LOVE MANIA─5

2013年06月25日 00:05


LOVE MANIA─5





結局、蓮とキョーコは特にどこへ行くという事もなく家に帰る事になった。
それでも途中、キョーコがよく利用するスーパーには立ち寄った。
買う物はさほど多く、すぐに済んでしまったのだが、店内を一緒に周るだけで機嫌よくにこにこしているキョーコを見て、蓮の顔も自然に綻ぶ。
マネージャーには不評だった変装も一応役には立ったのかと思い、目的は果せなかったが、これはこれで良かったと蓮は考える事にした。
帰宅し、二人一緒にゆっくりとした夕飯を終える。
リビングのソファでのんびりしていた時、蓮は横に座っていたキョーコが何か言いたげな顔で自分をじっと見つめているのに気が付いた。

「どうした?」
「あの……すみませんでした」
「ん? 何が?」
「敦賀さん、今日、あの店で何か買物したい物があったのではないですか?」
「えっ……俺?」

蓮には特に欲しい物など無い。
今日はキョーコの欲しい物を知るための外出だったのだが、それを正直に言ってしまったら今後警戒されるような気がした。
今回は上手くいかなかったが、まだキョーコの欲しい物を探るのを蓮は諦めていない。
とりあえずこの場は適当に誤魔化す事にした。

「いや……いいんだよ、別に」
「でも、せっかく今日は時間があって……わざわざ変装までしてお店に来たのに」
「そんな事、気にしなくていいよ」

変装の仕方ももう少し時間をかけて練ったほうがいい。
蓮がそう考えていた時、突然キョーコが声高に喋りだした。

「あのですね!」
「ん?」
「私がもう一度行ってきます!」
「えっ? どこに?」
「今日行ったお店ですよ! なんなら他の店にも行きます!」
「へっ? なぜ?」
「なぜって、敦賀さんの代わりです! 値段とか性能とか、どれが今一番売れてるのとか……詳細にご報告します!」
「え……」
「ですから、えーっと、な、何が欲しいのか教えて頂きたいのですけど……」
「んー……」

誤魔化しきるためには適当に何かをでっち上げて言った方がいいのかもと蓮は思った。
しかし、その自分が適当にでっち上げた物をキョーコが一人で店に出掛けて行って見て来ても何の意味もないのだからそんな事はさせられない。
どう言ってここを乗り切るか。
蓮が考えを巡らせていた時、たった今発せられたキョーコの言葉に引っ掛かった。
値段とか性能とか、どれが今一番売れているのとか。
キョーコがそれを調べたか、調べようと思った物がやはりあの店にあったという事だ。
そして、それこそが、蓮が今一番欲しいと思うもの。
妙に真剣な顔をしているキョーコに、蓮はにっこりと微笑んで言った。

「大丈夫だよ。もう見てきたも同然だから」
「は?」
「どうだった?」
「な、何がですか?」
「キョーコは今日……見て来たんだよね?」
「み、見て来ましたけど……えっ?」
「じゃあ、それを参考にして……」
「いえ、あの……敦賀さんが欲しい物のお話ですよ?」
「多分、同じだと思うんだ」
「えっ?」
「キョーコがいいなと思った物があれば」
「ちょ! ちょっと待って下さい」
「ん?」
「何の話ですか?」
「欲しい物」
「……敦賀さんの欲しい物のお話ですよね」
「だから……キョーコと同じだと思う」
「な」

超常現象でも見るような目つきでキョーコは蓮を見ている。
吹き出してしまいそうになるのを堪え、蓮は努めて普通を装った。

「同じって、どうして分か……い、いえ、いいえ! 違います!」
「何が?」
「私は欲しい物なんてないんです! 今日はただちょっと見に行っただけで」
「あぁ、そこは違うんだね……でも俺はそれが欲しい」
「なっ、なっ……いいえ! 絶対怪しいです! まず、敦賀さんが欲しい物を教えて下さい!」
「キョーコが教えてくれたら教えてあげる」
「そんなの、敦賀さんが教えて下さらなければお教え出来ません!」
「そっか……まぁ、それならそれでいいよ」
「へっ」
「後で誰かに頼むから。キョーコに手間は取らせないよ」
「え……」
「買ってみて不満が出るのは嫌だから、とりあえず一番新しくて高いのを買えばいいよね」
「え! あ、あの、ですから私が」
「実物を見ないのならどれも一緒」
「うっ」

とりあえず値段が高い物を買えばいいというスタンスをキョーコが嫌がるのを承知で蓮は話を進める。

「気に入らなかったらまたすぐ買い替えればいいし」
「なっ!」
「それも面倒だな……似たような物を複数買って使い比べてみてもいいかもしれないな」
「えぇ!? まさか、そんな勿体無い事!」
「今日、店でキョーコと一緒に見られたら色々分かったのかもしれないけど」
「ううっ」
「またしばらくはそんな時間は取れそうにないし」
「う……」
「まぁ、俺が適当に手配するからキョーコは気にしなくていいよ」
「…………」
「キョーコの話を参考にできればいいなって思ったんだけど」
「……っ」
「同じだと……思うけどね?」
「…………っ」

言葉に詰まったキョーコに駄目押しをしてから、蓮はのんびりと目の前にあるTVに目を向けた。
今日、早々に店を後にせざるを得なくなった事を責めるような発言をしたのには少し心が痛んだが、それは後で違う形で詫びたいと思う。
このまま頑なに口を割らない可能性もあるが、その時は仕方がないので何か適当に買えばいい。
そう考えながら、蓮はキョーコの反応を待つ事にした。
リビングにはTVから聞こえる音声だけが響いている。
しばらくの間、蓮の隣で同じように大人しくTVを見ていたキョーコだったが、徐々に落ち着かない様子を見せ始めた。
ちらちらと何度も蓮の顔を盗み見る。
そして、難しい顔で再びTV画面に視線を張り付かせた後、意を決した表情で蓮に話しかけた。

