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LOVE MANIA─4

2013年06月25日 00:03


LOVE MANIA─4





狭い店内フロアの通路を縫うようにして歩いて行く蓮と社。
その勢いについて行く事が出来ず、キョーコは焦り、うっかり他の客とぶつかってしまった。
小柄な中年の女性だったその相手は衝撃で手荷物を床に落とし、それを見たキョーコは大慌てでそれを拾う。

「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
「あ、あら……大丈夫よ。あなたも大丈夫?」
「大丈夫です。申し訳ありませんでした!」

拾い上げた荷物を手渡すキョーコに、女性は特に声を荒げる事無くにこやかに荷物を受け取って立ち去って行く。
キョーコは何度も謝った後、接客の丁寧な店員のように頭を下げてその女性を見送った。
そして、再び二人の後を追おうとしたが、もうどこにも二人の姿を見つける事は出来なかった。

「…………」

よく捜せばすぐに見つかるだろうとは思ったが、お互いに捜し回ってウロウロするのは少し目立つ行動だ。
現れた蓮は、"敦賀蓮"だとは早々見破られないだろうと思える格好をしていたが、できれば人目に付く行動は控えたい。
そう考えたキョーコは、さっきまで社と一緒に蓮を待っていた場所に戻って一人ひっそりと佇んでいた。
多分、自分がいないと気付けば捜しに来てくれるはず、と思いながら、蓮と社に見つけてもらうのをぼんやりと待つ。
その間、なぜ今日蓮が急にここへ来たのかを考えていた。
蓮の部屋には必要だと思われる家電はあらかた揃っている。
以前買ったノートパソコンやデジカメなどは、わざわざ店頭に足を運んだりはしていなかった。
欲しい電化製品があるなどとは聞いていなかったが、もしかして口にしていなかっただけで直接店頭で見て買いたい物があるのでは。
一体何が欲しいのだろうか。
心当たりがない自分がくやしくて、キョーコが必死に最近の蓮の言動を思い返している時、目の前に二人の男が立っているのに気付いた。

「あのう……」
「はいっ?」
「もしかして『京子』さんじゃないですか?」
「はい……そうですが……」
「やっぱりそうだ!」
「キュララのCMの娘ですよね」
「えっ、あ、はいっ」
「あの、俺……ファンなんです」
「ダークムーン見てました」
「えっ! あ、ありがとうございます!」

突然現れたファンだという男達に、キョーコは驚いた。
素のままで出歩いている時に気付かれるような事は今でも滅多にない。
慌てながらもキョーコはなんとか笑顔でお礼を言い、頭を下げる。
黒縁の眼鏡をかけた青年とその友人らしい細身で長身の男はキョーコを見て少し興奮しているようだった。

「握手してもらってもいいですか!」
「はい、どうぞ!」
「サインとかもいいですか?」
「サイン?」

黒縁眼鏡の青年と握手をしながら、キョーコは今までサインなどした事がなかったのに気付く。
差し出された手帳のようなものに、同じく渡されたボールペンできっちりと「京子」と書いてはみたがあまりに味気なく、キョーコはペンを持ったまま固まる。
もう少し何か書くべきなのか、キョーコが悩んでいると、男から名前を告げられ、それをそのまま書いた。
もう一人の分も同じように書いていた時、眼鏡の男がスマートフォンを出してキョーコの方に向けているのに気が付いた。

「写真……写真もいいですか?」
「え?」

自分に向けられたスマートフォンを見つめながら、写真はどうしたらいいのだろうとキョーコが迷った時、社が戻ってきた。

「キョーコちゃん」
「あ、社さん! あ、あの」
「ファンの方? 応援ありがとうございます」
「あ、はい……」

営業スマイルを浮かべ、社は二人の男に軽く会釈をする。
男達は社を見ると、急にオドオドとしだし、男がキョーコに向けていたスマートフォンも社のやんわりとした制止で下ろされた。
社はキョーコのマネージャーであるかのような素振りを続け、そっとキョーコの背を押して外に出るように誘導する。

