10 隠されたシナリオ 三日目─5

2013年12月05日 17:37

ちょっとご休憩な回。

10 隠されたシナリオ 三日目─5




キングサイズの大きなベッドの真ん中で、キョーコは枕を抱えて座っていた。
その膝元には台本らしきものが広げられているが、視線はあらぬ方向に向けられていて、シャワーを浴び終えた蓮が寝室に来た事にも気付いていない。
ウィッグを外し、メイクも落とした、いつも通りの姿。
身に付けている白いシルクのキャミソールとショートパンツはどこから調達してきたものなのか、蓮には見覚えがなかった。
真っ白なシーツに溶け込むように座っているその姿を、蓮は暫くぼんやりと眺めていたが、見ているだけでは寂しくなってくる。
思考が何処かへ飛んで行ってしまっている様子のキョーコの気を引こうとして、わざと乱暴にベッドの上に座った。
その振動でベッドと一緒に揺れ、ようやくキョーコは我に返る。

「あ……」
「考え事?」
「え……あ、はい、ちょっと」

キョーコの視線は台本の上へと落ちた。

「もう一回ざっと読んでみたのですけど……やっぱりさっきのは『志保』さんぽいですね」
「あぁ……うん、そうだと思う」
「普段の立花さんがどんな方なのか、よくは存じ上げていないのですが……」
「いつもはもっと大人しい人なんだ」
「そうですか……」

キョーコは再び考えこむ。

「何か気になった?」
「えっと……あの、お会いした時、最初に私の方から、ここは私の泊まる部屋だって言ったんです」
「うん」
「そうしたら立花さんは『ここは敦賀さんの部屋でしょう?』って」
「う……ん……」

蓮はふと、有香が自分の部屋を知っている事は不自然だろうかと気になった。
そして、ここで初めて、キョーコがどこまで状況を知っているのか、ちゃんと確認していない事に気付く。
全部聞いているようだと社は言っていたが、昨日、有香と突発の事故のようなキスをした事までその全部に入っているのか。
知らないとしたら正直に告白しておくべきか、それとも、そんな事はいちいち言わないでおく方がいいのか。
決められず、内心焦っていた蓮だったが、キョーコはそれとはまったく関係の無い方向の話をした。

「『敦賀さんの部屋』って言ったんですよ? 役柄名呼びじゃなかったなぁって思って」
「え……」
「それで私、一瞬迷ったんですけど……”ローザ”はわざわざ立花さんに合わせたりしないなって思って、普通に敦賀さんは敦賀さんと」
「……『志保』じゃなかったって?」
「でも……いつもの立花さんでもない感じなのですよね?」
「うん……『志保』っぽい反応だと思ったよ」
「そうですか……なんだかスッキリしないんです……さっきも思ったよりあっさり帰ってしまわれましたし……」
「…………」

言葉が止まってしまったキョーコから、蓮は枕を取り上げると元々あったと思われる位置に戻す。
台本をさっと片付け、照明も消すと、ベッドの中にキョーコを押し込めるようにして寝かせ、自分も寄り添うようにして横になった。

「つ、敦賀さんっ」
「こっちの方が落ち着くし」

キョーコに腕枕しながら蓮はそう囁く。
蓮の素早い一連の行動に驚きながらも、キョーコは大人しく蓮の腕に身を任せた。
部屋が暗くなり、いつもの温もりが戻って来たせいか、キョーコの瞼が重くなっていく。

「自分が女優であるって事は忘れないっていう話だし、その辺の線引は曖昧なんじゃないかな……」
「性格や……気持ちだけが役に取り憑かれてしまっている……って事でしょうか」
「そんな感じかな……」
「そういうのは……理解できなくもないです……でも……」
「でも……?」
「そんな曖昧な感じで……あんな事を……」
「あんな事?」
「ええっと……その……本当に付き合っているわけでもない人と……あの……こんな……」
「こんな事?」
「ん……」

蓮はそう言うと、キョーコの唇に自分のそれを重ねた。
少し眠くなってきていたせいもあるのか、キョーコは何も抵抗もなく素直にそれに応えていく。
舌を絡めながら、何度も繰り返される深い交わりに、お互い少しずつ息が荒くなっていった。
口内で暴れる蓮の舌がキョーコの身体の奥の熱を呼び覚まし、睡魔を追い払ってしまう。
キャミソールを捲り上げ、キョーコの肌の上を滑る蓮の手がその膨らみの先端をそっと揺らした。
キョーコの唇から漏れた溜息にも似た甘い吐息に気を良くした蓮は、既にその指先をキョーコが一番反応する小さな場所へと侵入させていた。

「あっ……ダメ……ダメですよ、明日も忙しい……のに……」
「ここで止める方が辛い」
「んっ……」
「それにもう……ほら、こんなに」

蓮は長い指を器用に動かして、濡れて卑猥な水音を何度も立てた。

「やっ……やだっ、もう」

キョーコの肌が、かあっと熱くなった。
忙しなく蠢き続けていた蓮の指先は、そのまま吸い込まれるようにキョーコの入口へと滑り込んでいく。

「……すっごい紳士じゃなくて……ごめんね?」
「なっ……あっ……あ、あ、んっ……」

キョーコが身に付けていた物はあっという間に剥ぎ取られていて、ベッドの中で行方不明になっている。
聞く度にキョーコの羞恥を呼ぶ、湿った音を立てるのが、蓮の指から舌へと変わっていた頃には、キョーコはただその愛撫に応えるだけになっていた。

「……っ……な、こと」
「……ん?」

熱い息を吐く紅い唇を震わせながら、キョーコが何か呟く。
それを拾おうと、蓮は体勢を変え、キョーコの顔を覗きこんだ。

「こ……んな事……本当に好きな人とじゃなきゃ……出来ません……」

紅潮した頬とうっすら潤んだ瞳で、キョーコは囁くようにそう言った。
いつもとは違うベッドの上で始まった、いつもと同じ行為。
そこで不意に聞かされた、全てを曝け出した姿でのキョーコの愛の言葉に、蓮が保っていた余裕は一瞬で消されてしまった。

「……俺もだよ」

思わず苦笑しながら、蓮はそう言って乱れた前髪を掻き上げる。
そして、熱く火照ったキョーコの中に自分をゆっくり突き入れていった。



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