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07 隠されたシナリオ 三日目─2

2013年12月02日 13:37

07 隠されたシナリオ 三日目─2



社とキョーコは人目につかない木陰の植え込みに隠れて軽い打ち合わせをしていた。
キョーコは社に、極めて真面目な顔で自分の設定を説明している。

「えっとですね、私は『我儘を言って無理矢理敦賀さんの付き人にしてもらった社長の親戚の娘』という設定です」
「ははぁ……なるほど」
「社さんは、私の事は社長から頼まれてるので仕方なく、という感じでお願いします」
「うん、うん」
「突然の登場なのは、ちょっと海外に遊びに行くために休んでた、とでも言っておけと社長さんが」
「お金持ちの娘さんなんだね」
「そうなんです……社長さんがプロデュースなので、どうしてもそういう方向に」

キョーコは肘に掛けた真っ赤なトートバッグを見ながら溜息をついた。

「高そうなバッグだよね。俺でもわかるもん」
「ですよね……あはは」

困ったように笑うキョーコを見て、社もくすりと笑う。
見た目はともかく、いつも通りのキョーコの様子に、どこかホッとさせられていた。
早く蓮と会わせてやりたいなと思い、いよいよ現場に向かおうとしたが、その前に色々と気になっていた事を聞いておくことにした。

「そういえばキョーコちゃん、仕事……あったよね? 大丈夫なの?」
「それは、その……社長さんが自ら調整して下さるそうで……」
「そ、そうなんだ……」
「なぜか準備するからと言ってお付の人を何人も呼んでらっしゃったので、ちょっと不安なんですが」
「色んな意味で大混乱だな……」

思ってもみなかった方向に事態が広がっていて、社は申し訳ない気持ちで一杯になる。
しかし、気を取り直し、キョーコに聞き辛い事を思い切って聞いてみた。

「キョーコちゃん、話は……どこまで聞いてる……のかな?」
「全部です」
「全部?」
「はい」
「…………」

キョーコはあっさりとそう答えた。
そんなキョーコに、社が口にする言葉を選んでいる間に、キョーコは真顔で淡々と話し出した。

「なかなか私には理解し難い部分のあるお話でしたし、かなりの衝撃で、混乱はしました」
「うん、まぁ、そうだよね……」
「本当は仕事なんかどうでもいいから、とにかくすぐにきっぱりはっきり拒絶して欲しいっ! ……って思ってるんですけど」
「うん……」
「でも、やっぱりお仕事に関係する事ですから……そうできないのが敦賀さんかなって……思ったので……」

キョーコはそう言うと、どこか恥ずかしそうにそっと下を向いた。
その様子に、社の口元がふっと綻ぶ。

「……今のは、そうできない敦賀さんも好きなんです、って言わなきゃ」
「なっ!」
「蓮が聞いたら泣いて喜ぶよ。聞かせてあげたいなぁ」
「えぇ!? や! い、い、い、言ってませんし、止めて下さい!」
「えぇ~? なんでぇ~? 喜ぶのにぃ~」

面白い位あたふたするキョーコが面白く、社はつい遊びだしてしまう。
しかし、近くをスタッフらしき人間が数人近づいてくる気配を察し、二人は一時停止ボタンが押されたかのようにぴたっと動きを止めた。
茂みの中に身を潜め、息を殺して人がいなくなるのをじっと待つ。

「もう大丈夫かな」
「大丈夫そうですね……」

単なる移動だったのか、すぐに人はいなくなり、社とキョーコは周りを確認しながら茂みを抜け出した。

「じゃあ、そろそろ行こうか」
「はいっ」
「あいつも驚かせてやろう」

社がそう言うと、キョーコは一瞬目を丸くしたが、すぐにいたずらっ子のような不適な笑みをその顔に浮かべた。

「はいっ……私、頑張りますから!」

そう言ってキョーコは握り締めた拳を控え目に突き上げた。


****


「あ……」

正面玄関から中に入ると、すぐ左手に階段があるホールがあり、それはそのまま大きな窓からの景色が美しい奥の食堂へと繋がっている。
そこでスタッフや他の共演者達と一緒に食事を取っていたはずの蓮は、玄関側に背を向けた形で有香と二人並んでテーブルに着いていた。
一緒にいたはずの人達はなぜか姿を消している。
休憩時間はまだ三十分程残っていて、よく見渡すと、それぞれが二人から適度な距離を置いて休んでいる姿が目に入った。

(なんだよ、この、お邪魔しませんよ、みたいな雰囲気は……)