「時間がないので失礼しますね。これからもよろしくお願いします。さ、キョーコちゃん行こう」
「は、はいっ! では失礼します」

キョーコは二人にぺこりと頭を下げて、社に従って一緒に店の外に出た。
二人の男はキョーコの姿を何度もチラチラと見ながら何かを話している。
社とキョーコはそのまま移動し、店を出てすぐ横にあった細い脇道へと入った。
人目につかないような場所でキョーコに待つように指示した社は少し戻って、出入り口付近にまだいた男達の様子を窺う。
彼らの、店内に戻って行くらしい気配を察知した後、社はキョーコの元に引き返した。

「もう、大丈夫」

不安そうな顔をしていたキョーコに社はそう声を掛けた。

「キョーコちゃんのファンに会っちゃうとはねぇ……あぁ、写真は遠慮してもらったほうがいいね。事務所に禁止されてるって言えばいいから」
「は、はいっ……こんな事、滅多にないんですが……」
「まぁ、キョーコちゃんだってもう随分色んなドラマに出ているからね。わかる人にはわかるよ」
「そう……なのでしょうか」
「そりゃあね。何にでも詳しい奴っているからね」
「ファンは嬉しいんですけど、突然で慌ててしまって……ありがとうございました」

キョーコはそう言ってぺこりと頭を下げた。

「そんなの、いいよいいよ~。それより、もうちょっとここで待っててくれるかな」
「はい?」
「キョーコちゃんの方がバレちゃったからここはもう帰ったほうがいい。今、あいつ連れてくるからさ」
「あ……はい」

気落ちした表情になったキョーコが気に掛かったが、社は再び店の中へと戻って行った。


****


キョーコが二人の男に何か話しかけられてるのを見た時、蓮はすぐに駆けつけようとしたが社に止められていた。
その場で待つように言われた蓮がやきもきとしながら見ている中で、社は無事にキョーコだけを連れて店外へと出て行く。
安堵の溜息をつきながら、蓮は後を追うタイミングを計っていた。
店内に戻ってきた男二人は蓮がいる方に向かってゆっくり歩きながら、今会った"京子"ついてどこか興奮したように話している。
その声は些か大きくて人目を引き、自然と蓮の耳にも入って来た。

「なっ、やっぱり『京子』だったろ?」
「お前、すごいな。俺は全然気付かなかったよ」
「こんな所にいるとは思わなかったけど……普段は地味だっていう話も聞いてたし、好きでよくチェックしてたから声でわかった!」
「なにそれ、すげぇ! しかし、妙に腰低かったよな」
「礼儀正しくていいよな……あーくそ、マネージャーかなぁ、あれ。写真撮りたかったのに」
「さっさと撮っちゃえばよかったのに。サインにも慣れてない感じだったよな。もしかして初めてだったりして」
「おっ! 『京子』の初めて、頂いちゃった!?」

すれ違いざまに聞こえた少し品のない笑いと耳障りな男の高い声。
そして、その男の言ったつまらない冗談が蓮の癇に障った。
思わず振り返り、男達の背中を睨みつけていた時、後ろから突然、腕を掴まれた。

「おい、何やってる……撤収するぞ」
「あ……」

蓮を迎えに来ていた社が小さな声でそう言うと、そのまま蓮の手を引っ張るようにして店の出口まで歩き出す。
蓮も特に抵抗する事無く、大人しくそれに従った。

「危ないなぁ……何する気だよ」
「別に……何かしようなんて」
「ふざけて言ってるだけだろ。怒るなよ」
「怒っていません」
「んじゃ、そのマスクの下の仏頂面止めろ。キョーコちゃんが気にするぞ」
「…………」
「元はと言えば、俺とお前でキョーコちゃん置き去りにしちゃったせいなんだし、キョーコちゃんに気を使わせるなよ」
「…………」

社にそう言われ、蓮は無言になる。
そして、路地裏で一人ぽつんと待っていたキョーコの心許無い顔を目にした頃にはいつもの穏やかな表情を取り戻していた。



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