--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Cutie Honey─4

2012年11月24日 12:08


Cutie Honey─4





おはようございます!
昨日は電話に出られなくてごめんなさい。
もうお仕事中ですよね。
体調に気をつけて頑張って下さい。



***



深夜の高速道路を蓮の車はひた走る。
助手席で社は欠伸をしながらぶつぶつと文句を言っていた。

「まぁったく……言い出したら聞かないんだから」
「……社さんは無理せずに今日は泊まって、明日ゆっくりの移動でよかったんですよ?」
「やだよ。気になってゆっくりなんてできない。お前が飛ばし過ぎで事故ったりしたら大変だし」
「……そんな無茶はしません」
「どうだか……うっかりスピードが出ちゃって、とかありそうだし。車が車だし怖いよ」
「…………」

特に反論しないまま、蓮は黙ってハンドルを握り、前を向いている。
社は手袋をした手で荷物から携帯を取り出し、開いた。

「俺だけキョーコちゃんと電話で話してたから拗ねてるわけじゃないよな?」
「違います」
「キョーコちゃん忙しそうだったからお弁当のお礼言ってすぐ終わったし……お前はその頃絶賛仕事中だったし」
「わかってますよ。拗ねてるわけじゃないんです」
「ほーら、さっきも言った通り、着信の時間はお前のメールが先だろ?」
「…………」

自分の方に、着信履歴を表示させたディスプレイを向けてくる社を、蓮は呆れた目で一瞥した。

「違うって言ってるじゃありませんか」
「じゃあなんでずっとそんな難しい顔してるんだ……メールも電話もしてあげてない」
「それは……」
「キョーコちゃんが電話に出ないって、朝は死にそうな顔してたくせに」
「…………」
「お前の電話に出られなかったって、キョーコちゃん気にしてたぞ」
「そ、そうなんですか……」
「休憩時間にでもきっと電話するよ、なんて言っちゃった俺の立場がない」
「これから帰るんですから……いいじゃないですか……」
「何考えてるのか知らないけど……途中で寝るわ、メールも電話もくれないわ、こんなに急いで帰ったって、キョーコちゃん、ショックで家出してるんじゃないか?」
「……っ」

急に車のスピードが落ちていく。
制限速度よりも幾らか遅めの速度で走行しながら、蓮は顔色を青くし、苦しげな表情になった。
そんな蓮を見て、社は驚き、少し慌てた。

「お、おいおい、どうした? どっか具合悪いのか?」
「……り」
「なんだ?」
「やっぱり……メール位したほうが……いいですかね……」
「……なんだよ、今頃」

蓮の言葉を聞き、社の体から力が抜ける。
前に向き直り、蓮にはわからないように小さく溜息をついた。

「冗談だよ。本気にするなよ」
「…………」
「結局……なんなんだ?」
「あ……」

社の問いに対し、蓮はしばらく答えを言い淀んでいたが、意を決したように話し出した。

「片手間で済ませたくなかったんです」
「ん?」
「昨日の夜、電話でちゃんと話したかったんですが……出てくれなかったのは……やっぱりちょっと怒ってたりするのかなと」
「今朝の電話ではキョーコちゃん普通だったぞ」
「メールも……まぁ普通な……感じだった……んですけど……」
「うん」
「何度も読み返してるうちに、やっぱりちょっと何か……よそよそしいというか、他人行儀というか」
「うーん……」

車が加速して行く。
車線を変更し、前を走る大型トラックを追い越した後、蓮の車はそのままの速度で追い越し車線を走り続けた。

「飛ばし過ぎは駄目だぞ」
「わかってます」
「……まぁ、要するに、一刻も早く直接顔を見て話したいという事か」
「そうです」
「心配性だねぇ」
「…………」
「お前の気にしすぎだと思うけどね。ま、早く帰ればキョーコちゃんも喜んでくれるかな」
「だといいんですけど……」

弱々しい声で最後にそう言うと、蓮は口を噤んだ。
社はそんな蓮を見て苦笑し、前を走る数少ない車の揺れるテールランプをぼんやりと眺めていた。



夜が明けるにはまだ遠い時間。
蓮の車から降りた社は開いた窓から運転席の蓮に声を掛けた。

「それじゃ、お疲れさん。明日……いや、もう今日だな、昼にでも確認の電話はするけど一応休みの方向で」
「はい、わかりました」
「……挽回しようとして変な事すんなよ?」
「な」

社の軽口に、蓮は思い切り顔を顰める。

「しませんよ。今日はもう驚かれる程に大人しいです、俺は」
「はは、まぁ、うまくやれよな。キョーコちゃんによろしく」
「はい……お疲れ様でした」

蓮がそう言った後、開いていた窓がスッと閉まっていき、車はゆっくりと動き出す。

「なんであんなに余裕がないのかなぁ、あいつは」

社はそんな独り言をいいながら、蓮の車が深夜の街角へ消えて行くまで見送っていた。



****



人気のないホールを抜け、最上階へと向かうエレベーターの中で蓮は部屋の鍵を用意し、その手に持っていた。
自分の部屋に帰るだけなのに、妙に緊張している。
心配のしすぎだと言った社の言葉を少しだけ支えにして、自宅の扉の前に立った。
ゆっくりと鍵を開け、扉を開く。
部屋に上がり、リビングの灯りを点けてみれば、室内の様子は何も変わっていない。
それを見てようやく少し落ち着いた。
手荷物を置いた後、寝室の扉にそっと近づく。
どう考えてもキョーコは眠っている時間。
でも、その寝姿だけでも見たくて、静かに扉を開けた。

