2012Xmas─2

2012年12月25日 00:30


2012Xmas─2



「あ、いたいた! 京子ちゃん!」
「あっ……皆さん、お疲れ様でした~!」
「お疲れ様! 無事終わってよかったね!」
「お疲れ!」

生放送を終え、スタジオを後にし、帰ろうとしていたキョーコをブリッジの三人が声をかけて呼び止めた。

「坊が転んじゃって大変だったね。 最後はもうなんだか大騒ぎだったし」
「あはは……笑ってもらえたので良かったです。プロデューサーからも軽いお叱りだけで済みましたし」
「予定の企画もひとつ飛んでもうたし、若い娘さん達は元気やねぇ」
「なんやそれ、年寄りくさ~」

四人でひとしきり談笑した後、キョーコは挨拶をしてその場を立ち去ろうとする。
それを雄生が慌てて呼び止めた。

「あ、京子ちゃん、待って! これからちょっと遊びに行かへん?」
「えっ?」
「軽く打ち上げみたいな感じで」
「あ、え、えっと」
「帰りはリーダーがちゃんと送る言うとるし、どう?」
「えっ、あ、そ、そうですね……」

どう断るべきか、キョーコが必死で考えている時、光がゆっくりと口を開いた。

「イブは終わっちゃったけどクリスマスだし……それに、京子ちゃん、今日誕生日だよね? 誕生日おめでとう」
「えっ!」
「おめでとー!」
「おめでとう!」
「わ、わ、ありがとうございます!」

どこに仕込んでいたのか、慎一が小さな紙吹雪をハラハラとキョーコの頭の上に振り撒いた。
キョーコはかなり驚いたが、それでも笑顔で礼を言い、何度も頭を下げた。

「それのお祝いも兼ねて……どうかな?」
「あ……」

光の誘いにキョーコは言葉を詰まらせた。
自分の誕生日を覚えていてくれて、それを祝ってくれるという誘いを無下に断るのは失礼になるのではないか。
蓮の顔がちらついたが、今夜は社長宅のパーティに行っているはず。
今、急いで帰っても、蓮はまだ帰っていないかも知れない。
少しだけなら。
そう言い掛けたが──

「……ごめんなさい。大事な約束があるんです」
「えっ」
「約束? これから?」
「えぇ、まぁ」

どう言えばいいのかわからず、キョーコは曖昧に笑うしかなかった。
時間が読めなかったので、キョーコは蓮に何時に帰るとは特に言っていない。
社長宅で行われているパーティも終了時間はきちんと決まっておらず、蓮も帰宅の時間をはっきりとは言っていなかった。
今夜の約束など本当はない。
それでも今まで蓮が忙しい中、自分との事を優先してきてくれた事を思い、キョーコも今夜は蓮との事を最優先したかった。

「もしかして友達と? あ、社長の家でのパーティ?」
「いえ、それは」
「それなら俺らと合流して」
「いえ、あの、私」
「あ」
「あっ」
「こ、こんばんは!」
「こんばんはっ」
「え?」

突然、雄生が大きな声で挨拶をし、慎一もそれに続く。
驚いたキョーコは三人の視線を辿り、後ろを振り向いた。
そこには蓮の姿があった。

「!」
「こんばんは……お疲れ様です」

蓮はいつもの落ち着いた声でキョーコとブリッジの三人に声を掛ける。
突然の蓮の登場に、その場にいた全員が驚き、動きが止まった。

「お疲れ様です、敦賀さん……お仕事……ですか?」
「…………」

蓮を見て、明らかに動揺した様子の光の問いに、蓮は答える事無く、ゆっくりとキョーコの方へ歩いてくる。
そして、すぐ傍にまで来ると、じっとキョーコを見つめた。

「敦賀……さん?」
「迎えに来た」
「えっ!」
「…………」
「…………」
「…………」

蓮の台詞に狼狽えたキョーコは口をぱくぱくさせながら、固まっているブリッジの三人と蓮を何度も交互に見返す。
しかし、蓮は動じるどころかキョーコ以外を気にする様子も見せず、ぽつりと呟くように言った。

「足とか……痛くない?」
「え……」
「最後、変な転び方してた。どこか捻ったりしていない?」
「…………」

キョーコは驚いて目を丸くし、蓮の顔を見上げた。
生放送中の最後、坊がバランスを崩しそうになった時、素直に倒れずに咄嗟に堪えようとしてしまったのが災いし、キョーコは少し足を痛めていた。
しかし、特に酷く痛めたわけでも、骨にヒビが入ったわけでもない。
これ位大丈夫と思ったキョーコは誰にも気付かれないように振舞っていたが、ただ立っているだけの今も多少痛みが残っている。

