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11 隠されたシナリオ 四日目─1

2013年12月06日 16:15

11 隠されたシナリオ 四日目─1



ロケ四日目。
問題なく午前中の撮影は終わり、蓮と社、そして”ローザ”は、天気が良いのを理由に建物の外に出て昼食を取っている。
建物の東側、遠くに海が見える木陰のベンチを我先にと陣取り、借りてきたパイプ椅子を合わせ、それぞれがのんびり座ってお弁当を食べている図は軽いピクニックのようだった。

「ローザちゃん、機嫌悪いね」

そんな平和なランチタイムの中、社はくすくす笑いながら”ローザ”に話しかけた。
昼の休憩時間になった途端に蓮に飛びついたローザは、今は黙々と箸を進めている。

「そんな事ないで~す」

そう言ってぱくりとご飯を頬張ったローザの今日の格好は、パーカーの付いた黒のジャージのセットアップ。
所々さり気なく装飾があり、可愛いなと社は思ったが、やはりジャージはジャージ。
不釣り合いな真っ赤なバッグは妙に浮いている。
昨日と同じウイッグとサングラスをしていても、ガラリと雰囲気の違う極めてラフな装いだった。
暑いのか、それともやけになっているのか、長かった袖を捲り上げて弁当を食べているローザの姿は妙にやる気のある現場スタッフのように見える。

「なぜ、こんなものがスーツケースの中に……」

小声でそう呟くローザの横で蓮は機嫌よく食を進めていた。

「ド派手なピンクじゃないだけいいんじゃないかな……」
「…………」

ぼそりとそう言った蓮に、ローザは恨みがましい目を向けた。
今朝、今日は何を着ようかと、キョーコが社長から持たされてたスーツケースを漁っていた時、横からひょっこり蓮が顔を出した。
キョーコがスーツケースの中から出してくる服を、あーでもないこーでもないと細かくダメ出しをし、決まったのがこのジャージ。
お洒落したいというわけでもなかったが、キョーコはさすがにこれはないと思った。
しかし、最後には蓮の強い押しに負けてしまっていた。

「どれも短いスカートで……危ないだろう? この辺は高台になってるから……そこの柵を超えたら崖みたいになっているし」
「そうですけど……スカートだからって別に落ちたりしませんよ」
「いつでも万が一を考えないといけないからね」
「はぁ……」

”ローザ”が抜け、ぶつぶつと文句を言い続けているキョーコが面白くて突っ込みたい社だったが、とりあえず我慢する。
恋人のミニスカートを許さない過保護な男に突っ込んだ方が遥かに楽しそうだと思ったからだ。

「まぁ、社長はこういう事態を予想してたんだろうね」
「へ?」
「……どういう意味です?」

社の言葉に蓮とキョーコはきょとんとした。

「ここが高台にあるって知っていたからですか?」

素直で単純なキョーコの発想は社には心地よかった。

「高台にあるのは……知ってるのかなぁ、ちょっとわからないけど」
「はぁ」
「今回の事は後できちんと報告するように言われてるから……ちょっとした遊び心だろうね」
「はぁ……」
「…………」

キョーコが顔にたくさんの疑問符を貼り付けてる一方で、蓮の顔は無表情に変わった。
その変化に気づき、社はついニヤニヤしてしまう。

「……ローザが何を着ていたかまで、報告する必要あるんでしょうかね……」
「詳細を報告しろって言われてるからなぁ……今の所、これといったトラブルは起きてないから言う事もそんなにないし」
「そういえば……今日の立花さんはどうですか?」

キョーコの発言で、社の遊びは一時休止となった。

「特に変わった感じはないね。普通に……『志保』さんかな」
「そうですね。昨日と同じです」
「まぁ、こんな感じなら……特に問題もなかったんだけどねぇ」

撮影の間、ちょっとした空き時間でも、相変わらず蓮と有香の『志保』は仲睦まじい。
キョーコがいる場でのその様子には若干ハラハラさせられるが、元々、時間内なら『志保』に合わせる事は無理な相談ではなかったのにと社は思う。

