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再演─4

2013年02月14日 10:01

商品名があるのでちょっとだけ改変してあります。
すぐわかって頂けると思いますが…こういうのってどうすればいいのかなぁと思いつつ。

最終話になります。
お付き合い下さった方々、ありがとうございました。

再演─4



撮影開始前のスタジオで、蓮は何人もの女性に囲まれている。
今、共演している女優や女性スタッフ達だった。
社は少し離れた場所でそれを見ていたが、そこから抜け出してきた一人が声をかけながら社に近づいてきた。

「社さん、これどうぞ! チョコレートで~す」
「え……あっ、すいません、俺にまで」
「いえいえ! つまらないものですが」
「とんでもない、ありがとうございます」

綺麗にラッピングされた包みを手に、社は何度もその女性と頭を下げ合った。
その後、再び蓮の方に視線を戻したが、状況は特に変わっていなかった。

(囲んでる女の人はちょっと変わったか? 入れ替わり立ち代わりか。あいつも大変だな……)

嫌な顔一つせずに対応し続ける担当俳優に今更ながら感心しつつ、社は何度も時刻を確かめていた。
現場が動き出すまでにはまだ時間がある。
しかし、仕事とは関係のない、蓮と社への"客"が来る時間が間近になっていた。

(本当に来るのかな、キョーコちゃん……なんでわざわざ呼び出すんだよ、あいつは。いきなり付き合ってるの暴露したりしないだろうな……)

そんな事はしません、と言った蓮の言葉を信用してはいたが、目的がよくわからず社は落ち着かない。
その時、スタジオの出入り口からひょっこりとキョーコが顔を出した。

「あっ」

社がすぐに近づいて行くと、不安げな表情をしていたキョーコがそれに気づき、ホッとしたように笑った。

「やぁ、キョーコちゃん! こ、こんにちは」
「社さん、こんにちは! お疲れ様です!」

お辞儀をしながらそう言うと、キョーコはすぐさまバッグの中から造花の小花とリボンで飾られた小さな箱を取り出す。
そして、それを社に差し出した。

「これ、貰って下さい! ささやかですけどバレンタインのチョコレートです」
「あっ、あ、ありがとう! わざわざ悪いね。キョーコちゃんだっていそがしかっか」
「大丈夫です、社さんにはいつもお世話になってますから!」

思わず噛んでしまった社を気にする様子もなく、キョーコは完璧な笑顔の対応だ。
それに合わせる様、笑顔が引き攣らないように社が苦心していた時、蓮がゆっくりと近づいて来た。

「最上さん、こんにちは」
「こ、こんにちはっ! 敦賀さんっ」

一瞬だけ動揺を見せたキョーコだったが、すぐにまた安定した笑顔に戻る。
蓮と一緒にいた女性達が何人か、蓮の後を追って近づいて来るのを横目で見て社の心臓の鼓動が激しくなった。

「わざわざごめんね? 変な事頼んでしまった」
「いえ、そんな事……バレンタインですから!」

キョーコはそう言いながら、バッグの中からガサゴソと大きな音を立ててリボンで口を結んだ透明な袋を取り出した。

「あら、テロルチョコ」
「あ、ホントだ」

蓮の後ろにいた女優が、キョーコに軽く会釈した後にそう漏らすと、一緒にいた女性達も面白がってキョーコの持ってきた袋を覗き込んだ。
一口大でカラフルなパッケージの四角いチョコレートが袋一杯に詰まっている。

「懐かしいな。すごいね、こんなにたくさん」
「あっ、知らないのがある~」
「パックで売ってるのに少し足してみたんです」
「へぇ……そうなんだ」

蓮も一緒に袋を覗き込みそう言うと、一緒に見ていた一人が少し驚いた顔で恐る恐るキョーコに聞いた。

「こ、これを敦賀さんに?」
「はいっ」
「えっ……」

場に少し微妙な空気が流れた時、蓮が極上の笑顔で説明を始めた。

「俺が頼んだんですよ。実は俺、これの名前は知ってるんですが食べた事がないんですよね」
「ええっ、そうなんですか?」
「はい」
「あぁ……でも、敦賀君なら……そんな事もあるのかしら」
「そ、そうねぇ」

蓮なら、で、納得されてしまうのもどうなのだろうかとマネージャーとして考えつつ、社は蓮との昨日の会話を思い出す。
時間が足りなくてバレンタインの準備が出来ていない。
キョーコがそう言って慌てていたと聞いた時、社は半分は遊びで、でも半分は本気で、簡単で安く手に入るチョコの名前を口にした。

「お前はもうテロルチョコの一個も貰っておけばいいんだよ」
「は?」
「お金の事はあまり言いたくないけど……キョーコちゃん、今回はかなりの出費だろ。俺だって貰えるとしたらもうそれでいいもん。大変すぎる」
「あ、あの」
「それでもキョーコちゃんならお世話になった人に手間暇かけちゃうんだろうなぁ……せめてお前だけでも楽させてあげなよ」
「……社さん」
「ん?」
「それって……なんですか?」
「へっ」

(知らないとは思わなかった……でも、まぁ、キョーコちゃんにはいい口実になったかな)

バレンタインである今日。
社の提案は少し意外な形で実行される事になった。
一個が袋一杯に変わってしまっているのはキョーコらしかったが、わざわざ人前で受け取ろうとしている蓮の意図がわからない。

(不自然にならないようにって俺まで巻き込んでなんでこんな事……キョーコちゃんだって戸惑ってたぞ?)

