変則的三角関係─3

2010年03月05日 09:21


3.Girls' talk



「あら、なにそれ?」
奏江はキョーコがいつも持っているバッグにつけられたピンク色のハート型キーホルダーに気が付いた。
キョーコらしいといえばらしいけれど、なんとなく違和感を感じてまじまじと眺める。
「あ…それね…」
キョーコはちょっと言い辛そうに
「ぼ、防犯ブザーなの…」
「防犯ブザー?……まぁ最近は変な奴も多いし持ってても悪くはないけど…あんたのイメージじゃないわねぇ…」
「んー…まぁ何ていうか無理やり持たされたっていうか…」
「ふーん。てことは敦賀さんだ。心配性なのねぇ」
「心配性っていうか…ちょっと違うかもしれないんだけど…」
「?」
こんなのなくても大丈夫です!と一旦断ったものの、"プリンセス防犯ブザー"という名前に負けてつい受け取ってしまった事は内緒にするキョーコ。
蓮の口ぶりから言って、これは恐らく尚に対しての意味合いが多いような気がしたキョーコは、先日の出来事を奏江に話すかどうか躊躇ったが、既に問い質す気で満々の奏江の目に気がつき、さっさと白状することにした。

「私はさ、アイツにバレたって別にいいんだけど…アイツが敦賀さんにその事で嫌がらせとかするようになったら…」
キョーコは自分の事よりも、蓮の心配をしていた。
格好つけの尚が、誰が誰と付き合っているとかそういう噂話を面白おかしく言いふらすとも思えないので、その点では心配はしていなかったが、尚が自分の話を持ち出して蓮に喧嘩を吹っかけてどこかで揉めたりしたら…蓮の評判に傷が付く。
自分が原因で蓮にマイナスとなる事が起こるかもしれない…それがキョーコを少し不安にさせていた。

「しかしねぇ、二人でお弁当食べてただけでバレたの?」
「あー…ええっと」
「……どうせイチャイチャしながら食べてたんでしょ」
「あはは…」
痛いところを突かれたキョーコは笑って誤魔化しながら
「で、でもさっ…アイツが敦賀さんの事悪くいうから、私が敦賀さんを好きで…それで、ちゃ、ちゃんと付き合ってるんだって言いたくて…」
「不破はなんていってたの」
「うーん…なんかすごい勢いで怒ってて…」
「………」
「アイツは今でも私の事を自分の下僕か何かだと思ってんのよっ!で、昔から嫌ってる敦賀さんと私が…付き合ってるのが気にいらないんだと思うんだけど…」
「下僕……ねぇ…」

───元々コイツは俺のモンなんだよ

尚の言葉を思い出し、キョーコの中で怒りが再燃した。
それでも、過去そんな存在だったというのは事実。
そう言われても仕方が無い、という自分の過去が不甲斐なくて腹立たしい。

「でも、それで防犯ブザー?」
「うん、なんかアイツが来たらそれ鳴らせって」
「すごいわね、変質者扱いじゃない」
「フン、似たようなもんよ!」
「似たようなって…まぁいいけど、そんなの鳴らしたら目立つんじゃない?会うとしたってTV局とかでしょ」
「そーよねぇ…まぁとりあえずは持ってるだけのつもりなんだけどね」

奏江には今ひとつ不破尚の立ち位置がわからなかった。
キョーコが復讐を誓う相手とは認識しているが、尚がキョーコをどう思っているかはあまり考えた事がなかった。
しかし、細かい情報は全部置いておいて、単純に今キョーコから聞いた話だけで考えれば、それはキョーコを巡って争う二人の男の図だ。
不破尚がキョーコをどう思っているのかはいまいちはっきりとしないのだが、キョーコにこだわっているのは確かだ。

