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変則的三角関係─4

2010年03月06日 00:16

4.危機


(うわぁ……)

キョーコは自分の進む方向にいる男達を見て思わず床にめり込みそうな気分になった。

不破尚とビーグルの魔界人──レイノともうひとりのメンバー。

遠目でもわかる位、険悪な雰囲気で睨み合っている。

(あぁ…きっと歌番組の収録でもあったのね…大丈夫なのかしら、その番組…)

つい余計な心配をしてしまうキョーコだったが、すぐに自分の置かれている状況を思い出し、頭を切り替える。
あの日以来、蓮に何度も尚の事を心配されていた。
その心配の仕方が激しいので、キョーコも気をつけようと改めて考え、尚と出会ってしまった場合の対応を何度もシミュレートして万全の体制を作っていたつもりだった。

それにしても前会ったのはいつだった?
もしかして一ヶ月も経ってないわよね?

───キョーコは最近TVの仕事増えたよね?アイツに会ってしまう機会も増えるって事だよ?

先日言われていた蓮の言葉を思い出した。
確かにいつ会ってもおかしくはない、と思い気を引き締めてはいた。
それでも、そうそう何度も会わないでしょうと楽観的な自分もいた。

(しかも…これは想定外だわ…)

レイノとセットで遭遇する、などと考えていなかったキョーコは応用の利かない自分にこの場面は危険すぎると防衛本能を発揮し、すぐさまその場を離れようと今来た方向に戻る事にした。
急いで来た道を戻りながら、自分の運の悪さを再確認する。

(悪いなんてモンじゃないわね…むしろ宝くじ買ったら当たるんじゃないかっていう悪さっていうか。いや、宝くじ当たるのはいい事なんだけど…)

もうお約束のように、今日も蓮が同じ局内にいる。
まだ仕事のある蓮に少しだけ顔を見せ、キョーコは家に帰るところだった。

(敦賀さんは今頃はお仕事中だから…あいつらと会ったりはしないでしょうけど…)

蓮が尚に会う事はない、その事には少し安堵はしたが、反対に言えば助けにも来てもらえないということ。
そう思ったキョーコは少し緊張して、歩く速度を早くする。
逃げるのは気が引けるのだが、そうやって意地を張った結果がこの間の出来事だ。

(とりあえず逃げるのよ!バカショーもだけど、魔界人はやばすぎる!)

まだ気づかれてはいない。
ちらりと後ろを振り向き、それを確認すると、今度は少し小走りになる。
冷静に対応していたつもりのキョーコだったが、やはり焦っていたのか前を良く見ておらず、通路の角を曲がった所で数人の男の群れの中に突っ込んでしまった。
「す、すいません!」
肩がぶつかり慌てて謝るキョーコに聞き覚えのある自分の呼び名が浴びせられる。
「あれ~似非天使だ」
「!」
それは少し見覚えのある…ビーグールの残りのメンバー達。
「なになに~どこいくの?」
「レイノ君呼んでこよっか」
「レイノ君どこいった~?」
キョーコを囲んでわいわいと騒ぎ立てるメンバー達に焦り
「よっ呼ばなくて結構ですからっ」
と、無駄に丁寧に断り叫んで、すぐさまその場から逃げようとしたが──

「呼んだ?」
いつの間にかすぐ側にまで来ていたレイノを見て、心の中で絶叫するキョーコ。
必死で平静を保ち、怨キョは出さないように且つ威嚇しつつ、じわじわと離れようとするキョーコ。
しかしレイノは何も気にせず、ズイズイと無造作に近づいてくる。
「こっち来るなっ!」
噛み付かんばかりの顔でレイノに声を荒げるキョーコ。
それに対して、なにやら気だるい雰囲気を出し芝居がかった動作で胸に手を当てるレイノは、ふっ…と軽く溜息をつきながら
「…冷たいな。チョコをくれた仲じゃないか」
「なにがチョコよっ!あんたが無理矢理そうさせたんでしょ!」
「無理矢理でもなんでも、俺とお前がチョコを交し合った仲なのは間違いない」
「気持ち悪い言い方しないで!交し合ってはいないでしょーーー!」
「お前が俺の事を想って作ったチョコは既に俺の体内で血となり肉となって……」
「いーーやぁぁぁーーー!!」
レイノの台詞を聞くまいと両手で耳を塞ぎ大声を出すキョーコの後ろにはいつの間にか尚が立っていた。