「今となると、少し大げさに反応し過ぎてしまったのかなとも思いますが……」

同じように考えたのか、蓮はちらりとキョーコを見ながらそうぽつりと言った。
仕事の予定を変更させてまで、ここにキョーコを来させてしまう事態になったのを蓮は些か気に病んでいた。

「あっ、あの、今回は私が自分から」
「いやいや、これは俺の判断で事務所に連絡したからで」

蓮の様子に瞬時に反応し、社とキョーコは殆ど同時に口を開く。
そんな二人を見て、蓮は一瞬目を丸くした後、穏やかに微笑んだ。
木々の間から鳥が飛び立ち、鳴き声が響いていく。
見上げた空は雲一つない快晴の青。
日差しは厳しかったが、吹く風はそれなりに涼しく、日陰にいる事もあり快適に過ごせている。
平和な情景の中、遠くの海を眺めながら社はペットボトルのお茶を一口飲み、のんびりとした調子で話し出した。

「何はともあれ、このまま何事もなく終わってくれればいいよ」
「そうですね……キョーコ、仕事の方は大丈夫?」
「はい、先程連絡を頂いて……大丈夫そうです」
「それはよかった……ごめんよ、キョーコちゃんまで駆り出しちゃって」
「いえ、そんな」
「もうちょっと冷静になっていればよかったんだけど、あの夜の蓮についてた赤い口紅が思いの外、衝撃で」
「えっ?」
「……っ」

平和な静寂が、緊迫した静けさに変わる。
箸を持っていた蓮の手がぴたりと止まり、視線が弁当の上に落ちたまま戻ってこない。
キョーコも口へ運ぶ途中だったオカズを中途半端な位置で宙に浮かせたまま、動かなくなった。
急変した場の空気に、社はようやく自分の失言に気がついた。

「あ……なにしろ、あれだ……事故っていうのは怖いもので、いつどこで起こるかなんて予想がつかないというか」

社は焦り、自分でも何を言っているのかわからなくなっていく。

「な、なんだっけ、あれ……昔、お前が言ったただろ、あれ、『役者の心の法則』だっけ?」
「……あ、あぁ、はい……」
「あれだよな? な?」
「あ……いや、その……」
「それって……キス……したって事ですよね……」
「あっ……」
「…………」

焦るあまり、失言の上に失言を重ねてしまっている事に気付き、社はもう何も言えなくなった。
蓮はもう既に完全硬直状態になっている。

「そうですか……そんな事が……」

心ここにあらずといった雰囲気で呟かれたキョーコのその言葉を最後に、蓮と社は押し黙ってしまった。
空を行く鳥のさえずりも、重苦しい沈黙を払拭してはくれない。
暫くの間、誰も口を聞かなかったが、その重い空気を破ったのは”ローザ”だった。

「ローザ、飲み物買って来ま~す」

そう言うとローザは食べ掛けの弁当を今まで自分が座っていた椅子の上にきちっと置き、バッグを持ってスタスタと歩き去って行く。
じっとその後ろ姿を見送っていた蓮と社だったが、ローザの姿が見えなくなった途端に、社が青い顔をしながら口を開いた。

「ごめん……言ってない……よなぁ……」
「……言ってません……」
「うっかりしてたよ……ちょっと気が緩んでたかも……本当にごめん」
「いえ……黙っていたのは俺なので……」

蓮はそう言うと右手でぐしゃりと髪を掻き上げながら、弱々しくも長い溜息をついた。

「どうしようか、迷っていたんです……言った方がいいのか、言わない方がいいのか」
「言わない方が良かったと思う……まぁ、俺が言っちゃったんだけど」
「…………」
「ま、まぁ、大丈夫だよ……キョーコちゃんはそんな事で怒ったりはしない……多分」
「多分……ですか」
「そりゃ、まぁ、割り切れないものもあるかなー……と」
「…………」

どんよりとした顔で項垂れる蓮に、社は必死で掛ける言葉を考えつこうとする。
何も思いつかず、俯いて弁当の残りを見た時、微かに胃が痛くなるのを感じた。



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