「あんたって……すごいわよねぇ」
「へっ?」
「だって、"敦賀蓮"と"不破尚"があんたを巡って争ってんのよ」
「えー…?なんか違うよそれ」
「違わないでしょう?…まぁ世間一般でいう三角関係とは微妙に違う気もするけど」
「さ、ささ三角関係とかって!やーーめーーてーーぇ!アイツを私に関係させないでぇぇぇ!」
「でもさー、敦賀さんの方は思いっきり不破をそういう敵として見てるんでしょう?そんなブザーまで持たせるって事は」
その奏江の言葉を聞いて、急にキョーコは何かを考え込み始めた。
「どうしたの?」
「んー…敦賀さんがね、アイツにいつも挑発されてたみたいな事言ってたのがなんだったのかなーって」
「……心当たりないの?敦賀さんの前で不破がアンタに迫ったりとか…」
「えー…」

思わず眉間に皺を寄らせながら、キョーコは自分の中にあるいろいろな過去の記憶を探ってみる。

尚のPVの時の電話?
いや、あれは昔すぎる。
それにあの電話は尚が自分に嫌がらせしただけでちょっと違うような気がする。
あの後の…大魔王も…自分が悪かったから…と思ったけど…
軽井沢のロケの時はどうだったかな…?
あの時は…蓮は怒っていた…。
あれの事だろうか?
でも尚と二人で話しているところも見られたけれど、その時は特にそんな事は思い当たらなかった。
そして、最後に一番最近の……思い出すだけで腹立たしい出来事を思い出した。

「バ、バレンタイン!」
「えっ」
「ア、アイツ、バレンタインの時、チョコの味見とかいって私にチョコ食べさせて、キ、キ、キス…!」
「えっ!」
「私のファーストキス!いいえっあんなのファーストキスとは認めないけどね!餌付けよ餌付け!ああぁまた腹が立ってきたわ!」
「ちょ…なにそれ、いつどこでよ」
「だからバレンタインの時よ!あいつわざわざDARKMOONの撮影現場まできて無理やり、キキキス」
「当然その場に敦賀さんもいたのよね」
「えっええ、そりゃ」
「…………」
「…………」
「それって結構な修羅場じゃない?ちょっと見てみたかったわ~、何かの勉強になったかもしれないし」
「べ、勉強って!なっなんの勉強!?」
「まぁ演技の?なかなかないかなぁってそういうの」
「モー子さん~」
「あーごめんごめん。でもまぁ挑発ってそれじゃないの?…あんたが知らないうちから二人で争ってたのねぇ。やっぱりすごいわ、あんた」
「全然うれしくないんだけど……」

そう言ってキョーコはがっくりと肩を落とす。
しかし奏江はわかったとばかり、ポンと手を打ち

「あー、でもわかった、敦賀さんがそんなものあんたに持たせたわけ」
「え」
「またそういう事されるんじゃないかって気にしてるんじゃない?」
「うえぇぇ!?やめてやめてーー考えたくないっ」
「でもさ、不破が敦賀さんを嫌ってるなら…あんたにそういう事をするのが一番効果的な喧嘩の売り方よねぇ」
「…………」

キョーコは『二度目は無いよ?』という蓮の言葉を思い出した。
あの時の蓮も…大魔王とは違う…先日の現場での蓮の雰囲気に似た暗黒な雰囲気を醸し出していた…。

まるで断崖の絶壁にでもいるような真っ青な顔で立ち尽くすキョーコを少し気の毒に思った奏江は
「ま…まぁ精々気をつけることよ…そうそう頻繁には会う事もないでしょ?」
と少し慰めてみる。
「う、うん…そうする……」
なにやらぐったりとした様子のキョーコの気を紛らわすのと兼ねるつもりで、奏江はずっと聞きたかった事を聞いてみた。
「そういやあんたバレンタインの時に敦賀さんに何か壮大なお礼をお見舞いされたんでしょ?」
「壮大って……いや、まぁ私にとってはそうなんだけど…」
「なにされたのよ」
「あー…えっと…ほ、ほっぺに…ちょっと…」
「ふーん……それって不破の後?」
「うん…」
「じゃあ…きっとそんな場面見て、敦賀さんちょっと怒ってたんじゃないの?」
「…………」
「あんたが敦賀さんを好きだと自覚したのはその時あたり?」
「うん……」
「…………」
「…………」
「なんか一生解決しないんじゃないかって思えてきた。あんた達の関係…」
「えっ!」
「あんたが芸能界に入ったのも不破が理由で、あんたが敦賀さんが好きだって気が付いたのも不破のそれがきっかけになってる」
「…………」

自分には常に尚の影が纏わりついている…?