「随分とモテるじゃねえか…なぁキョーコ?」
「はぁ?」
尚の存在に気づき、やっぱり来たわ…と少し動揺するが、ここで日頃から繰り返し考えてきた対尚用の自分を引っ張り出す。

冷静に、でも強気に。
ムキになって乗せられないように。
最悪の場合はナッちゃん頼り。

「…………」
「結局はこいつにもチョコやったんだったよな」
「しつこいわね!説明したでしょ、あのチョコはそんなんじゃないって。もう忘れたのバカショー」
「うるせぇ。じゃああいつには何やったんだ?それも説明してもらおうか」
「なっなんで今ここでそんなの説明しなきゃいけないのよ!あんたには関係ないっ」
「…愛しの彼には何やったのかなと思ってな」
「………っ」
冷静に──そう思うのだがどうしても蓮の話をされると少し感情的になってしまう。
自分を落ち着けるために、キョーコはそっと尚から視線を逸らしたが…そこにレイノの顔が飛び込んできた。
「ひっ」
その近さにキョーコの全身が総毛立つ。
しばらく二人のやり取りを黙って見ていたレイノだったが、尚の言葉を聞き、難しい顔でキョーコをじっと観察するように眺めていた。
「ちょっ!それ以上近づかないでっ!」
「なんだ……?復活してるのか?」
「は?」
レイノの言葉の意味がわからず不審な顔をするキョーコ。
「そいつはもう他の男と付き合ってるぜ。残念だったな?」
なぜか尚が勝ち誇ったようにそう言った。
しかし、レイノは特に反応も見せず、
「へぇ……まぁ別に構わないが」
とだけ言った。
「はぁ?」
「愛だの恋だの……そんなものが欲しいわけじゃない」
そう言ってレイノはじぃっとキョーコを見つめて何か考え込んでいる。

「ふ…そうすると不破くんは振られたってわけだ。ははは…」
レイノの横でしばらく三人のやり取りを見ていたミロクが急にそう言って笑い出した。
「ふ、振られたってなんだ!俺はこんな地味で色気のねえ女にはもともと興味はねえ!」
「地味で色気がなくて悪かったわね!」
「事実だろ!どうせお前もすぐ振られるに決まってる!」
「なっ!なんですって!」
「お前も…だって」
尚の言葉を聞いて再びミロクがぷっと吹き出す。
「くっ……」
自分の迂闊な発言に気づいた尚は、ミロクに睨みを利かすがまったく効果は無かった。

