再演─1

2013年02月10日 19:47

敦賀さん、お誕生日おめでとうございます!
と、いう事で蓮の誕生日のお話をちょっと引っ張っちゃいました、全4話です。
13日だけお休みして14日に最終話UP予定。
よろしかったらどうぞです~

再演─1



「誕生日おめでとうございます!」
「おめでとうございまーす!」
「ありがとうございます」

以前、一緒に仕事をした事のある女性スタッフが二人程
俺の控え室に来て誕生日を祝ってくれた
今日こうやって俺の所に来た人はもう何人目なのかわからない
それぞれからのプレゼントを笑顔で受け取ってはいたが
今回ばかりは内心俺はかなり狼狽えていた

「おめでとうございます」
「あ、ありがとう、最上さん」

俺と同じように二人と知り合いだった彼女が
一番最後に俺にプレゼントを渡した
扉の前で二人と一緒になったのだと言う彼女の顔は普通に穏やかな笑顔で
俺も型通りの笑顔で受け取るしかなかった

タイミングが悪く、こういう時に頼りになるマネージャーは席を外している
他の女性から貰った沢山のプレゼントがある部屋の中で
俺は彼女以外の女性達と笑顔で会話を交わす
彼女はにこにこしながらそれを聞いているだけで
何も言わずにぼんやりとプレゼントの山を眺めていた
俺を呼びに来たスタッフの姿を見て
彼女は二人の女性と共に部屋を出て行く
俺は咄嗟に握り締めていた携帯をどうする事もできないままに手離し
落ち着かない状態で仕事へと向かった
何とも言えないもやもやとした気持ちが胸の中で燻って
指定されていたスタジオに向かう間中、俺の頭の中は彼女で一杯になった

昨夜、日付が変わった瞬間に彼女から"おめでとう"を貰い
その後、プレゼントと称し、いつものベッドの上で思う存分彼女に好きな事をしたり、させたりした
事前に品物はいらないからと言った上での計画的な暴挙
俺の言うがままに動く彼女の困惑の表情と扇情的すぎる体勢のアンバランス
思い出すだけで少し身体の奥が熱くなる
しかし、彼女はそれとは別にちゃんと何かを用意してくれていて
今日中に帰れそうにない予定の俺に、今、わざわざ持って来てくれたのかもしれない
今朝、遅刻遅刻と叫びながら大慌てで出かけて行った彼女の姿を思い出し
渡す隙を与えない程にハメをはずしていた昨夜の自分を反省する

時間が空いたら、すぐにプレゼントの中身を確認し
仕事中なら繋がらないかもしれないがとにかく電話をしよう
留守電になったら簡単なメッセージを
しつこいかもしれないが、念のためにメールも
彼女のための小さな予定をすばやく立てた後、俺はようやく頭の中を仕事へと切り替える事ができた


予定より少し時間が長引いた出番を終え、戻ってきた俺を迎えたのは
ワイシャツの袖を捲くったまま疲れた様子で椅子に座っているマネージャーと
俺の私物以外何もない、がらんとした控え室だった



***



自分が渡した蓮へのプレゼントが、あの部屋の中にあった他のプレゼントと混ざって事務所行きになってしまった。
既に帰宅していたキョーコは社からの電話でそれを知らされていた。

『ごめんよ、キョーコちゃん。俺のミスなんだ』
「えっ、いえ、そんな」
『明日、事務所に届くはずだからちゃんと責任持って探しておくよ。本当にごめんね』
「とんでもありません! 本当に気になさらないで下さい! 私の方こそお手を煩わせてしまって」
『今回はあいつに非はないからさ。俺の顔に免じて怒らないでやってくれるかな』
「お、お、怒るなんて、まさかそんな! それに非なんて誰にもありませんよ! あるとしたら寧ろ私の方で」
『いやいや、それもないからね……あいつ、深刻な顔で帰って行ったよ。そろそろ帰って来ると思うけど、ホント、よろしくね』
「こちらこそ本当にご面倒をお掛けしてしまって……申し訳ありませんでした!」

