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Lucky Lovers ─6 ─Kyoko

2015年07月07日 00:11

Lucky Lovers ─6 ─Kyoko




今日は朝からツイてるような気がした。
人様には言えない理由で徹夜してしまった昨夜。
時間通りに家を出て、雨だったから移動は電車。
乗るのはほんの数駅だけだったのに、乗車して吊り革に掴まった瞬間、立ったまま眠ってしまった。
目を覚ました時、自分が完全に寝ていた事に気が付いてとても焦ったけれど、ちょうど降りる駅に着いた所だった。
遅刻する事なく着いた現場。
待ち時間が発生するとどうしても眠くなってしまう私は抵抗むなしく睡魔に負け、仕事中に居眠りするという暴挙を犯してしまった。
でも、呼ばれる寸前にはいつも目を覚ましていて誰にも気付かれていない。
そんな事を二度三度繰り返した。
かなり小規模だったけど、まさに奇跡の一日だったと言える。
もしかしたら、時間に正確な彼のお陰で今日の自分はそういう身体になっているのかも。
ぼんやりした頭でそんな事を考える。
しばらくしたら、それがとんでもなく破廉恥というか、はしたないというか、口が裂けても人様には言えない考えだと気付き、恥ずかしさで目が覚めまくった。
そのお陰でその後、居眠りする事はなかった。
そして、仕事はなんのトラブルもなく順調に、予定よりも早く終了になった。
しかも、その後の予定は共演者の都合で後日に延期に。
突然、午後からはフリーになってしまった。

「…………」

時間はまだお昼前。
雨も上がって、天気は回復傾向。
このまま大人しく帰れば睡眠不足も解消出来そうだったけれど、今日はなんだか幸運すぎて、すぐ帰るのが勿体無い気がした。
彼が今日どこで仕事しているかは知っている。
きっともうすぐお昼休憩。
勢いで作ってしまい、押し付けてしまったお弁当。
今日も仕事で忙しい彼に重箱を持って歩かせるのは忍びないから、引き取りに行こう。
そんな理由を掲げて、私は彼の居るTV局に向かった。
現金な事に、今度は電車での移動でも眠くなったりはしなかった。
局に着いてから、いそいそと彼にメールする。
すぐに返事が返って来て、ちょうどお弁当を食べ終わった所だと知った。
続く幸運に気を良くし、スキップしないように気をつけながら局内を歩いていた時、急に声を掛けられた。

「あー、京子ちゃんじゃない」
「あっ……こんにちは! お久しぶりです!」

先々月、仕事で一緒になった芸人さん。
芸人さんなのだけれどルックスが良く、最近は俳優業も始めていて人気が上がっている。
TV画面で見るのと同じ様に面白い人で、十も年上の先輩芸能人なのに、自分にも気さくに話し掛けてくれていた。
挨拶を返すと、彼は一緒に居たマネージャーらしき男性に何か言ってゴソゴソと荷物を漁り始めた。

「あった、あった……はい、これ! 遅くなったけどバレンタインのお返し!」
「えっ?」
「俺はお返しはちゃんとしたい人なんで! 会えてよかったよ」
「あ、ありがとうございます! すみません、私にまでわざわざ」
「手作りチョコ、美味しかったからね」

一緒に仕事をしたのがバレンタインだったから、チョコをあげた事を思い出した。
差し出された白い小箱を丁寧に受け取る。
恐縮し、御礼を言っている時にチラリと見えた荷物の中身にはまだお返しらしき物がいくつか入っていた。
人気のある人は大変なんだなと思い、彼の顔が脳裏に浮かんだ。

「本当にありがとうございました」
「いえいえ! じゃあ、またよろしくね!」

手を振り、笑顔で立ち去っていく彼を頭を下げて見送った。
貰ったお返しをバッグに仕舞おうと目をやる。
白いレースが飾りに付いたピンク色の可愛いリボンが掛けられた白い小箱だ。

「あれ……」

箱の包装に見覚えがあった。
すぐに記憶が蘇る。
あの日、彼の間違いでリビングのテーブルの上に置かれていた猫のチョコレートの箱と同じだった。

「…………」

人気のある流行りのチョコだったのかなと思う。
なんとも言えない複雑な気持ちになってしまったけれど、フルフルと頭を振り、そのままバッグに仕舞い込んだ。
ホワイトデーはもうとっくに終わっている。
うん、まさにこれで終わり!
さっさと頭を切り替えて行こう!
そう頭の中で呟きながら、彼の元へと急いだ。




彼の名前がある控室の扉を小さくノックすると、中からすぐに返事が聞こえた。

「失礼しまーす」

心持ち小声でそう言って扉を開けると、予想通りの笑顔が並んで出迎えてくれて、私も笑顔になった。

「やぁ……いらっしゃい」
「キョーコちゃん! ご馳走様でした! 美味しかったよ~」
「いえいえ、お粗末さまです……急にすみませんでした」
「こういう突然は歓迎だよ!」

