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Lucky Lovers ─3 ─Ren

2015年07月04日 00:10

Lucky Lovers ─3 ─Ren









あの日からもう二週間経つ。
あの後、俺は”ホワイトデーのお返しじゃない”という事にするために、時期を外してから彼女にお返しをしようと決心していた。
それまで我慢すればいいだけの話だ。
そう思っていたが、それは俺にとって予想外に厳しい事だとしばらくしてから気が付いた。
俺は今でもまだ他の人へホワイトデーのお返しを続けている。
彼女ではない誰かに笑顔でお返しを渡す度、彼女を思い出して胸の中がチリチリと痛む。
段々と、自分の中の大事な何かが磨り減っていくような気さえしてきていた。

「また死にそうな顔して……」
「えっ?」

顔に出しているつもりはなかったが、事情を知るマネージャーには今の状態を隠し切れないようだった。
誤魔化そうとも思ったが、すぐに諦めて溜息をつくと、なぜか助手席の彼も同じ様に溜息をついた。
もしかすると気を使わせていたのかなと思い、少し申し訳なくなった。

「あ、あの……」
「ん、大丈夫。仕事中はちゃんとした顔してるから」
「……すみません」
「新しいのはもう頼んであるんだろう?」
「少し迷ってて……どれにしようかなと」
「ふうん? まぁ、決まったらまた俺がすぐ取って来てやるからさ……理由、考えた?」
「春だから、とかじゃ駄目でしょうかね」
「えらい大雑把だなぁ」
「なかなか頭が回らなくて……」
「うーん……新年度だから、じゃ色気ないな……お花見出来なくてごめんのお詫びの印っていうのは」
「……今、さらっと大事な情報を口にしましたね」
「悪い……やっぱり駄目だった。この時期ちょっと忙しいから無理」
「そうですか……」

ホワイトデーとは関係なく、今年は桜が開花したら花見をする時間が取れないかと以前から打診していた。
もし取れたら、お返しを満開の桜の下で渡すという演出も可能かなと思っていたが、それは無理そうでまた溜息が出た。
でも、あまり拘ると俺はまた失敗する可能性があるかもしれない。
適当に理由を考えて、普通に家で渡すのが確実なのだろう。

「……なんだか俺ってつまらない男ですよね」
「へっ? なんだよ急に」
「いえ……なんとなく」
「あんまり気に病むなよな……もうすぐ四月だぞ」
「そうですね……」
「元気ないなぁ」
「はぁ」

なかなか立ち直れないのは自己嫌悪が酷いという事の他にもう一つ理由がある。
あれから彼女の様子が少し変わった気がしていた。
どこで何のスイッチが入ったのか知らないが、俺に対する態度がやけに丁寧になっている。
それは昔、まだ彼女とは仕事でしか繋がる事が出来なかった頃を思い出させた。
先輩・後輩の色が強く、俺が一人でジタバタしていた頃だ。
負い目のある俺の気のせいと言われればそうなのかもしれないが、なんだか彼女に指一本触れちゃいけない気がして──ここの所、本当に触れていない。
彼女との距離が開いてしまった気がして、あれからずっとどこか落ち着かない生活が続いていた。

「あんまり凹みっぱなしだとそのうちキョーコちゃんに気付かれて……なんか複雑で面倒な事になるぞぉ」
「わ、わかっています。家では努めて普通にしていますよ」
「アヤシイなぁ……あ、そうだ!」
「なんです?」

社さんが、急にいたずらっ子のような表情をして俺の方を向いた。

「お返し、四月一日に渡せば?」
「え?」
「これを受け取ってもらえないと俺はあと数時間で死ぬとか、嘘か本当かわかんない事を言ってさぁ」
「エイプリルフールですか? そう簡単に殺さないで下さい……」
「なんでもいいよ。すぐ開けないと爆発するでも、溶けて消えるでも……迫真の演技で迫れ。本職なんだし」
「……新年度だからでいいです……」
「なんだ……つまんない奴だなぁ、お前は」
「…………」

