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お仕事の後で─11の1

2011年11月23日 01:56

久々更新でございます。全6話です(5話+おまけ風1話かな)。

お仕事の後で─11の1

様々な夜 1/6
収録が終わった、TV局の地下駐車場。
社がいつもの助手席のドアを開き乗り込もうとした時、すぐ隣に接近して止まっていたスモークガラスの黒いワンボックスカーのドアが急に開いた。

「社さん」
「えっ……あ、仁科さん。お、お疲れ様です」

突然ドアが開いた事と、その車の中から現れた遼子に、社は少し驚く。
遼子は車から降りると、運転席にいる蓮を特に気に留める様子も無く、ドアを開いたまま立っている社に話しかけた。

「すいません、うちのマネージャー見ませんでしたか?」
「仁科さんの……マネージャーさん?」
「忘れ物を取りに行くって言って、なかなか戻ってこないんですよ」
「そうなんですか……うーん、見かけませんでしたが」
「そうですか……もう時間が……あの、申し訳ないんですけど、携帯貸してもらえませんか?」
「携帯?」
「連絡取ってみようと思ったんですが、多分、私の携帯、持ったまま行ってしまって……」

遼子は慌てた感じで持っていた小さなバッグの中に手を入れ、中身を漁り始めた。
勢いよくかき回したせいか、ハンカチやポーチが飛び出して無機質なコンクリートの床の上に次々と落ちていく。

「あっ」
「ああっ、ごめんなさい! 大丈夫ですから!」

拾おうとした社を制して、遼子は腰を屈め、落ちたものを拾う。
そんな遼子にぶつけてしまわない様に車のドアを押さえながら、社はどうするか迷っていたが、特に問題はないだろうと思い、自分の携帯を取り出そうとした。
その時、車内から蓮の声がした。

「来たみたいですよ」
「えっ」

社は蓮の視線が向いている方向へ目をやった。
地下駐車場の出入り口から、早足で歩いてくる小柄な中年男性の姿が見えた。

「仁科さん、いらっしゃいましたよ」

社は遼子にそう声を掛けたが、反応が無い。
声が聞こえなかったのか、遼子はまだ下を向いたままだ。

「仁科さん? マネージャーさん、来ましたよ」
「えっ? あらっ」

再び社にそう言われ、遼子はようやく顔を上げて社に促された方向に視線を向けた。

「ごめん、ごめん、ちょっと話し込んじゃって」

途中から走ってきた遼子のマネージャーがそう言うのを聞きながら、社はようやく車に乗り込む。
会話をする二人が社に軽く会釈をし、社も頭を下げた後、蓮の車はゆっくりと動き出した。




次の現場へと順調に向かう車の中、社はハンドルを握る蓮の方へ顔を向けるとにやりと笑い、もったいぶった口調で話し始めた。

「なぁ~、蓮……知ってるか?」

蓮はそんな社の顔をちらりと見た後、思い切り顔を顰めてから視線を前方へと戻す。

「知りませんけど、聞きたくありません」
「なんだよ~、聞く前から」
「どうせ、ろくでもない事でしょう?」
「ろくでもないって……まぁ、いい、一応聞いとけ」
「…………」

普通に話せばいいのに、などと心の中で文句を言いながら、蓮は黙って前を見ている。
社は妙に楽しそうに話を続けた。

「お前が仁科さんと"仲良く"しなくなった今の方がな、何かと話題に上ってるようだぞ、現場では」
「は? 何がですか?」
「お前と仁科さんの事さ」
「は………」
「前はさ、あまり騒がず経緯を見守ろうって雰囲気だったけど……今は何があったんだって皆噂してる」
「そう……なんですか……」

あからさまに迷惑そうな顔をした蓮を見て、社は小さく吹き出した。

「まぁ、そんな顔すんな……現場のスタッフのささやかな娯楽だよ。大っぴらに騒いだりはしないさ」
「だといいんですけど……」
「でさ……いろんな説があってな」
「説?」
「説、その1……仁科さんが振られた」
「…………」
「その2、本当に付き合いだしたから現場では距離を置くようになった」
「なっ」
「その3、付き合ってみたけど合わなくてすぐに別れた」
「…………」
「その4は……ええと、なんだっけ」
「いくつあるんですか……」
「6ぐらいまであったような気がしたけど……あぁ、思い出した! 4は、今の状態は仁科さんの戦術で、わざと素っ気無くしてるとかなんとか」
「もう、いいです……」
「お前が振られた、って説はなかったんだよなぁ。意外と皆、よく見てるもんだ」

腕を組みながら頷き、妙に感心している社を、蓮は呆れたように横目で見てぼそりと言った。

「社さん……なんでそんなに詳しいんですか……」
「だって、皆、俺に聞いて来るんだもん……誰にも言わないのでヒントだけでも下さいとか言って」
「…………」
「ヒントも何も、普通に答えていいっちゃいいんだが……相手のある事だしな、適当に誤魔化しといた……で、正解は説その1でいいんだよな?」

信号が赤に変わり、蓮はゆっくりとブレーキを踏んで車を止める。
仕事の確認でも取るかのように真面目な顔で自分を見つめ、そう言う社を見て小さく溜息をついた。

「いや……そんな真顔で聞かれてもですね……別に何を言ったわけでも言われたわけでもないんですよ」
「でも、あれだろ? 電話口で、部屋に女の子……が、いるっていうのを仄めかしたんだろう?」
「はぁ……まぁ……」

仄めかしたどころではなかったが、蓮はさすがに全てを社に話す事はしていなかった。
あの夜の電話の内容が蓮の頭を掠める。
あんな事をすれば、普通に距離を置かれるだろう。
しかし、それ以外は遼子から特別なリアクションもなく、仕事にも、そして、プライベートにも何一つ支障は起きていない。

「これで……いいと思うんですけどね」

遼子の中で、自分の評価はかなり下がっているだろうが、それはそれで一向に構わない、と蓮は思う。

「まぁな……でも、あれだな」
「はい?」
「やけにあっさりなんだよなぁ……もっと、こう……色々と粘りそうなんだけどなー」
「だけどなー…じゃありませんよ……そもそも仁科さんは俺にそれほどの関心があったわけじゃなかったんでしょう」
「ええー…そうかなぁ……」
「そうですよ。ちょっと興味があった程度でしょう」
「うーん……」

事も無げにそう言った蓮に、社は納得いかない様子で考え込む。
蓮としては、仕事以外での遼子との事はこれで全て終了としたいと思っていた。

「撮影も、もう終盤ですから……問題なく行きたいですね」
「問題なく、ね……」

その問題って仕事上の事じゃなくプライベートの、だろ?
言いたかった社の言葉は、青信号で動き出した車列に紛れ、その口から出ることは無かった。



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