シンデレラ・エクスプレス3─蓮編

2015年02月11日 01:13

これで最後です。
お付き合い下さり、ありがとうございました!





誕生日に特別拘りがあるわけじゃないけれど
普段からお互い忙しくて、すれ違いになる事も多い毎日なのだし
わかりやすい記念日位は二人で一緒に過ごしたかった

そうは言っても、そう都合よくいくわけもなく
今年の誕生日、俺は東京にさえいない
詳しく言えば誕生日を挟んで5日間東京にいない
以前にも似たような事があった気がしてうんざりし
平謝りするマネージャーに文句を言いたくなったけれど
彼女の誕生日の時には休みを作ってくれていたし
あまり責め立てるのも気が引ける
ひっそりと落胆して、食欲だって少しも湧かないのだけれど
元々無いようなものだから誰にも気付かれない始末

この世の終わりみたいな顔でこれを伝えたりしたら
彼女を驚かせてしまうだろう
平常心を取り戻すまで待ってから話をしたら
彼女は思っていたよりも驚いた顔をした後
想像していたよりも残念そうな表情をした

「残念ですけど仕方ないですね……でもお祝いはしたいのでどうしましょうか」
「え……あ、ありがとう。そうだね、どうしようか」
「帰って来てからにしましょうか」
「うん……」
「待ってますね」

そう言った彼女の寂しそうな笑顔が胸に突き刺さる
会えない時間が愛を深めるとか
どこかで聞いたような気がするけど
どうやら俺には向いていない
ベタベタし過ぎてうっとおしがられる心配をする方が
俺にはなんだかしっくり来ると思うのも些か問題だが
実際そうなのだから仕方がない

偶然目にした芸能ニュース
話題はある芸能人の離婚について
原因が”多忙による生活のすれ違い”だなんて
本当か嘘かわからない、よく聞くフレーズだったのに
今の俺には耳が痛い

離婚するには手続きが必要だけど
俺と彼女にはまだ必要がない
いつだって簡単に白紙に戻るのだと
ネガティブ思考が止まらない

「…………」

耐えられなくなった俺は
密かにある決意をする
10日に彼女に会うために
一度、東京に帰って来ると
彼女だって忙しい
動くのは俺の方だ

行き先は東京から遠いといえば遠いが、普通に日帰り出来る場所
でも、向こうでの拘束時間が比較的長い
内容的に俺一人だけ別にともいかないと思うし
帰るには予定通りの時間に仕事に終わってもらう必要があった
そして、問題は次の日
一泊するのが俺的に必須だから出発は朝で
タクシーでの移動も含めて色々と考えてみたが
間に合うか間に合わないかはかなり微妙だった
普段なら絶対組まないスケジュール

それでも決意は揺るがなかった
時間は守るべきという主義を変える気はないが
一回や二回、失敗があった方が人間味があるだろうなんて思って
帰る事が出来たら次の日遅刻しても構わないと覚悟を決めたら
その後は妙に心が落ち着いた
なんなら仮病でも使って強引に早退もしてしまおうかとまで思う

問題はのほほんとしているようで勘の鋭い俺のマネージャー
なんだかんだと優しい人だが、これを許すかどうかは微妙だ
あの謝りっぷりを思えば、許してくれそうな気もしたが
俺のプライベートでの我儘なのだし
次の日、間に合わなかった時には普通に叱られる方が気が楽だ
それに、止めるように説得されたりしても困るので
この計画は言わなくてはいけないギリギリまで秘密にする事にした

企んでいるのを悟られないように
普段通りの『敦賀蓮』をキープするように心掛ける
そして、東京を離れる5日間が始まった

仕事を完璧にこなすのは当然で、手を抜くなんて事は一切しない
でも、隙を見つけては彼女にメールを送り続けた
俺がいないからと彼女にどこかに行かれてしまうのは辛い
彼女の親友の家とか、具体的な場所も簡単に思い付いた
確実に実行出来るとは言えない面もある計画だから
彼女にもやっぱり言えなかったし
理由を言わずにずっと一人で居てくれと言うのもなんだか酷い話だ
結局、帰れなかったら目も当てられない
返事を強要はしないように気を付けながらも
彼女が他の事を考える暇がない位にメールばかりする俺は
普段通りなのか、そうじゃないのか、自分でもよくわからない
でも、この必死さ加減はマネージャーに目撃されない方がいいと思い
こそこそしすぎてメールに誤変換が多発していたのだけれど
当の本人は撮影場所で妙に気を使っていて俺のそんな様子に気付く気配はなかったし
彼女は面白がっていたので結果オーライだ