隅の方に、有香のマネージャー、可南子がいる。
二人の様子を影からそっと見守ってでもいるような姿に社が思わず顔を顰めた時、横にいたキョーコが小さく呟いた。

「では、行きます」
「えっ……あ、うん」

社の返事を聞くや否や、キョーコは蓮に向かって小走りで駆け出した。

「敦賀さぁ~ん! ローザ、来ちゃった!」

養成所仕込みの大きな声がホールに反響する。
周りにいた人間全員がぎょっとした顔で、キョーコが勢いよく蓮の背中に抱きつくのを見ていた。
同時に、カランカランと乾いた音が小さく響く。
蓮が持っていたらしい箸が、一本だけ間の抜けたタイミングでテーブルの上から床にポトンと落ちたのが見えた。

(まだ飯食ってたのか、あいつは……)

恐らく食欲がなかったんだろう、困ったものだなどと社が暢気な事を考えていた時、キョーコの声が再び周囲に響き渡った。

「ローザねぇ、日本に着いてからここに直行したの! ずっと休んでてごめんね?」
「あ……いや、うん」
「敦賀さん、お昼はもう食べちゃった? 一緒に食べたかったのにぃ」
「うん……まあね」
「あ、でも、デザート! デザートもあるの! 一緒に食べよ?」
「そ、そっか……わかったよ……まだ時間もあるし、二階に景色のいい部屋があるから行こうか」
「ホントぉ!? 行く、行くぅ~!」

立ち上がった蓮は、はしゃぐ”ローザ”に手を引かれて歩き出した。
途中、ちらりと社を見ながらホールの階段を登っていく。
突然降って湧いたような芝居に、胸の内はどうなのかわからなかったが、不自然にならずに合わせている蓮に感心しつつ、社は呆気に取られている周囲を注意深く見た。
有香は他の人間と同じようにポカンとした顔をしていたが、可南子だけが苦味きった表情で階段を行く二人を見つめている。

(うわぁ……怖い)

近づきたくないと思った社がじりじりと可南子から距離を取っていた時、後ろにいた監督に声を掛けられた。

「今の娘は……どなたさん?」
「あ……ええと、実はですね」

体格のいい髭面の監督は、温厚でいい人だとは思うが、昨日の話し合いの場で、控えめではあったが明らかに有香側に立っていた。
監督に非があるとは思っていない社だったが、若干不信感はある。

「あの娘、一応、蓮の付き人なんですよ」
「えっ……付き人ですか? 敦賀君の?」

周りにいたスタッフ達が詳細を知りたいのか、ワラワラと社の周りに集まってきた。
今度は自分の番だなと思い、社はキョーコに言われた設定を頭の中に準備する。

「まぁ、一応そういう形になってまして……実はうちの社長の親戚の娘なんです。少しの間でいいから面倒見てやってくれって頼まれてるんですよ」
「あぁ~……そういう事ですか」
「来るのは不定期で、このロケには来ないって聞いてたんですけどねぇ……すみません、なにしろ気紛れな娘で」
「そりゃ、大変ですねぇ」
「あれで悪い娘じゃないんですよ。撮影の邪魔をさせたりはしませんから、申し訳ないんですけど大目に見て下さい」

納得した人達が、色々と囁きあいながらまたそれぞれ散って行く。
有香は可南子と一緒にいたが、その様子には特別変わった所は見られなかった。

(とりあえず、キョーコちゃん潜入成功かな? あ、ローザ……ちゃんって言ってたっけ)

名前の由来はプリンセス・ローザかなぁと思いながら、社は二人がいるはずの二階をホールから見上げた。



コメント

  1. 風月 | URL | -

    ハラハラドキドキ

    お話が素敵過ぎて、ハラハラドキドキ感が半端ないですっ!!!!
    本当にどうしたらこんなに素敵なお話が書けるの?!と思える話が満載でいつも楽しませて頂いてますっ!!
    ローザちゃんの潜入成功にホッとしつつ、これからどうなるのか楽しみで仕方ありません〜!!
    もう読み終わってからも動悸が…!!
    心から尊敬してますー!!
    これからも応援してますね( *´艸`)

  2. moka | URL | -

    ローザちゃん!

    はじめまして!初めてコメントさせていただきます。
    敦賀さんしっかりーと思ってドキドキしていましたら、ローザちゃん!キョーコちゃんがその名前を名乗ったのが、もうなんて素敵なのとワクワクしてしまいました。無敵のローザ様ですから。続きを楽しみにしております。

  3. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございます!

    >風月 さま
    コメントありがとうございます!
    素敵と言って頂けてとても嬉しいですっ。
    一人でポチポチ書いているとどうしても大丈夫かな、コレと思うんですが、ハラハラドキドキしたと言って頂けるとよかった!となります~♪ありがとうございます。
    キョーコさんが出て来てまたいろいろありますが、頑張りますのでよろしくお願いいたしますー!
    もったいないお言葉、ありがとうございました(*ノノ)

  4. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございます☆

    >moka さま
    初めまして!
    コメントありがとうございます!
    今回の蓮は弱り気味wでありますが、ローザさんが頑張るお話になってます。
    素敵&ワクワクにドキドキ、ありがとうございます♪
    頑張りますのでよろしくお願い致しますー!

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