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真夜中の電話─2

2014年02月11日 22:11

リアルタイム進行ではないので日付がズレていますが、ご容赦下さいませ。
2と3が12日のお話になります。

真夜中の電話─2












小さなボストンバッグを傍らに、姿勢良く正座をするキョーコの姿。
奏江はそれを見て、その姿によく似合うお決まりの台詞を思い出した。

「実家に帰らせて頂きます?」
「えっ!?」
「あぁ、ごめん、ごめん……なんか、あんた見たら急に思いついた」
「あ……はは……」

キョーコは元気のない乾いた声で笑った後、すぐにしゅんとしてしまった。

「泊めるのは構わないけど……一応、状況説明はしてもらうわよ」
「うん……」
「ほら、辛気臭い顔してないでコートは脱いだら? ……あぁ、荷物はそこら辺に置いて」
「う、うん……ごめんね?」
「いいから」

少々あたふたとしながらキョーコは荷物を持って奏江の部屋のリビングの隅っこへと移動する。
それを見た後、奏江はキッチンへ足を向けた。

「なーにがあったのかしらね……」

小さく独り言を言いながら、奏江はキョーコが落ち着くのを待つ間に紅茶の準備をしていた。




十二日、暗くなった頃に家に帰った奏江の元にキョーコの携帯から電話が来た。
もし都合が悪くなければ今夜泊めてくれないかと言うキョーコ。
突然、予告もなくキョーコがこんな事を言ってくるのは初めてで、奏江は少し驚いた。
そして、電話から聞こえてくるキョーコの声はどこか沈んでいて弱々しく、遊びに来るというわけではないとすぐにわかった。
これといって困る事もなかった奏江はその申し出を了承する。
自分の家がダメならば他を探すというキョーコの話を聞き、心配でもあったからだった。
蓮の部屋に帰れない理由。
リビングで深刻な顔をして座っているキョーコに、奏江はそれを尋ねた。

「電話?」
「そう……」

奏江の入れた紅茶が入ったティーカップを両手で包み込むようにして眺めながら、キョーコはそうポツリと言った。

「一昨日の夜、青山さんから突然かかってきたの」
「青山さん?」

キョーコは今、とあるテレビドラマの仕事をしている。
人気があり、シリーズ化しているそのドラマに、脇役ではあるが出演できる事になったのをキョーコはとても喜んでいた。
青山はそのドラマの出演者の一人だ。

「携帯番号、教えてたんだ?」

それなりに知名度のある男性俳優の顔を思い出しながら、奏江はそう言った。
自分やキョーコよりもかなり年上ではあったが、まだ独身で、時々女性との噂がたったり消えたりする事があるのを記憶している。

「そ、それなんだけど」

キョーコは奏江に撮影現場の様子を身振り手振りを入れ、滔々と語りだす。
他の出演者だけでなく、スタッフまで皆、ベテランばかり。
新参者であるキョーコはそんな現場で最初は緊張しまくっていたが、誰もが皆親切で、現場は和気藹々とした雰囲気。
キョーコはそんな周りの人達に快く迎い入れてもらい、撮影は何の問題もなく、順調に行われているという。

「本当にね、皆、いい人で……いい現場なのよ!」
「あ、うん……それはわかったわよ。で、青山さんの電話の件は」
「あっ……それは……あのね、結構前だったんだけど、休憩中に携帯とかスマホとかの話になって」
「うん」
「役者さんやスタッフさん、仲のいい人達は皆、電話もメールもし合えるようになってたみたいなの」
「へぇ……」
「で、何人かの人に『京子ちゃんも教えて』って言われて……」
「あぁ……」
「わいわいやってる時、主演女優の鈴原さんまで私に番号教えてくれたの。そりゃもう、私の番号なんてどうぞご自由にって差し出したわ……」
「まぁ、あんたなら断れないわね……で、その時に青山さんもいたと」
「うん……で、でもね、それから特に電話が来たりとかなかったのよ? 番号交換だってその場のノリみたいな感じだったし」
「でも、急に来たわけだ」
「……そうなの……しかも、結構遅い時間に……」
「何時頃?」
「もう零時過ぎてたと思う……」
「ふぅん……それじゃあ当然、敦賀さんは」
「いたわ……というか、一昨日の夜は……」
「あぁ、敦賀さんの誕生日だったんだっけ? 十日」
「そうです……」

