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真夜中の電話─5

2014年02月14日 21:17

これで最終話になります。
お付き合い下さった方々、ありがとーございました!

真夜中の電話─5






夕飯を兼ねた打ち合わせを終えて
本日二回目の帰路に就いた
助手席のマネージャーにずっと遊ばれっぱなしで少々疲れたが
今回は文句を言える立場ではなかったし
扉を開けた瞬間に
玄関先まで飛んで来てくれた彼女の笑顔を見たら
そんなものはあっという間に消え去った

「はいっ、これをどうぞ!」

もう十四日ですからと手渡されたチョコレート
ちゃんと用意してくれていたのがこんなにも嬉しい

リビングには今日の現場で配る予定らしい大量のチョコレートもあって
どんなチョコかと気になり、どうしても目が行ってしまう
包装が透明だったので確認出来た中身と
渡された俺へのチョコが随分と違う事に気を良くする
変わらない、変われない自分に苦笑いしながら
彼女のチョコを一粒、口に入れると
コーヒーを淹れた彼女がキッチンから戻って来た
目に見えて嬉しそうなその笑顔に俺の顔も緩んでいく
身も心も甘く溶けていくのが俺だけじゃ寂しいので
一緒に食べるように誘うと
彼女は多く作りすぎてしまったのだと言って
大量のチョコレートの山から一袋を無造作に手に取った
袋を開けて一粒、彼女がそれを口に入れる寸前
俺は彼女の手からそれを奪い去って自分の口に入れる
驚いた彼女は目をパチクリさせていたが
素知らぬ顔で食べきった後、何事もなかったようにコーヒーに口をつける

「もうっ……なんですか、お行儀の悪いっ」

叱られるのもさえも幸せにしか感じない俺は
見知らぬ誰かに渡される彼女のチョコレートを
誰よりも先に味わえた事に満足する
なぜか慌てて残りのチョコを口に入れた彼女の
膨らんだ頬をのんびりと眺めているうちに
その感触も味わいたいと思って手を伸ばした時
どこかで携帯が震える気配がした

「電話」
「えっ」

時間は深夜零時を過ぎた所
記憶に残っているシチュエーション
持ち主を呼んでいるのは彼女の携帯だ

「…………」

嫌な予感がしたのは俺だけじゃなく彼女も同じのようで
彼女は携帯が入っている自分のバッグを黙ってじっと見つめている

「琴南さんかもしれないよ」

多分違うとは思ったが、そう言ってみる
誰が掛けてきたのかなんて、確認するまでもない気がした
彼女は出ないかもしれないな
そう思い、俺は今後どう対処すべきかと頭を巡らせる
すると突然、彼女が目にも留まらぬ素早さで携帯を手に取った

「はいっ、もしもしっ」
『京子ちゃん? こんばんは、俺だよ』
「こ、こんばんは」

少し予想外だった彼女に行動に俺は驚く
漏れ聞こえてきたのはやはりあの男の声で
携帯を持つ彼女の表情はやけに真剣だ

『京子ちゃん、明日っていうか、もう今日なんだけど』
「はいっ」
『バレンタインだよね』
「…………」
『だから』
「あ、あのっ……あのですね」
『何?』
「こ、こ、こんな時間の緊急じゃないお電話はですね、こ、こまっ……め、め、め」

なんだか必死な彼女が何を言おうとしているのかを瞬時に悟る
自分に友好的な目上の人間からの電話を
困るだの迷惑だのと言って完全にシャットアウトしようとする事は
彼女にとったらかなりの覚悟が必要な行為だと思う
そこまでしようとしてくれている姿に軽く感動しながら
俺は彼女から携帯を奪い取った

「あっ!」
「もしもし」
『えっ?』
「深夜に電話とかやめて頂けませんか。俺の彼女ですから」
『…………』
「時間もそうですけど、用がないなら電話自体遠慮して下さい。迷惑です」
『君は……』
「それじゃ、そういう事で」

そう言って返答を待たずに通話を切る
ぽかんとしている彼女の手に閉じた携帯を戻して
固まってしまっているその身体が元に戻るようにと
頬に軽くキスをした

「えっ……あ、あの、い、今のは」

我に返ったらしい彼女は
ほんのり赤く染まった頬に手を当てながら慌てている

「ダメだった?」
「ダメだなんて……でも、その」
「会った事はないんだ。電話越しの声だけで俺ってわかるかなぁ」
「……どうでしょうか」
「俺はわかっても構わないけど」
「勿論、私だって構いません!」
「じゃあいいね。これ位なら一緒に住んでるとも思わないだろうし……まぁ、一応後で社さんに相談しておくよ」
「…………」

彼女は少しの間、赤くなったり青くなったりしながら
いろいろな事を頭の中でグルグルと考えているようだった
焦らせないように、黙って見守っていると
ようやく落ち着いたらしい彼女は
俺を見つめ、ちょっとだけ困ったような顔で笑った

「ありがとうございます……ごめんなさい」
「何の……ごめんなさい?」
「だって……こういうのはやっぱり自分で」
「俺の方こそ、ごめんなさいなんだけどね……キョーコが明日から辛く当たられたら困るな……」
「え! さすがにそんな事はないですよ!」
「俺のせいにしてくれていいよ。彼氏が嫉妬深くて大変だって」
「そ……そんな事は、な」
「…………」

