LOVE MANIA─6

2013年06月25日 00:07

最終話です。
お付き合い下さり、ありがとうございました。

LOVE MANIA─6




聞き慣れないインチ数と実際のその大きさ
リビングに鎮座していたそれと初めて対面した時はしばらく呆然としてしまったけれど
早く使いこなさなくてはいけないのだと思ったらすぐに冷静になれた
取扱説明書を前にリモコンを握りながら
繊細で綺麗になった大画面に映し出される彼の姿を
きっと誰にも見せられないような緩んだ顔で私は見つめている

便利に使えそうな目新しい機能に目を輝かせ
彼の熱心なファンというよりも、危ないマニアみたいになっちゃっている私が
とりあえず試しに、と、彼が主演した映画を夢中で鑑賞していると
帰宅してシャワーを浴びた後の彼の、ぶちぶちとしたお小言を聞く羽目になった

「……どこがいいの……この男の……」
「なっ……何をおっしゃっているんですか。ご自分じゃありませんか」
「演じてるのは俺だけど、違うだろう?」
「……そう言われればそうなんですけど、やっぱり敦賀さんなんですから」
「…………」

新しいTVで流れているのは新開監督の映画『RINGDOH』で
敦賀さんと松内瑠璃子ちゃんが主演した、私にとっても思い出深い作品
瑠璃子ちゃんが演じる、事件のカギを握る旧家の次女・蝶子と
その彼女に近づいていくどこか謎めいた男
演技対決の時、私をいいように翻弄したあの人は
今、お風呂上りのいい香りをさせながら私の膝枕でご機嫌斜めになっている

「本人がいるのに……ずっとTVばかり……」
「だ、だって……せっかくなので最後まで見たいんです。あとちょっとなんですから」
「あとちょっと……どれ位?」
「二十分……あ、三十分位……」
「……なぜ延びるんだ……」

欲張って余韻に浸る時間までを足してしまった私に
彼はむっつりとした表情を浮かべてみせた後、顔をTVの方に向けた
太股がもぞもぞとくすぐったかったけれど
一緒に観てくれるのかなと思って我慢したのに
エンディングを迎えるよりも前に静かな寝息が私の耳に届き始めた

「もう……だから先に寝て下さいって言ったのに……」

小声でそう愚痴ってから、お約束のように彼の髪をさらさらと弄ぶ
洗いたての髪は手指に心地よくて
目覚めないのをいい事にずっと撫で回したり、こそこそと寝顔を覗いたりしてしまう
ふと気が付くと、観ていた映画はとっくに終わってしまっていた

「う……」

頑張ってはみたけれど、結局の所
画面の中の彼よりも実際の彼の方に気を取られてしまっていたのがくやしくて
八つ当たりみたいに髪の毛を軽くひっぱったりしていたら
彼は急にゴソゴソと動き出した

「敦賀さ……」

起きちゃったのかなと思ったのに
彼は私の身体に腕を回し、縋り付くようにして再び眠ってしまった

「…………」

逃走していた犯人みたいに捕まえられてしまった私は身動きができなくなって
どうしようかなと悩んでる時、彼の手に銀の色を見つけた
バスルームに向かう時には外していたはずのブレスレット
いつの間にかそれは彼の手首に戻っていた

──なんでも言う事を聞くよ?

あの夜、銀色を光らせながら彼が言った言葉を思い出す
これ以上の贅沢はとんでもないと思い、それは丁重にお断りしたけれど──

あの夜にした、小さなカミングアウトのせいで
私の中にある色んな枷が一つ外れた
録り貯めた彼の映像を全部、映画館で観てみたいとか
さすがにそれは無理だから、シアタールームみたいな所でとか
現実的に考えれば、今敦賀さんの部屋にあるテレビよりも大きいものでとか
妄想をより現実に近づけるための材料を手に入れるために
わざわざ店頭にまで出掛けて行く始末

ブレスレットという大きな買い物をしたせいで少し気が大きくなっていた私は
またこつこつ貯めれば自分でもそこそこの物が買えるじゃないと考えた
突然購入して敦賀さんを吃驚させちゃおうかなとか
妄想がまた傾向の違う妙な妄想を生んでしまって
胸の奥に秘めていたはずの物欲が
無意識の内に外へと滲み出てしまっていたのかもしれない
あの時、それを敦賀さんに見透かされたんじゃないかって不安が
どんなに消したくても消すことができない

結果だけ見てみれば
まるで、欲に塗れた私が敦賀さんに買わせたといってもおかしくないような状態で
いまここにある大きなTVは
あの日店頭で見かけていても脳が拒否って受け付けないほどの値段だったと推測できるし
それを考えれば考えるほど、悩ましくて狂おしいほどなのだけれど
敦賀さん自身が欲しいから買ったと言っているのも確かで
いくつかの疑問を残しつつも、私はその言葉と偶然を信じるしかなかった

「……敦賀さん。起きてください、ベッド行きましょう?」
「んー」
「私ももう寝ますから……起きてくださーい」
「ん」

TVの電源を消した後
私の呼びかけに彼は反応し、むくりと起き上がった
ソファから降り、彼はどこかぼんやりとした顔で私に向かって手を差し出したので
私はそれをそっと握って立ち上がる
寝室までの短い距離を二人、手を繋いで歩いて行きながら
ちょっと気になっていた事を口にした

「敦賀さん」
「……ん?」
「寝る時にはブレスレット外した方がいいんじゃないですか? 邪魔になりません?」
「ならないから大丈夫」
「でも……」
「キョーコだって指輪したままじゃないか」
「えっ……指輪は邪魔になんてなりませんよ?」
「同じ」
「…………」

つい最近似たような感じの返事を聞いた気がする
私は諦めてそれ以上の追及をやめた
指輪は彼から貰った物だから出来る限り身に付けていたいと思っているのだけれど
もしかして、彼も同じように思ってるのかなって思ったら
自然と頬が赤くなるのを感じ、思わず下を向いた

一緒にいる時間が長くなったから
彼と私の思考がシンクロするようになったのかもしれないなんて思ったら
なんだかちょっと嬉しくなって、じんわりと胸が熱くなった
同時に思い悩んでいた心も軽くなり
瞳に映る、彼の無防備な寝顔を胸の奥にしっかりと保存した後に
私もゆっくりと目を閉じた



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