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招かれざる客─4

2012年08月31日 00:29

最終話です。
これを書いてみたかったっていう(汗 すいません、ホント←

お付き合い下さった方々ありがとうございます~


招かれざる客─4





玄関の中で、尚は腕組みをしながら不愉快極まりないといった表情で廊下の向こうのリビングを睨みつけていた。

(くそっ、危うくあいつらの思惑通りに追い出される所だったぜ…)

部屋から外に出る寸前、尚は正気に戻り、足を止めた。
すぐにでも飛び出さんばかりだった勢いは扉を思い切り閉める事でなんとか収めた。
即、リビングに取って返したかったが、頭に上った血を下げるために、尚はしばらく玄関の扉の前で一人静かに佇んでいた。

(あいつらが役者だって事を忘れてた……ったく、なんか腹立つな……)

急に様子を変えたキョーコにはただ驚いただけだったが、取ってつけた様な笑顔を自分に向けてきた蓮を思い出しイライラが再発する。
一度はやり込めたつもりだっただけに、余裕を持って返されたのがより一層腹立たしかった。

(なにが泊まってけだ、ふざけやがって、あのヤロー……っていうかキョーコの奴、本当に泊まっていくのか?)

蓮とキョーコが"そういう関係"だとはなんとなく察しがついている。
しかし尚は、キョーコがそういう方面には奥手であったという事を知りすぎるほどに知っていたため、どこか半信半疑だった。
蓮がキョーコを大事にするあまり、本当は最後まで手を出しきっていないのでは。
そんな妄想に近い推測が、尚の中に漠然と存在していた。
地味で色気がないとは言い難いキョーコの顔を何度となく見ては来た。
だがその一方で、ちょっと突けばキョーコは相変わらず子供の様にムキになり、険しい顔ばかりしている。
"大人の女の顔"は、女優で大成する事を目指すキョーコのよくできた演技だとしか思えなかった。

(さっきみたいにたまに出てくんのは……そうだろ?)

そう考えるのが尚にとっては一番しっくりくる。
しかし、時折出現するそんなキョーコの後押しをしているのが蓮だ、という考えに至り、また少し頭に血が上り始めた。

「…………」

不機嫌に睨み付けたリビングからはなんの物音も聞こえない。
それなりに長い時間、突っ立ったままの自分に気づき、尚は二人の様子が気になり始めた。

(俺をネタにして……イチャついてんじゃねえだろうな)

そう考えるとじっとしていられなくなり、再び部屋の中へと上がりこむ。
イチャイチャしていたら怒鳴りつけて驚かしてやろうなどと考え、忍び足で足を進めた。
リビングに至るまでの短い間。
尚は無意識の内に、見る事によって受ける衝撃を少しでも和らげるために、仲睦まじいと思われるような二人の様子を何パターンも頭の中で思い描いていた。
しかし、その尚の想像上のキョーコは、恋に恋しているような夢見る乙女の姿。
尚の中にある、昔のキョーコの記憶がどうしても強く影響してしまい、無邪気にはしゃいでいるだけの実に微笑ましいものばかりだった。
キョーコが垣間見せてきた大人の顔は、蓮によって引き出されたものだという考えを全力で否定し、あれは全てキョーコの作り物だと決め付ける。
女優としての実力はそれなりについてきたようだな、などと上から目線でキョーコを褒め称える事によって"キョーコの事ならなんでも知っている自分"を死守した。
色々な事実から目を逸らし、すぐにでも叫ばんばかりの勢いで尚はリビングに舞い戻る。
だが、そこに二人の姿はなかった。

(なんだ……どこ行きやがった、あいつら)

ゆっくり室内を見回しながら、探しに行くかどうかを迷う。
勝手が分からないため、どこをどう探していいのか尚には見当が付かない。
無駄にウロウロし、どちらか片方に変なタイミングで遭遇するのは少し格好が悪い気がする。
不完全燃焼ながらも、大人しく撤退するしかないか、と尚が思った時、妙な音が聞こえた。

「?」

何かが軋む音。
音のする方向に視線を向ける。
さっきまで自分が座っていた、部屋の中央に置かれている大きなソファ。
じっと見つめていると、今度はキョーコのものらしき小さな声が聞こえた。

「あっ……」

上擦ったような、か細く高いその声は、それだけで尚に今何が行われているかを知らしめているようだった。
激しい動揺と燃え上がるような憤怒。
瞬く間に脳内を淫らな想像が埋め尽くした。

(いや! ど、どうせ、肩揉んでただの、マッサージ中だの……そういうオチだろ!?)

