Lucky Lovers ─8

2015年07月09日 00:24

Lucky Lovers ─8






仕事が終わり、蓮と社はTV局の通路を駐車場に向かって歩いていた。
後ろを歩く社は両手一杯に荷物をぶら下げていて、歩く度にビニールや紙の袋がガサガサと賑やかな音を立てている。

「……俺が持ちますよ」
「いいよ。荷物一杯持ち歩く『敦賀蓮』は何かヤダ」
「何かヤダって……」
「その代わり、ちゃんと教えてもらうからな」
「…………」

社はそう言うと、荷物を持った手を一際大きく振りながら勢いよく歩いて行く。
今度は蓮がその後ろを慌てて付いて行った。

「で? なんで急に、しかも今日中にこんなに大量にお返しする事にしたんだ?」

駐車場に到着し、荷物を車の後部座席に詰め込んだ直後。
助手席に座るや否や、社はそう言った。
蓮は少々面食らった顔でエンジンをかける。

「お返しはもうしないとか、何か思い付いた時にでも、とか言ってたくせに……さっき突然思い付いたとかは無しな!」
「機嫌直して下さいよ……あちこち行かせたのは悪かったって思ってるんですから」
「別に機嫌は悪くないよ。どちらかというと気疲れしたっていうか」
「……何かトラブルでもありましたか? 出来る限り、店には連絡をして」
「いや、だってさ……お前、これ全部合わせたら……あー、考えたくないっ」
「へ」
「行き慣れない店、場違いな店ばっかり行って、高い物持ったまま、あちこち歩き回るなんて……俺は庶民だから気が気じゃないんだよ」
「はぁ」
「どうせ、お前にはピンとこないんだろうけどな!」

社はそう言うと、あからさまにぶすっとした顔をする。
やっぱり怒っているじゃないかと蓮は思ったが、言い返すのはぐっと我慢した。
二人を乗せた車はゆっくりと動き出す。

「で?」
「あー……ええと、さっきの……チョコなんですけど」
「あぁ、あれね……キョーコちゃんが誰かからお返し貰ったのが気に入らない、っていうのは違うって言ったよな?」
「えぇ、まぁ……」

本音を言えば、蓮の中にそんな気持ちは皆無とは言い切れなかった。
だが、そんな事を言っていたらキリがないし、それは隠しておいても問題ないと思える程度だった。
白いレースが飾りに付いたピンク色の可愛いリボンが掛けられた、見覚えのある白い小箱。
あれがキョーコのバッグから飛び出して来た時、蓮は、これはキョーコから自分へのお仕置きかと一瞬だが思ってしまっていた。

「お前じゃあるまいし……キョーコちゃんはそんな事しないよ」
「そ……うですよね……俺もそう思います」

そんなお仕置きは俺だってしないと言い返したい蓮だったが、ここもぐっと我慢した。

「お前が間違ったチョコと同じのを、控え室に来る途中に誰かから貰ったんだよな……恐らく完全な偶然。さすが、キョーコちゃんって感じがするな」
「それ、褒めてるんですか? ……まぁ、そんな風に疑ってしまった事への反省ですね」
「反省……ねぇ」

社はちらりと視線を後部座席に向ける。

「反省し過ぎじゃないか?」
「彼女が言っていた”特別”をこれに代えてもらう事になるわけですから、この位はしないと」
「……三つくらいでいいんじゃないの? そもそも、最初のアレだけでもかなり特別感あるけど」
「どれも普通の物ですよ。急いだので特別にオーダーしたわけじゃありませんし」
「えー……あー……うん……」

社は何か言いたげだったが、蓮は敢えて気づかない振りをした。

「でもさ、なんでこんなに急ぐんだよ。もうちょっと、落ち着いて考えてからでもいいんじゃないの?」
「それなんですけどね……」
「ん?」
「さっきの……アレなんですけど……」
「どれだよ」
「…………」

ハンドルを握りながら、蓮は少し沈黙する。
表情は特に変わらなかったが、再び開いた口からは、なかなかはっきりと言葉が出てこなかった。

「……さっき……ドアに……うっかり……」
「あぁ、お前がドアに突撃した件か」
「…………」
「間抜けなトコ見られたから挽回しようと?」
「そ……」

間抜けだったのは自覚しているが、はっきり言葉に出されるとかなり恥ずかしい。
蓮は思わず顔を顰めたが、気を取り直して話を続けた。

「それは……ちょっと違います」
「じゃあ……なんだ?」
「冷静に……本当なら知らない振りができればよかったんですけどね……」
「知らない振り?」
「でも、やっぱり色々と動揺というか、混乱というか……してしまってあんな結果になったわけですが」
「まぁねぇ」
「俺が少しおかしかったの……多分、彼女にも伝わりましたよね」
「そうだなぁ。あんなお前、滅多に見られないし」
「完全に閉まってたドアが恨めしいですね……ちょっとでも開いていれば勢いでなんとかなったかもしれないのに」
「勢いで……頭突きでドア開ける気だったのか? ドアのせいにするなよ。気づかない方がおかしいんだから」
「それはそうなんですけど……」

蓮の口から自然と長い溜息が出る。

「最近の自分のポンコツっぷりが情けないですよ」
「はは……でもさ、仕方なかったんじゃないの? キョーコちゃんも何かあたふたしてたし」
「だからこそ、ですよ」
「へ?」
「なんか複雑で面倒な事になるぞって社さんも言っていたじゃないですか」
「えっ?」
「あれからずっと凹んでいたりしたのが、バレたんじゃないかと思うんですよ」
「あー……」
「今頃、俺の事を気にして……彼女の方が凹んでるんじゃないかと」
「…………」

暫くの間、二人とも黙り込んでいたが、社の方がぼそりと口を開いた。

「お返し禁止はお前には結構キツイお仕置きだったもんなぁ」
「受けるべき罰だったと俺は思ってますけどね」
「キョーコちゃんはそんなつもりなかっただろうしなぁ」
「……あれを言い出した時は、彼女、どこかで何かのスイッチが入ってたみたいでわかってなかったと思うんですよね」
「時間が経ってから改めて思い返したら……キョーコちゃん、気がついちゃうかな?」
「いやな予感がするんですよ……ですから、早いうちになんとかしようと思って」
「それで今日中か」
「そうです。これでびっくりして、そういうのが頭の中から飛んでくれればと思うんですが」
「びっくりはするだろうな……でも、その後でまた違う事を気にしそうな……」
「そこは約束したじゃないですか。フォローしてくれると」
「うわぁ……」

あからさまに嫌そうな顔をした社の横で、蓮は視線は前方に向けたままにこりと笑顔を浮かべた。

「全部受け取ってくれないかもしれないし、俺が叱られるだけかもしれないですよ。上手く彼女に渡った分だけでいいです」
「…………」
「とにかく、彼女の気が紛れればそれでいいんですよ」
「……お前……何かすごいな」
「何がです? そもそも、俺の失敗から始まった事ですからね」
「それはそうなんだけど……」

そう言うと、社はゆっくりと後ろを振り返った。

「これ……こんなに、よくすぐ思い付いたな。キョーコちゃんの好きそうなのばっかり」
「どれにしようかと、ずっと候補にしていた物ですよ」
「あぁ、そっか……あっ!」
「なんです?」
「後でこれ返品とかっ」
「それはないですよ。今日は駄目でも、時間を掛けていずれ全部受け取ってもらうつもりでいますから」
「そ、そうか……それならいいんだ」

社は疲れた顔で、ふーっと長い溜息をつく。
どれだけ気疲れしたのだろうと思った蓮は、ここでようやく本気で少し申し訳なく思った。



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