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お仕事の後で─10

2011年07月26日 01:20

お仕事の後で─10

危険な賭け






彼女の身体は高低のある白く滑らかな曲線を描き
俺の視界の中でゆらゆらと揺れている
見ているだけでは我慢できずに、そっとその表面に触れた
手に吸い付くようなしっとりとした肌の感触といつもより少し高い温度
他の誰も見た事などないはずの淫らすぎる彼女の姿勢
視覚と触覚から流れ込む刺激で目の縁が熱くなるのを感じた

部屋の暗闇が隠そうとする彼女のその身体を
カーテンの隙間から忍び込んだ月光が露にする
月は俺の気持ちを代弁するかのように得意げに
きっと彼女が一番隠したいだろう場所を
狙いすましたかのように鮮やかに浮き上がらせていた

シーツの中に溶け込んでいきそうだった彼女の身体を
壊さないようにそっと包むように抱きしめれば
触れ合える肌の領域が大きくなって
流れ落ちる汗さえも混じりあい
よりひとつになれた気がした

切れ切れに俺の名を呼ぶその声は
普段の彼女の声からは想像出来ないような艶かしい、か細く高い声
揺り動かすたびに甘い吐息混じりになり
その声音に魅入られて
言わせてみたい言葉をあれこれと探している時
枕元に放り出していた俺の携帯が震えた

寝室に入る寸前にかかってきたマネージャーからの仕事の電話
既に俺の腕の中にいた彼女を逃がさないために
ついベッドまで一緒に持ってきてしまったものだったのが
ここにきて思わぬ邪魔者となり俺は苦笑いする
とても出る気にはなれなかったが
既に彼女の視線も携帯に向かっていて
ぴたりと止まった反応が俺に電話に出るように促していた

仕方なく少しだけ身体を起こし、携帯に手を伸ばすと
彼女が俺から離れようとする気配がした
俺はそれを阻止するためにより深くまでに彼女の中に入り込み
ほんの少しだけ体重をかけて動きを止める
小さな悲鳴をあげた彼女は眉を顰め
潤んだ瞳で困ったように俺を見つめる
そんな彼女の表情を見てつい顔を緩めてしまう俺は
こんな顔をするとまた後で怒られてしまうな、などと思いながら
少し息を整えて携帯を開き、通話ボタンを押す
その間も俺は彼女の事ばかりに気をとられ
電話の相手はマネージャーであると思い込み
ディスプレイを見ようともしなかった

「はい」
『…………』
「もしもし?」
『あのっ……こんばんは……』
「!」

予想とは違う、そして聞き覚えのある女の声が耳に飛び込んでくる
携帯を耳に当てたまま、俺は本気で驚いていた

「仁科さん……」

思わずその名前を口にしてしまい、すぐに後悔する
俺の漏らしたその名を耳にした彼女の表情が凍りついた
紅く色づいていた唇をきゅっと締め、目を伏せ、視線を横に反らす
心なしか触れ合っているその肌の温度さえ下がったような気がした

『突然お電話してしまってすいません』

携帯番号を教えた記憶など勿論ない
だが、俺の番号は今まで完全に秘密にして来たわけじゃない

『知り合いから番号お聞きして……ご迷惑だったでしょうか』

──いえ、そんな事はありません

いつもならスムーズに出てくるはずのその言葉は
喉元で引っ掛かり、なかなか出てこない

「…………」

気を取り直し、汗ばんだ手で携帯を握り直す
何を言われようが、無難にかわして早く通話を切ってしまいたい
次に発すべき言葉を選んでいる間に彼女の様子を窺うと
彼女はまるで嵐が過ぎるのを待つ子供のように
瞳を閉じ、身を硬く縮ませてじっとしている

電話を終えた後の彼女の様子が頭の中に思い浮かんだ
俺に気を使った優しい言葉をいくつか口にした後
なんでもない様に笑う彼女の顔
決して俺を責めたりはしない──

いつまでこんな事を繰り返すのか





「すいませんが、ちょっと待っていて下さい」

携帯に向かって俺はそう言うと、通話を切らないままベッドの上に置き
シーツの上を滑らせて少し離れた場所にまで移動させた
それに気づいた彼女は驚きながらそれを目で追った後
俺の行動の理由を問い質す様に見つめてきた

『敦賀さん?』

携帯から聞こえてきた声に彼女はびくんと身体を震わせる

一歩間違えば最悪の事態
でも俺は危険な賭けに出た

代償は──品行方正、穏やかな紳士の"敦賀蓮"

彼女をベッドの上に貼り付け、スタートの合図代わりに唇を合わせる
少し抵抗を見せる彼女の反応は芳しくなかったが、構わずに口内を蹂躙した
慌てているらしい彼女の手が、抗議するように何度も俺の腕を叩く
構わずに、奥へと舌を差し込んで、戸惑う彼女のそれを強引に絡めとった
微かに零れ落ちる吐息を貪るように、激しく熱い口付けを繰り返した後
一度だけそっと離れて、彼女の顔を見る
彼女は頬を紅潮させ、目にうっすらと涙を浮かべながら必死に何度も頭を振っている
俺はそんな彼女に、思い切り優しく微笑みかけた


少し乱暴に、大きく足を開かせて
身動きひとつできないようにして
焦らすこともせずに
知っている場所は全て攻め立てる

嫌がっているような表情とは裏腹に
彼女の中は溶けるように熱くて
動く度に聞こえてくる音は
いつもよりも濃密で淫らに響いた

必死に声を押し殺して快感に耐える彼女の姿は扇情的であり
それに導かれるようにただひたすら彼女の中を探り続けた

苦痛に耐えるようだった彼女の顔は
いつしか快楽に溺れる女の顔になり
乱れた髪は汗に濡れて肌に貼りつき
きつく締められていた唇は熱を帯びる
そしてようやくその紅い唇が開き
期待していた通りの声が零れ始めた

