Dream Breaker

2012年07月26日 01:27

ひっそりと久々の更新です。
原作の影響で若干ダークな内容(当社比)となっております。





胸元が肌蹴た白いシャツを着た俺が
禍々しい笑みを浮かべてこちら側を見ている
頬からシャツまで返り血を浴びたように汚れていて
モノクロの画面の中でその赤だけが鮮明に浮かび上がっていた

いつも型通りではつまらないからと
撮影の最後に撮られた、少し変わった趣向の数枚
カメラマンの意向に沿うように努力した俺の中から
選ばれた一枚に写っていたのは、紛れもない"アイツ"だった

それほど珍しい演出というわけでもなかったが
評判はそれなりに良かったようだ
仕事に生かせてよかったじゃないか
そう自分に言い聞かせ
渦巻く感情は全て押し殺した

仕事は滞りなく
彼女も毎日傍に居る
あんな写真一枚で何が変わるわけでもない
そう思いながら俺はいつも通りに日々を送る

反動は──夜に現れた

瞼を閉じ、眠りに落ちると
たちまち引き戻されていく、あの日のあの時間へ
まざまざと蘇るあの街角
俺は手を血に染めながらあいつを追う
止める手を振り解き
獲物を追う喜びを感じながら
最悪の瞬間に向かってひた走る

怖いのはその夢の中で
俺は完全にクオンになってしまうという事
過去の残像を見ているのだという意識はなく
そこに『敦賀蓮』は欠片も存在していなかった

朝の光で目覚めた後も、正しい"今"がわからない
緩やかに侵食されていく俺が
いつも通りに過ごせるようになれるのは彼女のお陰だ

混濁し始めた過去と現実
今夜こそは逃れたいと思い
彼女を抱きしめて眠った時は
彼女に余計な心配をかけてしまう事になった

「なんだかすごく顔色が悪くて……」
「え……あぁ……」
「大丈夫ですか?」
「うん、少し……夢見が悪かったかな……」
「…………」

朝に出会う彼女の笑顔が日々少しずつ曇っていく
早くなんとかしなくてはと焦れば焦るほど
底の見えない深みに嵌っていくのを感じた

今日もまた夜が来た
いっそ眠れなければいいのにと思うのに
目を閉じれば吸い込まれるように闇に落ちていく
隣で眠る彼女から少し距離を取った
これから始まる悪夢に
彼女を巻き込んでしまわないように──


***


数日前から気になっていた彼の様子
いつも通りの笑顔なのに何かが違う
ちょっとでも触れたら壊れて砕けてしまいそうな脆い感触
彼に抱きしめられながら眠った夜に
その原因をようやく見つけた

「なんだかすごく顔色が悪くて……」
「え……あぁ……」
「大丈夫ですか?」
「うん、少し……夢見が悪かったかな……」
「…………」

いつも一緒に眠っているのに
気が付かなかった自分が不甲斐無い
彼に付き纏っている悪夢
いつから続いていたのだろう

どんなに悩んでいたとしても自ら口を開く事はなかなか無い
彼はそういう人だとわかっているけれど
それを寂しく思ってしまうのは私の我侭なのだろう


再び訪れた夜
浅い眠りから目を覚まし
ベッド中でそっと彼の様子を窺った
眠っている彼の顔色は透ける様に青白く
今にも闇の中に溶けていってしまいそうで怖くなった

「敦賀さん」
「…………」
「敦賀さん……大丈夫ですか?」
「…………」

我慢できずについ彼を揺り動かした
触れた身体はどこか冷たくて
私の手と心の中までもが一緒に冷えていくような気がした

やがてゆっくりと開かれた彼の瞳
それを見て思わず息を呑んだ
仄暗い狂気が滲む昏い瞳
それは明らかにいつもの彼のものじゃなかった

「……っ」

何も言えなくなった私の目の前で
彼の瞼は再び閉じられていく
泣きそうになりながらも、ただ傍に居るだけしか出来ず
祈るような気持ちで朝が来るのを待っていた

朝が来て目を覚ました彼は
いつも通りに穏やかに微笑んだ
私もいつも通りに笑ったつもりだったけれど
彼が少し不思議そうな顔をしたので慌ててしまう
心配する私を見れば彼はきっと気を使う
そうさせないようにと、何気ない振りをして目を逸らした
何も出来なかった自分からも──


彼の奥底に在る、光が決して届くことはない暗く深い闇
このままただ眺めているだけでいたくなかった
深く刻まれた暗闇は
簡単に消す事はできないけれど
染み出し、見えてきた部分までを放置なんてできない

消す事ができないのなら
壊してしまえばいいと思った


今夜もまた深く闇に沈んでいる彼を見つけ
私は寝室をそっと抜け出した

魔法のアイテムと称して手に入れた真っ紅なグロスを
震える手で何度も鏡の前で塗り直す
こっそり持ち出した彼のシャツを羽織ったその中は
散々悩んだ末に、何も身に付けない事にした
色気が足りないのは百も承知
驚いて戻ってきてくれればそれでいい