キョーコはそう言うと、穴の空いた風船から空気が抜けていくように、体から元気がなくなっていく。
すっかりしょげ返り、言葉が止まったキョーコに奏江がさらりと問い掛けた。

「二人で仲良く誕生日のお祝いしてる最中に、突然、他の男から電話が来て……怒った敦賀さんに追い出されたというわけ?」
「ええっ! ちょ、ちょっと待って、違う! 違うの!」

奏江のざっくりとした予想を聞き、キョーコは大慌てでそれを否定した。

「私、青山さんからの電話ってわかった時、なんていうか、現場の連絡網みたいな? そういう何か緊急の用事かと思ったのよ」
「連絡網って……よくわかんないけど……まぁ、なんとなくわかるわ……」
「だから、敦賀さんにそう説明したし、敦賀さんはちょっとびっくりしてたけど出た方がいいかもねって」
「うん」
「で、出たんだけど……何か思ってたのとは違って……」
「違って?」
「えっと……」
「…………」

言い辛そうに口をもごもごさせるキョーコを奏江はじっと見つめる。
キョーコはそんな奏江の顔をちらりと見た後、小さく溜息をつき、ぼそぼそと話し出した。

「特に用事はなかったみたいで、な、なんか世間話みたいな、取り留めのない話を延々としてて……」
「ふぅん……」
「なかなか話が終わらないのよ……それでちょっと困ってたら……」
「うん」
「えっと……急に、す、好きな人はいる? とか、そういう話になって……」
「へっ」
「もし良かったら……俺と考えてみてくれないかなって……」
「はぁ? ……なに、要するに口説かれたわけだ」
「くっ……くどっ……」
「なるほどねぇ、理解したわ……敦賀さんの誕生日の夜に、敦賀さんの部屋で、他の男に口説かれちゃったわけね」
「そ……そっ、それは……」
「それで、怒った敦賀さんに追い出されたと」
「ああっ! 違うの! 追い出されてはいないの! 敦賀さんはそんな事しないから!」
「じゃあ、なんなの?」
「私が勝手に出て来たの……」
「なんでよ」
「……………」

キョーコは再び言葉を止め、俯いて長い溜息をつく。
紅茶にゆっくりと口をつけた後、下を向いたまま話し出した。

「青山さんにはね、ちゃんと言ったんだ。私には好きな人がいるのでって」
「うん」
「でも、付き合ってるのかって聞かれた時に、ちょっと言葉を濁しちゃって……」
「うーん……それはまぁ、仕方ないんじゃないの? あんたの場合」
「そうなんだけど……曖昧にしてたら、なんか……上手くいってるの? 何か問題あるんじゃないの? とか言われて」
「えー……何それ……すっごい余計なお世話」
「勿論、即行で否定したし、その勢いでちゃんと付き合ってますって言ったのよ」
「へぇ……それで?」
「そうしたら、青山さん……俺は気が長いから、気が向いたらいつでも声かけてって言うのよ」
「へっ」
「キープだと思ってくれていいからって」
「キープ?」
「私、一瞬、意味わかんなかった」
「あー……」
「理解した瞬間、びっくりしてそんな事は出来ませんっ、とんでもないですって言ったんだけど……大丈夫だから気にしないでいてくれればいいって……もうね、どう言ったらいいのか」

キョーコはくしゃりと顔を歪め、今にも泣きそうな表情になった。

「すごいわね、あんた……随分気に入られちゃったのねぇ……」
「すごくないよぉぉ……結局、上手く切り返せなくて、そこで話終わっちゃったし」
「じゃあ、青山さん、あんたのキープのままなんだ」
「キ、キープなんてしてないから! そんな失礼な事」
「キープかキープじゃないかは置いておいて……そういう電話を敦賀さんがいる所でしちゃったわけね」
「う……」

奏江の言葉に、キョーコは息が止まったかのような苦しげな表情で言葉を失くし、固まった。

「……やっぱり怒ったんじゃないの、敦賀さん?」

紳士で誰にでも優しい、長身の超絶イケメン俳優の姿を思い浮かべながら奏江はそう言った。
あれがキョーコの言う”大魔王”とやらになる姿を、一度は間近で拝見してみたいものだとこっそり思う。

「怒られてた方が良かったかも」
「え?」
「一瞬だけ、ピリッとしたオーラを感じたんだけど……すぐに消えて……」
「…………」
「こういう事もあるよね、仕方ない、キョーコは悪くないよって……」
「……まぁ、確かにあんたはそんなに悪くないと思うし」
「で、でも……もっと上手く、こう、さりげなく話を違う方向に持っていくとか、ささっと電話を切り上げるとか、そもそも番号教えまくったりしなければって」
「うーん……」

