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12 隠されたシナリオ 四日目─2

2013年12月07日 19:51

12 隠されたシナリオ 四日目─2


ホールに入ってすぐ左側、階段の下にある形で置かれている自動販売機をローザはぼうっと眺めている。
いきなり聞かされた事実で、中の人のキョーコはかなり動揺していた。
共演中の蓮と有香は”恋人同士”という設定なのだからキスなど何度だってしているのだろうと思う。
キスどころか、明日にはベッドシーンの撮影が待っているはずだ。
さっきの社の発言は、もしかしたら撮影中の事を言っているのかもしれないとちらりと思った。
しかし、蓮のマネージャーである社が、仕事で行っている蓮のキスシーンでいちいち衝撃など受けるはずもない。
蓮についていたという赤い口紅。
そして、蓮のあの反応。
やはり、蓮と有香が演技ではないキスをしたのだ。
キョーコは少し泣きそうになった。

「…………」

だが、有香は今、撮影が終わっても『志保』が抜けない状態だ。
それならば、そんな事故もあったのかもしれないと思ったが──

「今日はなんだかすごいやる気のある格好だね?」
「えっ」

”ローザ”は通りすがりの男性スタッフに声を掛けられた。

「昨日と全然違うからびっくりしたよ」
「あ……えへへ、昨日はぁ、急いでここに来たからなんですよぉ。ローザ、お仕事はちゃんとするタイプ!」
「あはは……今は買い出し中?」
「そうで~す!」

手にしていた小銭を自販機の中に入れて、ボタンを押す。
音を立ててペットボトルが下りて来た。

「じゃあ、頑張ってね~」
「はーい!」

そう言いながら愛想のいいスタッフは去って行く。
ローザも笑顔で軽く手を降ってそれを見送った。
その間にも何人のスタッフがローザのすぐ側を通り過ぎて行く。
休憩中であっても、忙しく動き回っているスタッフは何人もいて、人がいない場所はそれなりに探さないとなかなか無い。
いくら恋人同士でも、人目を気にせず、所構わずにしてしまうような印象は『志保』にはなかった。
二人がキスをするような場所はどこにあったのだろう。
外の植え込みの中か、使用されていない二階か三階、もしくは──

──ここは敦賀さんの部屋でしょう?

「あ……」

急に昨日の有香の台詞を思い出す。
有香が蓮の部屋を知っていた事に、あの時は何の疑問も抱かなかった。
しかし、今、なぜ知っていたかが激しく気になり始めた。

(……多分……前に……来てたんだ、あの部屋に……)

キスをしていた事と同じ位、キョーコにはそれがショックだった。
部屋に来たからどうだというのか、と自分に言い聞かせてみたが無駄だった。
ロケ初日の夜、蓮から送られてきた部屋の扉の写真。
”1225”は蓮が思っていた以上にキョーコを喜ばせていた。

突然、舞い降りてきた社長からの指令。
あれよあれよという間にキョーコは蓮のロケ地のホテルに到着していた。
当然のように蓮と同室に手配され、いいのだろうかと悩んだものの、あの写真の部屋の扉を目の前にした時、キョーコは軽い感動さえ覚えていた。
自分の誕生日と部屋の番号が一緒だった、それを蓮が見つけたというだけで、キョーコの中であの部屋は特別なものになる。
そして、部屋の前に一人の女性の姿を見つけた昨日の夜。
キョーコは大慌てでその女性の所へ駆け寄った。
有香、それとも『志保』なのか、よくはわからなかったが、どちらでもあの部屋に女の人は入って欲しくない。
この話を聞かされた時からキョーコの中で燻っていた嫉妬心と同時にそんな想いがキョーコの中にあった。
”ローザ”は無事に仕事をやり遂げ、あの部屋ごと蓮を守れたとキョーコは思っていた。
そんな、蓮でさえ気付いていないだろう、小さな幸せがあっさりと崩れていくのを感じる。
こんなものは自分勝手な感情だと思い、キョーコは必死で自分を立て直そうとしながら自販機の取り出し口に手を入れた。

「……っ」

ボタンを押す時よく確認しなかったせいか、飲むのが苦手な炭酸飲料が出てきたのを見て、キョーコはまた泣きそうになった。

「……もうっ」

誰にも聞かれないような小さな声でそう呟くと、キョーコはその炭酸飲料を持って再び外に出た。
蓮と社の元にすぐ戻る気になれず、さっきいた場所とは逆方向へと歩き出す。
途中、やけ酒でも飲む気分で、その炭酸を飲み干してやろうと思ったが、失敗してむせている姿はあまり人に見られなくなかった。
キョロキョロと辺りを見回し、良さげな場所がないか探す。
数台並んでいる車の中にある大きなロケバスがキョーコの目に入った。
その陰にすっと入り、蓋に手をかけたが、溢れ出したりしないか気になり、慎重にペットボトルの様子を観察する。
その時、開いていたロケバスの窓から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

「だって、あの娘がいるじゃないの……遠い親戚だか、イトコみたいな感じらしいじゃない。そういう娘の事をあんまりうるさく言ったら彼に心が狭いとか思われちゃうわよ」
「邪魔よね」
「邪魔……と言えば邪魔だけど……別にもういいわ、なんだか子供っぽい娘だし」
「……あの娘がいなければいいんでしょう?」
「……いなければって……もういいってば」
「あの娘は何とかするつもりだから……今夜はゆっくり彼と話してきてね」
「は? 何それ……変な事、言わないでよ。そういう事しないでっていつも」

キョーコは息を殺し、忍び足でその場をそっと離れた。
心臓が激しく脈打ち始める。
声の主は有香、もう一人の女性の声は恐らく有香のマネージャーだと思った。

(何とかするつもりって……私の事よね、きっと……何……何されるの……)

抑揚のない女性マネージャーの声がどこか怖かった。
日差しは暑いのに、ゾクゾクとする寒気を感じ、キョーコはとにかくロケバスから離れた場所へと思い移動し始める。
敷地の門構えを右手に見ながら、前に社と一緒に潜んでいた場所を思い出し、そこへ向かった。
その時、突然、手に衝撃を受けた。

「えっ?」

気がつくと、持っていたはずの赤いバッグがない。
驚いたキョーコが慌てて周りを見回すと、バッグを持った見知らぬ男が敷地の外へと走って行くのが見えた。

「なっ」

キョーコは思わずその男を追って走り出す。
ジャージに合わせたかのように用意されていたため、渋々履いていたスニーカーが役に立った。
敷地を出てすぐの道路を走って行く男は、あまり足が速くなく、追い付けると感じた。
しかし、止まっていた黒のワンボックスカーに乗り込むのが見え、焦ったキョーコは大声を上げながらその車に走り寄った。

「ちょっと! 泥棒!」

エンジンの音が聞こえる。
車に追いついたキョーコが運転席に近づこうとした時、後部座席のスライドドアが急に開いた。

「!」

中にいたもう一人の男に強い力で腕を掴まれ、キョーコは車の中に一気に引き摺り込まれてしまった。


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