--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

18 隠されたシナリオ 五日目─3

2013年12月13日 12:29

18 隠されたシナリオ 五日目─3



「話、聞いたの? 直接?」
「はい。普通の立花さんでしたし、せっかくなのではっきりと」
「そうだったな……撮影無事終わったから、戻った……のかな?」
「マネージャーが忽然と姿を消してしまって連絡もつかないんですからね。さすがに『志保』のままじゃいられないでしょう」

電話連絡を終えた社は再びリビングのソファに戻って来ている。
有香はたった今、慌ただしく帰って行った所だった。
その『志保』ではなかった有香に、蓮は今回の事を包み隠さずに聞いてみたと言い、その内容に社は驚いた。

「えっ! 俺達、騙されてた!?」
「まぁ……そういう事になるんでしょうね」
「じゃあ、俺が聞いた話って……全部嘘だったのか!?」
「いえ……全部が嘘というわけではなかったんですよ」
「えっ?」
「迷惑な体質でごめんなさいって……平謝りでしたよ、立花さんは」
「えっ……あ、あれっ? よ、よくわからないな……どういう事だ?」

混乱する社に、蓮は冷静に淡々と話していく。

「彼女、撮影が終われば……『志保』は抜けるんだそうです」
「へ?」
「時間はかかるそうですけど……夜、一人になればちゃんと普通に戻る」
「は?」
「でも、朝になるとまたストンと役が入ってしまう。その繰り返し」
「……それが役にハマってる状態?」
「そうみたいです」
「…………」
「…………」
「えっ?」
「要するに……『志保』の維持に俺は関係なかったみたいなんですよ」
「えぇぇ!?」

大きく口を開けて固まっている社に、蓮は言葉を続けた。

「不安定といえば不安定ですが、ある意味、安定してるとも言えますねぇ……時間掛かっても夜に一人になれば普通の立花さんに戻って、朝にはまた『志保』になるんですから」
「ちょ……ま、待て待て」
「自分の意志できっちり切り替えられないっていうのが問題なんでしょうね」
「何、お前、冷静に語ってるんだ……だってさ、一昨日はここに」
「来たのは割りと早い時間でしたよね……あのマネージャーに”ローザ”の事でかなり煽られたみたいで、役が抜けそうで抜けない、不安定な状態の時に来たと言ってました」
「煽られて……」
「昨晩もきっとそんな感じだったんでしょうね……鍵まで渡されて……」
「…………」
「適当に誤魔化して俺は先に帰りましたから、俺が部屋にいなかったのは知らなかったんでしょう。で、一人で待っているうちに『志保』が抜けて……帰ったのかな」
「だから……今朝も何事も無く……普通に『志保』だったんだ……」
「ちょっと不思議に思っていたんですよね。何も聞かれなかったし……まぁ、撮影が無事に終わったので、いいんですけど」

社は放心したような顔で蓮の話を聞いていたが、その表情にじわじわと怒りの色を表してきた。

「だったら、こっちは最初から撮影の時だけ合わせる程度で問題なかったんじゃないか!」
「そういう事です……誰かが余計な事をしなければ彼女は俺の部屋に来たりもしなかったんですよ」
「なんだよ……すごい騙されてる! ……って、あれっ? お前とキスしたのは」
「あれは、まぁ、ハマった状態になった瞬間に一緒にいましたから……少々、暴走した、みたいな?」

有香はあの晩のキスの事を必死で蓮に謝り続けていた。
慌てる素振りと何度も頭を下げる姿が、やはりキョーコにどこか似ているなと蓮は思った。

「前に恋人だか夫婦役だかの相手の人と、ふか、深い関係になってトラブルにって言ってたのに!」
「それも聞きました。何か言い辛そうだったので、あまり詳しく突っ込まなかったんですが……トラブルがあったのは事実ですが、そういう事で揉めたのではないそうです」
「えぇ!? マジで?」
「真っ赤な顔でそう言ってましたよ……彼女は役のまま、相手と深い関係になるなんて人ではなかったんですよ」
「な……なんだよぉ……それが一番びっくりした話なのに……」
「ですよねぇ……もう、何がなんだか……」
「あいつら、なんでこんな手の込んだ嘘ついたんだ! こっちがどれだけ悩んで気を遣って」

プリプリと怒り始めた社は、そこまで言いかけた所でピタリと口を閉ざした。

「なんです? 急に黙って……」
「あ、いや……急にわかった気がする」
「へ?」
「最初にさぁ、疑った通りだったんだなって」
「え……」
「俺、事務所に調べてくれってお願いしてたんだよ……立花さんの事が本当か、とか、あっちの社長の事とか」
「そうなんですか」
「うん……もしかしたら全部でまかせで……上手い事言って、お前と立花さんがデキてるっていう話にする気なんじゃないかって思ったんだ」
「…………」
「主演の二人が熱愛とか、いい話題になるよ?」
「それは……」
「言い方悪いけど……立花さん側にとっては大々的に名前を売るいいチャンスだと思う」
「…………」
「立花さんの、その体質っていうのが本当らしかったから違うんだって思って、それは忘れてたんだけど……でも、やっぱり結局はそういう事なんじゃないかな」

