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シンデレラ・エクスプレス1─キョーコ編

2015年02月10日 23:24

敦賀さん、誕生日おめでとーございます!


ということで、更新でございます!
なんとか間に合った~(汗





独りでぼんやりとTVを眺めていた時
メールの到着を知らせる小さな音が聞こえた
私はすぐさま手を伸ばして携帯を掴む

彼は今、仕事で東京にいない
8日から5日間、東京にいないから
当然、彼の誕生日である明日の10日も家には帰って来ない
それはとても残念だったのだけど
何と言っても仕事が優先なのだし
社さんからはこちらが恐縮する位に謝られてしまったので
私はあまり気にしないように
極力努めてはいる

そんな私を知ってか知らずか
彼からのメールが昨日から激増している
どれも他愛の無い短文のメールばかりで
もしかしたら短い時間に急いで送ってくれているのか
時々、彼には珍しい変換間違いもある
そんなミスもなんだか可愛くて仕方ないし
逐一送られてくるその内容で
彼の向こうでの様子が手に取るようにわかっていた

にやついた顔で携帯を開いた時
TVの画面にもうすぐ新しく開業する新幹線のCMが流れた
何度も目にする機会が多いのだけれど
これを見る度に少し気持ちがムズムズとする
彼のいる街にも新幹線で簡単に行ける
彼が泊まっているホテルは
駅からとても近いみたいだから
思い切って飛び乗ってしまえば──

「…………」

以前も仕事先にいる彼に会いに行った事があるから
CMによる危ない誘惑に負けそうになる
残念だけど明日も明後日も私には仕事がある
仕事をすっぽかしてまで会いに行くなんて言語道断だし
彼だってきっと喜んではくれない

「はぁ……」

気持ちを入れ替えるために彼からのメールに目を通すと
これから仕事仲間と飲みに行く事が書いてあった
誕生日を祝ってもらうのかなって思ったけれど
皆お酒の強い人達ばかりで大変だと愚痴っていたから
クスクスと笑っていたのに
文末に何の脈絡もなく”会いたいな”が置いてあって
口元が引きつってしまった

「んもうっ……私だって会いたいに決まってるんですよ!」

自分の誕生日は散々祝ってもらったのに
彼の誕生日に何も出来ないのが歯痒くて仕方なかった
こんなのは私の我儘でしかないと思うのだけれど
なんだかじっとしていられなくなって
ラグの上に突っ伏して勢いよくゴロゴロと転がっていたら
テーブルの足に頭をぶつけた
その痛みにしばらく悶え苦しんだ後
急に頭の中がクリアになって
自分がどうしたいのかがはっきりとわかった

「決めたっ!」

明日、なんとしても彼に会いに行く
この夜、とうとう決心した




10日
17時30分、東京駅
紺色のスーツに身を包み
息を切らした仕事帰りの私を乗せて
新幹線は動き始めた

「間に合って……よかったっ……」

常に時間との戦いとなる今日これから
息を整えた所で、私は携帯で時刻を確認した
向こうに到着するのは今から約2時間半後の20時06分
一度は落ち着いた胸が
緊張でまたドキドキとし始めた

これから私は彼のいる街へ行き
LMEの女性社員を装って
ホテルのロビーで彼を待ち伏せる
会えたらプレゼントを手渡して
すぐにその場を立ち去る予定

明日の仕事は朝が早い
時間に正確な彼を見習って
決して遅刻などしてしまわないように
今夜中に確実に東京に戻りたい私は
東京行きの新幹線
最終21時20分発
これを帰路に選ぶしかなかった

会いたい気持ちを抑えきれなくなった私に
与えられた時間は1時間14分

私の我儘だけで始めた計画
滞在時間が短いので
会えない可能性だってある
だから連絡は一切していない

ホテルは駅から近いし
彼の今日のスケジュールもメールのお陰で把握出来ている
──昨夜は遅くまで騒いでいたから今日は大人しくホテルに帰る予定
出発直前に貰ったメールで勝算はあるとは思った

