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17 隠されたシナリオ 五日目─2

2013年12月12日 14:16

17 隠されたシナリオ 五日目─2




静まり返ったホテルの部屋の中で、社は窓際に立っている蓮の姿を僅かに怯えながら何度も盗み見た。
蓮の背中は怒りに満ち、触れたら手が弾き飛ばされてしまいそうにさえ感じられる。
今は特に用のない手帳を無意味に見返しながら、社はテーブルに置いた自分の携帯へとその視線を移す。
あの異国人風の彼の顔を思い浮かべて、今か今かと携帯が鳴るのを待っていた。

ロケ現場を後にし、指定された合流場所、元々泊まっていたホテルの1225号室に舞い戻った蓮と社。
当然いるだろうと思われていたキョーコはそこにいなかった。
キョーコだけでなく、社長の部下である彼の姿もなく、無人の部屋で戸惑う二人。
一度だけあった社の携帯への彼からの連絡は、少しの間待っていてくれという至極あっさりとしたものだった。

東京への帰路は社長が手配した車でとなったので、荷物は既に車に運び込まれている。
私物がほとんどない、どこかガランとした部屋の中は張り詰めた空気で充満していた。
突然、蓮の呟くような声が静寂を破り、社はびくりと体を揺らしながら聞き逃してしまったその言葉を聞き直した。

「……えっ、な、何?」
「……もう、随分時間が経っていますよ」
「あ、あぁ……そうだな」
「一体、何をしているんでしょうか」
「さ、さぁ……折り返し連絡するって言っただけで何も言わなくてさ……」
「…………」

蓮は再び、黙り込む。
横目でその蓮の様子を窺いながら、社がこちらから連絡をしてみようかと考えた時、蓮が携帯を手に取ったのに気付いた。

「あ……お前、連絡してみる?」
「社長に電話します」
「えっ、なんで?」
「あの人は結局、社長の部下なんですから社長に直接聞いた方が早いでしょう……俺の話なんてまともに聞いちゃくれないんですよ」
「あ、いや、ちょっと待て、俺があの人に」

社長に喧嘩でも売りかねない蓮の剣幕に社が慌てた時、蓮の手の中の携帯が鳴った。

「あ、電話、電話来たぞ!」
「…………」

ようやく鳴った携帯に、社はほっとしながらそう言ったが、蓮は携帯を見つめて驚いた表情をしている。

「どうした?」
「彼女の携帯からなんですが……」
「えっ」

真っ赤なバッグと共に行方不明になったはずのキョーコの携帯からの着信。
少し緊張する様子を見せながら蓮がそっと通話ボタンを押すと、そこからキョーコの明るい声が飛び出してきた。

『もしもし! 敦賀さぁぁん!』
「キョ、キョーコ」
『携帯、発見しました!! ほぼ無傷ですよ、良かったぁぁ!!』
「えっ、発見したって……キョーコ、今どこにいる?」
『はいっ、今は……ええっと……えっと……ここはどこだったでしょうか……』
「へっ」

蓮の耳に、ガサゴソと雑音が聞こえ、次にキョーコとは違う声が聞こえてきた。

『お待たせして申し訳ありません。最上様の携帯の行方が判明致しましたので探しておりました』
「探す!? どうしてそんな事を彼女に」
『最上様たってのご希望でございます。無事、発見となりましたのでこれからそちらに』

社長の部下である彼がいつもの調子で淡々と喋る。
その後ろから、キョーコの妙に長く細い悲鳴が聞こえてきた。

「なっ……キョーコ!」

それから暫くの間、携帯が沈黙した。
携帯を耳に当てたまま顔面蒼白で固まっている蓮の耳にまた雑音が聞こえ始め、続いてボソボソとした声がした後、ようやく会話が再開された。

『失礼致しました。最上様が斜面を滑っておられましたので』
『あっ、大丈夫ですから! これから帰ります!』
「…………」
『敦賀さん?』
「あ、あぁ……頼むから危ない事はしないで……早く帰っておいで……」
『はいっ』

元気なキョーコの声を最後に通話が終わる。
携帯を閉じ、蓮はふーっと息を絞りだすような長い溜息をついてソファに座った。

「……今から帰るそうです」
「そっか……良かったな……」

心配のしすぎで疲労困憊といった感じの蓮を見て、社は心の底から同情する。
どういう経緯でキョーコの携帯が見つかったのか気になったが、蓮に聞いてもわからないのだろうと思い、社も座って落ち着こうとした瞬間、部屋のチャイムが鳴った。

「な……誰だ?」

社が驚いて立ち上がり、蓮の方を見ると、蓮は手で胸を押さえながら俯いている。
どこか具合でも悪そうなその様子に、突然の訪問者よりも蓮の方が気に掛かった。

「おい、蓮、どうした? 大丈夫か? 具合悪いのか?」
「だ、大丈夫です……少し驚いただけで……申し訳ないですけど、社さん出てくれますか……」
「あぁ……調子悪かったら言えよ?」

蓮を気にしながら、社が開けた扉の向こうには不安げな表情をした有香の姿があった。

「立花さん……」
「あ、あのっ……突然、申し訳ありません」
「いえ……」
「あの、もしかして……うちのマネージャーがどこへ行ったか……ご、ご存知ではないかと思いまして……」
「…………」

