20 隠されたシナリオ 五日目─5

2013年12月15日 11:50

五日目ラストです。
次は、21,22 社長室(同時に2話UP)と、23 エピローグ になります。
お付き合い下さっている方々ありがとうございます!


20 隠されたシナリオ 五日目─5





少し休むか、眠ったほうがいいと蓮はキョーコに言った。
キョーコはさほど疲れてもいないし、眠くもなかった。
そして、蓮の方こそ休むべきなのではと思い、そう言い返そうとしたが、多分このままでは聞き入れられないのだろうと考えて素直にベッドに横になった。
豪華な設備ではあるが、やはり車の中。
狭いダブルベッドの上で体を横たえてから、キョーコは自分に背を向けてベッドサイドに座っている蓮の服をつんと引っ張った。

「ん?」
「敦賀さんも」
「……窮屈だろう?」
「いいんです」

身体の大きい蓮の足先が少し飛び出してはいるが、無事に二人並んで横になる。
キョーコは黙ったまま、蓮にくっつくようにして体を寄せた。

「実はね、キョーコ……」

蓮はキョーコに自分の腕を枕として差し出しながら、ポツポツと語り始める。
有香のあの体質が、夜になれば落ち着いているのだという話を聞いた時、キョーコは驚いたと同時にやっぱりとも思った。

「手の込んだ嘘ですっかり騙された……キョーコには酷い迷惑をかけたね」

蓮はそう言った後、瞳と口を閉ざす。
そのまま、何かを考えこんでいるようだった。
キョーコは蓮の腕に抱かれながら、言うべき言葉をゆっくりと探す。
時折感じる走行中の車の振動が心をも揺らした。
何も言わないまま、身体を起こすと、キョーコは目を閉じたままの蓮の身体の上に覆いかぶさるようにして抱きついた。

「キョーコ?」
「……迷惑なんて何もないんですよ?」

服の上からでも感じるその胸筋に頬を寄せながらキョーコは言う。

「これで敦賀さんの周りに変な人はいなくなるでしょうし、色々ありましたが私は満足です」
「…………」
「寧ろ、私が来たことでトラブルを大きくしちゃったかなぁって思うんですけど」
「いや、そんな事は……」
「敦賀さんがあの変な話にのるわけがないんです……信じて大人しく待っていればよかったなって」
「キョーコ」
「……はい?」

目を開いた蓮は身を起こし、キョーコを引き寄せて強く抱きしめた。

「キョーコがいてくれて本当によかったと思ってる」
「…………」
「もしこのロケが何事も無く終わったとしても……後からまた何が起きるかわからないね。向こうはずっと不穏な事を考えていたんだろうし」
「あ……」
「こんなにわかりやすい形で事が終わって助かったよ」
「敦賀さん……」

蓮の言葉を聞いて、キョーコはほんのりと頬を染め、本当に嬉しそうに微笑んだ。



満足気な表情で自分にしがみついたまま眠るキョーコの髪を蓮はそっと撫で付けた。
そのいつもの短い茶髪の髪に、さっきまで付けていたウィッグのせいで少々おかしな癖がついているのに気付く。
起こさないように、恐る恐る指先で何度も直していると、キョーコはイヤイヤをする子供のように頭を左右に振り、ぽすんと蓮の胸に顔を伏せてしまった。
その様子に思わず口元が緩み、蓮はキョーコの身体をもう一度抱きしめ直す。

「いてくれて本当によかったって……俺も思ってもらえてるかな……」

自嘲気味な笑みを浮かべながら吐き出した独り言が、聞こえてくるエンジン音に掻き消されていくのを確かめた後、蓮も静かに目を閉じた。


****


ふと目を覚ました蓮は、腕の中のいたはずのキョーコがいない事に気付く。
暗い部屋の中、まだ車は動いていた。
身体は目覚めていなかったが無理に起き上がろうとした時、ぼそぼそとした話し声が聞こえた。
キョーコの声だとわかり、そのまま耳をすませる。