寝室に漂う夜の闇がとても重く感じられる
カーテンの隙間からうっすらと差し込む月の光が
まるで自分に手を貸してくれているかのように思えた
緊張で少し震える紅い唇と
破廉恥ではしたないと思えるような格好が
彼の夢に強引に飛び込んでしまうための
私の用意できた数少ない武器
色仕掛けなんて事しか思いつかなかった自分がちょっと情けなかったけれど
彼の沈む悪夢よりは勝っていると思いたかった

今考えると随分と乱暴な手段
この夜の私はかなり切羽詰まっていた
足音を立てずできるだけ静かにベッドへと舞い戻り
眠っている彼の腕に手を伸ばした──


***


再び始まる惨劇の夜
夢は少しずつ変化して、俺とあの男の距離が縮んでいる
あと少しで手が届く
どこかで誰かの悲鳴を聞きながら、俺はあの男を追い続け
その腕を掴もうとした瞬間、反対に後ろから自分の腕を強く引っ張られた

「……っ」

立ち止まってしまった俺から逃げていく獲物
舌打ちしながらその背中を憎々しげに見つめ
邪魔をした奴の顔を確かめるために振り向くと
妙に艶かしい紅い唇が目に入った

「……誰だ?」

茶色い髪の見知らぬ女
いや、知っているはずだと思った
誰よりもよく知っているはずなのに、何かが違う
思い出したい記憶と目の前にあるものが異なる事で激しく苛立った
苛立ち紛れに掴まれた腕を力任せに振り払うと
女の軽い身体はあっさりと飛んでいき、ベッドの上に横倒しになった

羽織っただけの、大きすぎるシャツ
その下は何も身につけておらず、小振りな乳房が露になっている
剥き出しになった白い肌の柔らかな曲線美
どうしても目が引き寄せられ、心臓の鼓動が早くなった

そんな自分を誤魔化すように俺は女を睨み付ける
女はゆっくり身を起こし、俺の方に振り向いた
紅い唇の端を禍々しくつり上げ
その白い肌を隠そうともせず近づいてくる
退けようとしたのに、なぜか身体は動かない

首に縋り付かれた俺はシーツの上に押し倒される
生暖かい舌の感触
それはじわじわと首筋から上へと移動していく
耳朶が弄ばれるようになぞられていき、吐息の音が聞こえ
はっきりとしない思考の中で身体だけが正直に快感を予感した
しかし、次の瞬間、鋭く激しい痛みがそれを吹き飛ばした

「うっ」

強く噛まれた耳に思わず手を当てる
女はぱっと身を離し、顔を歪めた俺を見て面白そうに笑った
神経に障る、嘲笑ともとれる笑い声
品無く笑うその姿に俺の中で怒りにも似た感情が湧いた

「やめろ」

俺は女の肩を掴み、ベッドの上に叩きつける様に押し倒す
華奢な身体は少し力を入れただけで壊れそうだった
それでも女は口を閉ざそうとせず
今度は俺を罵り始めた
次々と飛び出してくる屈辱的な言葉
それは俺の心の奥底にひっそりと在った
突かれたら痛い、とても弱い場所を
悉く的確に、そして容赦なく深く突き刺していく

耐えられなくなった俺は女の首に手をかけた
片手で簡単に握り潰せそうな、か細い首
女の顔から表情が消え、その口はぴたりと閉じた
何の抵抗も見せない様子に気を良くした俺は
頭の中で激しく鳴り響いていた警鐘を無視し
昏い欲望に身を任せ、そのまま手に力を入れた

──入れたつもりだった

手は引き攣ったように痙攣し
指先は見っとも無い位に大きく震えていた
熱かった体から冷たい汗が流れ落ち、体温が奪われていく

とても、大事なものを、壊した、と、思った

理由のわからない絶望感に打ちひしがれ
闇もなければ光もない空虚な世界で一人
俺は氷のように固まった
身体も思考も何もかも凍りつき、ただ呆然としていた俺を
女は黙って見つめ、その首にかかっていた手をあっさりと振りほどいた
そっと包み込むようにして頬に寄せられた優しい温もり
冷たい身体に与えられたそれはどこかにある記憶を大きく揺さぶった

「それでも……愛してるんです」

静かに、そして穏やかに囁かれたその言葉は
俺の中で止まっていた時間を動かし
凍り付いていた記憶を一瞬で蘇らせてくれた

懐かしい彼女の声
思い出した今の自分
戻ってきた愛しい現実
震える手で彼女の身体をしっかりと抱きしめ
子供のように何度も彼女の名を呼ぶと
同じように彼女も俺の名を呼び返してくれる

いつものベッドの上で
どれ位そうしていたのかわからない
愛しい胸に顔を埋めながら
彼女がくれた言葉を頭の中で呪文の様に繰り返す
最強の魔法だねと言いたかったのだけれど
まだ遠かった朝と彼女の中の暖かさが
俺を再び夢の中へと誘っていく
それはきっと、目を覚まして一日が始まれば
覚えておく事もできないだろう、ささやかな夢
でも、泣きたくなる位に幸せな夢だったのを
いつまでも忘れる事はなかった


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