マネージャーとちっとも気が晴れない会話をした後、帰路についた。
部屋に帰り着いたのは深夜二時を過ぎた頃。
彼女は既に眠っていたし、明日を考えれば俺も早くそうしなければいけない時間だ。
しかし、今日放映された番組でどうしても気になるものがあった。
俺はすぐに録画しておいたその番組を見始める。
画面一杯に映し出されたのは鶏の着ぐるみ。
あの日、彼女が仕事で出演した番組だ。
体調を崩したのは、特番だったからつい張り切って頑張り過ぎてしまったせい、と彼女は言っていた。
そこまで彼女が熱心に挑んだ仕事なら俺も見ておきたいと思っていた。
そうして始めた一人での深夜のTV視聴。
すっかり俺にも馴染みになった鶏の”彼”が、あの子役の少女と楽しそうに遊んでいた。
ゲストがあの子だったとは知らなかったので俺は少し驚く。
そして、その少女の首元にキラリと光る物。
それは間違いなく、俺が手違いで渡してしまったあのネックレスだった。

「な……」

俺はTV画面に釘付けになった。
渡した後、すぐに開封し、首に掛けて喜んでくれたのを呆然としながら固まった笑顔で見ていたのを覚えている。
でも、まさか、その後もそのままだったとは思っていなかった。
少女と鶏が並んでいる絵面が俺の心臓を激しく脈打たせる。
番組の中でそのネックレスが話題になるような事はなかったが、見終わった後、俺の胸は嫌な予感で一杯になった。
これはどう判断するべきか。
すやすやと眠る彼女の寝顔を眺めながら、悶々とした夜を過ごす。
次の日の朝、睡眠不足でふらつく頭を抑えながら、頼りのマネージャーにこの事を伝えてみた。

「それは……多分……キョーコちゃん、知ってるな……」
「…………」
「あの子、すごく喜んでたから……無邪気に言いそうじゃないか、お前から貰ったって」
「…………」
「それに、キョーコちゃんの場合は常に最悪の事態を想定しておかないと」
「やっぱり……そうですよね……」

確認したわけじゃなかった。
でも、社さんが俺と同じように思った事でほぼ正解だろうと確信し、がっくりと項垂れた。

「しかし、そうか……お返しの件、キョーコちゃんとは言え、えらく突き抜けたなぁって思ってたら、そういう事かぁ」
「…………」
「もしかして体調悪くなったのも」
「そ……」

怖くて目を逸らしていた可能性に触れられ、一瞬息が止まった。
そんな俺の様子に気が付いた社さんが少し慌て出す。

「いや、あれだ、着ぐるみだからな! 時にはそんな事もあるよ! あれは大変だからな!」
「はぁ……」
「寝込んじゃったわけじゃないだろ? そ、そこまで気にすんなよ」
「…………」

その慌てっぷりがより一層気持ちをどんよりとさせ、俺は暗い顔でハンドルを握る。
助手席の社さんはそんな俺をチラチラと何度も横目で見たり、やたらと前方に注意を払ったりしていた。

「あ、あのさ、蓮」
「やっぱり……あの時、全部正直に話しておくべきでした……」
「ん? いや、でも……話の流れ的になぜかキョーコちゃんの方が謝って来そうな気がしたから止めたって」
「そうなんですよね……なぜかそんな気がしたんです。悪いのは俺なのに」
「よくわからないけど、わかる気がするよ……」
「…………」
「まぁ……でも、考えてみろよ。キョーコちゃんはお返しを忘れられても、その一方で共演の子に高そうなお返しをしていても、怒らないし愛想も尽かさないというとても良く出来た彼女で」
「な……なんなんですか、それは……俺への追い打ちですか……」
「いや、いや……お前が多少やらかしても、いきなり振られたりする事はないぞーっていう」
「…………」

これで振られるまでは想定していなかった。
慰めているのかそうじゃないのか、よくわからないマネージャーの言葉に益々気が滅入り、溜息が漏れた。

「今回は、相手があの子で良かったじゃないか。普通の女優さんとかだったらもっと大変だったと思うぞ?」
「それはそうかもしれませんが……」
「大丈夫。ツキはまだお前にある! だから頑張れ!」
「…………」

無駄に明るいマネージャーの励ましは、ちっとも俺の心に響かなかった。



コメント

  1. | |

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  2. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございます。

    はじめまして!
    ご訪問ありがとうございます。
    ちまちまと書いてきたお話達ですが、楽しんで頂けたらと思います。
    素敵だと言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます!

    更新遅いのですが、ただいま久しぶりに更新中でございます。
    ぼちぼちと頑張りますので、どうかよろしくお願い致します!

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