自分が妙な茶番劇に巻き込まれる羽目になるとは思ってもいなかった社は、ハラハラしながら二人の動向を見つめていた。

「無理を言って悪かったね、どうもありがとう」
「いえ、こんな事ならお安い御用です!」
「一個でいいって言ったのに、ずいぶん買ってきてくれたね」
「さすがに一個というわけにはいきませんよ」
「そう?」
「そうですよ! それにいろんな種類があるのもこれの特徴ですから! あ、そうだ、えっとですね、定番はこの辺で……」
「うんうん」

社の目前で続いていく事務所の先輩と後輩の微笑ましいやり取り。
心配する事態は起きそうにないと思えた所で、なんだか急に馬鹿馬鹿しくなってきた。
もう放置でいだろう、そう思った社がふと周りの女性達に目を向けると、少しだけ様子が変わっている事に気がつく。
蓮と一緒にニコニコして話を聞いている人もいれば、明らかに嫉妬と羨望の眼差しでキョーコを見ている人もいた。

(ちょっと反応してるな……安上がりなチョコで蓮の気を惹いてるように見えない事もないからな……いや、でも、蓮が頼んだ事にしてるわけで……ってそれもマズいのかな)

少し危うい図なのかもしれない。
しかし、蓮もキョーコも完璧すぎるぐらい、仲が良いだけの事務所の先輩と後輩を演っている。
心配する程でもない。
でも、やっぱり安心もできない。
社が再びハラハラしながら二人を見つめていると、撮影開始時間が近づき場内の雰囲気が変わった。
それを察したキョーコはチョコを蓮に手渡し、周りにいた人達それぞれに向けて丁寧にお辞儀をして素早く立ち去って行った。
無事終わった事に胸を撫で下ろしていた社の元に、女性達に貰ったチョコレートを抱えた蓮がやって来た。

「これ、お願いします」
「あぁ、うん」

蓮から渡されたチョコレートを手早くまとめながら、社は周りに聞こえないような声で蓮に問う。

「まったく……今のにどんな意味があったんだよ」

蓮は社をちらりと見た後、手にしていたキョーコのチョコに視線を落とす。
そして、ゆっくりと口を開いた。

「意味があった……と、なればいいんですけど」
「へっ?」
「いえ……まぁ、単に俺の我侭ですよ。誕生日の時は受け取り方が雑だったので気になって」
「なるほど……やり直したかったって事か」
「そんなところです」
「"観客"まで用意して」
「…………」

社の言葉に蓮は黙り込んだ。
しかし、その口元に妖しい笑みが浮かんでいるのを社は見逃さなかった。

「そこまでは……今日も帰りは遅くなりますし、今日中に受け取れる方法を考えただけです」
「ふーん……まぁ、いいけどさ。ちょっと危ない感じだったな」
「"演技"に……問題ありましたか?」
「"演技"にはなかったと思うよ……ただ、こんなサスペンス仕立てになるとは思ってなかった」
「え? サスペンスですか?」
「俺にとってはな」

蓮は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの"敦賀蓮"の顔で面白そうに笑った。
そして、社の手が空いた所を見計らってキョーコから受け取ったチョコの袋を渡した。

「じゃあ、これもお願いしますね」
「あぁ、はいはい。キョーコちゃんのな」
「それはちゃんと別の場所に」
「わかってる、わかってる。もう見失わないから」
「それならいいんです。お願いします」
「でもさ、一回見失った方が……出てきた時、今度はすごいのに変わってるかもしれないぞ?」
「は……はは、勘弁して下さいよ。もう身が持たないので遠慮しておきます」
「身が? 心労でか? まぁ、ちゃんと大事にしておくよ」
「お願いします。あ、そうだ、これも」

蓮はそう言うと手首で光っていた銀色のブレスレットに手をかける。
硬質で細かい、上品な音が微かに鳴った。
外したそれを、蓮は社が持っていたキョーコのチョコの袋の口にネックレスのように引っ掛けた。

「なんだ、まだしてのか。楽屋で外しておけよ」
「すいません、うっかりしてました」
「うっかりねぇ……」
「それ、落としたり、どこかに置き忘れたり……ましてや見失うとか」
「しない、しない、絶対しない。そんな事したらお前に何されるかわからないもん」
「……じゃ、お願いします」
「あ、あぁ」

現場へ向っていく蓮の背中を、社はじっと見る。
別になにもしませんよ。
そんな言葉を期待していたのに、蓮の口から出てくる気配も無かった事に若干恐怖を感じ、思わず身が縮まった。

(取り扱い危険物になっちゃったよ……まぁ、それだけ大事なんだろうけど)

社は袋にかけられたブレスレットを凝視した。
思わぬ寄り道をしながら蓮に届いた、キョーコからの誕生日ブレゼント。
どこかの現場か、はたまた雑誌か、見かけた場所は覚えてはいないが、庶民の自分にはまず縁がないなと思ったのは覚えている。
キョーコの給料がなんとなく予想できてしまう立場な故に、ある意味では蓮よりも社の方が今回のキョーコのプレゼントに驚いていた。

(なんでか知らないけどすごく高いんだよな、これ……キョーコちゃん、貯金してたって言ってたけど、頑張ったなぁ)

蓮からは、間が空いたせいでキョーコは頑張った事が逆に恥ずかしくなったらしいと聞いている。
無事、蓮に渡す事が出来て本当によかった。
改めてそう思い、そっとブレスレットの様子を窺う。
なんの異変もないと確認できた所で、コンビニででも出会えるカラフルなチョコレート達の無事もきちんと確かめた。
二つの物の価格差が面白い程だったが、蓮にとったらどちらも同じ位の価値がある大事な物。
そう考えたら緊張していた気持ちが一気に和んでいき、社はようやく落ち着いた気分で担当俳優の仕事ぶりを眺める事ができた。


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