「別にいいんだけど……どうせならあの時ちゃんとモノにしとけばよかったな」
笑うミロクの横でずっと考え込んでいたレイノは急に不機嫌そうな顔をしてそう言い出した。
「モ、モノ?」
未だそういう方面の事には疎いキョーコはレイノの言葉がいまいちピンと来ていなかったが、なんとなく不吉な予感がして身構える。
しかし、キョーコを品定めでもするかのように無遠慮にジロジロと見るミロクに気を取られ、逃げるチャンスを失っていた。
「…今からでも遅くないんじゃない?誰と付き合ってるのか知らないけどあんまり変わってない気もするし」
一通りキョーコを眺め倒したミロクがそう言うと、レイノは
「そうだな……それで仲が壊れれば……また…いい感じになるかな……」
そう言って、不気味な笑みを浮かべた。
「は、よくこいつにそんな気になるな!」
「ふん…自分の事は棚に上げてよく言う」
「上げてねえ!こいつ相手にそんな気になるかよ!」
「じゃあ…もういいじゃないか。今度は邪魔するな」
「…………」
レイノの様子に少し動揺の色を見せた尚だったが、ここでキョーコを助ける理由を失った。
天然さと鈍さが災いして、今のやり取りの意味をきちんと理解できないキョーコが一瞬ポカンとした時、レイノが突然猛烈なスピードでキョーコの腕を掴んだ。
「なっ…!」
急に何かに縛り付けられたかのように動けなくなるキョーコ。
記憶に残る嫌な感覚。
そこでようやく軽井沢のあの日を思い出し───油断していた事を心の底から後悔した。
「……っ」
息がかかる程の距離までに迫ってきたレイノ。
しかしキョーコは諦めずに逃げるための努力を続けていた。
(あの時だって動く事はできた……今度だって……)
………頭の中に思い浮かべるのは……いつも見ているあの人の眩しい笑顔。
レイノの手で首筋を触られ、思わず鳥肌がたつ。
「お、おいっ!まさかここで…」
「場所なんか関係ない」
「レイノ、ここはマズイよ。せめて家に連れて帰ろうよ」
「………」
ミロクの言葉に不満を見せたレイノが少し気を逸らした一瞬。
必死の努力が実り、見えない捕縛から逃れ動けるようになったキョーコは全力でその場から逃げようとした。
「キョーコ!」
「おっと…待った」
逃がさないとばかり手を伸ばしたレイノが咄嗟に掴んだのは、キョーコが持っていたバッグに付けられていたハート型のキーホルダー。
「つっ!」
しかしそれを握った瞬間、レイノはそのキーホルダーから全身に強烈な電気ショックのような痛みを感じ、すぐさまそれを乱暴に投げ捨てた。
硬い通路の床の上に音を立てて転がるハートから響き渡る、耳を劈くような電子音。
「あっ!」
「なんだこれ…」
うるさそうに耳を塞ぐミロクや他のメンバーの側でレイノは顔を青くして膝を突き、その場に崩れ落ちた。
「ん、レイノ大丈夫?…騒音に弱かったっけ」
「違う…音じゃない…」
そのレイノの様子を見て、理由は分からなかったが危機を脱した事に少し安堵したキョーコは急いでハートを拾い上げたものの、慌てていてなかなかピンが戻せない。
「お前…なんでそんなもん持ってるんだよ」
耳を塞ぎながら呆れたような顔でそういう尚に「アンタ用よ」とは言えず、無言でプイと横を向いたキョーコは今の音を聞きつけて周りに人が集まりだしている事に気づいた。

(不味いわ…変な騒ぎになっちゃってる!)

ピンを戻してブザーの音を消し、とにかくこの場から逃げようと思ったキョーコを、今度は尚ががっしりと腕を掴んで捕まえていた。
「ちょっと!離しなさいよ!」
一刻も早く、この場から立ち去りたいキョーコが声を荒げてそう言ったが、尚はそんなキョーコの言葉を聞く事さえしない。
「防犯ブザーなんて子供みたいなもの持って…お子様だなぁ?あいつともそんな感じなのか?」
これは普通に成人女性だって持つものだし、お子様じゃないわよ、とキョーコは思ったが、なんだかそれを声高に主張するのも憚られ、曖昧にしたままとにかくこの場から去ろうとするが尚の力が強く逃れられない。
抗議の意味を込めて睨み付けた尚の瞳の中に、今までキョーコが見た事のないような狂気の色が宿る。
「な…に……?」
その瞳に本能的な恐怖を感じたキョーコは思わず後退るが、尚は無言のまま追い詰めてくる。
腕を尚に掴まれたまま通路の壁にまで追い詰められたキョーコは恐怖で足が竦み、壁にもたれるようにずるずると崩れ落ちた。

「あれあれ…今度は不破がその気になっちゃってるよ。観客もいるっていうのに…いいのか?レイノ」
しかし、ミロクのその言葉にもレイノは反応せず、座り込んだまま動かない。
「レイノ…?おい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない……来るぞ」
「え?」
彼らから少し離れた場所に集まってざわついている野次馬達の方を見て、益々顔を青くしていくレイノ。
ミロクがそのレイノの視線の先を追った時、その中から小さな歓声が聞こえ、掻き分けるようにして背の高い男が一人現れた。
「…………!」
そこには全身から黒い炎を揺らめかせた蓮の姿があった。




コメント

  1. せいら | URL | -

    No title

    毎日訪れては、楽しく拝読させて頂いています。本誌は何だか盛り上がってきていますが、すごくじれったい。ここは私の欲求を満たしてくれてホントにうれしい!!変則的三角関係も すごく面白いです。upされるの 楽しみにしています。

  2. Kanamomo | URL | EO0B5AXI

    ようこそ!

    こんにちは!コメントありがとうございます。
    じれったいのも好きなのですが、もうちょっと…が、頑張ってくれっという思いから自分の好き勝手に作り上げている妄想の世界です^^;
    その分、暴走しがちですが(笑)楽しんでいただければうれしいです!
    またよろしくお願いします!

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