テーブルよ食事の支度

2010年02月27日 14:09

確かグリム童話にこういうのあったはず…という淡い記憶だけで書いちゃうっていう。
意外と自分もメルヘン思考です。

メインと微妙にリンクしてる気もしますが、一応単発物で。




彼女が二週間の地方ロケに行く事になった。
二週間、顔を見る事も出来ないのか…と行く前から落胆する俺。
彼女も少し残念そうな顔をしているから、同じように寂しがってくれてるのかと喜んでいたら彼女はただただ俺の食事の事を気にしていて。
…いや、それも俺の心配をしてくれていると言う事で嬉しいといえば嬉しいのだけれど、もうちょっとこう…

「も、もう!ちゃんと寂しいですよ…」
勝手に拗ねていた俺にいい様にされてしまった後、彼女が少し怒ったように言う。
それでまた気を良くした俺に、彼女が同じような目に合ったのは言うまでもない。
翌朝、時間ギリギリまで眠ってしまっていたため慌てて出かけていく彼女。
別れを惜しむような余韻がなかったのは俺のせいなのであまり文句も言えない。


彼女の姿が恋しくなるのに三日とかからなかった。
毎晩電話もしているし、普段だってそうそう頻繁に会えていたわけでもなかったのに距離があるというだけでこんなにも気にかかる。
会いたいと思った時すぐに会えない、ただそれだけがこんなにも俺を心を揺らす。
普段はその気になりさえすれば会うことは可能だが、大人としての常識と仕事の事を考えて自重しているんだと…自分を少し誇らしく思っていたふしがある。
まぁそんなことを誇りに思っているあたり、大人どころかかなり子供っぽいのだけれど。

どうも彼女から強く頼まれているらしい社さんが普段よりも一層俺の食事に厳しい意見を主張してくる。
おかげでいつもよりも食べすぎな気もする。
俺の舌はすでに彼女に支配されているから、外の食事はあまり進まないのだが仕方がないので無理して食べる。
なんとなく子供の頃を思い出す。
いや…あれは愛情のある食事なんだから…母を責めるつもりはないのだけれど…さすがに……


そろそろ一週間。
やっと半分だな、と朝起きて冷蔵庫に向かう。
冷凍室をぎっしりと埋めるトレー。
おかずとご飯が一食分、一つ一つに収められている。
一体いつ作ったのか、「ひとつずつレンジで温めるだけでいいんですからね!」と彼女が詰め込んでいったもの。
朝何を食べているのか、社さんに聞かれた時、これの話をしたら
「あー…そういう冷凍食品あるよな。でもそれキョーコちゃんのお手製だろ?」
「そうですね、いつもの彼女の料理ですよ」
「毎日同じ…おかずでもないだろうな」
「微妙に違いますね」
「なんかすごいな…なかなかそこまでやってくれないよ。そういう奥さん俺も欲しい」
「別口で探してください」
「…奥さん、については言及しないんだな」
遊ぶ側と遊ばれる側、静かな攻防を繰り広げる毎日だ。

レンジで今日の分を温めて、それを口にしようとした時。
テーブルの上にあった白いランチョンマットに気が付く。
あぁそういえば今日は順番を間違えたな。
これを持って来た時の彼女を思い出し、朝から顔が緩む。

「えーっとですね、これは不思議なテーブルなんです」
「テーブル?」
「…にしようと思ったんですけど、少し大げさかなと思ってランチョンマットで代用です」
「ふーん。で、どんな魔法のランチョンマット?」
「テーブルのつもりで!……えっと、このテーブルに向かって『テーブルよ食事の支度!』と言ってください」
「へぇ…?」
「そうするとぱっと食事が用意されるんですっ」
「それは…すごいね」
「あー…でもこれはやっぱり代用品なので…少し敦賀さんの助けが必要でして…」
「うん?」
「言った後は冷凍庫にあるトレーを温めて…食べて下さいね」
「…なるほどね」
さっそく冷凍庫を覗き、ぎっしりと詰められたトレーを見て笑う俺。
そんな俺の腕を引っ張って、少し赤くなりながら「あ、後で見てください!」と慌てる彼女の姿をぼんやりと思い出していたら少し時間が押してしまった。
それでも彼女の作ってくれた食事はゆっくりと味わい、その後は大急ぎで身支度をした。

出掛ける寸前、その白いランチョンマットを見て、どうせなら現れるのは彼女だったらいいのになんて思う。
ボンっと音を立てて煙の中から現れる彼女の姿はまさに童話の世界のお姫様の格好をしていて…
俺も彼女の影響で随分メルヘン思考になったな、と朝から苦笑い。
そんな俺を現実に戻す携帯の着信音を聞きながら、仕事に向かうべくマンション前で待っているだろう社さんの元へと急いだ。




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