変則的三角関係─5

2010年03月06日 17:12

5.救出


尋常ではない蓮の暗く攻撃的な雰囲気にその場にいた全員が釘付けになりその場の空気が凍りついた。
何も知らない野次馬達までもがそのムードに飲まれ、自然と口を閉ざす。
ただ一人、キョーコだけが蓮の登場に普通に驚いていたが、来てくれた事にはやはり喜んでいた。
「敦賀蓮…?」
TVで見ていた印象とのあまりの違いに初めはわからなかったその人物の名前をようやくミロクが口にした。
ミロクの呟きに反応するかのように、蓮はまずその横で跪くレイノにその視線をやる。
軽井沢で遭遇した時よりもより一層鋭さを増したその冥い瞳と突き刺さる殺気でレイノは逃げたくても立ち上がる事さえできない。
「二度と近づくなと…言ったはずだよな?」
「…………」
顔面蒼白で冷や汗をかき、身動きひとつできないレイノの様子を見たミロクは、一度蓮の方を見て何か言おうとしたが思いとどまり、再びレイノに目をやるとその腕をそっと掴んで立ち上がるように促す。
ミロクに助けられるようにやっと立ち上がったレイノ。
そしてミロクは他のメンバーに無言で顎を動かし移動するように指示し、ビーグールは全員その場を立ち去っていった。

その間、蓮と一緒に来ていた社が手際よく野次馬を散らしていたが、その中には尚のマネージャー祥子の姿があった。
「あの…」
「?」
「わ、私は不破尚のマネージャーの安芸と申します…」
「あ、そうですか、私は…」
社と祥子がその場には少し似合わない社会人らしい挨拶を交わしている間、蓮と尚とキョーコは時が止まったかのように凍り付いていた。

蓮が来た事で少し自分を取り戻したキョーコはなんとか尚から逃れようと自分の腕を揺さぶるが、尚は益々力を強くしてキョーコの腕を握り締める。
「いたっ…」
思わず漏れたそのキョーコの言葉を合図にして蓮は二人に近づき、キョーコの腕を掴む尚の手に自分の手を伸ばす。
そしてぎりっと鈍い音を立てて思い切り尚の手首を掴んだ。
「うっ」
猛烈な痛みを感じ、尚は顔を歪めてキョーコの腕を離し、後退した。
蓮はそんな尚とキョーコの間に割って入るようにしてキョーコの方を向き、そっとキョーコの両手を取って立たせた。
「大丈夫…?」
「だ、大丈夫です…」
泣きそうだったキョーコはそれを悟られまいと必死で平気な振りをするが、作られた笑顔はぎこちない。
そして、蓮の手を握るキョーコのそれがわずかに震えているのを蓮は見逃さなかった。
そんなキョーコのために蓮は精一杯穏やかな笑顔を浮かべて見せるが、背中では強烈な怒りを尚にぶつけていた。

ちっ、と軽く舌打ちをする尚に、蓮は背中を向けたまま、怒気を含んだ声でゆっくりと口を開く。
「…貴様…今、何をしようとしていた…?」
「別に…」
「答えろ」
「はっ……どうせコイツ相手じゃおままごとみてぇな付き合いしかしてないんだろ?だからちょっと教えてやろうと思っただけだよ」
「…………」
「こんな女じゃその気になりそうにねぇしな?それじゃつまんねーだろ?」

一見キョーコを侮辱するようなそんな尚の言葉の中に、そうであって欲しいというわずかな希望を感じ取った蓮は、うっすらと黒い笑みを浮かべた。
そして、蓮が怒ってしまうのではないかとハラハラし、ぎゅっと蓮の服を掴んで立っていたキョーコの背と足に手をまわし一気に抱き上げた。
「きゃっ」
驚くキョーコを抱きかかえたまま、蓮は尚の方に振り向くと
「余計な心配はいらないよ」
そう言って、少し狼狽えていたキョーコに激しい勢いで口付けた。
「……!」
それはベッドの上でしか行われない濃厚なキス。
一瞬、羞恥で抵抗を見せたキョーコだったが、やがていつものようにそのまま蓮に翻弄されていく。
さっきまでの緊張が、蓮の唇の熱でたちまち解けていった。
ゆっくりと動く蓮の舌に自然と合わせるかのようにキョーコも動く。
ほのかに頬を染めて我を忘れたキョーコの口から「んっ……」と甘い声が漏れた。
そしてここがどんな場所かも忘れて、蓮の首に手をまわし、夢中で応えていく。
わずかに水音がした。

そんな二人の様子を見ていた社は
(あーぁ…箍が外れちゃったよ……)
と、少し気恥ずかしい思いに駆られ、二人から視線を逸らす。
周りにはもう既に社以外には祥子しかいなかったが、その祥子が目を丸くして驚いている様子が見えた。
そんな祥子には少し同情したが、まだ真っ最中の二人の横で石の様に固まっている尚には厳しい目を向けていた。
(さっきは本気でキョーコちゃん襲おうとしてたな?さすがにそれは許せないよ…)
そのまま、その二人に当てられていればいいさ、と思った社だが、少しエスカレートしそうな様子の二人を見て、恨まれるのを覚悟で蓮に声を掛けた。
「蓮、そろそろ移動の時間だよ」
その社の言葉から数十秒後、ようやくキョーコの唇から離れた蓮はキョーコを抱きかかえたまま
「もうそんな時間ですか?」
と、言って社の方を振り向き、いつも通りの笑顔で答えた。
蓮に抱きかかえられたキョーコはその顔を蓮の首元に寄せている。
安心しきったように蓮に身を任せるキョーコは軽く目を伏せていたがその瞳は潤んでいて、白い頬も淡い薔薇色に染まっている。
濡れた唇が艶かしい。
(うわぁ……)
普段見る事が出来ないそんなキョーコの表情に思わず見入ってしまった社に蓮がちらりと鋭い視線を向ける。
「………」
そんな蓮に気づき、急いで視線をあさっての方向に泳がせるが、見せたくないならそこまでするなよ、と心の中で突っ込む。
大事なものを扱うように大切にキョーコを抱えたまま、蓮は歩き出す。
呆然としながらその蓮を見送る祥子に、社は
「では安芸さん、失礼します。後ほど連絡させて頂きますので…」
と言うと、祥子は「は、はい」と急に我に返ったように対応をした。
その祥子の答えを確認した後、固まったまま立ち尽くす尚を冷たく一瞥し、落ちていたキョーコのバッグを拾い上げると社も蓮の後を追った。




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