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2011Xmas─25日午後9時

2011年12月25日 21:00

25日午後9時

二十五日の夜。
ホテルのエレベーターが目的の階に着き、軽い電子音と共にゆっくりと扉が開く。
乗っていた社はそこでちょうど待っていたらしい蓮と鉢合わせをした。

「あれっ……もう部屋に戻るの?」
「はい」

社は中から降りようとして踏み出した足を止める。
そして蓮が静かに乗り込むのを待ち、扉を閉めるボタンと取ってある部屋の階数ボタンを押した。

「社さんはどこへ?」
「ん、お前の様子見に来ただけなんだ……バーで飲んだくれてるのかと思って」
「なんですか、それ……明日も仕事ですからね、そんなに飲みませんよ」

社の言葉に蓮は小さく苦笑いをする。
そして、その後は特に会話もなく、昇っていくエレーベーターの中は静かになった。

蓮の様子は特にいつもと変わらない。
携帯を握る回数が多かったくらいだ。
仕事はいつも通り淡々とこなしている。
落ち込んでいたり、暗く考え込んでいるような素振りも無かった。

(……ぶちぶち文句言われる方が気が楽だったんだけどな)

密かに社はそう思った。
しかし今回の仕事が決まってから、キョーコは勿論の事、蓮の方も何一つ社に文句を言ったりなどしていない。
それが返って事の深刻さを表しているようで社には堪えていた。
恋人と過ごす幸せな夜を提供する事はマネージメントの仕事を超えている気がする。
しかし、今まで散々首を突っ込んできたのに今回だけ急にそんな事を言うのはただの言い訳だと思った。

(それに今日はキョーコちゃんの誕生日でもあるしな……)

どちらかといえば、蓮よりもキョーコの方が気に掛かった。
今回は実にタイミング悪く、キョーコの周りの人達は皆、それぞれに予定が入ってしまっている。
仕事が優先とはいえ、よく知っている女の子のクリスマスと誕生日が明らかに寂しいものになるという事実に社は黙っていられなくなっていた。



「じゃあ、明日の朝は九時に迎えに来るから……お疲れさん。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」

静かに挨拶を交わした後、蓮が部屋に入るのを見届けてから社も自分の部屋に向かう。
三部屋ほど離れた自分の部屋のドアに向かい、社はまずチャイムを鳴らした。
数十秒待ち、持っていた鍵でドアを開け、中の様子を窺いながら部屋に入っていった。

「お待たせ、キョーコちゃん。大丈夫かな?」
「はいっ」

部屋の中では、小さな旅行カバンとコートを抱えたキョーコが緊張した面持ちで立って待っていた。

「着替えたね……うんうん」

ホテル到着時、キョーコはいつも蓮のマンションに出入りする時の変装姿だった。
社が蓮を探しに行っている間に着替えるように勧めたせいか、キョーコはいつもの格好に戻っている。
いや、いつもよりも少し──色々と女の子らしい気を使った服装である印象を社は受けた。

「今、あいつ部屋に戻ったよ。さ、行こうか!」
「あ、あのっ」

妙に浮き浮きしてそう言う社に、キョーコはオドオドした様子を見せる。

「本当にいいんでしょうか……ずうずうしく来ちゃいましたけど……敦賀さん、明日もまだお仕事が」
「いいに決まってるじゃないか。遠慮なんていらないから早く早く」

社はドアを開けて顔を出し、キョロキョロと通路の様子を窺う。
人気がないのを確認し、キョーコを手招きした。

「今頃、携帯握ってキョーコちゃんに電話しようとか思ってるんじゃないかな。鳴る前に行っちゃおう」
「はい……」

赤い顔で俯いたキョーコには気づかず、社は声を潜め、足音も忍ばせながら通路を移動し、キョーコを蓮の部屋の前まで誘導する。
人が来たりしていないのを用心深く確認しながらキョーコを蓮の部屋のドアの前に立たせた。
そして着ていたスーツのポケットに手を突っ込んだ。

「ちょっとじっとしてて」
「え?」

取り出したのはロールになっている真っ赤なリボン。
社はそれをくるくるとキョーコに軽く巻きつけた。

「ん、マフラーみたいかな……まあ、いいか」
「あの……社さん……」
「今日誕生日なのはキョーコちゃんなんだけどね。まぁ、クリスマスって事で」
「はぁ」
「一度やってみたかったんだよねぇ」

少々雑ではあったが赤いリボンに巻かれたキョーコを見て満足した社は、蓮の部屋のチャイムを鳴らしながら中に向かって声を掛けた。

「おーい、蓮! 俺俺」

同時に何度か大きくドアをノックする。
するとすぐに鍵を開ける気配がした。

「社さん? どうかしま……」

ドアを開けた蓮は、目の前に立ち、緊張して固まっているキョーコの姿を見て目を丸くし、そこで言葉を失った。
黙って自分を凝視する蓮に、キョーコは顔を真っ赤にして焦りまくっていた。

「あ、あのっ! ええっと、その……」
「キョーコ……」
「メ! メリークリスマス!」
「へっ」

急に飛び出したキョーコの台詞に、後ろにいた社はぷっと吹き出した。

「じゃあ、蓮、明日朝九時だからな! 遅刻なんてするなよ?」

社はキョーコをそっと蓮の腕の中に押し込むと、そう言いながら笑顔でドアを閉める。
そうしてしばらくの間、その場でドアを眺めていたが、鍵のかかる音を確認した後、鼻歌混じりで自分の部屋へ向かって歩き出した。

ささやかではあったが、キョーコがここへ来るまでの飛行機のチケット代は誕生日プレゼントという事で自腹を切った。
仕事に真面目な担当俳優へのクリスマスプレゼントには赤いリボンを巻いておいた。
ご機嫌で自分の部屋に戻ってきた社は着替えている途中、窓辺に置いてある小さなテーブルの上に見覚えのない物を見つけた。

「ん?」

サンタやツリー、雪の結晶などの形をした、手作りとわかるクッキーが入った小さなビニールの袋。
クリスマスらしい赤と緑のリボンで装飾されたその包みの下には"ありがとうございます"と書かれた小さなメモがあった。

(キョーコちゃんだな……)

わざわざ作って持ってきたのかと思い、社は思わず顔を緩める。
袋を開け、少し波打った感じの普通に四角い形をした一切れを手に取った。
何の形かはわからなかったが、口にすると、さくさくとした触感とほどよい甘さが口の中に広がった。

「甘さのお裾分けってところかな……」

一人そう呟きながら、ホテルの一室で社も穏やかなクリスマスの夜を楽しんでいた。



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