Cutie Honey─6

2012年11月26日 09:52

最終話になります。
お付き合い下さった方々、ありがとうございました!

Cutie Honey─6





「どうしてそんなに困った顔をしてるの……」
「…………」

そんなの色々有り過ぎて簡単に言えない
明るい日の光が満ちた部屋の中に夜の帝王がいるとか
ここはいつもの寝室じゃなくてゲストルームだとか
寝室のベッドよりも狭いベッドの中だから妙に敦賀さんが近く感じるとか
ゲストルームは敦賀さんの家の中にある私の場所になっているけれど
そこでこんな事をしてしまうとまるで私の中が全て敦賀さんに侵食されていくようで怖いとか
もう、数を数え切れない
そうして、きっともうお昼が近いはずなのに
時間を確かめる事が出来ない位ずっと敦賀さんに捕まっていることも
つい恨めしげに敦賀さんを見てしまう原因なのだけれど
何一つ口にする暇も余裕もない

「だって……だって、もうお昼……」
「ん……もうそんな時間か」

そう言いながらも日の光の中で夜の帝王は笑う
今にもキスしそうなくらい顔を近づけて笑うから
サラリとした前髪の絶妙な乱れ具合とか
間近で見れば見るほど整ったその顔立ちや長い睫毛とか
吸い込まれてしまいそうな鳶色の瞳とか
そんなものが全部嫌って言うほどはっきりと見えてしまってもう全然太刀打ちできない
思わず目を逸らしてしまうけれど、そうすると今度は
男らしい首筋から鎖骨にかけてのラインや
鍛えられた腕や胸の筋肉とか
そんなものばかり目に入ってきてもう限界
どうしてこんなに格好いい男の人がここにいるんだろうって思わずぼうっと見惚れてしまう
そのまま彼の熱狂的ファンになってずっとぼうっとしていられればいいのだけれど
子供みたいに可愛い寝顔とか
ご飯の事で困ってる顔とか
怒ってる理由が私が"可愛い"からだなんて恥ずかしい事言ったりとか
いろんな顔が勝手に浮かんでは消えを繰り返してしまうから
にやけてしまったり恥ずかしくて堪らなくなったりと本当に始末に終えない



大きな手の長い指先が
私の髪を悪戯してるみたいに梳いてみたり
頬を撫でたり摘んだり
首筋をゆっくりと滑ったりする
くすくす笑う彼から好きなように弄ばれて
その度に身体は震えるように反応してしまう
そろそろ抵抗したいなと思うのだけれど
身体の奥がまだ彼としっかり繋がっていて
油断していると過ぎていったはずの熱情が
いとも簡単に戻ってきてしまう

「あっ……」

警戒してるそばから私の中の彼が少し動く
そんなに激しく動いたわけじゃないのに私の方で勝手に大きく反応してしまう
また彼にからかわれてしまうと焦ったけど
どんなに焦って抵抗しても駄目な時は駄目なんだし
だったらと少し開き直って
いろいろと諦める代わりに
私を抱き締める彼の髪を
思いっきりクシャクシャと掻き回した
やわサラな髪質だからそんなにひどくは乱れないのだけれど
異変に気付いた彼が顔を上げた時
あちこちから髪がぴょんぴょんと立ち上がり
起きぬけの子供みたいなダイナミックな寝癖の髪になった

「やっ……可愛い」

自分でやっておいてそう言うのはどうかしらと思いながらも
いつもきちんとしている彼のそんな状態が貴重で愛しくてそして可愛くて
ずっと我慢してきた一言をとうとう口に出してしまう
一瞬、彼はきょとんとした顔をして私を見たけれど
私が焦って彼の髪を撫で付けている間に
窓から差し込む程度の日の光なんてあっさり消し飛ばしてしまうような
夜によく似合う妖艶な笑みを浮かべた
さっきよりも数段妖しさを増した帝王の顔に変わっていった

