スイッチ─Ren

2010年02月17日 12:36

スイッチ─Ren


ベタベタしたがるのはいつも俺の方。
彼女はいつも照れて恥ずかしがって怒ったり拗ねたりする。
基本がそうだから、もう俺も構わず好きにやっているんだけれど
ふいに彼女の方から甘えてきたり…大胆な事をして来たりする。
そのスイッチがいつ入るのかまったく見当が付かないから
その度に俺の方が大打撃を受ける。

彼女のそのスイッチが入る…気配くらいは感じたいと思うのだけれど
今のところまったく手がかりは無い。

期待して裏切られて大ダメージ。
隙を付かれてやっぱり大ダメージ。

やられっぱなしじゃちょっと口惜しいから
今日こそはなんとかそれを掴んでみせる、と
常時神経を尖らせて待機してみたりするけど
そこの事自体が既に俺の負けのような気もして
少し途方に暮れて深い溜息をついていたら
いつの間にかそばに居た彼女に
「どうかしたんですか…?」なんて聞かれたりして
もう本当にどうしようもない。

「敦賀さん…?」
「いや…なんでもないよ?」

少し困ったように笑って誤魔化す。
多分、これじゃ誤魔化しきれないな、と思い
適当な言い訳を考えて、次に現れるだろう彼女の心配顔を待っていたら
俺の目に入って来たのは想定外の険しい彼女の顔。

「なにか隠してますね?」
「えっ?な、なにも隠してなんかいないよ?」
「隠し事はしないって約束です!」
「だから隠してないって」

なぜか彼女から詰問されている状態に狼狽えてやっぱりダメージを食らう。
ダメだ、このままじゃ今日も負けっぱなしだ。
こういう時は奥の手。

ふっと寂しげに、でも穏やかに、そして少しだけ艶のある微笑を浮かべる。

「キョーコの事を考えていただけだよ…」
「えっ」
「最近、綺麗になったね…」
「なっ」

たちまち耳まで真っ赤になる彼女。
彼女は褒められる事に慣れていない。
いきなりそこを攻める自分もかなり余裕が無いけれど
ここは全力で行かないと。

「心配だな…変な男とか寄ってこない?」
「ま、またそんな心配をっ…そんな事ありませんっ」
「本当に…?隠してたりしない…?」
「してませんっ!隠し事はしませんっ!」

そう言って、赤い顔のままプイと横を向いて拗ねる彼女。
うん、とりあえず形勢は逆転かな。
後はもう一押し。

横に座っていた彼女をソファの上に押し倒し
彼女が苦手とする俺を発動させる。
今度は予想通り焦ってる彼女の顔。

「でも…キョーコが気が付いてないだけかもしれないじゃないか…」
「そ、そんな事はっ……」
「あるかもしれないよ……?やっぱり心配…」

そう言って彼女の白い首筋に唇を寄せる。
彼女の体が少し震える。
彼女の香りに少し酔ったまま、首筋からその唇までゆっくりと舌を這わす。

「んんっ……」

深く口付けた後、すっかりその気になってしまった俺が
もう今日はここで…いい…?と、一応の許可を求めて彼女の顔を伺う。
彼女の瞳は潤んでいて、拒絶の色は見えない。
フッと軽く微笑んで、再び唇を近づけようとした時
吐息のかかる距離でふいに彼女が囁く。

「…き」
「…ん?」
「き、綺麗…っていうなら…敦賀さんの方がよっぽど綺麗です……」
「………」
「睫毛だってすごく長いし、髪だってサラサラで…」

突然の彼女の賛美の言葉に少し動揺するが、ぐっと堪え
現状をキープすることだけに集中する。

「そうかな…?キョーコにそういわれるのは嬉しいよ…」

そう言ってもう一度静かに微笑む。
これ以上、何か言われたらまた逆転されるかもしれない。
その前に塞いでしまえ、とばかり今度こそ再び唇を重ねようとした。
が、それよりも一瞬早く

「それに私好きなんです…」
「えっ?」
「敦賀さんの……」

彼女はそう言って急に俺の首に手を回し顔を浮かせ……俺の耳にキスをした。

「耳まで…綺麗です……」

うっとりとした様子でそう囁く彼女の顔は
もう…言いようの無いくらい…妖しい色香が漂っていて……
彼女に口付けされた俺の耳はカッと熱くなり
その熱は全身に伝わって俺はそのまま固まってしまった。
そんな俺に彼女は優しく微笑むと
今度は彼女の方から俺に唇を寄せた。

今日もまた完全に負けた気がする。
一体どこで何がどうなって…彼女のスイッチが入ったのかわからない。
今日も受けてしまった大ダメージを払拭するかのように
その後、彼女を執拗に…攻め立て…激しく求めたり…したけれど
その事自体、やっぱり俺の負けのようで…

そうして毎日見えそうに無い勝利への道を探る。
もしかして俺自身が全て彼女のスイッチじゃないのかと一瞬思ったが
そんな怖い考えはすぐに捨てた。



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