01 隠されたシナリオ 一日目

2013年11月28日 00:59

久々にひっそりと更新でございます。
書き始めが夏場だったのでリアルとはズレてしまいましたが、季節はそれほど重要でもないので、その辺は見逃してやって下さい(汗
全23話(予定)になっちゃいましたのでタイトル頭に連番つけてみました。
長いので、お気が向いた方だけのんびりお付き合い下さいませ~

01 隠されたシナリオ 一日目






階を昇っていく深夜のホテルのエレベーター。
その中で社は軽く溜息をつく。
一緒にいた蓮はそんな社を見て小さく笑い、さり気なく時間を確認しながら口を開いた。

「お疲れ様です」
「ん? あぁ、いや、俺よりもお前の方が大変だったろ?」
「大変……と言えば大変でしたが……今日よりも明日の方が心配ですね」
「そうだなぁ、今日は予定が変わりまくったからな」
「俺よりもスタッフが大変だったかもしれませんね。ずっと皆バタバタしてましたから」

とある地方都市で始まった五日間のロケ。
撮影の初日である今日は、共演の女優、立花有香の不調で順調とは言えない始まりとなっていた。

「立花さんはどうしたのかなぁ。今までこんな事無かったのに」
「そうですね……」

相手役の女優、立花有香は大人しく、人当たりもいい穏やかな女性だ。
仕事に関しても非常に真面目で、今までの撮影ではNGを出す事も滅多になかった。
それがここに来ていきなり不調になった。
監督からのストップ、本人の判断による演技の中断。
それらが連発し、一時、撮影がまったく進まない状態になった。

「何かあったんでしょうかね……」

DARKMOONの時の自分を思い出していた蓮は、あまり有香を責める気にはなれなかった。
解決するための時間を多少なりとも貰えた自分はまだ幸運だったとも思える。
深刻な顔で周りに頭を下げまくっていた有香の姿を思い返す。
ロケ先で突然スランプに陥ってしまった彼女に蓮はかなり同情的だった。

「この後、監督と何か話し合うようでしたし、うまく解決してくれればと思いますよ」
「そうだなぁ……頑張って復活してもらいたいな……そうでないと……」
「時間的に厳しくなりますからね」
「それもあるけど……」
「……なんです?」
「うーん」

社の脳裏に今日の撮影の様子が次々と蘇る。
今日の撮影のメインは蓮とのラブシーンばかりだった。
大きな窓から見える青い空と海が美しい部屋の中。
蓮と有香が抱き合い、絡み合っている。
両人とも特に着衣に乱れも無いままに演じているのだが、大きなベッドの白いシーツの上で重なっている二人の姿は社の目にはどうしても刺激的に映った。

「お前のラブシーンなんて散々見てきたけど、こう長時間にわたって何度も見せられると……俺はなんか頭おかしくなりそうだった」
「は?」
「何度も繰り返されるうちにこれは撮影だっていう感覚が飛んで……皆でお前を浮気させようと躍起になってるような錯覚に陥っちゃって」
「なっ……変な事を言うのは止めて下さい」

社の言葉に、蓮は思い切り顔を顰めた。

「仕事ですよ。それ以上でも、それ以下でもありませんから」
「勿論そうなんだけど……ごめんごめん、怒るなよ~」
「…………」

軽く睨んでくる蓮に、社は笑いながら軽く両手を上げ、宥めるような仕草をする。
そんな社を見て、今度は蓮が軽く溜息をついた。
やがて、二人だけしか乗っていないエレベーター内に目的の階への到着を知らせる電子音が響く。
無意識の内に、蓮も社も声を潜めながら話していたせいか、その音が妙に大きく聞こえ、二人を少々驚かせた。