「あのですね……」
「ん?」
「……新しいのがいいとも限らないんですよ?」
「…………」

キョーコが反応した事で、蓮はつい顔が緩みそうになる。
辛うじて堪えた蓮はキョーコの方にゆっくりと顔を向けた。

「それはどういう事かな?」
「メーカーさんの方でも色々とあるみたいで、今ならひとつ前の型の方がお値段もお安いし物もいいって店員さんが」
「へぇ……そうなんだ」
「そうなんです! ですから、最新に拘らず、今、お店の在庫にある物の方がいいんじゃないかと思いまして」
「んー……」

もう少し、具体的な言葉が欲しい。
蓮はキョーコの顔を見つめながら、それを引き出す方法を考え付こうとした。
その瞬間、前回の失敗が頭をよぎる。
失敗は二度と繰り返したくないと思った蓮は僅かに緊張し、自然と表情が硬くなった。
熱心に語っていたキョーコはそんな蓮の視線に気付くと、急に何か思いついたような顔で固まった。
そして、少し顔色を変えて早口で喋りだした。

「あっ、あのっ!」
「ん?」
「も、もしかして新しいのって、3K? 4K? とかいうのでしたっけ?」
「え……」
「それでしたらちょっと違いますよね! ご、ごめんなさい、私、値段と大きさだけ気にしていて、そっちの方は見てこなかったかも!」
「…………」

あたふたとしながら、真っ赤になったキョーコはそこで俯いて口を噤んでしまった。
蓮はそんなキョーコを見つめたまま、やっと欲しかった"答え"を手に入れたと思った。

「4Kテレビ……とかまでは特に考えていなかったな」
「えっ……そうでしたか……それなら……えーっと」

確認のために蓮が発した台詞に、キョーコはごく普通に受け答えをした。
満足した蓮は、再び視線を目の前にあるTVに移す。
キョーコが何を欲しがっていたのか知る事が出来て、妙に浮かれた気分になった。
蓮はソファにゴロリと横になると、隣に座っていたキョーコの膝を占領した。

「敦賀さん?」

戸惑うキョーコの顔をその膝の上から見上げた後、蓮は緩んだ顔をそのままに目を瞑る。
普段は忙しく、なかなかゆっくりTVを見る機会がない。
見ている時間よりも出ている時間の方が多いのかもしれなかった。
それでも、TVに関係する職業でありながら、TVというハードに気を回していなかった事を少し後悔する。
今見ている物よりも一回り以上は大きいものがいいのだろう。
せっかくの機会だから、それに合わせた周辺の機器も最新のもので揃えようとも思った。
そうしたら、見たいものがたくさんある。
キョーコが出演したものを、可能な限り、大きく綺麗な画面で。

「大きくて綺麗な画面でキョーコが見られたら嬉しいな……」

一人、先走りがちにそんな事を考えていた蓮は、独り言を言うようにそう呟いた。
すると、間髪いれず、キョーコは厳しい調子で否定の言葉を膝の上の蓮に落としてきた。

「違います!」
「へっ?」

思わず目を開き、蓮はキョーコの顔を見上げた。

「私なんて大して変わりません、粗が目立って困る位です! 大きくて綺麗な画面で敦賀さんが見られたら嬉しいんです!」
「えっ」

力強くそう主張するキョーコの剣幕に、蓮は目を丸くして驚いていた。
突然聞かされた、キョーコが大きなTVに興味を持った理由と思われるもの。
うまい事が何も言えないままの蓮が見つめる中で、キョーコは力強い口調で喋り続けた。

「もうすぐ番宣でたくさんお出になる予定ですよね?」
「あ、ああ、うん」
「私、全部見ますから!」
「全部は結構大変だと思うけど」
「でも、見ますからね! で、全部録画だってするんですから!」
「…………」

握った拳を軽く前に突き出しながらそこまで言った後、キョーコは急に黙り込み、ついと視線を下に落とす。
蓮と目が合った瞬間、その顔はみるみるうちに赤くなり、首筋や胸元、耳朶までもうっすら桃色に染まった。

「あっ! べ、べ、勉強、勉強になりますし! いつだって敦賀さんのは、勉強にっ」
「番宣、勉強になる?」
「ななななりますよ? いつか私も一人でそつなくこなせるように、な、なりたいなーとか!」
「……録画まではしなくてもいいんじゃないかな」
「えええっ! なぜですか?」
「いや、なぜって……宣伝活動だよ? 特に演技もしていない」
「で、でもっ! そっれっは……」
「見てくれるのは嬉しいけど、適当に流してくれて構わないよ」
「…………」

キョーコは言葉がうまく出ないのか、ぱくぱくと口を開閉した後、きゅっと口を結ぶ。
その顔はどこか怒っているような表情になっていた。

「……キョーコ?」
「どんな短時間でも……敦賀さんが出ているのは録って……取っておきたいんですっ」

蓮の視線から逃れるようにぷいと横を向き、キョーコは文句でも言うようにそう呟いた。

「…………」

顔はよく見えないが、さっきよりも増したその肌色の赤さは容易に分かった。
蓮は素早くその身を起こすと、拗ねた恋人の体を引き寄せてソファに埋め込んでしまそうな勢いで押し倒した。

「ひゃ! つ、敦賀さん! 苦し」
「なんだか……ちっとも勝った気がしないな……」
「は?」

こうなったら、キョーコが嫌がってうんざりしてしまう位、大きくて値段の高い物を買うしかない。
そんな事を考えながら、蓮はじたばたしているキョーコを大人しくさせるために、まず、その唇を塞ぐ事にした。



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