強引にそう思い込み、確かめようとしたが、どうしても前に一歩踏み出せない。
そうこうしている間に、ソファの背凭れを掴んで身体を起こす蓮の姿が目に入った。
尚は思わず後退り、リビングを出ると通路の壁に張り付く様にして身を隠した。

「ほら……キョーコ」
「んんっ……」

ちゃんと聞こえたのは最初だけで、その後も続いている二人の会話はぼそぼそとしていてよく聞こえなかった。
尚は息を潜め、リビングから聞こえてくる音に耳を集中させた。

「あっ……あっ……」

その尚の耳に入って来たのは、リズムを刻むように発せられるキョーコのどこか切ない声。
耳障りなソファの軋む音。
何度も何度も繰り返し聞こえてくるそれらは少しずつ大きくなり、時にそのリズムを乱す。
その度に高く上がるキョーコの声は明らかに嬌声だった。
別人かと思うほどに扇情的で色気のあるその声音に身体が反応し始める。
尚は思わず耳を手で覆ったが、そんな抵抗は無駄だとばかりにキョーコのよく通る声が廊下にまで響き渡った。

「つ……敦賀さん……あ、あ、やっ……そこだめぇ……」

帰ろう。
一刻も早くこんな部屋から出て行こう。
ぐらぐらする頭を抑えながら、尚はそう思い、玄関に向かって歩き出そうとしたが、足がうまく動かない。
息をするだけで心臓が痛くなり、服の上から握り潰すような勢いで掴みながら、尚は壁を伝うようにしてようやく歩き出した。
しかし、それを引き止めるかのように一際高いキョーコの声が聞こえてきた。

「ああっ……あっ、そこ……気持ちい……あ、あ、あ……も、だめ、もう、い、い……いっちゃうっ」

キョーコの声で聞かせられる艶かしく生々しい行為の進捗。
尚はゆっくりと顔をリビングの方へと向ける。
走って逃げ出したい気持ちは、中の様子を見たいという、ある意味素直で単純な欲望にとって代わられていた。
激しく脈打つ心臓を押さえ、息を殺し、細心の注意を払ってリビングに再度近づいていく。

「あっ……あぁっ……」

リビングを覗き込んだ尚の目に映ったのはソファの背越しに見える蓮の姿だけ。
予想とは少し違う光景を見て、尚の中に落胆する気持ちと安堵する気持ちが同時に生じ、複雑に混ざり合う。
しかし、下を向いている蓮の横顔のすぐ傍にあった、無造作に突き出ている白い物がキョーコの足先だという事に気付き、全身の血が逆流するような感覚に囚われた。

「もう……いっちゃった?」
「だって……あっ、あ……ん」
「まだ気持ちいい?」
「あっ、やっ……やだっ……つ、敦賀さん……お願い……抜いて……」
「……ダメ」
「んんっ……お……かしくなっちゃう……」
「なっていいよ……」

低く響く蓮の声と、どこか媚びたようなキョーコの甘ったるい掠れた声が、嫌になる程にはっきりと尚の耳に届く。
蓮がゆっくりと身を沈めていくと、ちらちらと見え隠れしていたキョーコの足が大きく揺れ、高く上がった。
微かに聞こえる濡れて湿った音。
悲鳴のようなキョーコの高い声が広いリビングに響く。
尚は食い入るようにソファを見つめ続けていた。
身体の奥から突き上げるような衝動が湧いて来る。
そんな尚を咎めるかのように、持っていたスマートフォンが突然震えだした。

「!」

それほど大きな音がしたわけでもなかったが、尚は心臓が飛び出しそうになる位に驚いた。
慌てふためいて確認しようとした手が震え、するりと滑る。
大きく鈍い落下音が室内に響き渡った。
焦った尚はそれを掴みあげると、今度こそ、この場を立ち去ろうと玄関へと急ぐ。
しかし、駆け出してしまうのは尻尾を巻いて逃げるように思え、あえてゆっくりと歩いた。
こんな時にでも顔を出してしまう無駄に高いプライドのせいで、玄関の扉を開く前に、背後からの殺気に追いついかれる。
部屋全体が揺れ動いたのかと思う程の重低音がすぐ後ろからし、恐る恐る振り向くと、壁に拳を当てた状態の蓮が今にも殴りかかってきそうな凶悪な顔で尚を睨みつけていた。

「……っ」

全開になっているシャツの間からむき出しになっている鍛え上げられた身体。
雑に穿いたらしい黒のジーンズは前のボタンが外れている。
さっき見た時より明らかに乱れた髪は汗で濡れて艶を持ち、妖しい雰囲気を醸し出していた。