オドオドしながら、やっとという感じでそう言った有香に、『志保』の気配は微塵もない。
撮影終了後、可南子の姿が見えず、探していた姿を社は思い出した。
少し気になってはいたが、早くと急かす蓮に流され、特に何もせずにホテルに帰って来ていた。

「えーっと……」

今の段階でどこまで有香に話をしていいのかわからず、社は悩んだ。
キョーコの携帯が見つかったらしいという話から、それなりに状況は動いていると思えたが、詳しい事を聞いていないため、はっきりと説明ができない。
しかし、だからと言って、有香に対し、もう知らぬ存ぜぬというわけにはいかないだろうと考えた社は、有香を部屋の中に招き入れた。


****


「今、望月さんがどこにいるか、俺も、蓮もわかりません。ただ、こちらが無関係ではないのは確かですね」
「え……」

ソファセットに三人が落ち着いた後、社は有香にそう切り出した。
有香の登場で、なんとか疲れきった男から復活した蓮は、社の隣で黙ったまま、その話を聞いている。

「やっぱり……やっぱり何かあったんですね……」
「やっぱり……というと、心当たりがありますか?」
「……ある……といいますか……ちょっと気になっていた……のですが……」

暫くの間、無言で俯き続けた有香は、やがてポケットから何かを取り出し、震える手で三人の目の前にあるテーブルの上に置いた。
見覚えのあるホテルのカードキー。

「えっ? これって」
「お……お返しします……きっとこれが原因ですよね? 本当に申し訳ありませんでした!」

有香はそう言うと、膝に頭がつきそうな勢いで頭を深く下げた。

「この部屋の鍵……ですね」
「はい……昨晩、望月さんから渡されたんです。ローザさんが急に帰る事にしたから私にって受け取ったって言って」
「…………」

奪われてしまったローザの赤いバッグの中に入っていたはずの、この部屋のカードキー。
意外な所から出て来た証拠品を、社の目配せで蓮が静かにテーブルの上から手に取った。

「変だから、昨日の夜にお返ししようと思ったんですが、敦賀さんいらっしゃらなくて……図々しくも勝手に部屋に入って待ったりしたしっ」
「えっ……昨日、ここにいたんですか?」
「途中でちゃんと帰りましたから! 居たのは、ほ、ほんの数時間です! 本当に申し訳ありません!」

有香はそう言うと、両手で赤い頬を覆い、今にも泣きそうな顔をした。
本当に泣いてしまうのではないかと思い、社は一瞬ドキリとする。

「あ、あ、あの……それで、も、望月さんは一体何をしたのでしょうか……」
「あ……」

やっとという様子でそう言った有香に、どんな風に話したらいいかを社が迷った時、蓮が先に口を開いた。

「警察に通報してもおかしくない位の事です」
「え!」
「キョ……ローザさんの意向でそれはしない方向になってはいますが、何のお咎め無しというわけにもいかないんです」
「なっ……な……」
「女の子から荷物を奪った上に車でさらって山の中に放置とか、一歩間違えたら大変な事になりますよ」
「ええっ! そっ! そ、そんな事! 本当ですか? 本当に望月さんが……」
「実行したのは別の人間ですが、指示したのは望月さんでしょう……犯人に奪われたはずの、この部屋の鍵をあなたが持っていたのが何よりの証拠ですよ」
「…………」

有香は真っ青な顔で愕然としていたが、急に携帯を取り出し、立ち上がった。

「あ、あのっ……ちょっと電話いいでしょうか?」
「……どうぞ」
「すみませんっ」

有香が移動し、部屋の出入口付近で電話をしている間、社は小声で蓮に話し掛けた。

「……ちょっとはっきり言い過ぎじゃないか?」
「いずれは話す事でしょう……証拠も出ましたし」
「まぁ、そうなんだけど」
「それよりも、社さんも電話しなくていいんですか?」
「えっ?」
「彼女、向こうの社長に電話しているみたいですし、こっちも社長に一応伝えておいたほうが」
「あっ……そっか、そうだな……ごめん、奥の部屋借りるぞ」
「はい」

社は慌てて席を立ち、携帯を手にベッドルームへ行った。
蓮は一人残ったソファで、手にしていたカードキーに視線を落とす。
じっと見つめ続けて深い溜息をついた時、有香の弱々しい声が聞こえた。

「あの……申し訳ありませんが、事務所がなんだかバタバタしていてうまく連絡が……」
「そうですか」
「そ、それで……あの……」
「あまり時間がないのではありませんか? 俺もそろそろ東京に帰らないと行けませんし」
「そ……そうなんですけど……でも、このまま帰るわけには」

青い顔をし、消え入りそうな声でそう言う有香に、蓮は少し表情を和らげてから口を開いた。

「構いませんよ。また向こうで話し合う事になると思いますし……でも」
「は、はい」
「帰る前に……立花さんにちょっと聞いておきたい事があるんですが、いいですか?」
「えっ……は、はいっ、私にわかることでしたら」

蓮に促され、有香は慌ててソファに再び座った。



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