再演─2

2013年02月11日 19:50


再演─2



「私、自分で事務所へ行って取ってきます」

深夜に帰宅した俺を待っていた彼女は
俺が何か言うよりも前に、そんな事を言い出した
驚いた俺はそんな事はさせられないと強く言ったが
彼女も頑として譲らない
どこか思い詰めた表情
どう言ってもなかなか納得してくれない
それならば彼女のしたいようにさせるのがいいのかもしれないと思い
その事を伝えるとようやく彼女は安堵した表情で笑ってくれた



翌日、彼女からの電話で細かい話をしてくれたマネージャーは
通話を終えた後、俺を思いっきりしかめっ面で睨んできた

「なんでこんな話になってんだよ……」
「いや、あのですね……」

普段あまり見る事のない彼のその剣幕に少し狼狽えながら
俺は事の詳細を慌てて説明する

「今日の仕事終わったら俺がやろうと思ってたのに……お前、もうちょっと頑張れなかったのか」
「一応頑張ったんですけど……」
「まぁ、キョーコちゃんの涙の訴えに、お前が敵うわけないか」
「さすがに……泣いてはいませんよ」
「そんなの見えない所でに決まってるだろ」
「…………」
「お前へのプレゼントの山に……キョーコちゃんを向かわせるなんて……まったく……あー、なんで俺あの時もうちょっと……」

俺へのものか、自分へのものか
判断がつきにくい愚痴を独り言のように呟きながら
彼は再び携帯でどこかに電話をしている
俺はその様子をぼんやりと眺めながら
もし彼女が本当に泣いていたりしたらと思い、急に落ち着かなくなった
彼女のプレゼントが間違った場所に行ってしまったという事もだけど
目の前で恋人が他の異性からプレゼントを貰って喜んでいるのもどうだろうかとか
芸能人という職業柄、彼女はわかってくれているはずだと思って甘えていたのではないかとか
もし逆の立場だったら俺はどうだっただろう
そういえば彼女の誕生日の時はどうだったのか
もしかして誰かから、俺の知らない男から何か貰ったりしていたのではないか
以前、彼女がちょっとした物を貰っただけで俺は──

「おい、蓮」
「えっ?」
「……本気で言ったわけじゃないよ……そんなに気にするなよ」
「あっ……いや、俺は別に」

たった今まで機嫌の悪かったマネージャーが
電話を終え、本当に心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいた
一体俺はどんな顔をしていているのかと焦り、すぐさま取り繕ったが
思ったようにはうまくいかなかったようだ

「大丈夫だよ、キョーコちゃんはちゃんとわかってるから」
「…………」

何も言っていないのに、まるで俺の頭の中まで覗いたようなマネージャーの言葉に
少し驚きながらも俺はやっといつもの笑顔を浮かべる事ができた
今回は自分が悪いと主張する彼に軽く追い討ちをかけてみたりしながら
いつものように気持ちを切り替え、今日の仕事場へと赴いた



仕事が終わり、なんとなく重い気持ちを抱えて帰宅した俺を
彼女は曇りのない笑顔で出迎えてくれた
それだけで俺はもうプレゼントを受け取ったような気分になり
ぱたぱたと動き回り、甲斐甲斐しく俺の世話を焼こうとする彼女の姿をずっと目で追いかけていた

「大した物じゃなくて恥ずかしいんですけど……」

シャワーを浴び終えた俺に彼女はそう言って
照れ臭そうに青い色のパジャマを差し出してきた
受け取ったそれはさらりとした生地の感触が肌に心地よく
袖を通してみるとサイズも問題なく、リラックスして着る事ができた

「いいね。嬉しいよ、ありがとう」
「きつくありませんか?」
「大丈夫、ちょうどいい」
「よかった……」

彼女がくれたパジャマを着た俺は彼女を強引に抱え込んでソファに座る
驚いた彼女が足をばたつかせながら何か言っているようだったけど、あまり耳には入ってこない

「敦賀さんっ……あのっ、ちょっと」
「ペアとかじゃないんだ」
「えっ! ペア?」
「うん」
「や、それは、違いますよ?」
「残念」
「敦賀さん……」
「これの女性物はないのかな……探せばありそうだった?」
「どうでしょうか、そこまでは……と、いいますか、これは敦賀さんへの誕生日プレゼントなんですからね?」
「うん、わかってる。すごく嬉しいよ」
「で、ですから私の分はいいんです」
「俺には今、個人的に欲しいものがあって……」
「女性物はどうだったかわかりませんってば」

女性物の存在の有無を彼女に聞くのは諦め、俺は彼女をそのまま抱き上げてベッドのある寝室へと向かう
抵抗するのは諦めたらしく大人しくしている彼女と一緒にベッドの中に飛び込んだ
昼間、色々な心配をした分
疲れてしまった頭の中を空っぽにして幸せな眠りにつこうとしたが
何かがどこかで引っ掛かり、チラチラと頭の中を掠めては消えていく
それが何なのか、よくわからないのが気に掛かり
彼女を強く抱き締めていないと瞼さえ下がってくれなかった



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