そう考えたキョーコはなんだか泣きたい気分になって来た。
「まぁまぁ、そんな泣きそうな顔しないの。不破はキューピットだと思えばいいんじゃない?」
「えっ!ええぇぇぇえええっ!やめてよ冗談じゃないわ!気持ちが悪いっ!」
「そんくらいの余裕もって考えときゃいいのよ、あなたのお陰でやりたい仕事も見つかって素敵な恋人も見つかりましたってね」
「な…なにその何かの広告みたいな胡散臭いフレーズ……」
「あんたそういうの好きじゃないの」
「私のはねっ、もっと本物っていうか本格的なっ」
「そっちの方が胡散臭いわよ……まぁいいわ、そうして仕事も頑張って不破を見返せれば万々歳じゃない。その頃にはあんたも敦賀さんに釣り合う立派な女優になってるわよ」
「じゅ、順番変えてっ!順番!敦賀さんに釣り合う女優になった時にあいつを見返すんだって!」
「別にどっちでもいいじゃないの……まぁ敦賀さんは気にするかもしれないわねぇ。その辺はあんたが気を使うとこでしょ。好きですオーラ全開で頑張んなさいよ」
「む、むむぅぅぅ…」
「あんたが何があっても揺るがないってわかれば、敦賀さんも不破が何言ってきても気にしなくなるわよ。敦賀さんが相手にしなくなればそのうち不破もつまんなくなってあまり絡んでこなくなるんじゃない?」

その辺はちょっと微妙だけどね…と奏江は思っていたが、とりあえずキョーコのためにそう言っておく。

キョーコは改めて考える。
狭い業界と言えど、ミュージシャンと俳優、事務所も違えばジャンルも違うし尚とそう何度も遭遇する機会はないだろう。
この間だって尚に会ったのは数ヶ月ぶりだ。
自分が尚に偶然とはいえ会ってしまって後を付けられたりしなければ、蓮と尚は会う事さえなかったはずだ。
(私がもっとちゃんと気をつければあんな事はそうないはず…)
それでも、いつかはまた遭遇してしまう事もあるかもしれない。
でもそれまでにもっと自分を磨き、隙もなくして、蓮にはもっと……自分は蓮が好きなのだと分かって貰う為に……いろいろと……
(……………)
迂闊に他人には言えない発想になってしまい少し頬が熱くなったので、キョーコはそれ以上考えるのはやめた。
しかし、何となく希望が見えてきた気がした。

「う、うん、なんか気持ちが前向きになってきた!あ、ありがとうモー子さん!やっぱり親友ね!もう全部モー子さんのおかげよ!」
「あーもう抱き付いてこないでよっ…別にいいわよ、貸しにしとくし。そのうち私があんたにいろいろ相談するかもしれないしね」
「モー子さんが私に!!!もうなんでも任せて!……で、できる範囲でっ」
「もちろんそうよ…あっち方面はあんたの方が経験豊富だろうし」
「あっち方面?」
「敦賀さんってそっちの方上手そうよねぇ~今度じっくり聞かせてもらおうかしら」
「なっ!なななな」
「今更照れても駄目よ?ホラホラそこにキスマーク」
「え!」
「うっそ~」
「モ、モー子さん!!」

急に全てが解決したように思え、キョーコはその後なんだかはしゃいでいたが、結局、現状は何も変わらないということには気が付いていなかった。




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