会のない、碧色の瞳。
それは普段、同様にほぼ見る事が出来ないキラキラ輝く金の髪を一瞬チラつかせた。
そのキラキラの幻を背負いながら、蓮は叱られてしょんぼりした子供が許しを請うような表情でそう言った。

「う……」

これを断る者は鬼か外道。
そう思ったキョーコは口を開けたまま、青い顔で数十秒硬直していた。
キョーコの体が一瞬ぐらりと揺れる。
しかし、すぐに立て直し、顔色も元に戻った。

「わ……」
「わ?」
「わっ……かりました……ありがたく……頂戴致します……」
「キョーコ……」
「ありがとうございました!」

最初に”特別”を要求したのは自分で、一時的にという事になるが、ちゃんと貰っていたと言っていい。
それなのに、今、蓮からの”特別”を断る事なんて出来ない。
最終的にそう考えたキョーコは清水の舞台から飛び降りる覚悟でそう言って、九十度まで勢いよく頭を下げた。
大変な事になったと思い、頭の中がまたぐるぐるとする。
そしてこの時、初めてキョーコは自分が腕時計をしているのに気が付いた。
これもまた高そうだと思って頭がくらりとする。
しかし、同時に、懇切丁寧に頭を下げている今の自分の態度が硬すぎる事にも気付く。
必須ではなかったとはいえ、”可愛い”には程遠い自分への落胆で頭の中が一杯になった。
蓮の反応が気になり、キョーコは恐る恐る顔を上げる。
いつもとは少しだけ雰囲気が違う、エメラルドグリーン効果でとびきり神々しくなった蓮の笑顔が、それとばかりにキョーコの目に飛び込んで来た。

「良かった……嬉しいよ」
「…………」

警戒を怠っていたキョーコは真正面からその笑顔を浴びてしまう。
十分な睡眠を取った後でなかったら倒れてしまいそうな位、眩しい蓮の笑顔。
それはキョーコの中にしっかりと焼き付いてしまった。
思い出す度に胸を大いにときめかせるそれが、今回貰った物の中で一番の贅沢品なのではないか。
蓮からの色々な贈り物に囲まれながらも、なんとか落ち着きを取り戻した頃。
キョーコは密かにそう思った。



コメント

  1. | |

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

  2. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございました!

    贈り物も嬉しいけどやっぱり本人が一番かなと。
    碧のキラキラはかなりの威力がありそうですw
    コメントありがとうございました~!

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://kanamomo2010.blog48.fc2.com/tb.php/616-1457ccf8
この記事へのトラックバック



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。