Cutie Honey─5

2012年11月25日 10:31


Cutie Honey─5





「元々あった?」
「そうです。下の部屋にありました」
「へぇ……」

ベッドサイドのランプの淡い灯りに照らされながら、キョーコは掛けていた毛布を身体にぐるぐるに巻きつけ、顔だけ出している。
その状態でベッドの上に座り、キョーコは散乱している黒のランジェリーとその他について説明していた。

「前にテンさんが、絶対私に似合うからって持って来てくださったものなんですけど……と、とても恥ずかしかったので箱に仕舞って奥の方に置いておいたんです」
「そうなんだ……それで見かけた事なかったのか……着てみればよかったのに」
「えぇっ! いえ、あの、でも、これはですね、何と言いますか、まずその黒いのは下着としての実用性に欠けると言いますか」
「ん?」
「あの、えっと、部分的に、その、布地に、強度が足りないと申しますか……えーっと」

キョーコが言い辛そうに説明をしている間に、蓮は音もなく移動してそれをひとつ手に取っていた。

「あぁ……本当だ。これは透け」
「ひいやぁぁあああああっ! 敦賀さん! 持たないで下さい!」

キョーコは蓑虫の様な状態のまま器用に動き、手だけをにゅっと伸ばして蓮からそれを奪い去った。

「……別にいいじゃないか」
「だーめーでーすぅぅぅぅ!」

そう叫びながら、キョーコは驚くような速さで次々と散らかっていたものを拾いまくり"蓑"の中に仕舞いこんでいく。
その奇妙な動きがいつものキョーコらしく、蓮はつい吹き出してしまった。

「で、なぜ、また急にそれを?」
「えっ……それは……」

蓮の問いに、キョーコは一瞬言葉を詰まらせる。
しかし、若干頬を染めながら、何かを諦めたようにぽつりぽつりと話し出した。

「こういうのを普段からスルッと着こなせるようになったら……もうちょっと色……あ、えっと、大人っぽくなれるかなぁ……なんて」
「え」
「それで試しにここでこっそり着てみたんですが……やっぱりどれも似合わないと思って、もう、なんだか嫌になってしまって……」
「…………」
「散らかしたまま、ベッドで不貞寝してたんですが、もしかして裸で眠るのもちょっと大人っぽいかなぁと思って」
「たまにそうしてるじゃないか」
「え! やっ、それはそうなんですけどっ! こ、こう、自分一人の時でも、気負いなく裸っていうのが大人の女性っぽく感じたんです」
「そうかなぁ……」
「まぁ……単なる思い付きです……」

今ひとつ同意しきれていない蓮の様子に、キョーコはがっくりと肩を落とした。

「理由はわかったよ。でも、ちょっとびっくりした」
「も! 申し訳ございません! で、でもあの敦賀さんが今夜帰って来ると思ってなかったので」
「あ、うん、まぁ……」

蓮はようやくここで自分が急いで帰って来た理由を思い出す。
そして、キョーコの突飛な行動の意味がわかった気がした。

「もしかしてこういう事を思い付いたのは俺のせい?」
「へっ?」
「大人っぽいとか……色っぽいとか」
「いえ、別にそんな、なななんとなくで」
「この前、キョーコを放り出して、俺は勝手に寝てしまったよね?」
「そ、そ、それはっ」

キョーコは口篭りながら真っ赤になった。

「気が付かないでそのまま出掛けるなんて……我ながらひどいよ。本当にごめん」
「いいえ! そ、そんな事……敦賀さんはとてもお疲れだったという事で……それに、あの、それは私……が……」
「キョーコ」
「はいいっ」

少し強い口調で蓮がキョーコの名を呼び、発言を遮る。
私が、という言葉の続きを予想し、やっぱりそうか、という想いが蓮の中に広がった。
ずっと、自分の我侭としか思えない強い主張が蓮の中にある。
それを言わずにはいられなくなった。

「キョーコに色気なんて必要ないよ」
「えっ!」
「普段は今よりももっと……地味で色気のない女でいい」
「!」

どこかで聞いたようなフレーズにキョーコはぴきりと凍りついた。
だが、蓮は淡々と真面目な顔で言葉を続けていく。

「大体、今の時点で以前と比べたらかなり女らしくなっているっていうのに……毎日心配でしょうがない」
「は……へ?」
「仕事が忙しい時なんかは特に。なかなか目が届かないし」
「…………」
「今だって、そうやって毛布に包まってるだけでそんなに可愛いのにこれ以上どうなりたいんだ」
「や……あの、敦賀さん……また、そんな」

蓮がまた妙な事を言って自分を煙に巻くつもりだろうと思ったキョーコは頬を染めながらも仏頂面をした。
しかし、蓮の表情は驚く位真剣で、それに気づいたキョーコの言葉は途中で止まる。

