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Chain

2011年09月09日 09:45

あの腕時計同様、アレにも深い意味づけがあったりしたらごめんなさい、といったSSでございます。


キスに紛れて肌の上に固く冷たい感触が落ちた
小さく鳴った金属音
彼が動く度、それは私の首元でゆっくりと踊った

大きく肌蹴た彼のシャツの間から流れ落ちてきた
彼がいつも身につけているペンダント
彼と私に挟まれているうちに
さっきまで少しだけ冷たかったその温度は私達の体温と変わらなくなっている

彼が帰宅した時、私はちょうどシャワーを浴びにバスルームへ行くところで
一緒に浴びる浴びないと揉めているうちに、なし崩し的に抱き合って
お互い、服もまともに脱いでいない状態でこんな風に繋がっている

彼と私の間を阻む小さな障害物
きつく抱きしめられた時に
胸の上に少し刺さるような痛みが走った
でもそれは彼の愛撫と変わらないような快感になって
身体の奥に疼くように響く

このまま、この身体に
いつもあなたが身につけているそれの
痕跡を残しておきたい
消えない痕になっても構わない
いっそ刻み込んでしまえたら───

そんな想いがふと頭をよぎる
でも彼はそっと身を起こして
ペンダントを外そうとしている
私はそれを阻むために咄嗟に彼の首に強く抱きついた

「……ん?」

何も言わないままそうしたから彼に私の意図は伝わっていない
でも私の思惑通り、彼は手を止め
急に抱きついてきた私に答えるように、抱きしめ返してくれる
胸元に固い感触を感じながら
そのまま、ぎゅっと強く肌を合わせていった




「……コ……キョーコ?」
「あ……」

リビングのラグの上で横たわる私に呼びかける彼の声
心配そうに覗き込む彼の顔をぼんやりと見つめた
ほんの少しの間だけれど意識がなかった自分に気がついて
恥ずかしくて頬がかっと熱くなる
そんな私に彼は穏やかな笑みを向けた

「シャワー、浴びるだろう?」
「は……はい」

差し伸べられた彼の手を掴み、私はゆっくりと起き上がる
よく見ればいつの間にか私は何も身に着けていない
慌てて何か羽織ろうとしたけれどこの後の行き先はバスルーム
横に落ちていた着替えを、前を隠すようにしながら抱え、迷っていた時
ふわりと身体が浮いた

「ひゃっ」

彼は軽々と私を抱き上げると何事もなかったかのようにスタスタと歩き出す

「なっ、あ、あの」
「さ、行くよ」

焦る私を気にも留めず彼はバスルームへと向かう
どうして真顔でこんな事ができるのだろうと思いながら
両手の塞がっていた私は大人しく運ばれていくしかなかった



シャワーを終えてリビングへと戻ると
先に戻っていた彼がソファに座りウトウトしている姿が目に入った
ちゃんとベッドへ行ってもらわないと、と思い近づいた時
テーブルの上にあのペンダントが置いてあるのに気がついた

「…………」

さっきの出来事を思い出し、静まったはずの身体がまた少し騒ぎ出す

いつも彼が身につけているペンダント
それは彼と私が付き合うずっと前からで
私が彼を好きになる前から
私と彼の仲がまだ険悪だった頃から
きっと───この街で私が彼と巡り会う前から

改めてそう考えると今度は気軽にさわれない
しばらく考え込んだ後、ようやくおずおずと手を伸ばしそれに触れる
音がしないようにゆっくりと持ち上げた
想像していたよりも少し重い

丸いペンダントトップを手で包み込むようにして持つと
私はそれにそっと唇を押し当てた

「ん……」

彼が目覚める気配を感じ、飛び上がりそうになる
我に返って慌ててペンダントを元の場所に戻した
自分のした行為が恥ずかしく、顔から火が出そうなくらいで
手にしていたタオルで赤くなっているだろう自分の顔を誤魔化しながら
眠そうな彼をベッドへ行くように促していた



***



『キョーコが好きそうなもの見つけたよ』


そんな一文が添えられた写真がメールで送られてきたのは、キョーコが事務所で用事を済ませ、家へと帰る直前だった。
写っていたのは、蝶のような羽根を付けた、妖精を象った白いガーデンオーナメント。
背後には白い薔薇の鉢植えがいくつかと蔓が絡まったラティスが見える。

(あれ……これって……)

『かわいいです!
お仕事先にあるものですか?』

どこかで見た気がする。
おぼろげな記憶を辿りながらキョーコはメールに簡単な返事を打つ。
もう忙しくなっているかもしれないと思いながら送ったメールにはすぐに返事が返って来た。