にこにこしている社さんとそう話していると、彼が私の趣味丸出しのデザインの巾着袋に入れた重箱を持って来た。

「大丈夫でした? 全部は」
「大丈夫。全部食べたよ。美味しかった」
「そうですか、よかったです」

ついつい顔がニヤけてしまう。
今日はツイてたんですよ、なんて話をしたかったけれど、彼にはあまり時間がないようだった。

「はいはい、そろそろ呼びに来るからな。ごめんね、キョーコちゃん、慌ただしくて」
「とんでもないです! 私が勝手に押しかけて来たので」

渡された重箱をバッグに仕舞い込む。
少し大きいけれど、いつのもバッグに強引に押し込んでしまった。
その直後、膨れたバッグの底で携帯がブルブルと震えているのに気がついた。

「わ! 電話、電話!」

大急ぎで、ぎゅうぎゅう詰めのバッグに手を突っ込み、底を探る。

「……まだ大丈夫でしょう。急き立てないで下さいよ」
「これ位がちょうどいいの。お前はすぐに、べったりゆっくりしたがるから」
「時間は大切に使わないと」
「呼びに来る人に見られるから駄目」
「何をするわけでもないのに」
「何をする気なんだよ」

微妙に噛み合っていないような、いるような、いつもの二人の会話を横で聞きながら携帯を掴み、手を抜き出した時。
勢い余って、さっき貰ったお返しのチョコの小箱がバッグから一緒に飛び出して来た。

「あ」
「あ」
「あ」

白いレースが飾りに付いたピンク色の可愛いリボンが掛けられた、見覚えのある白い小箱。
床にこぼれ落ちたそれを見て、私は思わず言葉を失い、ほぼ同時に彼も口を噤んで固まった。
動揺しながらも電話に出てしまい、床に落ちたチョコの小箱を凝視しながら明日以降の仕事の予定の変更点を確認する。
通話を終えると、室内が妙に静まり返っていて思わず息を呑んだ。

「…………」

変に動揺しちゃいけない。
そう思い、すぐに拾おうとしたのだけれど、なんだか体がギクシャクしていてうまく動けない。
その間に、彼がさっと手を伸ばし、チョコを床から拾い上げた。

「落ちたよ……これ……どうしたのかな……」
「あ、あのっ……先程、ちょっと、たまたま、お会いして、ホワイトデー、頂いたのでっ」
「あぁ……」
「ホント、皆様、ご丁寧で、その」
「…………」

お返し自体は義理チョコへの義理お返しだし、疚しい事など一切ない。
一切ないのだけれど、貰った物が物だったせいで笑顔が強張るのを止められない。
彼からはお返しを貰わないという”特別”を貰ってホワイトデーは無事終了している。
それなのに、私はこのチョコを貰ってあの朝のショックを思い出してしまっている。
気取られないように必死になりすぎて明らかに挙動不審だ。
隠せない動揺が動揺を呼び、何とかしてこの場を取り繕いたかったけれど、いい言葉が見つからなかった。

「あ、あのぅ……」

チョコをじっと見つめている彼。
一人脳内でパニックを起こしていると、控室の扉がノックされスタッフらしき人がやって来た。

「お待たせしました! 敦賀君、よろしくお願いします」
「あ……はい。すぐ行きます」
「あー、じゃ、じゃあ、キョーコちゃん!」
「はいっ!」
「今日はわざわざありがとうね! お疲れ様!」
「はいっ! こちらこそ、どうもありがとうございました!」

人が来たので話を合わせる形にして、私は社さんに向かって勢いよく頭を下げた。

「お疲れ様」

落ち着きのない私の上に、彼の小さな声がふわりと落ちてきた。
すぐに顔を上げると、彼は手にしていたチョコをそっと私に差し出した。
黙って受け取る私。
彼のいつも通りの、優しい笑顔。

「お疲れ様です……」

彼は私に背を向けて歩き出す。
もしかしたら、このチョコが何と同じだったか、彼はわからなかったのかもしれない。
数があるだろうお返しの中の一つなら、外装を見ただけでは気づかないかもしれないし。
視線を手元に落とし、そう思って少しほっとした時。
突然、大きな鈍い音が室内に響き渡った。

「な、何やってんだ、蓮!」

出入り口の扉の前で、彼が額を手で押さえながら座り込んでいる。
驚いて思わず駆け寄った。

「敦賀さん! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……」

いつの間にか閉まっていた出入り口の扉。
再び開いて、彼を呼びに来た人が慌てて飛び込んできた。

「今、ぶつかりました!? 大丈夫ですか!? すみません、俺が一旦閉めちゃったからっ!」
「いや、俺の不注意です……大丈夫です……」
「お前……しっかりしろよ……」
「すみません……」

顔は役者の命だと言って、社さんが彼を盛んに心配している。
幸い、特に怪我もなかったようで、彼は普通に立ち上がった。
そして、何事もなかったかのように、笑顔で仕事へと戻って行く。
そんな彼を、私はびっくりしたままの状態で、何も言えずにただ黙って見送っていた。



コメント

  1. | |

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  2. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございます~!

    動揺を隠しそこねた蓮さんでしたー。
    でも蓮もキョーコも頑張って平和なラストを目指します!
    ありがとうございました☆

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