まるで時が止まったかのように、彼女はそこで動きも言葉も止める
紛れも無い事実だし、大いに自覚もあるのだけれど
正直すぎる彼女の反応に、ほんの少し意地悪をしたくなった

「な?」
「な」
「…………」
「…………」
「ない……とは言えない?」
「え、えっと……」
「…………」
「…………」
「……大変な目にあわせてあげようか」
「へっ?」

きょとんとした彼女を強引に引き寄せて唇を重ねた
数日ぶりに交わす、息をするのももどかしい口付け
彼女の吐息がチョコレートよりも甘く香って俺の中に浸透していく

彼女には今日仕事があるのだし
帰って来てくれたからすぐなんてあまりに余裕が無さ過ぎる
さすがに今夜は大人しくしているつもりだったから
慌てた彼女が見れたらそれで終わろうと思っていたのに
何の前触れもなく制御不能になった俺の身体が
勝手に走り出す


──しばらく留守にします
そんな短い一文だけが書かれた一枚のメモで
俺がどれだけ混乱し、慌てていたのかを君は知っているのかな
君がいるはずもなかった夜の街を
君を探して彷徨うなんて間が抜けた事をしてみたり
マネージャーに泣きついて判明した君の居場所に
後先考えずに押しかけようとしてみたり
連絡する術が無いままに君が泣いていたなんて事も聞かされて
君を失うのかもしれないという恐怖を抱きながら夜を過ごした後は
何も考える事ができず、良く出来た機械人形みたいな状態で仕事をしていた

──今から帰ります
そんな短い一文だけが書かれたメールだけで
俺がどれだけ安堵し、そしてまた慌てていたかを君は知らないよね
帰って来た君を絶対に逃したくなかったから
マネージャーを巻き込んで必死に時間調整をして
獲物を待つ肉食獣よろしく、部屋の前で待ち構えていたけれど
気分は今にも捨てられそうな子犬みたいなものだったから
君の姿を見つけた瞬間に、尻尾を振って飛んで行ってしまった


縺れ合ったまま、二人でソファから崩れるようにして落ちてしまう
床に何かがぶつかったような音と彼女の小さな悲鳴
彼女を押し倒しているような形になっていた俺はそれで正気に戻った
慌てて身を離して、起き上がろうとしたのだけれど
きゅっと袖を掴まれて留まり、彼女の顔に視線を落とした
紅潮した頬を携えた潤んだ瞳
そこに暴走した俺を咎めるような色はない
それどころか、どこか誘うような気配さえ漂わせていて
紅く濡れていた唇がゆっくりと震えるように動き
何かを囁いた

俺の名を呼んだような気もしたし
普段の彼女なら決して言わないようなおねだりを聞いたような気もした
今にも吸い寄せられそうなその可憐な唇が
なんと言ったのかはわからなかったけれど
それはあまり問題ではなく
とにかく俺を求めてくれているのだという事はわかったので
もう俺を止めるものは何もなくなってしまった

場所を配慮する事さえ煩わしくなり
暫くの間、リビングのラグの上にいたのは覚えているが
いつ、どうやって寝室のベッドに移動したかは覚えていない

いつもよりも一層感じやすくなっていた、その白く柔らかな肌の
服を着れば見えないだろう場所全てに俺の痕跡を紅く撒き散らし
他の男の事など欠片も入り込んだりしないように
彼女の中の奥の奥までを
俺だけで埋め尽くす行為を何度も執拗に繰り返した
時間が経つにつれ、蕩けそうな程に熱くなっていく彼女の内側は
やがて、俺が少し動くだけで逃さないとばかりに纏わり付くようになり
その感触に堪らず声を漏らせば
追い打ちをかけるように彼女が脚を絡めて擦り寄ってきて
俺の方が段々と切羽詰まっていく
今、この夜だけはどうしても
大事な仕事も、不愉快な電話も
何もかも全て彼女の中から追い出して
心も身体も俺に占められてしまった彼女の姿を
この目で確認しておきたかったのだけれど
そうするよりも先に
何度も繰り返し背筋を這い上がってくる快感に耐え切れなくなり
俺の方が完全に彼女に溺れきった状態で朝を迎えた



予定の時間よりもかなり早く
俺の部屋に顔を出したマネージャーに
対応してくれたのは彼女の方で
皺だらけのシャツを雑に羽織っただけの
明らかに寝起きの状態でのそのそとリビングに出て来た俺を
彼はやっぱりなという顔をした後、呆れた目で眺めていたのだけれど
気を利かせたらしい彼女が彼の元に持って来た
コーヒーカップの中身を見て面食らっていた

「え、えっと……白湯は……健康にいいんだっけ?」
「へっ?」

持って来た本人も驚いた様子で
大慌てでキッチンへと戻って行ったのだが
その直後、キッチンから騒々しい音がして
駆けつけた俺と彼と彼女の三人で
色んな物が散らばったキッチンを片付けたりして
この日は随分と慌ただしい朝になった


「気持ちはわかるけど羽目外しすぎ。キョーコちゃんまでおかしかったじゃないか。今日は仕事あるみたいなのに……」
「す、すみません」
「まぁ……無事元通り仲良しになったみたいだし、それで良しとしといてやるよ」

いつもの助手席でそう言った彼は
彼女のチョコの小袋を三つも抱えていて
そのうちの一袋から一粒をいそいそと取り出すと
やけに嬉しそうに口の中に放り込んでいた



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