「はは……」

いかにも途中で飛んで来ましたといった風体のイイ男を、尚はせせら笑ってやろうとしたが、出てきたのは弱々しい愛想笑いの様なものだけ。
蓮の尋常ではない目付きに恐怖を感じ、視線を合わせる事無く、たじろいでいる。
そんな尚を見て、怒りで満ちていた蓮のオーラが僅かに緩む。
しかし、次に現れたのはどこか昏く、禍々しささえ感じさせる歪んだ微笑だった。

「野暮にも……程があるよ?」

蓮のその表情と言葉に、尚は顔を引き攣らせ、何一つ言い返す事ができない。
壁に付いていた手を放した蓮は、今度は両手の平を尚に向け、蔑むような目で言った。

「残念ながら、君の頭の中から、今ここで見聞きした事を奪い返すなんていう芸当はできない」
「…………」
「だから、幼馴染の君へのささやかなプレゼントという事にしてやるよ……ご自由にどうぞ?」
「なっ……」

小馬鹿にしたような蓮の態度。
そして、最後の言葉に込められた意味をうっすら感じ取り、尚はかっと頭に血が上る。
思わず手が出そうになった瞬間、蓮の後ろから平たくて硬い何かが飛んできて尚の顔面を直撃した。

「うわっ! いてぇ、なんだ!?」

派手な音を立てて床に落ちたのは、グラスを運ぶのに使われていたプラスティック製のトレー。
そして次にキョーコの激しい怒鳴り声が尚を目掛けて飛んで来た。

「変態!! 痴漢!! 覗き魔!! 毛虫!! 変質者!! 信じられない、バカショー!! この最低男!!」

様々な罵りの言葉と共に、小さな衝撃を体中に感じる。
滅多打ちにあったような気がしてぐらつきながら、尚は蓮の後ろに居たキョーコを見た。
蓮と同じように髪は乱れていたものの、きちんと整えられた服装をしていたキョーコは目を吊り上げて一通り叫んだ後、少しフラフラしながらリビングに引き返して行く。
再び大急ぎで駆け戻って来たその両手には、空になったグラスが三つ抱えられていた。

「あ、キョーコそれはちょっと」
「ここで止めを刺さなきゃいつ殺るんです!? こんな男、抹殺した方が世のためです!」
「否定はしないけどグラスじゃちょっとね」
「急所を狙えばなんとかなります! 二度とこの部屋の敷居を跨がせないためにも! あ、そうだ、塩! 塩を」
「……もう二度と来ねぇよ!!」

怒り狂ったキョーコに毒気を抜かれた形になった尚は最後にそう言い放つと、乱暴に扉を開閉して部屋を出る。
勢い良く通路を闊歩し、ボタンを押すと同時に扉が開いたエレベーターに飛び乗った。
一階のボタンを押し、扉を閉めると、静かな空間がゆっくりと動き出す。
壁に寄りかかって一息ついた後、尚は力が抜け、ずるずると床に座り込んでいった。
何も考えられないまま、叱られた子供のように膝を抱える。
少しすると、ずっと掴んでいたままのスマートフォンが再度震え出した。
のろのろとした動作で、その画面に目を落とし、軽く指先を当てる。

『尚? やっと出た! 本当に一体何してるの? いつまで経っても来ないから心配して』

自分を心配する祥子の声が尚には妙に懐かしく感じられた。

「今、向かってるから……すぐ行く」
『本当ね? もう、あんまり心配させないで』
「あー…ホント……ごめん」
『尚、あなた……大丈夫? 何か変よ』
「…………」

自分でも気落ちした声だなと思うものの、どうしてもいつものようには喋る事ができない。
何があったのか聞かれても答えられないなと思った尚は自分を立て直す努力をしたが、結果しばらく黙り込む事になった。

『……結局、さっきの娘は……どうだったの?』

沈黙に痺れを切らしたのか、祥子が再び尚に話し掛けた。

「ん……」
『やっぱりキョーコちゃんだったんでしょう?』
「違った」
『えっ!? 人違い?』
「いや……やっぱりキョーコかな……」
『……よくわからないわ、どういう事?』

電子音と共に扉が開く。
尚は腰を上げ、エレベーターを降りた。
しんとしたマンションのエントランスをゆっくり歩きながら、尚は祥子の問いに答える。

「俺もよくわかんねぇ……どれが本当のキョーコなんだか」
『え?』
「あぁ、いや……俺がそれを知らねーだけなのかもしれねぇな」
『…………』

独り言の様な尚の呟きに祥子からはもう何も返っては来なかった。



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