それは確かにそうなのだが、そういう事をそつなく完璧にこなしたりしたら、なんだかキョーコらしくないな、と奏江は思う。

「敦賀さん、笑顔で怒ってないからって言ってくれたんだけど」
「……よかったじゃないの」
「でもね!」
「な、なによ」

突然、強い口調になったキョーコに奏江は驚いた。

「何か違うの! 似非紳士スマイルでもなかったし、怒りの波動も感じないのに……何か違うのよ!」
「ち、違うって何が」
「確かに怒ってないの! でも、その代わりに敦賀さんの周りに見えない頑強な壁が出来てるのよ! もう周囲三十センチ位に、手を出したらたちまち弾かれてしまうような硬い壁が!」
「はぁ?」
「触れないし、近づけないの! 押し返されるような感じで……雰囲気もどこか余所余所しいし……」
「…………」
「電話の後はもう、ずっとそんな感じで……そのまま何事もなかったようにその夜は寝ちゃったし」
「んー……」
「私はもう心臓バクバクで眠れなかった……で、でも一晩経てばなんとかなるかなって思って」
「ど……どうだったの」
「昨日の朝は、朝日を浴びたキラキラ眩い且つさわやか笑顔で、何か言おうとするとスルッとかわされて……時間だからって普通に出掛けちゃった」
「…………」
「夜は、帰りが遅かった事もあるけど、早く寝ようって言って……やっぱりさわやか笑顔で就寝。夜なのに……」
「夜のさわやか笑顔は……おかしい……の?」
「う、うーん……ちょっとね……それに見えない壁も思いっきり健在だったし……」
「…………」
「今朝もその状況はまったく同じ……というか、寧ろ距離は広がってる感じで……もう、謝るどころか、あまり会話もしてない」
「うーん……」
「あ、あれはもう、怒るとか怒らないとか通り越して、私に呆れて失望しちゃったのよ! あの壁は私に対する強い拒絶の表われよ!」
「えっ」
「ほ、本当にもうダメかも……しれないっ……」

キョーコはそう言うとぶわっと目に涙を浮かべた。

「ちょ、ちょっと」
「どうしようぉぉ……もう、おうぢにがえれないぃぃ」
「なっ、な」
「づるがさんに次会ったら、ぎっと、えがおでわがれようって言われるんだぁぁぁ」
「なっ……何言ってるのよ、そんな事ないから落ち着きなさい」
「でもぉぉぉぉ」
「あんたの話、さらっと聞いただけでもあんたがそんなにも悪いとは思わないもの。敦賀さんだってきっとそうよ」
「うぇっ……」
「壁があるなんて、あんたの考え過ぎじゃないの? 怒ってないんでしょう?」
「でもぉ……あるのぉ……ホントにあるのよぉぉ」

キョーコはボトボトと大粒の涙を次々と零し続ける。
そのまま、えぐえぐと泣き続けるキョーコに何と言ったらいいのかわからず、奏江は内心狼狽えていた。
見えない壁とやらがどんな物なのかは自分には皆目わかりそうにはなかったが、キョーコがそう言うからには何かはあるのだろうと思う。
それでもあの蓮がそんなに簡単にキョーコを拒絶するとはとても思えない。
それはだけは確かだ。
そう思った奏江は泣き続けるキョーコにそっと声を掛けた。

「ね、ねぇ……あんた、明日仕事はどうなってるの?」
「あ、明日は……ないの……次は明後日……」
「そう。私は仕事あるけど、あんたはここにいていいから……ゆっくりして少し落ち着いて考えてみよう?」
「…………」
「昨日も一昨日も、あまり眠れなかったんでしょう? 今日はもう休んだほうがいいわよ……あぁ、お風呂入んなさい、お風呂。寒いからゆっくり浸かって温まった方がいいわよ」

心配するような事態にはならないだろうと踏んだ奏江は、とにかくキョーコを落ち着かせる事だけを考える。
すると、キョーコは急にピタリと泣き止み、じっと奏江を見つめた。

「な、なに?」

早くも成果があったかと思った瞬間。

「……モーござん、優しいぃぃ~」

そう言ってキョーコは再び涙を滝のように流し始める。
奏江はそんなキョーコをただ呆然と見つめているだけしかできなかった。



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