『そう、雑誌の取材で呼ばれたお店なんだけど、そこに置いてあったよ
小さなカフェだけどインテリアがキョーコ好みだと思う

いつか一緒に来てみたいね』

最後の一文にキョーコはドキリとした。
それと同時に、自分の記憶にあった映像とその写真がぴたりと一致する。

以前、自転車でよく通った、大通りから一本入った人通りの少ない細い道。
ごく普通の家々が連なる閑静なその場所に、突然現れる小さなカフェ。
アンティークな雰囲気の木製扉の入口、その横にあるスペースには、手入れの行き届いた、たくさんの花や緑が並ぶ。
小さな異国のようなその庭の中央にはオールドウッドでできた白い椅子があり、その傍に、写真に写っていた妖精のオーナメントが置いてあった。
鉢植えの薔薇達に囲まれていたそれが、一番キョーコの目と心を惹いた。

都会にいる妖精はこんな場所に隠れているのかもしれない。

その店の前を通るたびにキョーコはいつもそんな妄想に浸っていた。

目立たない場所にある、隠れ家のような小さな店。
ここなら変装などせずに、一緒に来ても大丈夫かも。
そんな事を考えたりしていたのを思い出したのだが、やはりそれは無理なのだとわかった。

(雑誌の取材で使われるって事は……実は有名なのかしら、あのお店)

特別に拘っていたわけではなかったが、ささやかな夢が消えてしまったようでキョーコの顔に少し落胆の色が浮かぶ。
しかし、すぐに別の考えが浮かんだ。

今あの店に蓮がいる。

キョーコの脳裏に、あの店の大きな窓ガラスが思い浮かんだ。
そこから店内は通りすがりでも比較的簡単に見渡す事ができる。

「…………」

仕事場に押し掛けることなど出来ない。
でも、知られないようにこっそりと覗くだけならば───

店の中にいる蓮の姿を見るだけでも夢が叶うような気がしたキョーコは、急ぎ足でその店に向かって歩き出した。




「ええっ……どうして?」

目的の場所が見えてきた時、途中から小走りでやって来たキョーコは息を切らしながらも思わず声を上げた。
人通りの少ない道沿いにあるはずのその店の前には黒山の人だかりが出来ている。
全て、若い女性ばかりだった。

「あ、ちょっとあまり広がらないで」
「住宅地ですから静かにして下さい!」

一人の中年男性と、店員の制服と思える服を着た若い男性が、集まった女性達に慣れない様子で声を掛けている。
予想外の現場の様子に、キョーコはポカンとしながらその場に立ち尽くしてしまった。
集まった女性達は皆、盛んに蓮の名前を口にしている。

(なぜ、こんなに人が……公開取材、なわけないわよね。誰かが見つけて口コミ? それにしては早すぎる気も……)

店の入口の前では何かを真剣に話し合っている男性が数人いる。
とても、その側にある"庭"を覗けるような雰囲気ではなかった。
戸惑うキョーコを尻目に、パラパラと集まってくる女性達。
どこからともなく上がる歓声。
たまたま通りすがったらしい親子連れが驚いた顔でこちらを眺めていた。

(なんだか……いやな予感がする……)

この事態はおそらく予想外。
このままだと近所に迷惑がかかるという事で今日の取材は中止、もしくは場所を変えて、になるかもしれない。
そう思ったキョーコは焦り、人山から少し離れた場所で店内に目を向けるが、人の壁は思いの外高い。
一目だけでもと思い、何度も飛び上がったり、跳ねたりしてみたが、やはり見ることが出来なかった。

「うーん……」

あまり活発に動き回るとわざわざ覗きに来たのがばれてしまうかも。
でもこんなチャンスはもう二度とないかもしれない。
激しい葛藤の末、今回だけ、と自分に言い訳しながらキョーコは女性達の群れの中に勢いよく飛び込んだ。

「ちょっと! 痛いわよ、押さないでよ!」
「ご、ごめんなさ……」
「あっ! いた! 今度こそ本物よ!」
「ええっ! どこどこー!」

熱気に溢れた人混みの中、なんとかキョーコが店内を見られる場所にまで辿り着いた時、耳を劈く、悲鳴のような歓声が沸きあがった。
店の奥の方に数人の男性が立っている。
その中に見慣れた眼鏡のマネージャーがいた。
そして、その横に一際背の高い、蓮の姿があった。

興奮する女性達の中で、キョーコが見ていた蓮と社、そして取材する側の人間らしき数人は少しの間そのまま立ち話をしていたが、やがて店のもっと奥へと移動する気配を見せた。

(あー……やっぱり別の所か、見えない場所へいっちゃうのかな……)

残念な気持ちで一杯のキョーコだったが、これも仕方のない事だと思い、店内にいる蓮の姿を見られた事だけで良しとしようと思う。
そんなキョーコと観客達が見つめる中、彼らはそれぞれ歩き出したが、なぜか蓮だけがぴたりと歩みを止め、ゆっくりと振り向いた。
再び大きくなる歓声。
蓮はそんなギャラリーに向けて些か妖しく微笑むと、その胸元に手を当てた。

(えっ?)

