Lucky Lovers ─4 ─Ren

2015年07月05日 00:04

Lucky Lovers ─4 ─Ren




マンションの駐車所に車を置いた後、俺は真っ直ぐ部屋には向かわず一度外へ出た。
人気のない真夜中の道をヒタヒタと歩いて五分程。
途中、少し迷ってしまったが、無事に目的の場所を見つける事が出来た。
しんと静まり返っている密集した住宅街の中。
道路の両脇、歩道を乗っ取るような形で二本ずつ、合計四本の桜の木が所狭しといった様子で枝を伸ばしている。
場所が狭いせいもあり、そこは自然と短いながらも桜のトンネルになっていた。
以前、彼女から聞いていた、近所にある名も無き小さな桜の名所だ。
頼りなさ気に立っている街頭が一つ、丁度いい位置にあり、いい感じで桜をライトアップしている。
満開を過ぎて緑が目立ち始めていたが、残った花達は暗い夜空を背景にしてまだまだ美しく咲き誇っていた。
夜桜見物と称し、今夜一緒にここへ誘ってもよかったかなと思う。
それを実行するには少し時間が遅すぎたのを残念に感じながら、ポケットに突っ込んできたナイロン袋を取り出した。
アスファルトの上に散らばっているたくさんの桜の花びら。
俺はゆっくりと辺りを見回した。
そして、人が居ないのを確認すると帽子を目深に被って座り込み、それを一枚一枚拾い始めた。
ここの所ずっと晴天が続いていたが、明日は雨になるかもしれないと天気予報で聞いている。
拾い集めるなら今夜しか無いと思い、黙々と作業を進めた。
思い付いた事はなんでもしたい。
花見が駄目なら、花見の気分だけでもと思った俺の深夜の花びら集め。
前に彼女が俺にした、いたずらの模倣ではあるが、少しでも楽しんでくれればそれでいい。
そう思い、俺は一心不乱で花びらを拾い続けていた。
静寂の中、低い音を立てて強い風が吹き、花びらが一斉に舞い散った。
花吹雪の中、俺は顔を上げ、地面に落ちる前の綺麗な物をなんとか上手く集められないかな、などと考える。
その時ふいに、どこからかアスファルトの上の砂を踏むような足音が聞こえた。
慌てて立ち上がり、周囲を見回す。
どう考えても怪しい行動真っ最中な俺だが、不審者として通報されたりするのは困る。
一旦、撤収してからまた戻ってこようかと考えた時。
四本のうちの、一番俺から離れた場所にあった桜の木の陰から人が現れた。
暗くてよく見えなかったが、パーカーのフードをすっぽり頭に被り、マスクをしている。

「敦賀さん……」
「キョーコ!?」

俺同様、どう見ても怪しい雰囲気のその人物は彼女だった。
お互い驚いてしばらく見つめ合っていたが、やがて彼女が顔を下に向け、肩を震わせて笑い出した。

「もう……同じ袋もって……同じ事っ……」

よく見れば、彼女の手にもビニールの袋が握られている。
今朝、キッチンにまとめて置いてあるのをこっそり一枚拝借してきていたのだが、出所は多分一緒だ。

「敦賀さんがっ……花びら拾いに来るとは……お、思いませんでした」

なんとなく気恥ずかしかったが、彼女はそれはそれは面白そうに笑っているので、まぁ、いいかと思う。

「こんな時間に……一人で危ないよ」
「どうしようかと迷ってたんですが、明日から雨らしいので……でも、大声にも足の速さにも自信があります」
「いや、でも」
「周りには細心の注意を払っていますし、防犯ブザーも持って来ました!」

彼女はそう言うと、以前、俺が彼女に渡した防犯ブザーを持った手を得意気に掲げる。
それでも危ないと思ったけれど、マスクを外した彼女の満面の笑顔を見たらそれ以上は何も言えなかった。
再び風が吹き、桜の花びらが俺と彼女に降り注ぐ。
ちょっと楽しそうに彼女は両手を広げ、花吹雪に身を委ねた。
そんな彼女を眺めながら、俺は自分に都合のいい夢でも見ているような気分になっていった。



時間が時間だけにあまり長居できず、この後すぐ、俺と彼女はマンションへ帰る事にした。
名残惜しそうに何度も桜の木を振り返る彼女。
その姿を見て、来年こそはなんとかしたいと思った。
それぞれ片手にビニール袋を持ち、空いた方の手を自然と繋ぐ。
人がいないのをいい事に、その手を子供のようにブンブンと振りながら夜の道を歩いて行った。
それだけで思いの外、楽しくなり、隣の彼女の様子をそっと伺ってみると、彼女も嬉しそうにニコニコとしている。
ここ何日かで少し離れていたように感じた距離が一気に無くなった気がした。

「敦賀さんとお花見出来るとは思いませんでした」
「ん? あぁ、そうだね」
「夜桜見物も素敵ですね」
「夜桜も綺麗だけど、普通に昼間に行きたかったね」
「来年は行きたいですね! あ、無理にとは言わないんですが……」
「いや……なんとかするよ……満開の頃、お弁当付きがいいな」
「私、きっと張り切っちゃいますよ? 食べきれないかもしれないですよ?」
「大丈夫。準備しておくから」
「胃の……準備ですか? 三日前から絶食とか駄目ですよ?」
「寧ろ、三日前から大食いになるよ。胃が大きくなるんじゃない?」
「ええっ! 敦賀さんがそんな無謀な……胃がビックリしてひっくり返りますよ!」
「次の日から三日間絶食で」
「……そ、そこまでしなくていいです……少な目に作ります……」

気の早い彼女はその後ずっとお弁当のメニューについて一人ブツブツと呟いている。
俺はその隣で、当たり前のように二人で来年の約束をしているという事に小さな幸せを感じていた。



コメント

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  2. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございます~!

    コメントありがとうございます!
    とりあえず二人にはいつも通り仲良くしてもらおうかなとw
    芸能人なのに全力でアヤシイ二人になっています。どちらもなんだか天然だよねと思っていたりw
    なんとなく落ち着いた感じですが、もうちょっと続きますのでよろしくお願いしますっ!

  3. | |

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  4. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございます♪

    すっかり似たもの同士になっちゃってる二人ですw
    一気読みありがとうございま~す!

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