私は一人デッキで揺られながら
これからの自分の行動を心の中で何度もシミュレートしていた
でも気が付くと
──どうか彼と会えますように
そればかりを願ってしまっていた

期待と不安が交代で胸の中を占拠し続けた2時間半後
時刻通りに新幹線は目的地に到着した
降りてすぐ、超早足で私は彼の泊まるホテルに向かう
初めて歩く場所だったけれど
事前に何度も見て頭に焼き付けた周辺の地図に従い
迷う事無くホテルに辿り着いた

当たり前のような顔で堂々とロビーのソファに座る
怪しい女だと思われないようにしてきた変装が功を奏したのか
不審な目で見られる事はなかった
つまみ出されたら困っちゃうなんて考えてしまっていたあたり
どこか小心なのは大人になっても変わらない

後は彼が来るのをじっと待っていればいいだけだったのに
肝心のその彼が待てど暮らせどやって来ない
彼から聞いていたホテル到着予定時間はとっくに過ぎている
自分の携帯で何度も時刻を確かめたり
フロントの横にあった大きな振り子時計を遠目で眺めてみたり
どうにもこうにも落ち着かなくて
事務的で有能な女性社員の演技が崩れそう

駅までの移動時間を考えると
ここに居られるのは後10分
会えない場合もあるとちゃんと割り切っていたつもりだったのに
やっぱり連絡すればよかったなんて情けなく後悔し始めた時
彼が現れた

走り出しそうになる自分を抑えながら、ゆっくりと彼に近づい行く

振り子時計の前で足を止めている彼
一緒にいた社さんの方が先に私の存在に気が付いて
ポカンとした顔で近づいて来る私を見ている
突然驚かせてしまってごめんなさいと心の中で謝りながら
立ち止まり、彼の背中に向かってゆっくりと頭を下げた

「お待ちしておりました。お仕事お疲れ様です」

私だと気付いたらしい社さんがびっくりしている
そして、振り向いた彼も驚いているのが気配でわかった

「こんな時間に申し訳ありません。お届け物がございます」

緊張しながら彼にプレゼントを差し出した
そうとはわからないようにした味気ない紙袋入りなのが残念
受け取ってもらうまでに少し間があって
わざわざこんな事をした私を
少し呆れてるかもしれないなと冷や汗が出たけど
彼はそっとそれを受け取ってくれた

「……ありがとうございます……」

彼の声を聞き嬉しくて
その辺をはしゃぎ回りたくなったけれどそうもいかない
タイムリミットは刻一刻と迫っている
後はもう速やかに立ち去るだけとばかり
再び深く頭を下げてから
用意していた台詞を
未練を断ち切るために早口で捲し立てた

「それでは私はこれで失礼致します。お疲れ様でした」
「えっ!? いや、あの」

きっと何がなんだかわからないだろう社さんが慌てている
申し訳ないなと思いながらホテルを出るため早足で歩き始める
彼にだって後で謝らなくてはと思い
落ち着いたら電話をしようと考えた時
腕を掴まれて進めなくなった

「どちらへお帰りですか?」

彼の声はいつものように穏やかだったけれど
私の腕を掴む手の力はとても強い
連絡もせずにいきなり押し掛けて来て
何の説明もなくさっさと帰ろうとしている私
説明を求めるのは当然なのだけれど
私にはあまり時間がない
最後の力を振り絞って、冷静に切り返した

「東京に帰ります」
「……新幹線で?」
「そうです……もう時間がありませんので」
「…………」

彼はなかなか私を手放さない
私はその手をすぐにでも振り解かなきゃいけないのだけれど
振り解けないし、振り解きたくなかった
仕事なんてどうでもいいから、今夜はこのまま彼の元に残ろうか
そんな考えさえ頭に浮かんだ
でも、きっとそれは彼を困らせる
もしかしたら怒らせてしまうかもしれない
せっかくの彼の誕生日を
そんな風に過ごさせてはいけないと思った私は
彼の手を振り解き、駅に向かって走り出した