出来たら9日の夜に帰って
10日の始まりを彼女と一緒に過ごしたかった
しかし、9日は仮病を使う暇もないまま、あっさりと時間が押してしまい
残念ながら断念するしかなかった
気の抜けた俺は誘われるがままに仕事仲間と飲みに行き
若干やけ酒を煽りすぎて彼女に電話も出来なかった

凹んでいる暇などない10日
今日は特別に気合を入れた
一つのミスも許さない勢いで撮影に集中していたが
そんな俺の影響があったのかどうかはわからないけど
何のトラブルも無くこの日は予定通りに仕事が終わった
再度の飲み会の誘いはやんわりと断って
ホテルに帰るために社さんと共にタクシーに乗る
今夜は計画を実行できる
そう確信して嬉しかったのに
ふと気が付くとそのタクシーがちっとも進んでいない

「混んでますね」
「……そうだな。何かあったのかな」

社さんはそれでものんびりとしているようだったが
俺は内心かなり焦って苛立っていた
何度かタクシーを飛び降りて走り出したくもなったが
その方が早いと判断がつかないので思い切れない
苛立ちをつい態度に表してしまい
それを社さんに気付かれてしまったので
なんとか気持ちを落ち着かせようと四苦八苦している間に
やっと動き出したタクシーが数十分遅れでホテルに到着した

フロント横にあった大きな振り子時計
その前で俺は次の行動に迷った
予定では一旦部屋に戻り
その後で社さんに気付かれないよう出掛けるつもりだったが
出発時間が迫っているので、もうこのまま駅に向かいたい
隠していられるのはここまでかなと思った時
背後から彼女の声がした

「お待ちしておりました。お仕事お疲れ様です」
「……っ」

彼女の事ばかり考えているから幻聴かと思った

「こんな時間に申し訳ありません。お届け物がございます」

俺の目の前に変装している彼女がいる
驚いて頭が真っ白になっている俺に彼女は紙袋を差し出してきた

「…………」

一瞬どうすればいいのかわからず悩んだが、受け取らないなんて選択はない

「……ありがとうございます……」

そう言うのがやっと俺は
彼女がなぜここにいるかを必死で考えていた
明日の仕事をすっぽかすなんて事を彼女がするはずもなく
もしかしたら予定が変更になったのかもしれないと思ったから
今夜はここで彼女と一緒にいられるのかと喜び掛けた時
彼女は突然早口で残酷な言葉を吐き出した

「それでは私はこれで失礼致します。お疲れ様でした」
「えっ!? いや、あの」

彼女は身を翻し、俺の元から去って行く
社さんの慌てた声が聞こえた
俺の身体は無意識のうちに動いていて
絶対に逃さないとばかりに彼女の腕を掴んだ

「どちらへお帰りですか?」
「東京に帰ります」
「……新幹線で?」
「そうです……もう時間がありませんので」
「…………」

彼女が本気で東京に帰ろうとしているのがわかった
きっと明日の予定は変更になどなっていない
彼女は俺に一目会うだけのために無理をしてここへ来たんだとわかったら
胸の奥がかあっと熱くなった

力が抜けてしまい、俺の手は振り解かれてしまう
走り去る彼女の後ろ姿を見送るだけで
こんなにも胸が痛くなる

「社さん」
「えっ……あ、何?」
「後で連絡します」
「へっ?」

呆然としている社さんにそう告げた後
俺も彼女の後を追ってホテルを飛び出した
足の速い彼女の姿はもう見つけられなかったが
彼女が乗る新幹線は俺が乗るつもりの便と一緒だと確信する
駅までの短い全力疾走の後で
移動時間がプラスされた、彼女と一緒の夜が始まると思ったら
夜の街を本当に飛べそうになる位、身体が軽くなっていった