「え」

いつもの寝室にいつものベッド。
だが、そこに、いつものキョーコの姿はなかった。
一瞬、激しく動揺したものの、蓮はすぐに気を取り直す。
そして、急ぎ足でゲストルームに向かった。
扉のノブに手をかけ、音を立てないようにそうっと開ける。
祈るような気持ちで覗き込んだ部屋の奥、ゲストルームにあるベッドの上。
そこにキョーコの姿を見つけた蓮は胸を撫で下ろした。

(まったく……驚かせてくれるよ……)

なぜキョーコがゲストルームで眠っているのかはわからない。
だが、キョーコが自分を驚かせるのはよくある事だと思い、苦笑する。

(理由は、俺がいなくて寂しいから……とかだといいんだけれど……)

そんな事を考えながら、蓮はそっと扉を閉める。
着替えて軽くシャワーを浴びた後、再びゲストルームに向かった。
話をするのは朝になってからと思っていたが、うっかりすれ違ったりしないように最善を尽くしたかった。
そもそも、キョーコのいない寝室のベッドでは眠れる気がまったくしない。
舞い戻ってきたゲストルーム。
そっとベッドに近づいた。
起こさないよう静かにキョーコの隣に潜り込もうとして、蓮はちょっとした異変に気付く。
背を向けて眠っているキョーコの白い肩がすっと目に入って来た。

(……何も着ていない?)

心臓が大きく脈打った。
そして、隣にもうひとつあるベッドの上に何かが散乱しているのが見えた。
ベッドサイドの灯りを点けた蓮の目に映ったのは、普段あまり見かける事の無い黒のランジェリー。
それがベッドの上に投げ出されたように広がっている。
その他にも、派手な色合いの衣類らしき物が数点。
どれも蓮の記憶には欠片も残っていない物ばかりだった。

「……っ」

蓮は震える手をそっとキョーコの身体に伸ばす。
掛かっていた毛布を静かにゆっくりとずらしていった。
白い肩に滑らかな背中。
触れる度に幸せを感じる、なだらかな腰のライン。
本当は誰にも見せたくない、しなやかで綺麗な長い脚。
それらが全てダイレクトに蓮の目に飛び込んできた。

(本当に……何も着てないのか……)

まるで、家主の留守中に恋人が別の男と浮気でもしていたかのような現場に、蓮はひどく混乱し、動揺する。
実際に男が横にいるわけでもないのに悪い想像が止まらない。
昨晩、電話に出なかった理由はもしかしたらこれと関係があるのかもと余計な事まで思いつく。
焼け付くように熱く苦い想いが蓮の胸の中を渦巻き、普段あるかないかもよくわからない胃がキリキリと痛み出した。
息さえまともにできなくなり、額に嫌な汗が滲み、流れていく。
蓮はベッドの脇に座り込み、顔を伏せるような状態でしばらく動けなくなった。
しかし、深く息を吐きながら顔を上げた時、蓮はなんとか冷静さを取り戻していた。
真面目なキョーコがそんな事をするわけがない。
キョーコを知っている者ならば、誰もが口を揃えてそう言うだろう。
おかしいのは自分のほうだ。
当たり前とも言える場所にようやく思考が到達し、蓮は痛い位に脈打つ心臓を大人しくさせる事に集中した。

(落ち着け……勝手におかしな想像をしてどうする)

床の上でベッドを背凭れにして座り、息を整える。
室内の静寂に身を任せ、頭を冷やした。
乱れた気持ちが静まった頃、蓮はのそりと立ち上がる。
そうして静かにキョーコの眠るベッドの中に潜り込んだ。
起こすつもりはなかった蓮だったが、この現状の理由を聞かないうちは眠れないと思い、背中からキョーコを緩く抱き締めた。

「ん……」

キョーコはゆっくりと寝返りを打ち、蓮の腕の中に転がり込んで来た。
そして、眠そうな目を瞬かせる。

「起こしたかな……ただいま」

まだ寝ぼけている様子のキョーコに蓮はそう囁いた。
落ち着いたはずの心臓が再び早く脈打ち始める。

「あれ……敦賀さん……」

キョーコは蓮の顔を見て嬉しそうににこりと笑う。
そして、そのまま蓮に抱き付いて来た。

「敦賀さんだ……おかえりなさい」
「ん……」

反応が期待通りで、安心し、心持ち緊張していた蓮の気持ちが一気に解れて行く。
全裸のキョーコに甘えるように何度も身体を摺り寄せられ、すぐにでも押し倒したい衝動が沸いたがすぐに抑えた。

「電話……電話なかったので……どうしたのかなって」

キョーコがそう言った時、携帯が枕の上に置いてあるのが見えた。
やはり連絡はしておけばよかったと蓮は少し後悔した。

「ごめん……早く帰りたくてね……」

そう言うと蓮はキョーコを強く抱き締める。
キョーコは蓮の胸に顔を埋めながら、ぼそぼそと話し続けた。

「いいんです……私も電話……出られなかった」
「うん……どうしたのかなって思ってた」
「昨日は……とても……眠くて……早い時間に……」
「……あぁ、そうか……」

メールには書かれていなかった電話に出なかった理由を、半分夢の世界にいるらしいキョーコはあっさりと口にする。
実際に聞いてみればなんでもない理由。
無理をして早く帰って来たが、それで良かったと思った蓮は、今度はこの状況の理由も聞いてみる事にした。

「随分と悩ましい格好で眠ってたみたいだけど……そっちの理由も教えてもらえるかな」
「え……?」

まだ開ききらない目でキョーコは蓮の顔を見つめた。
少しの間、蓮と見つめあったキョーコは、次にゆっくりと顔を自分の身体へと向けていく。
そして、深夜のゲストルームの中に、耳を劈くようなキョーコの悲鳴が響き渡っていった。



コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://kanamomo2010.blog48.fc2.com/tb.php/414-5f42b7b9
    この記事へのトラックバック



    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。