「どうして……」
「最後の方だけだけど、見ていたから」
「…………」
「それで、足は?」
「あー…そ、そうですね……ちょっと、ちょっとだけ」
「これ位大丈夫とか思って、走って帰って来るんじゃないかって心配になった」
「ちゃんとタクシーで帰ろうと思ってました!」
「タクシーだって最近はいつも遠くで降りて……残りを走ってるだろう?」
「……どうして……それも知ってるんですか」
「やっぱり」
「なっ!」

鎌をかけられた事に気付いたキョーコは少し怒った素振りをみせたが、蓮はしれっとした顔をしている。

「もうっ……敦賀さんはいつもそうやって」

頬を膨らませ、つい、いつもの調子でキョーコは蓮に小言を言いかけた。
しかし、そこで凍りついたように固まっているブリッジ三人の視線に気が付いた。

「あ……」

さっと顔色を変え、キョーコも同じように固まってしまう。
蓮はそんなキョーコにそっと体を寄せると、片手で担ぐようにして抱き上げた。

「きゃっ! な、な、敦賀さん!」
「暴れると俺まで倒れるよ」
「……っ」

そう言われて、キョーコは慌て、体勢を崩さないように蓮の身体にしがみ付く。
蓮は満足そうに微笑むと、横にいた三人の男達にチラリと視線を向けた。

「……それじゃあ、失礼します。お疲れ様でした」

呆然とした状態のブリッジの三人に、蓮はキョーコを抱えた状態でにっこりと微笑みながら挨拶する。
そして、何事もなかったかのように、彼らに背を向けてスタスタと歩きだした。

「おつかれ……」
「さま……」
「で……した……」

キョーコは蓮の肩越しに、弱々しい挨拶を返した三人の姿が遠ざかっていくのを見ているしかなかった。

「もうっ……信じられません! こ、こんな事して」
「同じ事務所だし……周囲に言いふらすような人達じゃないんだろう?」
「それは……そうですけど……」
「一応、社さんには言っておく……でも、これ位大丈夫」
「…………」

特に悪びれる事もなく歩き続ける蓮に、キョーコは呆れながらも大人しく運ばれていく。
駐車場へと向かう通路。
辺りに人影がないか必死で見回していたキョーコだったが、しんと静まった通路には蓮の足音だけが響いている。
少し落ち着いてきたキョーコは黙々と歩いて行く蓮に小さな声で話しかけた。

「あの……」
「ん?」
「ありがとうございます」
「え……何が?」
「迎えに来てくれるなんて」
「……いつだってそうしたいけどね?」
「そんな……」
「それに、一番最初にキョーコにおめでとうを言いたかったし」
「え」
「誕生日おめでとう」
「あっ! あ、ありがとうございますっ!」
「……?」

一瞬、動揺してしまったキョーコは妙に威勢よくお礼の言葉を返してしまう。
すると、蓮は急にその足をぴたりと止めてしまった。

「つ、敦賀……さん?」
「…………」
「あのぅ……」
「いや……なんでもないよ」

蓮はそう言って再び黙々と歩き出す。
キョーコもしばらくそのまま黙っていたが、今、おそらく、蓮に全ての状況がばれたのだと感じた。
ほんの少し空気が張り詰めた気がする。
心臓の鼓動も僅かに速くなった。
黙っていられなくなったキョーコは、無言で歩き続ける蓮の身体をぎゅっと強く抱き締め、口を開いた。

「いつだって……私は敦賀さんが一番なんですからね?」
「……っ」

突然のキョーコの台詞に、蓮は驚き、また立ち止まる。
キョーコは顔が見えない状態で良かったと思いながら、汗をかく程に頬を熱くしていた。
そんなキョーコに抱き締められながら、蓮は少しの間その場に立ち尽くす。
その後、キョーコの耳に届いた蓮の声は穏やかで、どこか嬉しそうだった。

「うん、わかった……ありがとう」
「…………」

真っ赤になっていたキョーコを、蓮は大事そうに抱え直し、歩き出す。
キョーコは顔を伏せながら、照れ隠しのようにぶちぶちと文句を言い始めた。

「もうっ……変な事で拗ねないで下さい」
「意外と大事な事なんだよ」
「そんなに厳密に一番とか」
「ずっと狙っていたし」
「ね、狙って?」
「メールすればよかったな……ちょうど移動中で」
「いえ、あの、ですから」
「油断してた。来年は気をつけるよ」
「何をですか……」
「でもまぁ、罪悪感はなくなったかな……」
「へ?」
「どんなにあったとしても譲る気はなかったけどね」
「何の話です?」

静かな通路を、蓮とキョーコはひそひそと言い合いをしながら移動して行く。
キョーコの髪に最後まで残っていた小さな紙吹雪の欠片が、駐車場に入った時に吹いた風で飛ばされ、ひらりと床に落ちていった。



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