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04 隠されたシナリオ ニ日目─3

2013年11月29日 17:52


04 隠されたシナリオ ニ日目─3



「なるほど……それはマズイな……非常にマズイ」

蓮から状況の詳細な説明を受けた社は、缶ビール片手にそう言った。

「えっ……いや、あの、ですから、その、俺は」
「何、狼狽えてるんだよ。事情はわかったよ、お前の事じゃない」
「へっ」

罪悪感からか、妙に狼狽した蓮を、社は呆れた目で見る。
そして、缶に口を付けて一口飲んだ後、長い溜息をついた。

「さっきな、監督と立花さんのマネージャーと……立花さんの事務所の社長と話してきたんだ」
「事務所の社長? さっきいた人は社長だったんですか」
「見た?」
「えぇ、ちらっとですが……」

蓮は部屋に戻る前に見かけた見知らぬ中年男性を思い出す。

「事務所の社長が来てるって聞いてさ、ちょっと驚いたんだが、立花さん調子悪かったからその辺の話が何かあるのかなぁって……お前が調子悪かった時、うちの社長が出てきたじゃないか」
「あぁ……そうでしたね」
「そういう方向で話を聞いてたんだけど……想像していたのと違ったんだ」
「と、言いますと?」
「んー……」

社は持っていたビールの缶をテーブルの上に置いた。

「違う……いや、違わないのかもしれないけど、まぁ、とにかく今回の撮影を無事に終わらせたいっていうのが向こうの意向なんだけどね」
「はぁ……それは勿論、俺も同じですが」
「うん、それで問題があるのは立花さんなんだ」
「立花さん……」
「様子……どこか変だと思ったんだろ?」
「それは……まぁ、思いました。驚いたというか戸惑ったというか」
「彼女さ……簡単に言うと、その、役にハマるっていうか……演じてる役が憑いちゃうと抜けなくなっちゃう人なんだって」
「へっ?」
「一度そうなると、自分でも上手くコントロールできなくなるみたい」
「…………」
「『志保』が取り憑いちゃったのかな……その様子だと」

ついさっきの有香の様子を蓮は改めて思い返した。
あれは冗談などではなく、有香は何かの拍子に『志保』のスイッチが入ってしまったのだ──そう考えると納得がいく。

「マネージャーさんは、彼女は本当に真面目で、仕事熱心だからそうなるんだって言ってたけど」
「まぁ……わからないでもないですが……その役の事をずっと考えていればいるほど、そうなってしまうかもしれませんね」
「んー……」

社はそこで急に言葉を止め、なにやら言い辛そうに口をモゴモゴさせた後、ビールを一口飲んだ。

「どうかしました?」
「あー……うん、それでさ……」
「?」
「彼女はそういう人だから、もしそうなったら……その……合わせてくれないかって……」
「合わせる?」
「だからさ、多分、休憩中でも、撮影終わった後でも……『志保』のままだったりするらしいから……」
「あぁ……そういう事ですか……そんな事情ならある程度までは合わせますよ。さほど問題は無いと……」

そこまで言い掛けて、蓮は言葉を止める。
有香の性格が普段と違ったり、役柄の名前で呼ばれても、事情がわかっていれば対応できるとは思う。
しかし、”恋人”だからと言って、さっきのような事はやはり困るとも思った。
自分も注意はするが、あらぬ誤解を招かぬように、現場の人間には状況を知っておいて欲しいし、自分が出来る事には限界があるのを理解してもらいたい。
蓮がそう言おうとした時、社が眉間に皺を寄せて考え込んでいるのが目に入った。

「社さん? どうしたんです?」
「蓮」
「は、はい」
「お前さ……どこまで合わせる?」
「えっ? あ、あぁ、それなんですが」
「さっきは……キスしたんだろ?」
「さ、さっきのは……と、突然でしたし、俺は事情を知らなかったわけで……」
「こうして知ったわけだし……どうする? どこまで合わせる?」
「どこまでって……ある程度までですよ。というか、現場での話ですよね? そんな、どこまでって考えなきゃいけない程は……」
「…………」
「…………」

言葉を失ってしまった蓮を見ながら、社はまた缶を口に運ぶ。
一体それはどれだけ苦いビールなのかと思えるような表情をしていた。

「まぁ、そう思うよな」
「そりゃ、そうですよ……」
「でも、そこをなんとか……そうなったら、時間外でも合わせてくれないかって」
「へっ?」
「最終日の撮影、今度こそ成功させたいからって」
「えっ? えっ? 何を言ってるのかよくわかりませんが……」
「要するに……撮影を無事終わらせるために、このロケの間ずっと、彼女の本当の恋人になってくれっていう話だったんだ」
「は……あ?」

社の言葉に蓮は思考が停止し、暫くの間、開いた口が塞がらなかった。



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