携帯を耳に当てながら何度も頭を下げていたキョーコは、社との通話を終えた後、しばらくその場に呆然と立ち尽くしていた。

「何て迷惑な奴なの……私……」

ぽつりとそう言うと、キョーコは青ざめた顔でふらふらと移動し、リビングのソファに倒れるようにして座り込んだ。

蓮の誕生日である今日。
日付が変わった瞬間に"おめでとう"は言えた。
そして蓮が希望していた"願い事を聞く"というプレゼントもおそらく、多分、なんとか、渡せたはずだと思う。
"渡した"昨夜の事を思い出し、自然とキョーコの頬は紅く染まっていく。
あられもない格好の自分を見つめる夜の帝王の熱い視線と身体の奥にまで響く甘い声。
恥ずかしい、嫌、と何度も言ったが、結局最後まで蓮の言うとおりにしてしまった上、どこかでそれを喜んでいる自分もいた。
途中からはわざと自分から挑発的に動いてみたり──

「いやああああああ! い、い、今、思い出してる場合じゃないのよぉぉぉ」

キョーコはリビングのラグの上に頭を抱えてゴロゴロと転がった。
しかしすぐに現在進行中の問題の方を思い出し、転がるのを止めてゆっくりと身を起こした。

「やっぱりやめておけばよかった……」

蓮に贈られる沢山の誕生日プレゼント。
その中には驚く位高価な物も少なくない。
キョーコはそれらに見劣りしない物を自分も贈る事ができたらとずっと考えていた。

そして今年、キョーコは一大決心をして蓮のプレゼントを買うために今までの人生の中で最も高い金額を一度に支払った。
蓮と暮らし始めてからこつこつ貯めていたお金は今回でほとんど底をついたが後悔はない。

蓮の誕生日である二月十日。
偶々同じ局で仕事があると知って、キョーコの胸の奥の隅にひっそりと存在していた小さな野望に火が付いてしまった。
おそらく当日、蓮の控え室は高級そうな品々で埋め尽くされるはず。
でも、これならあの中で渡しても何一つ恥ずかしくない。

一緒に暮らしているのにわざわざ外で、と最後まで迷ってはいた。
しかし、昨夜は気が付いたら眠っていたし、朝もばたばたとして渡すタイミングはなかった。
キョーコはプレゼントを手荷物に忍ばせたまま仕事へ行き、ぐずぐずと迷い続けながらも空き時間に蓮の控え室の前まで来た。
そこには綺麗にラッピングされた物を抱えた顔見知りの女性が二人。
それを見た瞬間、迷いが消えた。

(つい……張り合おうだなんて……恥ずかしい……)

冷えた頭でよく考えてみると、ムキになっていた事が子供っぽいと思えた。
値段が高い物を買っただけで少し大人になった気分だった自分も恥ずかしい。
そして、それを妙にアピールしようとしていた事。
あの大量のプレゼントを誰がどうするのかまで考えが及んでいなかった事。
自分の衝動的な行動でマネージャーの社を困らせ、蓮にはきっと余計な気を使わせている事。
なにもかもが全て恥ずかしくなり、いっそこのままどこかへ身を隠してしまおうかとまでキョーコは思った。

(ちょっと待って……まだ間に合うかも……)

社の話によれば、結局、蓮は自分の渡したプレゼントが何かはまだ知らないはず。
そして、それはそのまま明日、事務所の方に届けられるという。
自分には明日、予定はない。
それならば。

「よしっ……」

初めて買った高価なプレゼントはキョーコの中で見られたくない汚点に変わってしまっていた。
せめてあれだけでも蓮に知られる前に回収したい。
そう思ったキョーコは拳を握り、明日事務所に行く事を決心した。



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