「見つけた」
「!」

新幹線のデッキに現れた俺を見て
目を丸くした彼女を腕に思い切り抱きしめた
思いがけず早く訪れた幸せな時間を満喫していたけれど
急いでいたせいで雑になった帽子とマスクだけの変装は
もう少し何とか出来ていればよかったなと
その後の彼女の話を聞きながらちょっと思った


****


長い移動を終え、家に辿り着いた途端
彼女はパタパタと動きまわって俺の世話を焼き始める
俺は忙しいのだから、疲れているのだからと盛んに口にしているが
今日なら忙しさは彼女の方が上だったのではと思うし
正直、彼女と会えた俺は疲れなど感じていない

それでもどこか楽しそうな彼女に全て任せる事にして
彼女がお湯を張るためにバスルームに行った隙に社さんへ電話をした
遅刻しても構わない旨を言った俺にかなり驚いて
そしてかなり呆れていたようだったけれど
結局、それほど強く怒られたりしなかった
俺が言うのもなんだが、優しい上にお人好しでちょっと気の毒な位だなと思う
それでも勘がいい人だから
今頃、俺が最初からこれを計画していた事に気付いているかもしれない
明日こってり絞られる覚悟はしておこう

「お風呂準備出来たらすぐに入って下さいね」
「うん。用意しようか」
「え? あ、はい」
「キョーコも明日は早いんだから早く入ってしまわないと」
「そうなんですけど……あの……」
「一緒に入るのは決定事項」
「えー……横暴ですっ」
「朝までは俺の誕生日だって言ってたじゃないか。優遇して欲しいな」
「う……い、一緒に入るだけですからねっ」
「聞こえない」
「な」

着替えとして彼女から貰いたてのパジャマを用意する
代わり映えしない物でごめんなさいと彼女は言ったけれど
以前貰った物は着倒しているから、毎年これだって俺はまったく構わない
そして、今回のプレゼントのこれは彼女のお手製と聞いてちょっと驚いた
この程度なら作れる人はたくさんいるのだと彼女は言ったけれど
言われるまでは普通に既成品だと思っていたし
その器用さには磨きが掛かっているなと感心する
一方で俺は、それならば彼女の分も同じ仕様で作れるのではなんて思っていて
磨きを掛けているのは我儘ばかりだった




コメント

  1. 霜月さうら | URL | -

    きゃ~!会いたい気持ちがシンクロしてそれを運んでくれたエクスプレスのタイトルが絶妙です~~!
    キョコさん視点から始まり、ヤッシー視点の推測、そして蓮さん視点のネタバラシ…ストーリーを読み進めていく度に紐解かれる事実にドキドキニマニマでした!

  2. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございます☆

    コメントありがとうございます!
    タイトルは途中まで決まっていなかったのですが、キョーコさんのメルヘン脳のおかげでwそういえばそういうフレーズあったよね?あれ?クリスマス・エクスプレスだったっけ?と混乱しながら調べたらやっぱり存在してましたので貰ってきてしまいました。
    三視点合わせた所で細かいトコまで一応全部わかるようにしたつもりですが、ドキドキニマニマして頂けましたら嬉しいです~!
    ありがとうございましたっ!

  3. | |

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  4. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございます!

    こんにちは!
    コメントありがとうございます。
    3回目とはっ……嬉し恥ずかしでございます。ありがとうございます~
    素敵なお言葉ありがとうございます!
    結婚は先延ばしにしちゃって蓮に申し訳なく(笑)
    どんな風になるかなぁ~とぼんやり妄想してみたりはしておりますw
    子供はどうでしょうか。子沢山になりそうな気がw
    ”お仕事の後で”は楽しく書けたお話です。好きだと言って頂けて嬉しいです♪
    ”Memory”も素敵だと言って頂けてうれしいですっ。
    そういえばこの時キョーコさん携帯新しくしていますね。
    今、原作じゃ蓮はスマホになったみたいだし、どうしようかな~と思ったりw
    何度も読んで頂きありがとうございます!
    更新出来るように頑張りますっ。

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