変則的三角関係─10

2010年03月09日 08:45

10.エピローグ


お昼を済ませたキョーコは奏江と二人、事務所へ戻るためTV局の出入り口付近を歩いていた。
奏江と一緒なのが嬉しいキョーコはご機嫌な笑顔で軽いスキップを踏んでいる。
いつものバッグに着けられたピンク色のハートのキーホルダー、防犯ブザーが、その動きに合わせて揺れる。
揺れるハートがなんだかキョーコの心の様子を表しているかのよう思えて、奏江まで顔が緩んでしまう。
しかし、キョーコがそのまま浮かれて飛んでいってしまいそうに思え、少し引き戻すためにさっき見た現場の話を持ち出した。

「でさ、不破は何しに来てたの」
奏江の問いにその足を停め、一気に眉間に皺を寄せ、不愉快そうな表情をするキョーコ。
「だからっ新曲の宣伝よ!それしか言ってなかったわ」
「宣伝…ねぇ」
「もうっ!あいつの曲なんて聴きたくないっていうのに!わざわざそんな事をいうために敦賀さんの控え室まで押しかけてくるなんて!」
さっきの事を思い出したのか、憤慨して文句を言うキョーコの横で、奏江は先日耳にした、尚の新曲を思い出していた。
それは──熱烈なラブソング。
(アレをどうしてもこの娘に聴かせたいっていうのはやっぱり…そうなんだ)
尚の意図がわかった奏江はちらりとキョーコの方を見たが、キョーコは「絶対聴くもんですかっ」とまだ鼻息を荒くしていた。
これじゃあ伝わりそうにないわねぇと少し尚に同情したが、別に伝わる必要なんてないわね、とも思った。
(やっぱり普通の三角関係なのね……ん?これは不破の横恋慕って奴かしら?…でもこの娘も不破には特別の感情があって…なんだか複雑な関係ね…)
三角関係の定義をもう一度きちんと調べ直そうかしら、演技の勉強になるかもしれないし、と思ってしまう奏江はやはり役者バカだった。
尚とキョーコの関係は複雑ながらも理解できた奏江は今度は蓮の様子が気になった。
「…敦賀さんが聴くの?……不破の曲。なんかそんな事言ってたけど…」
なぜそんな方向になっているのか分からない奏江は、蓮が不破尚の新曲を聴いている図を想像しようとしたがモヤモヤとしてどうしてもうまく形にならない。
「えっ、あっ、うーん」
共同戦線を張っているとは言い辛いキョーコは曖昧に言葉を濁す。
「…すごい図よね、それ…うまく想像できないわ」
「そ、想像しないでっ」
焦るキョーコに両肩を掴まれ頭を揺さぶられた奏江は想像図の完成を諦め、さっきの三人のやり取りを思い出しながら次の疑問をキョーコにぶつけた。
「でも、思ったほど危ない感じじゃなかったわね、さっきの。敦賀さん落ち着いてたじゃない。好きですオーラ全開にしてんの?」
「えっ…あはは…まぁ…」
全開といえば、全開のような気もするがちょっと違うかなぁと思うキョーコはやっぱりはっきりとその理由が言えず、軽く頬を染めて笑って誤魔化していた。
いまいちはっきりしないキョーコをいろいろ問い詰めたくなった奏江だったが、キョーコの様子が明るいのでまたの機会にするか…とこの場は流す事にした。
「まぁ…問題なければいいのよ」
「うん…頑張るから…」
何をどう頑張るかを聞かれたらやはりうまく言えないキョーコだったが、奏江は別段そこに突っ込む事もせず、二人で一緒に事務所へ向かって行った。


「おーい、レイノ、あれ赤頭巾ちゃんじゃないか?」
移動のために車に乗り込もうとしていたミロクは少し離れた場所を歩く二人の女連れの片方がキョーコだと気が付いた。
ミロクの言葉よりも先にキョーコに気が付いていたレイノは、既にその方向に目をやっている。
「…………」
「敦賀蓮はいないよ。……どうする?」
あの日以来、ずっと調子の悪いレイノはミロクにもうキョーコに構うのはやめろと何度も忠告されていたが、レイノはしばらく様子を見るなどと言って諦めようとしていなかった。
一体なぜそんなにキョーコに拘るのか理解できないミロクはそんなレイノに呆れていたが、不破といい、あの敦賀蓮といい、一癖ありそうな男を引き寄せるキョーコには何かあるのかな…などと少し興味が沸いていた。
それでも、あの日の敦賀蓮の様子を思い出すと、自分は到底近づきたくはないな、とも思っていた。
未だ顔色の悪いレイノは、ずっとその視線にキョーコを捕らえてはいたが、動こうとはしなかった。
「どうするんだ?……やっぱり様子見?」
「……まだ体調戻ってないし……」
そう呟いたレイノは、急にその視線をミロクに向けた。
「?」
「協力してくれる?」
「え?何、俺が?」
意外なレイノの言葉に驚くミロクに、レイノはもう一度キョーコの方に視線を移しながら
「……俺はアレに触れない……」
と眉をひそめて言った。
「アレってなんだよ」
レイノと一緒にキョーコを見るミロク。
「……ハートの奴」
「ハート?」
それが何か分からなかったミロクに、レイノは「防犯ブザー」とだけ小さい声で言った。
「あぁ、あれか」
ようやくハートが何か思い出したミロクに向ってレイノは
「あれを捨ててきてくれよ」
と、ポケットに手を突っ込んだまま子供のように訴えた。
「ええっ!俺が?………嫌だね、俺が変質者になる」
冗談じゃないとばかりに拒絶の色を見せるミロク。
レイノはそれを見ると「じゃあ……いい」とだけ言って不機嫌な顔で車の中に乗り込んだ。
そんなレイノを困ったように見つめながら軽く溜息をつき、ミロクもその後に続いた。




コメント

  1. kobato | URL | YUeu7SAQ

    感想

    はじめまして。
    小説、とてもおもしろかったです。
    いろいろサイトさんをまわっていますが、どこいっても敦賀さんは手がはやいんですね、、笑。
    モーコさんの「芸能界でも釣り合う人が少ない~そのなかから敦賀さんは選ばなきゃいけないの?」
    のくだりは、オーと感心してしまいました。
    同感です。

  2. Kanamomo | URL | EO0B5AXI

    感想ありがとうございます。

    はじめまして!
    感想ありがとうございます。
    面白いといって頂けるととても嬉しいです。
    確かに手が早い事が多いですね(笑) 
    うちは特にひどいかもしれません、一行であっさり、ですから(汗
    自分は「夜の帝王」に代表される仄めかす様な原作の描写にやられちゃってると言えます。
    後は早くくっついて欲しいという願いでしょうか。

    キョーコを後押ししたい思いをモー子さんに言ってもらいました。
    同感して頂いて嬉しいです!

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