「あの……すみませんでした……私のわがままのせいで」
「社長からは最上様のケアを最優先にと言われておりますので、どうかお気になさらないで下さい」
「でも、携帯探しに付き合わせてしまったり、敦賀さんに叱られてしまったり……」
「大した事ではございません」
「でも」
「ただ一つ、気に掛かる事がございます」
「えっ……な、なんでしょうか」
「あの部屋の扉の前での記念撮影は、やはり敦賀様とご一緒の方がよろしかったのではありませんか?」
「やっ! あ、あのっ! しっ、しぃーずかに……お願いしますぅぅ」

声を潜めながらも、キョーコが慌てている気配が、寝ている振りを続けている蓮にも伝わってくる。

「ど……どうか、その事は内密にっ、内密にお願いしますっ」
「かしこまりました……ではそろそろ到着のお時間ですので」
「は、はいっ」

扉が閉まる音が微かに聞こえ、キョーコが近づいてくる。
横になっている蓮のすぐ傍に、そっと座ったのが背中越しにわかった。
携帯を開く小さな音。

「…………」

扉の前での記念撮影の意味が、蓮には一瞬わからなかったが、すぐに、自分が撮影してキョーコに送ったあの写真の事を思い出した。
”1225”──キョーコの誕生日の数字。
自分と同じようにキョーコがあれを撮影していたのかと思うと、蓮の顔は盛大に緩んでいった。
社長の部下である彼がそれを知っているという事は扉だけでなくキョーコ本人もきちんとした形で一緒に写っているのだろう。
その図を想像してしまい、顔の緩みはなかなか直らない。

「敦賀さん、そろそろ着きますよ」

声を掛けてもなかなか起きない蓮を、キョーコは何度も揺り動かす。
緩んだ顔を急いで立て直しながら、そろそろ起きないと不自然だなと蓮が思った所で、キョーコの手が止まった。

「敦賀……さん……」

目を覚まさせるというよりも、眠っているかどうかの確認のような、キョーコの小さな呼びかけを不思議に思い、蓮は狸寝入りを続行する。
息を殺し、背後から顔を覗き込むような気配。
次に感じたのは、口の端に、柔らかくて温かい唇の感触だった。

「……っ」

お目覚めのキスだ。
そう思った時、蓮の顔はまただらしなく緩みそうになる。
しかし、聞こえてきたキョーコの小声は、甘い雰囲気など欠片もない、不平不満を感じさせるものだった。

「えぇー……全然つかない……あっ、そっか……」

キョーコは蓮の傍からそっと離れ、置いてあったバッグの中を掻き回している。
蓮が眠った振りを続けながらじっとキョーコの次の行動を待っていると、再び気配を殺しながら近づいて来るのがわかった。
そして、もう一度落ちてきた、遠慮がちなキス。

「よしっ……」

今度は納得がいったのか、キョーコは小さくそう呟くと、蓮を目覚めさせるために、またその身体を揺すり始めた。

「敦賀さんっ、起きて下さい。もう着いちゃいますよ!」
「…………」

キョーコが何をしたかったのか、気付いた蓮は起きるどころではなくなった。
多分、自分の顔に付いているのだろう、キョーコの色の口紅の跡。
起きてこのまま部屋から出れば、今の状況的に自分が社に叱られる事になるだろう。
キョーコが考えた、自分へのいたずらのような、ささやかすぎる仕返し。
その内容が可愛すぎてじっとしているのも辛い位だった。

「敦賀さーん!」

しかし、それで少しでもキョーコの溜飲が下がるというのなら、自分はキョーコの思い描いた通りの反応を示すべきだと思う。
驚くか、焦るか、困った顔か。
社からの小言をしっかりと受け、その間はほんの少しでも顔を緩めたり、喜んだりしてはいけない。
思ったよりも難しい演技が要求される事に気付いた蓮は気を引き締める。
そして、まず自分の寝起きの顔を思い出すのに懸命になっていた。



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