「あ……」
「可愛いのはキョーコだって言ったのに……」
「や、あ、その、な、なんとなく、つ」

やっぱり私は基本的に夜の帝王が苦手だから
狼狽えてしまってうまく言葉が出せなくなる
そのうちに彼の唇で口を塞がれて
そこから伝わる熱で思考する力は溶かされていき
昼なのか夜なのかもわからなくなって
ただただ彼の愛撫に答えるだけになっていった



気が付けばベッドの上には私一人で
しばらくの間、そのままぼんやりしていたのだけれど
急に寂しくなって気だるい身体をゆっくりと起こす
携帯で時刻を確認するともうお昼はとっくに過ぎて午後が始まっていた
部屋の中を見回してみると、少しだけ扉が開いているのが見える
敦賀さんを捜しにベッドを抜け出してそっと近づいていくと
何か話している声が聞こえた
声のトーンがお仕事してる時のものだったから
きっと社さんと電話してるんだと思い、一旦ベッドに戻りかける
でも思いがけず聞こえて来た敦賀さんの言葉がちょっと気になって
つい、そのまま聞き耳を立ててしまった

「……言った通りに大人しくしてますよ?」
『ふうん……怪しいけどなぁ。寝ぼけて隙のあるキョーコちゃんがいたら昨日のお前が食い付かないわけないと思ってたし』
「失礼ですね……人を野生動物みたいに……」
『似たようなもんだろ。まぁ、平和に仲良くやってるんならいいんだ』
「問題ありません……お騒がせしました……」
『キョーコちゃん、ちゃんといるんだよな? 誤魔化してないか?』
「本当ですって……今は近くにいないだけで」
『ふーん……ちょっとさ、電話代わってくれよ』
「なぜですか。何かあるのなら俺から伝えますよ」
『軽い挨拶だよ。いいじゃないかそれくらい』
「い、今は……ちょっと手が離せないみたいで……」
『……おいおい、やっぱり怪しいな。またなんかやらかして本当はどこかに家出されてるんじゃないよな?』
「どうしてすぐそういう事を……ちゃんといます。家出なんてされていませんから」

抜き足差し足でその場を離れてベッドの中に飛び込んだ
普段私が見る事のない敦賀さんの舞台裏を見てしまった気がして
ちょっと心臓がドキドキした
内容はおそらく私の事じゃないかと思うのだけれど
家出だなんて、どうしてそんな話になっているのとか
もしかしたら敦賀さんは向こうにいる間、私の事を気にしてくれてたのかなとか
とても忙しかったはずなのに社さんに何か言われる程だったんだとか
大人しくしてるなんて言ってたけど一体誰の事なんですかとか
私がなかなか目を覚まさないでいる事を必死で誤魔化してるらしいとか
もう、色々考えて想像していたら
可笑しくて恥ずかしくて、でもすごく嬉しくて
ちょっと嘘つきな敦賀さんの
重大な秘密を握ってしまったような気がして
もう絶対誰にも教えたりしないんだって心の中で密かに誓って
電話を終え、戻ってくるだろう敦賀さんのためと
休日である今日の、これからの私の身の平穏のために
必死で眠っている振りを続ける事にする



扉を開ける音が聞こえ、彼が近づいてくる
起こしてくれるのかなって思って待っていたのだけれど
彼は何も言わないまま、そっとベッドに潜り込んで来た
そのままずっと黙って横になっているだけだったので
つい痺れを切らし、私の方から今目が覚めましたという風を装って声を掛けた

「ん……今……何時です……か?」
「まだ早いよ」
「…………」

また嘘ばっかりと思ったけれど
私に関わる事で小さな嘘をつく彼が無性に可愛くて
もう我慢できず、思わずぎゅっとしがみついてしまったら
彼も同じように抱き締め返してくれた

「もう……寝過ぎですよ……」
「睡眠不足を一気に解消しようかと思ってね」
「私は……そろそろ起きたいんですけど……」
「それは困るな……キョーコがいないと眠れない」
「また……そんな事……」
「本当だよ……本当なんだ……」

触れ合っている肌のぬくもりがあまりにも心地よかったから
彼の嘘に騙されておく事にした、久しぶりに二人一緒の休日は
ずっとベッドの中で抱き合って眠っているだけになった



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