「…………」
「…………」
「……あのぅ」
「キョーコは少し自分が可愛いという自覚を持って欲しい」
「え……え、ええと」
「だからこの前みたいな事になる。あの日は向こうに泊まるっていう社さんを説き伏せて急いで帰って来たんだ」
「えっ? ……どうして」
「キョーコに会いたかったからに決まってる」
「…………」
「さすがに俺も体力の限界だったからちゃんと寝るつもりだったのに、キョーコが可愛いからあんな失態を犯す羽目になった」
「な……」
「自分でもショックだよ。まさかってね」
「申し訳……ございません」
「…………」
「…………」
「あぁ、いや、違う……あれは俺が……俺が悪いんだ。ごめん」
「はぁ……」

なぜか自分がキョーコに説教するような形になっている事に気付いた蓮は焦り、慌ててキョーコに謝った。
キョーコはひっそりと正座をし、真面目な顔で蓮の話を聞いていたが、蓮の"可愛い"の連発に耳まで真っ赤になってしまい顔を伏せてしまった。

「あー…だから、あんまり頑張らないでくれって言いたいんだ」
「…………」
「そ、そうだ……仕事でそういう役が来たりしたら……俺が協力するから」
「えっ、敦賀さんがですか?」
「うん」

思ってもみなかった、蓮からの提案にキョーコは驚き、ぱっと顔を上げる。
何かが違う気もしたが、それならば間違った方向に進む心配もない。
そう考えたキョーコの心は少し弾む。

「それだと、なんだかすごい効果がありそうです!」
「そう……うん、まぁ……」
「本当ですね? 約束しましたからね?」
「わかったよ……そういう時が来たら……協力する」

蓮はそう言いながらも、なぜかムスッとした顔をした。

「…………」

自ら協力すると言っておきながら、なぜか拗ねている。
そんな蓮を見てキョーコは最初戸惑ったが、やがて胸がくすぐったくなり、少し可笑しくもなってきた。
どうしても口元が笑って緩んでしまい、つい、また顔を伏せてしまう。
この前の晩から、可愛いのは蓮の方だと言いたくて仕方ないのを必死で我慢した。

「仕事以外は本当に困るから……胃が痛くて仕方ないよ」
「は? 敦賀さんの胃、ですか?」

聞き慣れない蓮の言葉に、キョーコは再び顔を上げる。
その表情には疑惑が満ちていた。

「……信じてないね?」
「信じていますけど……胃に関してだけは信用できません」
「……本当だよ。さっきは冗談抜きで痛かった」
「さっき?」
「下着は散らばっているし、裸で寝ているし……う……いや、驚いたというか……」
「それは……申し訳ありませんでした……と、とんだ奇行で敦賀さんの胃を痛めるなんて……」
「いや、謝らなくていい……俺の方がちょっとどうかしてた」
「でも、胃が動いたんですねぇ……」
「……頼むからそれを狙って何かしようとか考えないでくれないかな……ご飯はちゃんと食べる」
「…………」
「キョーコ」
「な! 何も考えていませんよ? 本当です、本当」
「…………」

いかにも何か企んでいるような顔で考え込んだキョーコに蓮は困惑したが、やましい事など微塵もないといったその様子には密かに安堵する。
心配性すぎる自分を馬鹿だなと笑い飛ばした所で一気に疲れを感じ、蓮は倒れるようにぱたりとベッドに横になった。

「さすがに疲れたかな……」
「あっ、そうですよね。もう眠りましょう」

そう言ったキョーコが毛布に包まったまま移動しようとした時、蓮がその毛布を引っ張ってキョーコを足止めした。

「なんですか?」
「一緒に寝よう。もう、今日はここでいい」
「はい……あの、パジャマ着て来ます」
「必要ないよ……どうせ朝になれば脱ぐし……」
「なっ……そ、それはっ」
「挽回させて欲しいんだけど?」
「うっ……や、あの」
「でないと安心して眠れない」
「……っ」
「ほら……早く」

蓮はそう言ってキョーコを引き寄せると、その身を包んでいた毛布を奪った。
黒のランジェリー一式とその他を抱かかえたキョーコの白い身体が露になる。

「ひゃっ」

大きく広げた毛布の中に全裸のキョーコを引き込み、その胸に抱えると、蓮はベッドサイドの灯りを消した。

「はい……おやすみ」
「お、おやすみなさい……」

戸惑うキョーコに就寝を告げると、蓮は今にも寝入ってしまいそうなボソボソとした声で、キョーコに今日の予定を告げた。

「移動は早めたし……夕方の打ち合わせが延びたから……今日は久しぶりに予定がないんだ……昼頃電話は来るかも……だから……」
「そうなんですか……じゃあゆっくりできますね」
「キョーコは……」
「私も今日は予定ないですよ」
「そっか……よかった……」

キョーコの言葉を聞いた後、蓮はその口元に笑みを浮かべながら目を閉じ、規則正しい寝息を立て始めた。
その顔はやはり安心しきった子供のように無邪気で穏やか、そして幸せそうな顔だった。

(もう……なんか全部反則。勝てる気がしない……)

そんな事を思いながら、キョーコは困ったような、でもどこか嬉しそうな顔で蓮の寝顔を見つめていた。
そして、心配事が全て蓮によって吹き飛ばされたこともあり、あっという間に眠りについてしまった。



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