再び息を切らした私を乗せて
21時20分
新幹線は定刻通りに動き出した
デッキの壁に寄りかかって息を整える私の中は
計画の完遂を喜ぶ気持ちよりも
振り解いた手の痛みで一杯になっていた
ほんの少しでも彼と会えれば充分だと思っていたのに
いざ会ってみたらひょっこりと欲深い自分が顔を出した
あと2日待てば会えるでしょうと言い聞かせてはみたものの
あと2日待たないと会えないんだと絶望するばかりで
凹みっぷりが半端ない

そんな自分を慰めるのは今でもメルヘン思考な自分で
時間制限のある逢瀬だなんてシンデレラみたいだねと思ったら
少し気持ちが落ち着いてきた

ちょっと舞台が違うから
ドレスの代わりに地味なスーツ
かぼちゃの馬車は最新鋭で
王子様は何かと忙しい
でも、私が誰かは知っているから
ガラスの靴は必要なくて
大人しく待ってさえいれば
必ず私の元へやって来る

「ふふっ……」

魔法はなかったけれど
一番の協力者はかぼちゃの馬車よねなんて思ってた頃
自動ドアが開く音と共に人の気配がしたので
壁に寄りかかり、少々だらしなくなっていた姿勢を正した時
聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた

「見つけた」
「!」

マスクと帽子でなんだか怪しい扮装になっている王子様が私の目の前に立っている
驚きすぎた私が口をパクパクしていると苦しくなる位に強くぎゅっと抱き締められた

「つっ、敦賀さん!?」
「まったく……本当に驚いたよ」

それは私の台詞ですよと思ったけれど
頭の中に次々と聞きたい事が浮かび
上手く整理がつかなくて何も言う事が出来ない
彼の胸でうんうんと唸るばかりのなんだかおかしい私に
彼はゆっくりと話し掛ける

「このまま一緒に東京に帰るよ」
「かえっ……でも、仕事っ」
「大丈夫、なんとかなる。多分、慌ただしいけど……」
「そ……」

このまま彼と一緒に東京へ帰る
嬉しいと思った反面
私のためにそんな慌ただしい事をと思った時
心の中が全部見えているのではと感じる程に適切な言葉が返って来た

「違うよ。俺が一緒に帰りたいんだ」
「でも……」
「あのまま置いて行かれる方が辛い」
「…………」

嬉しいやら申し訳ないやら照れくさいやらで胸が一杯になって
何も言えないまま、私も彼の身体にぎゅっとしがみついた

「俺がさっきどんなに嬉しかったか知ってる?」
「え……」
「時間的にかなり危ない橋を渡ったんだろう? こんなに凄いプレゼントはないよ。本当にありがとう」
「敦賀さん……」

お礼を言うのは私の方かもしれないですよってちょっと思った


それから東京に着くまでの間
何度もやめた方がいいと言ったのに彼は私にべったりとくっついていて
私の提案に耳を貸そうとはしなかった

「忙しいんですから、少しでも休まないと」
「キョーコだって忙しいじゃないか」
「私は明日、時間が早いだけで移動はないですし」
「キョーコだけ立たせておくなんて出来ない」
「じゃあ、私も空いている席がないか探してみます。だから」
「別々に座るのは却下」
「えー……二つ並んで空いているとは思えないです……思ったより混んでますし」
「……後2時間位、立っていても平気」
「……あの、やっぱりグリーン車の方を見に」
「贅沢は敵だって」
「それは私だけの場合で」
「別々に座るのは却下」
「…………」
「じゃあ、俺の膝の上に座る?」
「はぁ!?」
「ちょっと目立ってしまうかな……」
「目、目、目立つなんてもんじゃないですよ! そんなの駄目に決まってますっ! 車掌さんに叱られますよ!」
「家じゃいつもこうですって言えば」
「いやぁぁぁぁ」

結局、東京まで二人でずっとデッキにいたのだけれど
あっという間の2時間半で
疲れなんか全然感じなかった



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