Cutie Honey─3

2012年11月23日 11:26


Cutie Honey─3





キョーコはゆっくりと身体を起こし、ぼんやりと部屋の中を見回した。
リビングの照明が点いているのに、カーテンの隙間から外の光が差し込んでいる。
点けっ放しのテレビ。
ソファの上にいる自分。
パジャマを着た自分がなぜここにいるのか分からず、ふらふらしながらも立ち上がり窓辺へと向かう。
カーテンを開くと外はすっかり明るくなっていた。

「…………」

淡々とニュースを流しているTVには6:15と時刻が表示されていた。

(朝……朝よね……)

ソファで寝てしまっていたらしい自分にびっくりし、ようやくきちんと目が覚めた。
昨日の自分を思い出してみる。
朝はまったく眠らないままに家を出た。
一日の予定は無事に終えたが、帰宅した直後から眠くて仕方なくなってしまった。
いつ寝てしまってもいいように夕飯もシャワーもさっさと済ませ、リビングで一息つく。
そして携帯を握り──
ここで記憶が途切れている。

「携帯っ、携帯どこ?」

慌ててソファの周辺をあちこち探してみる。
携帯はラグの上に転がっていた。
急いでそれを拾い上げる。

「……あっ」

確認してみると、社、蓮、社、蓮の順番で四件の着信履歴があった。

(全然気が付かなかったなんて……でも、社さん……も?)

蓮に電話かメールをしようとしていたはずなのに眠ってしまった上、向こうからの着信をスルーしてしまった事に落胆する。
そして、珍しい時間の社からの着信に、しばらく考え込んだキョーコだったが、すぐにこれは弁当の礼ではないかと思い当たった。
律儀な性格の社らしいと思い、急いで掛け直そうとしたが、時刻は午前六時を過ぎた所。
電話するには躊躇われる時間だった。
早い時間から始まる現場だと聞いている。
もしかしたら一番バタバタしている時間かもしれなかった。
蓮も同じだろうと思い、もう少し時間が経ってからと考え、携帯を閉じる。
だが、蓮にメールを入れておく位ならいいのではと思い直し、もう一度携帯を開いた。

おはようございます!
昨晩はうっかり早い時間から寝てしまって電話に出られま

「…………」

途中まで打って、指を止める。
蓮からの最初の着信は昨晩の午後十時頃だった。
さすがにキョーコも普段十時に寝てしまう事は滅多にない。

(寝不足だったのを感じさせる内容は……や、やめようかな……)

今考えると、時間を持て余し、つい凝ってしまった弁当も眠れなかった事をアピールをしていたように思えた。

(大丈夫だったかなぁ……自分だけ悶々として眠れませんでしたとか、言えない……は、恥ずかしい……)

少しドキドキしながら、打った文章を一旦消した。
そして新たに打ち直そうとしている間に、キョーコの頭の中であの夜の事が再生され始めた。



****



「あっ……ああ…ん……だ、だめですっ」

キョーコの抵抗をものともせず、蓮の指先はするりとキョーコの中へと侵入してくる。
長い指先が弄る場所は、もう既に濡れていて軽く掻き回されただけでその中から熱いものがとろりと溢れ出た。
口では抵抗を続けながらも身体はあっさりと反応している。
キョーコの頬はかっと熱くなり、その熱は全身に廻っていく。
一番敏感な部分が執拗に刺激され始め、蓮を制止しようとする言葉は全て小さな喘ぎ声に変わってしまう。
それでもまだキョーコの中に残っていた理性の欠片が最後の抵抗を試みた。

「敦賀さんっ」

上擦った、か細い声の中に、キョーコは辛うじて非難の色を滲ませる事ができた。
すると蓮はついと身体を起こし、静かにキョーコから離れていく。
なんとか思い止ませる事ができたのだろうかとキョーコが思った時、寝室の灯りが消えた。

「え」

突然の暗闇に目が慣れず、キョーコが戸惑っていると脚に蓮の手が添えられるのを感じた。
心臓が小さく跳ねる。
何が起きるのかキョーコが気付く前に、その両脚は大きく開かれていた。

「あっ」

咄嗟に閉じようとした脚は逆に蓮の身体を自分に引き寄せるような形になってしまう。
入口にぴたりと当てられた熱くて硬いもの。
それを感じた時、キョーコの身体が少し震えたのは怯えからでは無く明らかに期待したからだった。
残っていた僅かな理性は暗闇に溶けて消えて行く。
ゆっくりと、でも躊躇無く入り込んできた蓮を、キョーコも自ら腰を浮かして受け入れた。

「あっ、あっ」

蓮は最初から激しく何度も出入りを繰り返す。
熱く濡れたキョーコの中はそれを絡め取るかのように締め付けた。
激しく揺り動かされる度に受ける刺激。
それはキョーコの身体の奥でしばらく眠っていた快感を容赦なく目覚めさせ、引き摺り出していく。

「あぁっ……敦賀さ……ん……もっと……」

掠れた声で蓮の名を呼んだ時、蓮もキョーコの名を呼んだ。
それに続いて小さく漏れた声はいつもの甘い囁きとは違い、切羽詰ったように苦しげな呻き。
余裕の無い蓮の声がキョーコの下腹部を熱く痺れさせ、快感を増長させる。
思わず仰け反ったキョーコの白い首筋に吸い付くように、蓮はキョーコを苦しい位に強く抱き締めた。
震える手でキョーコも蓮を抱き締め返したが──そこで蓮の動きが止まった。

