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15 隠されたシナリオ 四日目─5

2013年12月10日 15:15

15 隠されたシナリオ 四日目─5



キョーコを連れ、最寄りの一番大きな駅の前で蓮と合流した社は、近場のホテルの空室を探す事にした。
見つけたごく普通のビジネスホテルにツインとシングルを一部屋ずつ取る。
蓮にキョーコを任せ、社は一人、起こった出来事を事務所に報告していた。
ちょうどそれが終わった頃、蓮が社の部屋に顔を出した。

「キョーコちゃんは?」
「眠りました……コンビニのおにぎりだけだなんて……」

不満そうに、ぶつぶつそう言う蓮を見て、社は思わず吹き出す。

「お前がそれを言うのってすごい違和感だな」
「それはそうでしょうけど……もう少しマシなものを」

蓮に会った途端、キョーコはその顔に満面の笑顔を浮かべると共に盛大にお腹を鳴らした。
昼食を途中で止めてからずっと、飲まず食わずでいたのならば当然とも言えるそれは、その場を一気に和ませる。
どこか食事ができる店を探そうという蓮に、キョーコはコンビニで充分だと言い張り、社は当然のようにキョーコの案を採用した。

「ファミレス位しか見つけられなかったし、あまり派手に動き回るのもな……それに早くゆっくりしたかったんじゃないかな」
「はぁ」
「そういや、どこか怪我してなかった?」
「転んだ時に手を着いたとかで、手の平が少し……他にもいくつかありましたけど、どれも大した事はないみたいで」
「そっか……ちょっと心配だったんだ。それ位で済んでよかったよ」
「あぁ、そういえば、携帯は一応ロックしてるって言ってましたよ」
「それならすぐに変な事に使われたりはしないかな。明日考えよう……携帯以外のバッグの中身は全部社長から持たされた物だけだったみたいだから、財布にカードとかもないらしいし……」
「…………」

狭いシングルの部屋の中。
一つだけ置いてあった椅子は社が使用中で、蓮はまだ使われた様子のないベッドに腰を掛けた。

「今夜は俺もここに泊まりますよ。彼女を一人にはしたくありません」
「うん……」
「最初から、こうすればよかったんですよね」
「え……あ、あぁ」

簡単にそうはできなかった理由があった。
有香の事を社は思い出す。
ちらりと蓮の顔を見ると、その表情は禍々しい程の暗い怒りに満ち溢れていた。
美貌とも呼べる、その端正な顔立ちが僅かに歪み、鋭い眼光に狂気の気配を感じた社は、思わず怯えてしまった。

「蓮……」
「明日は相手が”誰”でどうであろうと、中断するどころか何か考える隙だって無い位に演技させますよ……遠慮はしません」
「いや、あの……蓮……」

キョーコの話から、今回の事を企んだのが可南子だとしても、有香は直接関わりがないだろうと予想している。
怒りのあまり、その事を忘れてしまったのかと思って社は焦ったが、蓮は急にその雰囲気を一変させ、いつもの愛想のいい笑顔を復活させた。

「別に前回だって遠慮していたわけではないですけどね……それ位の気合でやりますから」
「あ……あぁ、うん……が、頑張ってくれ」

普段の穏やかな蓮が戻り、社はほっと胸を撫で下ろす。

「明日、朝早めに戻れば問題ないですよね」
「うん、大丈夫だろう……じゃあ、俺だけ今からちょっと戻って」
「えっ? なぜです?」
「いや、このままだとお前の荷物も危なくないかなって思って。キョーコちゃんのカードキー使われてるみたいだし」
「貴重品は持って来ていますから、どうでもいいですよ……誰かとうっかり会ったりしたら面倒でしょう。戻らなくていいです」
「あ……うん……」
「カードキーはどうしましょうか、明日はもう帰りますしね……あぁ、そんな事よりも、彼女の着替えとかが何もないのでどうしようかと」
「あぁ、それは多分大丈夫。社長が手配してくれるって」
「え……社長が?」
「……怒ってたよ、すごく……電話越しでもわかる位」
「…………」
「キョーコちゃんの事、心配していたからなんとかしてくれるらしい。もう一度電話来るから、その時にもっと詳しく打合せておくよ」
「そうですか……それじゃあ、お任せします」
「うん。キョーコちゃんの事はよろしくな。何かあったら電話してくれ」
「はい。お休みなさい」
「お休み」

部屋を出て行く蓮を見送った直後、社の携帯が鳴った。

「来た……思ったよりも早かったな」

そうぽつりと言うと、社は電話に出て、暫くの間、部屋の中で話し込んでいた。


****


「あれ……」

キョーコの眠る部屋に戻った蓮は、眠っていたはずのキョーコが枕を抱き締めながらベッドの上に座り込んでいる姿を目にした。

「ごめん、うるさかったかな?」
「あ……いいえ」

キョーコは軽く顔を横に振った。

「敦賀さん……向こうのホテルに帰っちゃったかなって思って」

どこかぼんやりとした様子で、キョーコはボソボソとそう話す。
ホテルの備品の味気ない浴衣を着ていたが、寝乱れたのか胸元が少し開いている。
ベッドサイトの淡い照明が落とす陰影が、垣間見えたその白い肌の上に柔らかく落ちていた。
キョーコが中に何も着ていないのを蓮は思い出すが、考えないようにしてそっとキョーコの横に腰掛けた。

「帰らないよ。今日はここに泊まる」
「……いいんですか?」
「嫌?」
「まさか」

キョーコは蓮の肩に寄りかかって目を閉じる。
袖をぎゅっと強く握ったまま、ウトウトし始めたので、蓮はキョーコにもう一度横になるよう促した。

「俺もシャワー浴びるよ。眠っていていいから」
「はい……」
「お揃いになるね」
「お揃い?」
「浴衣」
「あ……ふふ、敦賀さんの浴衣姿見たいです……」
「いくらでもどうぞ?」

キョーコはくすくす笑いながら、再び眠りに落ちて行く。
その穏やかな寝顔は蓮を安心させたが、一方で胸の奥にある一番弱い場所が強烈に痛んだ。
無事帰って来たからいいものの、何があってもおかしくないような状況。
自分のためにここへ来たキョーコがそんな目に合っていたという事実は蓮の中に激しい嵐を巻き起こした。
もし、うまく帰れずに、今でも見知らぬ山の中を彷徨っていたら。
もし、キョーコをさらった男達が考えたくもない最悪な事をしでかしていたら。
そう思うと、背中に一筋の冷たい汗がすっと流れていき、軽く手が震える。
胸の痛みが本当の心臓の痛みに変わり、息苦しくなってきた蓮は思わずベッドの横でうずくまった。

「……大丈夫ですよ?」

キョーコの声が聞こえ、我に返る。
起こしてしまったかと焦り、蓮は慌てて顔を上げてキョーコの顔を見るが、その瞳は閉じられたまま。

「…………」

手の震えをなんとか抑えながら、その頬に掛かっていた髪をそっと撫でるようにして掻き上げると、キョーコは眠ったままにこっと微笑んだ。
身体と心の乱れが潮が引くように静まっていく。

「……お休み」

そう呟くように囁いた後、蓮は肌に張り付いた汗を洗い流すために静かにバスルームへと向かった。



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