「やっ……あっ……んんっ……」

堰を切ったように流れ始めたいつもの甘い声
散々啼かせた後だったせいか少し掠れ気味だ
触れる度、動く度に上がるその嬌声は
俺の体温をもじわじわと上げていく
あまりにも理想的なその声に浮かれた俺は
耳朶に触れそうな位の距離にまで唇を寄せ
言うかどうか迷っていた願いの言葉を彼女に囁いた

「やっ……そんなの……はっ……あっ……」

絡み合った部分がきつくなる
シーツがずれて滑っていく音がした
腰に絡み付いていた脚が小刻みに震え
擦れ合う肌は火傷しそうに熱い

身体中のどこもかしこも紅く染まった彼女は
なかなか俺の願いを聞いてはくれない
うっすら涙で光る瞳に僅かに戸惑いの色を残し
溢れ出るその声を止めようとする気配がまだあるけれど
それは反対に彼女自身を煽る結果になっている事に
俺を飲み込んでいるその身体が伝えてくれる

流れを止めないように深い口付けをして
身体の奥からもっとたくさんの声を引っ張り出すようにその中を奥まで進む
吐息を熱く絡めた後に一度唇を離せば
寝室の空気が、上がりすぎた熱を冷ますかのように滑り込んでいく
愛しいその唇が紡ぐ言葉に俺の望む音が混じるように
ただそれだけを願って首元に貼りつくように顔を近づけて
何度も何度も耳元で囁いた

どこに触れても悉く敏感に反応する柔らかな肌の
彼女自身では見ることができないような場所に紅い印をいくつも刻む
抵抗する気配さえ無くなった彼女の身体は
俺に合わせて大きく揺れながら、自らも動き出す
伝え合い繋がれて大きくなっていく快楽の波
そして訪れた最後の瞬間の間際
彼女は身を反らせ微かに震えながら
ようやく俺の願いを叶えてくれた

「あああ………やっ……い、いっちゃうっ……れんっ……れ…ん……」

滅多に聞けない、彼女の口から出るその俺の呼び方が
耳に届いた瞬間、俺の中でも最後の砦があっさりと崩れ落ちた
身体の奥からせり上がってきた痺れる様な快感に
耐えきれず俺の全てを彼女の中に放ち果てる
全身を満たす熱と思わず身震いするような余韻に浸り
彼女の身体を折らんばかりに強く抱きしめていた時
ようやく携帯の存在を思い出した

力なく横たわる彼女の頬に軽く口付けて
今にも床に落ちそうだった携帯を手にする
まだ通話が繋がっているのを確認し
何か言うべきかどうか悩んでいる時に電話は切れた
俺は黙って携帯を閉じ枕元に放り投げると
今にも眠ってしまいそうな彼女の身体をそっと抱きしめ
賭けの結果が出る明日に向けて、静かに瞳を閉じた



***



現場ではいつも横にいる主演女優が
今日は俺から少し距離を置いて佇んでいる
時折こちらにちらちらと視線を送っては来るが
一向に近づいてくる様子はなかった
怪訝に思ったらしい俺のマネージャーが何か聞きたそうな顔をしているが
今はあえてやり過し、時を待った
しばらくして時刻を確認したとき、現場に彼女の声が響いた

「おはようございます!」

いつも通りの元気のいい、よく通る大きな声
近くにいたスタッフが次々と彼女に挨拶を返す
彼女は俺を見つけ、ゆっくりとこちらへ向かってきたが
途中、昨日の電話の主を見つけ、歩みがぎこちなくなった

「おはようございます……」
「おはようごさいます」

何事もなく交わされた挨拶
ちらちらと先輩女優の様子を窺う彼女に対し、相手はいつも通りで
右手と右足が同時に前に出ているおかしな彼女の歩き方にも気を留めていない

妙な歩き方で俺の側にまで来た彼女に俺はいつも通りの挨拶した

「おはよう」
「お、はようございますっ」
「おはようキョーコちゃん」

何か言いたげに上目遣いで俺を見つめる彼女に
俺はにっこりと微笑みかけるとそっと呟いた

「……俺の言った通りだろう?」
「……っ」

控えめな俺の勝利宣言を聞き
たちまち彼女は真っ赤になり、下を向いてしまった

ベッドの中の君の声は
こうして現場で出会う君とは結びつかない位艶めいて官能的
勿論、普段の元気な君の声も俺は好きだが
シーツの上で別人のように可憐に変わる君の声は
いっそ誰かに自慢したい位な程なんだ

電話口で他の女との情事を聞かせてくる男に
寄ってくる女性はあまりいないだろう
俺についての変な噂が立つかもしれないが
君の名前が出なければそんなものはどうでもいい
それにプライドが高いだろう人気女優の彼女が
この事を言いふらすとも思えない

「なんだよ、何があったんだ?」
「あー、いや、まぁ……」

俺と彼女を交互に見ながら問い質すマネージャーに
今の状況をどんな風に説明するかが問題だなと思いながら
恥ずかしがったまま顔を上げられない様子の彼女の隣に立ち
仕事が始まる前の穏やかなひと時を
俺はゆっくりとかみ締めていた



コメント

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  2. Kanamomo | URL | -

    コメントありがとうございますっ。

    本文の方でお返事させていただいております。
    コメントありがとうございます!

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