「やっ……つ、敦賀……さんっ」

キョーコは最初、蓮が焦らしているのだと思った。
思わず強請るように身体を摺り寄せてみたが、何も言わずただ動かないだけの蓮の様子がおかしいと気付いた。
さっきよりも重く感じる蓮の身体。
もしかしたら具合でも悪くなったのではと思い、キョーコの熱が急激に冷めていく。
狼狽えたキョーコは大慌てで何度も蓮の名を呼んだ。

「敦賀さん! あ、あの、敦賀さん?」
「…………」
「敦賀さんっ」

必死の呼びかけにも蓮は反応しない。
やがて、焦りまくっていたキョーコの耳に規則正しい寝息が聞こえて来た。

「う……そ……」

蓮は眠っている。
初めての遭遇した予想もしていなかった事態。
呆然としたキョーコは、蓮に押しつぶされるような状態で硬直していた。

(ど、どうしたらいいの、これ……)

蓮は一向に目覚める様子がない。
キョーコはどうにかして蓮の下から抜け出そうとした。
しかし、まだ自分の中にいる蓮のせいで動く度にじわじわと疼くような快感に一人襲われる。
それはどこか中途半端でキョーコを困らせるだけだった。
自分を持て余し、どうする事も出来ないキョーコは途方に暮れる。
しばらくの間、じっとしているしかできなかったキョーコだったが、ふと、昔、蓮が熱で倒れた時の事を思い出した。
芝居の台詞に反応して意識を取り戻した蓮──

(そうだ……あの時の方法なら!)

名案だと思ったキョーコは、即席で適当な台詞を考えた。

「おはよう! 早く起きないと遅刻っ……する……わよっ?」

言っている途中で、きっかけとなる実際の台本の台詞がなければ効果がないのではと思い当たり、なんだか半端な台詞回しになる。
ぐだぐだな自分にキョーコが少しがっかりした頃、何の予告も無く蓮がむくりと起き上がった。

「あ……」

やっと蓮が起きてくれたと思い、キョーコはホッとする。
しかし、薄暗闇で見た蓮の目はどこかぼんやりしている。
そして、キョーコを見ると、その顔にゆっくりと自分の顔を近づけてきた。

「えっ? あ、あの、敦賀さ」

蓮はキョーコの頬にちゅ、と軽く音を立てながらキスをした。

「へっ?」

困惑するキョーコをよそに、蓮は何も言わないまま、キョーコからするりとその身を離す。
そして、のろのろとした動作で自分の身の回りの事を片付けていった。
ベッドサイドの明かりまでつけ、脱ぎ捨てられていたパジャマを探し出す蓮。
きちんと着終わった後、ベッドの上でただ固まっていた状態のキョーコの傍にその身を横たえた。
どうしたらいいかわからないキョーコの身体を引き寄せ、乱れていた毛布をきっちりとかけ直す。
そうして何事もなかったかのようにまた目を閉じてしまった。

「…………」

再び聞こえて来た、蓮の規則正しい寝息。
キョーコをぎゅっと抱き締め、口元に微笑を湛えたその顔は子供のように無邪気でとても幸せそうだった。
それを見たキョーコは、もう蓮を無理に起こす事などできなくなってしまった。
自分もこのまま眠ってしまえばいい。
そう思ったキョーコだったが、身体の芯に残る熱を自分で上手く消す事ができない。
そして、色々な感情が頭の中を駆け巡り、目は冴えていく一方だった。
結局、キョーコは眠るのを諦め、蓮の腕から少し力が抜けてきた頃を見計らい、ベッドを抜け出す事にした。



****



「はぁ~……」

キョーコは力の抜けた長い溜息をつく。
メールを打つ指は止まっていた。
蓮は疲れていたのだろうとは思ったが、最中に寝られてしまった事はやはりキョーコにはショックな出来事だった。

──寧ろ、もう少しつまらなくなってもいい位だよ……身が持たない

以前、蓮が言っていた言葉を思い出す。
もしかしたらあれが早くも現実となってやって来たのではないか。

(敦賀さんの身が持っちゃうから……それはそれでいい事よね、いつも忙しいんだし……ふふふ)

どんよりとした顔でそんな事を考え、キョーコは自虐的に笑う。
蓮があの夜の事をどこまで覚えているか分からない。
出掛け間際の蓮はとても普通だった。
普通すぎて、キョーコからは何も言い出せず、笑って見送るのが精一杯だった。
その後、キョーコの気持ちはどんどんマイナスな方向へと傾き始めたが、自分を抱き締めながら幸せそうに眠っていた蓮の顔が辛うじてどん底まで落ちるのを阻止していた。

(まだ……まだ、ギリギリ大丈夫な……はず……)

凹んでいる暇があるなら、自分を変えていこう。
自分に足りない色気を蓮が底上げしてくれているうちに、女性としての自分を磨いていこう。
僅かに残った希望を胸に、キョーコはなんとか前向きに考える事が出来ていた。

「よ、よしっ……とりあえずメールを」

キョーコは再び携帯のボタンをゆっくりと押し始めた。

おはようございます!
昨日は電話に出られなくてごめんなさい。
お帰りは明日ですよね。
体調に気をつけて頑張って下さい。

「…………」

なんとか捻り出して打ち込んだ、当たり障りの無い文面を見て、キョーコは静かに固まった。

(なんだか……メールの文章にまで……色気がないような気がしてきた……)

もう少し何かあるだろうと必死に考えるが、色々と気を回しすぎて一向にまとまらない。
普段、自分が蓮とどんなメールを交わしていたかさえもよくわからなくなった。
携帯を握り締めて四苦八苦している内に、時間だけがどんどんと過ぎていく。

(ええいっ、もう、これで!)

出掛ける準備を始めなければいけない時間が迫り、焦ったキョーコは結局最初とあまり変わらない文面でメールの発信ボタンを押した。



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