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Lucky Lovers ─7 ─Kyoko

2015年07月08日 00:13

Lucky Lovers ─7 ─Kyoko




帰宅した私の目に飛び込んで来たのは、部屋のあちらこちらに散らばったままの桜の花びら達だった。

「あ……そっか。忘れてた……」

少し名残惜しかったけれど、このままにしておくわけにもいかないので、とりあえず片付ける事にした。
そして、淡々と作業を続けているうちに、片付けはいつの間にか普通の大掃除になってしまっていた。
この部屋に押し掛けて来た当初、家事全般、掃除なども全て自分がするつもりだった。
大変だからと渋る彼を説き伏せて、それまでに利用していた清掃の業者さんに一時撤収してもらった。
でも、結局は私の時間が物理的に足りなくなってしまった。
真夜中に急に起き出してバスルームやトイレの掃除をしているのを彼に見つかって以来、再度、業者さんが定期的に清掃に来る様になっている。
だから、室内はこれと言って汚れている所なんてあまりない。
花びらだけ片付けてしまえばそれでよかった。
それなのに、広い彼のマンションの中を、まるで贖罪のように黙々と掃除し続けた。
窓も磨いておいた方がいいかもしれないとまで思った時、外がすっかり暗くなっている事に気づく。
思いの外、時間が経っていたのを知り、今日はここまでかなと思ってソファに座って溜息をついた。

「はぁ……」

目の前のテーブルの上に置いてある、昼間貰ったあのチョコの箱。
途中で何度もそれに引き寄せられてしまい、手を止め、足も止め、ぼうっと眺めていたりした。

「疲れた……」

もう夜になってしまったけれど、時間はまだ早い。
今からでも不足していた睡眠を取り戻そうと思ったけれど、不思議な位、眠くはなかった。
それでも体は疲れていたので、ソファの上でのそのそと、だらしなく横になる。
ぼんやりはしていても、視線は自然とチョコの箱の方へ向いていった。

「…………」

彼からは”特別”を貰って、私は満足していた。
でも、今、やっと冷静になれたような気がする私は、彼があの時、どんな気持ちだったのかという事が気に掛かってきた。
黙っていても、やたらと高価な物を私のためにどこかから買って来たりする彼。
散財しないように、普段から私や社さんが口うるさくしている。
それなのに、今回はお返しをしないという不義理まで一緒に強要してしまっていた。
自分を罰する事ばかりに気を取られて、彼の気持ちを考えずに自分の我儘だけ押し通してしまったような気がしてならない。

「失敗したかなぁ……」

あの朝、彼はホワイトデーの事で何か言おうとしてキッチンに飛んで来ていた。
彼がお返しを忘れた事を気にしていないわけがなかった。
ついさっきの彼の、彼らしくない様子。
もしかしたら、あの後からずっと気にしっぱなしだった可能性だってある。
昨夜、自分と同じ事を考えて、あの桜の場所に現れた彼。
その偶然がなんだか嬉しくて、そしてちょっとだけ面白かったので、つい、はしゃいでしまった。
でも、忙しい彼がわざわざあんな事をしたのは、もしかしたら私に何か気を使っていたからかもしれない。
お花見したいなんて口に出した事はなかったけれど、こっそりと思っていたのがきっと彼にはお見通しだったのだろう。

「…………」

彼に何か物をねだった事がないわけではなかった。
けれど、基本、物凄く抵抗があるし、自分がロクデナシな女になる気がして出来る事なら避けたいと常日頃から思っている。
でも今回はややこしい事を言わずに、お返し忘れたなんてひどいです、と言って何かおねだりすればよかったのではと思う。
そうして、彼が買ってくれた物を喜んで受け取っていれば、彼の気も晴れていたはず。
自分がとても可愛げのない女に思えて少し凹んだ。
罪深い自分の断罪は、やっぱり本職の神様にお願いしておくべきだったのだ。

「んー……」

今日貰ったこのチョコをきっかけにして、今からでもおねだりしてみよう。
そう思い立ち、ソファから勢いよく起き上がってゲストルームへ駆け出した。
置いてある姿見の前で、さりげなく、そして、少しでも可愛く見えるように、おねだりする自分を演出しようと試みる。

「あんな事を言いましたが……やっぱり……お返し頂いてもいいですか……?」

芸がない。色気もない。普通すぎる。50点。

「やっぱり少しショックだったんです……だから、あの、やっぱりお返しを……」

彼を責めるようなニュアンスを含む発言は問題外。マイナス80点。

「これ、人気のあるチョコなんですか? 猫がとても可愛いのでまた欲しいんですけど、どこでお買いになりました?」

もう売ってなかった場合、彼に探させる又は特注させる事になる危険性有り。しかも色気がない。30点。

「欲しい物があるんです! それでっ、あの、今更ですが、お返しとして、あれを、か、か、買って頂きたく存じっ」

駄目過ぎる上に欲しい物が一向に思いつかない。0点。

その後、何度繰り返してみても、鏡に映るのは、挙動不審だったり、滑稽だったり、胡散臭い詐欺師のような女だったりした。

「あなたっ! 女優のくせに! こんな事も出来ないのっ?」

鏡の中の自分を指差し、叱責しながら、”可愛くおねだりする女”の演技をひたすら繰り返す。
でも、こんな付け焼刃的な演技が彼に通用するとはとても思えず、軽く絶望した。
鏡に映っている、髪を振り乱して汗だくになったとても可愛いとは思えない大根女優の姿を呆然と眺めていた時。
別に”可愛く”する必要はない事に気がついて、猛烈に恥ずかしくなった後、強烈な疲労感に襲われる事になった。



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