社の言葉に、蓮はどこか沈んだ表情になった。

「そんな事のために、こんな……」
「いや、まぁ、そうは言うけど……今回、立花さんは大抜擢じゃないか。小さい事務所だし、まぁ……色々と思う所があったんじゃないかな……」
「それにしたって……俺は勿論、立花さんだってそんな気はなさそうなのに」
「んー……だから既成事実を作ろうとしたんじゃないの?」
「はっ?」
「適当な噂をでっち上げてばらまいただけじゃ、すぐ消える……ていうか消すもん」
「消すもんって……」
「噂の元を徹底調査、判明したら厳重抗議。気軽に口にする人にもすぐ止めてもらう。ネットも監視するよ。周りに煙たがられる位やるから」
「そ、そうですか」
「ただ、今回、もし、あっちの言う通りに、うっかりそういう関係になっちゃっていたら……そうもいかないよな」
「え……」
「騒がれた時、お前……完全否定できないだろ。そういうトコ真面目だし」
「う……」
「こっちが言い逃れできないように、立花さんの役にハマる体質を利用しようとしたんじゃないかな……嘘ついて、強引にお前をその気にさせといてさ」
「…………」
「『志保』でいる間になんとかお前の部屋に送り込みさえすれば……『志保』の状態の立花さんなら流されると思ったんだろうな」
「そんな……流され……ますかね……」
「正直、お前に誘われたりしたら誰だって流されそう」
「なっ」

社の脳裏に今日の撮影の様子がまざまざと蘇る。
白いシーツの上の、絡み合う指、乱れた長い黒髪、白い首筋。
遠慮はしない──前夜、そう宣言した通り、蓮の演技は見慣れている社でも息を飲む程の出来栄えだった。
その蓮に引っ張られるように、有香の演技も初日が嘘のように良くなっていると素人目にもわかった。

「いや、でもですね、まず俺があの話を承知するわけがなくて」
「きっと、その辺、あの人達、俺達と価値観が違うんだよ。据え膳食わぬはなんとか、ってあるじゃないか」
「はっ?」
「あー……今朝の望月さんが愛想良かった理由がわかった……なんでだよって思ってたんだ。昨日の晩、上手くいったと思ってるのかも。立花さんからお前がいなかったっていうのは聞いてなかったんだな」
「それは、ちょっと……不愉快なんですけど……」
「まぁ、今頃はそれどころじゃないと思うから」
「はぁ……」
「本人同士の意志は無視して正真正銘の恋人同士みたいにしてしまおうって事か。とにかくデキてしまえばなんとでもなる……そういう乱暴な事を考えてそう。立花さんもちょっと気の毒だぞ」
「ですから、そんなの無理にも程がありますよ」
「そうかな……ちょっとだけ危なかった気もするけど……」
「そんな事ないですから! 危なかったなんてないです!」
「んー……」

ムキになって否定する蓮をスルッと流し、社は腕を組んで何か考え込んだ後、ゆっくり話を続けた。

「人さらいまで用意して……絶対、あっちの社長も加担してるだろ。警察沙汰に出来ないと思ってやりたい放題だな。やっぱりちょっと普通じゃないよ……何を考えてんだ……」
「あの、社さん……俺は……」
「お前、キョーコちゃんがいてよかったな……キョーコちゃんを好きになる前のお前だったら今回どうだったかな」
「えっ? い、いや、ですから、俺は……そんな事……を……」

蓮の言葉は徐々に尻すぼみになっていく。
顔を青くして再び黙り込んだ蓮の前で、社は少しの間、ブツブツと一人で何か呟いていたが、突然、顔を顰めた。

「そうなると……ロケに来る前の、こっちに気を遣ってたっていう話も……なんかいやだな……」
「なんかって……なんです」
「今回のロケに狙い定めて計画的にやってた、なんて事じゃないだろうなって……警戒されないように気を遣ってたとか……いや、もう、立花さんが演技に行き詰まる状態まで計算ずくで……」
「ちょ、ちょっと待って下さい、社さん……さすがにそこまでだと本気で怖いですよ……」

少し怯える様子をみせた蓮に、社はまるで怪談でも話しているような不気味な顔で話を続けた。

「ふふふ~……もっと怖い事思いついたぞ……」
「なっ……なんですかっ……」
「もーしかしてぇ~……監督までグルだったりして」
「えっ」

ふざけているのか、怒っているのか、よくわからない状態の社の言葉に蓮が驚いた時、再び部屋のチャイムが鳴らされた。
チャイムの音に妙に過敏になっている様子の蓮に呆れながら、社が席を立つと、扉を開けてローザの格好をしたキョーコと社長の部下が現れた。

「キョーコちゃん!」
「ただいま帰りました!」
「よかった、心配してたよ。ていうか、どうしたのそれ」

いつの間に着替えたのか、また黒いジャージ姿のキョーコは全身泥まみれだった。

「あっ、これは転んだというか滑ったというか……怪我はないので大丈夫です!」
「キョーコ」
「あ、敦賀さん! ただいま帰り」
「こっち来て」
「へっ」

蓮はキョーコを見るなり、その手を掴み、そのまま奥のベッドルームへ連れて行く。

「ほら、どこか怪我したんじゃないのか? 泥だらけだし」
「大丈夫です! どこもなんともないです」
「そんな事言って、後で実は足とか手とか捻ってましたとか言うんじゃ」
「本当に大丈夫ですって」
「いいから、ちょっと見せて」

ベッドルームの扉が閉まる寸前に聞こえた二人の会話に、社はつい口元を綻ばせる。
そんな社に、社長の部下がいつものように淡々と話し掛けた。

「大変お待たせして申し訳ありませんでした。すぐにお帰りの準備を致します。少々お待ち下さい」
「あっ、はい、わかりました」
「詳細は後ほど説明させて頂きますので」
「よ、よろしくお願いします」

丁寧に頭を下げ去って行く彼の髪に、何かの葉っぱが一枚くっついているのが社の目に入った。
仕事とはいえ大変だなと思いながらその後姿を出入口で見送った後、社は通路に変わった様子がないのを確認してからゆっくりと扉を閉めた。


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://kanamomo2010.blog48.fc2.com/tb.php/513-d89b0dee
    この記事へのトラックバック



    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。