立ち聞きの王子様

2011年10月06日 01:23

力の抜けた小話をひとつ。
タイトルは、とある少女漫画の一コマから貰ってきたものですが分かる人はいるかなぁ。
いいのが思いつかずコレになりましたが、若干詐欺かもしれませんw
全然王子様じゃない(汗





彼女がいるかもしれないと聞いて、やって来たラブミー部の部室
家に帰れば会えるのに、とマネージャーには笑われたが、それはそれ、これはこれ

「あんまり時間ないかもしれないぞ?」

家以外で会える時間は短くても貴重なんですよと無駄に真面目な顔で主張して無理矢理時間を取った


俺が開く前から少し開いている部室の扉
中から話し声が聞こえ、手が止まった

「いいんですか?」
「うん、貰ったものだし……俺が使うのはちょっとね」
「そうですか? うーん……じゃあ、遠慮なく頂きます……かわいいですよね!」
「かわいいよね。きっと京子ちゃん好きなんじゃないかなって思って」
「妖精さん!」
「そうそう、ピーターパンにでてくる奴」

彼女の弾んだ声と、どこかで聞いた事のある男の声
確かブリッジ・ロックの──

「そろそろ時間かな」
「あっ、そうですね」

二人が部室から出て来る気配を感じ、俺は少し離れた場所まで早足で移動する
踏み込んでもよかったが、なんとなく今の自分は見られたくなかった

ラブミー部の部室とはいえ男と二人きりで何をしているのだとか
一体何を貰ってそんなに嬉しそうなのかとか
なぜその男は君の好みをちゃんと知っているのかとか

うっかりすると、矢継ぎ早にそう彼女を問い詰めかねない自分が想像できる
廊下の角で壁に寄りかかって腕を組み、自分を落ち着かせる
そろそろこんな小さな事でいちいち怒るのはやめにしないと
そう思い、軽く溜息を付いて振り返ると
彼女があの男と一緒に歩いていくのが見えた

「…………」

仕事、頑張って……

彼女の後姿にそう囁きかけてから俺もマネージャーの所に戻る事にする

「あれっ? 会えなかった?」

何も言っていないのに、俺の顔を見るなりそう言ったマネージャーに悪態をつく気力もなかった



***



家に帰れば彼女はいつも通りの笑顔で俺を迎えてくれた
当然、昼間、部室の前まで行った事など言うわけもなく
あれはもう忘れる事にして俺も普通にしていたのだが──

「敦賀さん、今日これを頂いたんですけど」
「えっ」

彼女の方から思い出すような言葉を聞かされドキリとする
その手には、小さな妖精をかたどった銀色の携帯ストラップがあった
横向きのシルエットに背中から生えている二枚の羽
それだけがピンク色で目を惹いた
照明を浴びてキラキラ輝くそれを、にこにこと嬉しそうな顔で彼女は俺に見せてくれた

「携帯のストラップです。かわいいですよね」
「あぁ……妖精さんだね……かわいいよ」

そんな彼女に俺も微笑みかける
引き攣った笑顔なんて見せるわけにいかない

君にそんな顔をさせるのは俺だけでありたいだとか
まさか、君はそのストラップを使うつもりなのかとか
他の男から貰ったものをずっと君が持っているなんて耐えられないとか

次々と沸く、いろんな想いを
作り上げた笑顔の下に全部詰め込んで隠し切る
もう夜も遅いのになんだか俺は必死だ

「ストラップ……敦賀さん、使われていないですよね?」
「へっ? あ、あぁ……そうだね」

余裕のなかった俺は、急に自分の事を聞かれて少し動揺する
そんな俺を彼女は少し窺うような様子で下から覗き込んだ

「ストラップ、使わないんですか?」

彼女の何気ない小さな問い
それに対する答えに、余計な感情が混じり込む──

「そうだね……あまり好きじゃないかな……」

小さな嫉妬が生んだ小さな嘘
本当のところ、特に何も考えていなかっただけ
でもなんだか急に──ストラップが憎くなってしまった

「そうですか……」

俺の言葉を聞いて、明らかにしゅんとした表情になった彼女
今の状況だと、まるで携帯のストラップを持つ彼女の事をそう言った様な気がして少し慌てた
焦ってフォローの言葉を探している間に、彼女はもう俺の側から離れていて
パタパタと忙しそうに部屋の中を移動している

その手にはもう、あの銀色の妖精はいなかった



***



事務所の一角にある、あまり人のこない休憩所
自販機の前のベンチに座る彼女を偶然見つけた
長い廊下の向こうにいるのに、後ろ姿だけですぐわかる自分に苦笑する
隣にはもうひとり、髪の長い女性の姿
恐らくはいつも仲のいい、彼女の親友だ
声をかける位いいだろうと思いそっと近づいていったが、何かを話している二人の雰囲気はあまり明るくない
気になってつい聞き耳を立てながら近づく
ふいに俺の名が会話の中で聞こえた気がして足が止まった

「どうすんの? それ結構するでしょう? アルマンディのだもの」
「ん、まぁね……でもそれはいいの。生活費とかさ、何言っても受け取ってもらえないからその分のお金を少し還元したかっただけだし」
「でも使わないなら無駄になっちゃうじゃない。余計な事聞かないでさっさと渡せばよかったのよ」
「うーん……」
「そうすれば敦賀さん、何でも喜んで貰ってくれたわよ」
「そ、それは駄目なのよっ」
「へ?」
「私があげたからとか関係なく、日常普通に使うものをあげたかったの! で、携帯にはやっぱりストラップ付いてた方が使いやすいかなって」
「あぁ……なるほどねぇ」
「好きじゃないものあげるのは心外なのよ……前に一度だけ『坊』のストラップ付けてた事があったから大丈夫かなと思ったんだけど……」
「『坊』のストラップ? それは受け狙いじゃないの……」
「受け狙いって……あー、まぁ……そうだったのかもしれないけど」
「もったいないわねぇ……どこかに売っちゃう? それで何か別のを」
「えぇー…、売るのぉー」
「ふたつも……いらないでしょ? 使わないのに」
「そ、それは……そうなんだけど……」
「残念ね、内緒でお揃い、できなくて」
「やっ! べ、べ、別にそれはっ! たまたま! たまたま私も今使ってなかったからっ!」
「照れない照れない」
「モー子さん! 絶対言っちゃ駄目だからねっ……バレたら恥ずかしくて死んじゃう」
「言わないも何も……渡さないんでしょう?」
「……そうでした……」

最後、彼女の落胆した声を聞きながら
俺は気配を消しつつ、素早くその場から立ち去った
立ち聞きはもうこれで二度目で
彼女の周りでこそこそしている自分が少し情けなかった
しかし、今重要なのはその事ではなくこれからの事だと思った



***



玄関の扉の前でピタリと立ち止まり
鍵を手にしたままで、軽く深呼吸
今日一日、あれからずっと考えてはみたものの
とうとうこうして家に帰り着くまでに
いろんな事を隠したまま、彼女から携帯のストラップを受け取る方法を思いつけなかった

日延べすると取り返しのつかない事になってしまうかもしれない
今日だって既にその可能性はあるのだけれど
彼女ならきっとそんなに早く手離してしまう決断をしていないと思う

二度にわたる立ち聞き
つまらない嫉妬から生まれた、つかなくてもいい嘘
情けなく格好悪い自分を
全て告白する覚悟を決めてゆっくりと扉を開く

「ただいま……」
「おかえりなさい!」



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