「ま、まぁ、今日はとりあえず終わったし……」
「そうですね。明日になればまた状況も変わるかもしれません」

エレベーターを降りた二人は、自然といつもの仕事モードに切り替わる。
暖色系の照明に照らされた通路が奥へと長くまっすぐに続いていた。

「じゃあ、明日朝八時半に迎えに行くからな。お疲れさん」
「はい、お疲れ様でした」

自分の部屋に入っていく社に軽く挨拶し、蓮も自分の部屋へと向かった。
割り当てられた一番奥にある一室。
何の問題も無く辿り着いたのだが、蓮はカードキーを手にした状態でぴたりと動きを止めた。

「…………」

特徴があるわけでもないホテルの部屋の扉を蓮はじっと見つめる。
口元は微かに綻んでいた。
ちらりと辺りを見回し、人の気配が無いのを確認した蓮は携帯を取り出して開き、そのまま扉に向ける。
静かな通路にカメラのシャッター音が小さく何度も響いた。
写り具合を素早く確認し、納得いった写真が撮れた所で蓮はようやく部屋の中に入る。
着替えも何もかも後回しにした状態で、今度は携帯の上で忙しく指を動かし始めた。
キョーコ宛てのメール。
短い本文に、今撮ったばかりの写真を添付した。

”偶然だと思うけど、いい番号の部屋に入れたよ”

添付した写真には扉に書かれていた部屋番号”1225”が写っている。
蓮にとってはクリスマスよりもまず先に、キョーコの誕生日を連想させる数字だった。
偶々手に入れた小さな偶然を嬉々として撮影し、いそいそとメールで送ってしまう自分が少々可笑しくもある。
しかし、キョーコのいない部屋に帰る寂しさを紛らわす行為として、これ位なら可愛いものだなどと思った。
メールを送信し終わった後、蓮は携帯を部屋の中にあるテーブルの上に置いた。
キョーコからは既に就寝の挨拶が入ったメールが届いている。
すぐに返事が来る事を期待しないようにしながら、バスルームへと向かう事にした。
鏡を見て気が付いた自分の緩んだ顔。
シャワーの熱と勢いでそれを立て直し、室内に戻った時、それを待っていたかの様なタイミングで携帯が鳴り出した。
ささやかな努力はあっさりと無駄に終わり、蓮はタオルを手にしたまま、急いで携帯の元へと駆けつけた。

「……起きてた?」
『起きてました。お風呂に入っていたので……』
「俺も今シャワー浴びたところ」
『ふふっ……写真、見ましたよ』
「いい部屋だろう?」
『もうっ……扉しかわからないじゃないですか』

蓮が送った写真の話から始まり、今日のお互いの仕事の話や蓮の食事内容、果ては天気についてまで、二人の他愛の無い会話が続いていく。
蓮が東京を離れているのはたったの五日間。
それなのに住み慣れてよく知っているはずの自分のマンションのセキュリティを蓮が心配した時、電話の向こうからキョーコのくすくす笑う声が聞こえて来た。

『過保護ですよ。全然大丈夫なんですから』
「念には念をいれておくんだよ。世の中どんな神の悪戯で災いに見舞われるかわからないんだから」
『だ、大丈夫ですってば。私よりもですね、敦賀さんの方が』
「俺? 俺は何も問題ないよ」
『そちら観光地ですよね? 今は夏休みなんですから人が多いでしょう? うっかり誰かに見つかって大騒ぎになったりとかっ』
「基本的に人の多い場所は行かないし、当然、スタッフや周りの皆が気を付けてくれているから大丈夫だよ」
『それこそ、どんな悪魔の気紛れで不運に遭遇させられるかわからないんですから! 気をつけないと!』
「なんだか……随分、禍々しくなったね……急に心配になってきたな……」
『えっ?』
「そういえば、今日の撮影はなかなか進まなくてね……もしかしたら何かの前兆かもしれない」
『えっ? えっ? だ、大丈夫なんですかっ?』
「んー……」
『敦賀さんっ』

心配しているつもりが逆に心配され、それがどこか心地よい事に気付いた蓮は、ある事ない事を適当に口にしてキョーコの反応を楽しんだ。
途中でそれがばれてしまい、叱られてしまった頃には、蓮の頭の中から今日の撮影でのトラブルと忙しさなどはすっかり消え去ってしまっていた。



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