いつも蓮が身につけているペンダント。
それは今日もその胸元を飾っている。
蓮はそのペンダントトップを手に取ってそっと持ち上げると、目を伏せ、微笑を浮かべた唇を押し当てた。

「……っ」

今まで見たことのない、蓮のそんな仕草。
でも、そんな蓮の行為の理由に、心当たりがひとつだけ、キョーコにはある。
辺りに響き渡る大勢の女性達の声の中、キョーコは一人、その場で固まってしまっていた。




蓮達が店内から姿を消したカフェ。
あれだけ集まっていた女性達も多くは姿を消していたが、まだ離れがたいのか、数人の若い女性が店の前に居残って話をしていた。

「生敦賀蓮見れた! すごいラッキー」
「こんなに近くで見れたの初めてよ」
「ねぇ、ねぇ、最後、なんか意味深な仕草してたよねぇ」
「あれ、なんだろうねぇ。何かのメッセージかも!?」

いまだ窓の前で立ち尽くしていたキョーコは、わいわいと賑やかに盛り上がる彼女達の会話を耳にしてびくんと身体を揺らす。
足元から沸いた熱が全身を巡り、その顔と首や耳までもが赤く染まっているだろう事が自分でもわかった。

(もしかして……やっぱり……見られてた……?)

わざわざここまで蓮を見に来てしまった自分。
そして、それよりもなによりも──あの夜の、あの時の自分。
キョーコがまだ怖くて見ることが出来ない携帯には、『受け取ったよ』とだけ書かれた蓮からのメールが着信していた。



***



彼女の白い胸元を飾るのは
俺がいつもつけているペンダント
柔らかな肌の上を滑らせるようにしてそれを指先で持て遊ぶと
火照って汗ばんだ華奢な身体が小さく震えた

「やっ……も、もう……ひどいです……」

あの夜に見た、君の、俺に内緒の俺へのキス

あの場面を見られていた事がよほど恥ずかしかったのか
ペンダントに触れるだけで、彼女は紅く染まったその顔を両手で覆い隠してしまう

たった今まで淫らで妖艶な姿を見せていたのに
こんな小さな揺らぎで、君はすぐさま恥ずかしがり屋の少女に戻ってみせる
誘うようにうっすら紅く染まっていく首筋、鎖骨のライン
隠くしきれていない唇から零れる甘い吐息には、俺への小言が交じり合っている
そのくせ俺を飲み込んでいる場所は熱を帯びながら俺をしっかりと繋ぎとめ
動く度に絡み付いてくる快感で、なんとか保っている俺の余裕も今にも崩れそうだ

まったく、ひどいのはどっちかな
ただでさえ日々君の事を想う機会は多いのに
またその機会をこんなにも増やすなんて

あのカフェに突然現れた君
ギャラリーの後ろで見え隠れする茶色い髪を見つけた時
俺がどんな気持ちになったかなんて
きっと君にはわからないだろう
間接的に返したあの夜のあのキスは
ちゃんと君に届いたようだったけれど
あれ位じゃとても済みそうにない

意識しながらくれる愛の言葉や仕草もかわいいのだけれど
恐らくは無意識に繰り出される数々の君の行為
その威力は強大で本当に怖い位だ

この街で出会うもの、何もかも全てが君へと繋がっていく

「だって……敦賀さんだって……」
「ん?」
「コーン……コーンに……」
「俺が……どうかした?」
「ち……違いま……す……あ…違わな……いんですけ…ど…」
「どっち……?」
「ま、魔法……ま…ほうを……んんっ」

何かが脳裏を掠めたような気がしたが
途切れ途切れの彼女の言葉からではよくわからない
彼女は涙目で、必死に何かを言いたげだ

でも、今は俺が有利に事を運べる貴重なチャンス
それを脅かす危なくも愛しいその唇は、ゆっくりと、でも、確実に封じ込める
タイミングを合わせて胸元の鎖をまた弄れば
重ねた唇が拗ねたように少し暴れた
逃がすつもりのない俺が、何度も執拗に口付けを繰り返しているうちに
彼女の細い腕がまるで熱く柔らかな鎖のように俺の首に絡まっている

このまま全てが繋がって絡まって
ひと時も離れられなくなればいい──そう思った



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